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4章

【106】期待外れな授業

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 スフインは授業開始ギリギリで教室に戻って来た。
 先生より遅かった位だけど、遅刻じゃないので何も言われない。
 リドーが声を掛けられずにいたたから、それを狙ってのタイミングだったのかな。


「魔法とは、魔力を対価にして精霊に想像を具現化して貰う業です」

 モキート先生が特殊なのか、開始の挨拶とか無しに授業が始まる。

「魔力とは魔素に似たモノで、これを作り出せるのは人間だけです。近年の研究では体力と気力を繋ぐ道に製造と貯蓄する場所があり、それが心の臓だとされています」

 それは初耳ね。
 じゃぁ魔力って血にも溶け込んでいるのかしら。

「今後の研究でもっと詳しい事が分かって来るでしょう。因みに、私の研究対象でもあります」

 モキート先生は研究者なんだ。
 先生ってより教授って呼んだ方がいいのかな。

「魔力の製造能力も貯蔵量も個人差がある」

 そう言いってから先生は呪文を唱えて『ライト』を出現させた。

「皆さんもこれくらいは個人で習って居るかも知れませんね。この1番魔力の消費が少ない魔法を4時間持続させられる位が一般的な魔力量と言われています」

 次に指先にマッチのそれ位の火が灯る。

「これも単一精霊で行える魔法ですが、燃料も無しに燃え続けさせるには見た目以上に魔力を消費します」

 今度はその火が指先を離れて中に浮く。

「浮かせたり移動させたりするには風の精霊の力を借ります。彼女達は頼まずとも力を貸してくれますが対価は発生しています。先ほどの火と同じに思って居ると簡単に魔力が枯渇します」

 説明し終えると火が消える。

「では魔力が枯渇するとどうなるのか、体力と気力の間の気力寄りに魔力があるので、まずは気力を使って補われます」

 教科書にある絵だと、心臓に魔力があって左の肺に気力。右の肺に体力が宿ってるって感じ。
 ただの比喩なのか、本当にそう思っているのかまでは分からない。

「気力を消費していくと、やる気が無くなり陰鬱になり、心と体が分離し、やがて思考が止まります。そこまで行くと、少しずつ消費していただけの体力をメインに補って行き、行く行くは死亡します」

 思考が止まってしまったら魔法をやめるのも出来なくなって、お陀仏まっしぐらになりそう。
 魔法って怖いわね。ニコラやコリティスが平気で使ってたから嘗めてたわ。
 よくよく考えて見るとあの2人以外は全然使ってなかったなぁ。あの2人ってもしかしたら相当すごい人だったのかも。

「古い文献に実験の記述があるだけで、現在はその実験を教会が禁止しているので正確性は分かりませんが、皆さんも注意して下さい」



 そこから実技でもあるのかと思いきや、絵本見たいな教科書で精霊達の解説。
体育で体力使っちゃってるからなのかな。
でも、そうなると一年間は魔法の座学になって仕舞わない?それは詰まらないわね。
 現に昼食後に運動してからの授業だからうとうとしてる子が多数。


「魔法が使えるのは人間だけと言われてますが、それに似たモノをモンスターや魔獣も使います。それも無詠唱で」

 授業の終盤で先生が興味深い事を言う。

「例えば飛竜などはとても空を飛べる様な体格では無いのに自由に空を舞います。時に鳥よりも巧みに。それは何らかの方法で風の精霊の力を借りて居るのだと思われるのですが、使役されたドラゴンでも細かい質疑応答は出来ないので未だに解明されていません」

 リドーがアタシを見る。
 アタシなら言葉を理解出来るけど、そもそも魔法使ってるつもりが無いから期待には応えられないわ。
 ただ言われてみれば、力以上の風圧を出せた事があったような気はする。

「もし解明されれば空を飛ぶ船など造り出せるかもしれませんね」

 昔読んだこの国のお伽噺に出て来た空飛ぶ船。
 夢のある話に目を輝かせる子供達。
 こん中から新しい研究者が生まれるのを先生は期待しているのかな。

「では最後にテストの点数を発表をします」

   ん?何だっけそれ。
「算術問題でリドー達と勝負してたんだよ」
   そう言えばそんな話になってたわね。
「負けた人が勝った人の言う事聞くって」
   子分になるんじゃなかった?まぁ意味はだいたい一緒か。

「ああ、そうだったな」

 リドーは完全に忘れていたって顔してる。

「それでは順番に発表して行きます」

 先生は窓際の1番前の席の子から発表して行く。
 最初の子が75点。元々成績順に並んで居るから徐々に点数が下がっていく。

「スフイン君、61点。リドー君、60点。」

 順当に行けばスフインが1番点数高いってなるでしょう。
 リドーは4人の中でトップじゃないからってのもあるのか、言い出しっぺのクセに既に興味が無さそう。
 逆に、スフインがほくそ笑んでる様に見える。

「カシウス君、77点。ルーシ君79点。」
「嘘だろ‥‥」

 スフインが驚愕の表情を向ける。
 ただ、それは彼だけじゃなくてクラス全体だった。

「お前ら頭いいのな。何でその席なんだ?」

 リドーは点数の偽装とかカンニングとか疑いもしないで感心してくれるけど、みんながそうではない。

「彼らの点数に手心は加えてませんが、席については忖度があります」

 先生の一言。
 ここの子はみんな賢いから、公爵家の子が一般クラスにいるんだから何かしらの便宜が働いている事を察してくれる。
 先生が点数は改竄してないって言ってくれたから悪い印象には成ってないと思う。

「ルー兄には負けちゃったかぁ」

 カシウスが全く残念そうじゃなく言う。

「オレ達、ルー兄の子分になるでいいんだよな?」
「ああ。約束だからな」

 カシウスは元々弟分気質だからあれだけど、リドーが潔い。
 逆にスフインはこちらを見もしない。

「子分ならルー兄の事、ルーシ様って呼ばなきゃな」

 カシウスがイジメっ子な表情をする。

「仕方ないな。俺が言い出したんだし」
「そんなのいいよ。子分なんて成らなくていいから」
「いいのか?」
「そうだよルー兄。勝ったんだから」
「いいの。カシウスもイジメないの」

 カシウスがばつが悪そうに頬を掻く。
 でも何だかルーシに叱られて満更でもなさそう。
ちょっと彼の将来が心配だわ。

「勝負は勝負だからな。何かいっこ位、言う事聞くぞ」

 あら男らしい。
 なんだかんだ、リドーの印象がだいぶ変わって来たな。

「‥‥じゃぁ、友達になってよ」

 あ、それ良いわね。

「そんなんで良いのか?」
「うん。仲良くしてね」
「ああ。宜しくな」

 やった。また友達増えちゃった。
 ルーシはカシウスとリドーに満面の笑みを送る。
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