転生竜と賢者の石な少年

ツワ木とろ

文字の大きさ
上 下
95 / 120
3章

3章の終わり

しおりを挟む

「あわわわわわ!」

 ハマールがアタシの背中で慌てふためいてる。

「なんだよハマール。怖いのか?」
「そりゃそうですよ」

 それに比べてカシウスは楽しそうだ。
 王都に戻って来ても、時折元気のないルーシをカシウスが気晴らしに誘ってくれた。
 それならって事でアタシが提案して、王都から離れた所まで来てドラゴンになって飛んでいるの。

「ルー兄、ナナチャ、もっと飛ばしてよ」
「えー!」


 イプノシーの件では、死亡者がいた事もあって、調査隊からの取り調べに時間が掛かった。
 それでも審問官の業務中の出来事だし、手をくだした訳じゃないので甘いもんだったんだと思う。
 信者達の供述もあったからかな。
 アタシ達が訪れた村以外にも2つ近くに隠れ集落があるしく、信者達はそっちで暮らしていたらしい。
 亡くなった人と逢わせる見返りとしてキノコ栽培の労働力にされてたとか。
 実際には催眠と幻覚で騙されてただけみたいなんだけど‥‥
 イプノシーは死んじゃったけど、怪しいキノコの栽培も含めて調査は続いている模様。

 ルーシのみそぎ期間が終了したので詳しい話は分からないけど、重要参考人としてセドリックとヴィオラの捜索がギルドに依頼されたらしい。
 グフリアの所が面識あるから任されたみたいだから下手な事にはならないと思うけど、ルーシとアタシも複雑な気持ちに陥ってた。
 ルーシの部屋にはセドとヴィオラの荷物が残っているから、嫌でも思い出してしまう。
 そんな時にカシウスが誘ってくれたので、感謝だわ。

 アタシは空中をジェットコースターみたいに急上昇急降下を繰り返す。

「1回転するからしっかり捕まっててって!」

 振り落とされない様に前もって伝えてから1回転。

「ひゃっほーっ!」

 掴まれてる毛が思いっきり引っ張られて少し痛いけど、ルーシもカシウスも楽しんでくれてる見たいで良かった。
 カシウスのテンションが非常に高いのはルーシを気遣っての事なのかも。
それに引っ張られてルーシの陰りも吹き飛んだみたい。
 よし、今度はもっと早く回ろうかしら。

「もう勘弁してくれだぁ!」


 ハマールの限界が来たので一旦休憩。
 アタシも一旦元の姿に戻る。

「ナナチャ凄いな。楽しかったよ」
「ミュー」
「オイラは楽しくなかっただ‥‥」
「ミュー‥‥」
「ハマールは乗らなければ良かったじゃないか」
「次からはそうしますだ」

 王都に続く道の無い、草原の丘の上。
 そこでアタシを挟んでルーシとカシウスが寝転ぶ。
 ハマールはアタシの反対側のカシウスの隣で胡座をかいて座ってる。
 他人の往来は全くなく、静かで風が心地良い。
 無言で居たら寝てしまいそう。

「ルー兄、もうそろそろ学園の入試なんでしょ?」

 カシウスが肘をついてルーシの方を向く。

「うん。入試ってどんな事するのかな」
「わかんない。父さんも姉さんも入試受けてないんだよね」

 上流階級の子供はエスカレーター式に進学するので、入試は高等部から入学する一般人のみになる。

「ジークリット伯父さんなら知ってるんじゃないかな」

 司教様の息子も一般人扱いなのか。
 その頃はメルヴィルさんが司教じゃなかったのかも知れないわね。

「絶対入学出来るって言ってた」
「らしいね。だからクラス分け試験だって言ってたよ」
「カシウスと同じクラスになれるかなぁ」

 クラス分けの基準は知らないけど、カシウスはずっと通ってるから学力あるだろうし、ルーシも賢いし勉強して来てるから期待は持てる。
 けど、確執やら思惑やらで貴族と一般人が同じクラスになったりするのかしら?

「大丈夫だよ。父さんが根回ししてくれるから」

 おっと、そんな事軽々しく言って良いの?
 公爵家の口利きだから大丈夫なのかな?
 そうだったとしてもルーシの口からは出させない様にしといた方が無難よね。

「でも、さすがに成績悪いとどうにもならないみたいだから。ルー兄なら大丈夫だろうけど‥‥ オレもルー兄と同じクラスになりたいからさ」
「うん。頑張るね」

 同じクラスになってずっと一緒に居るのも楽しくていいけど、アタシ的には他のお友達も作って欲しいかなぁ。

「ナナチャ、もう1回飛んでくれるか?」
「ミュー!」
「今度は3回転するって」
「いいね!」
「オイラは遠慮します」
「ミュー」
「下で見てて、カシウスが落ちたら受け止めてあげてだって」
「分かっただ」
「大丈夫だよ、オレ落ちないから」

 ちょっとカシウスが不貞腐れる。

「もしもの為だよ。じゃないと3回転はさせられない」

 アタシが伝える前にルーシが言ってくれる。

「分かったよ」
「もしもの時はオイラが守りますだよ!」
「ハマールお願いね」

 張り切るハマールに笑顔でそう言うと、ルーシはまたアタシをドラゴンに変えて背中に乗り込んだ。
 無邪気に楽しむルーシとカシウス。
 今日はホントいい日ね。
 これからの学園生活もこんな感じだといいなぁ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

人の身にして精霊王

山外大河
ファンタジー
 正しいと思ったことを見境なく行動に移してしまう高校生、瀬戸栄治は、その行動の最中に謎の少女の襲撃によって異世界へと飛ばされる。その世界は精霊と呼ばれる人間の女性と同じ形状を持つ存在が当たり前のように資源として扱われていて、それが常識となってしまっている歪んだ価値観を持つ世界だった。そんな価値観が間違っていると思った栄治は、出会った精霊を助けるために世界中を敵に回して奮闘を始める。 主人公最強系です。 厳しめでもいいので、感想お待ちしてます。 小説家になろう。カクヨムにも掲載しています。

顔採用の新人社員が部下になった。

Yuhきりしま
恋愛
 今井カナ――私は大学卒業した後の進路を考える事が増えた。  私の長所って何処だろう?  一部ピンク色の髪を撫で姿見の前に立ち服装チェック、爪先はキラキラなお年頃の学生だ。  バイト経験もカフェの店員さんしかない。  困ったら親に相談してみようと私はリビングで団欒する両親に問う。 「都会とか行ってみようかな?」  親の返事は『好きにしなさい』と短い、私は許可が出て笑顔になった。  料理やお菓子も楽しそうだけど、お母さんのお手伝いレベルしか技術が無いと気付く。ドラマも良く見るから映像系に行こうかなと資料を漁るも、入社前に作品を提出しないと行けないらしい。 「ムズいなー」  例えばカフェのバイト店員みたいな『いらっしゃいませ~』と挨拶をして『いかがなさいますか?』ってメニューをとってー。 「おや、おやおや」  技術職大手の『宝木』という会社が『受付嬢』を募集している。  受付嬢って言ったら私の理想に近い!  お客さんが来たら要件を尋ねて、案内するだけじゃん!  私は思い切って試験を受けた。そして、届いた採用通知は『合格』の二文字。  大学を卒業して一人暮らしが始まった。冬休みが明ける前に顔合わせで出社する。  支給された制服を着て一箇所に集められた。  暫く待つと変なおじさんが部屋に入る。  西部劇のガンマンみたいな姿で筋骨隆々の逞しい神下部長が私達の前に立った。そして、非常に申し訳無さそうに理由を語る。  その内容は技術者が足りないので技術部に転属しないか?  私達はシーンと静まり返る。だって、受付嬢として入社したのに難しい技術部に入る人なんて居るわけない。ほら、周りを見渡しても『私』以外は誰も手を上げていなかった。 「……君。名前は?」 「今井カナです。未経験なんですけど、私にも出来ますか?」  私の目を見て神下部長は言った。 「もちろん出来る。今井くん、さっそく転属の手続きをしよう」 「はい!」  私が受付嬢から技術部に移った大きな理由。  制服が着てみると似合わない。  技術部は服装も自由で過ごしやすいみたい。  転属手続きをしている時、神下部長の口にした言葉だけが気になった。 「新部署で怖い先輩がいる」  後悔しちゃった―。  あー! もう!!!  先輩だけが心配だぁー!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

公爵令嬢に婚約解消された王子は子爵令嬢を断罪する~それって王子の自業自得です~

涼石
恋愛
カルシア子爵令嬢リリシーヌは日本からの転生者。 チート能力などない。転生恩恵プラマイマイナス。 せめて穏やかな人生を送ろうとする中、 学園のアウトロー公爵令嬢サフィアスに気に入れられ、なぜか彼女と第二王子の破局に巻き込まれていく。 理不尽な妬み嫉みの矢面に立たされ、精神的に削られていく日々。 穏やかな生活を取り戻すため、リリシーヌは覚悟を決める。 【お知らせ】 現在、「ほっこり、じんわり大賞」に参加させてただいております。(8月31日まで) 別作品で、完結作品になりますが、読んでいただけたら嬉しいです。

次は幸せな結婚が出来るかな?

キルア犬
ファンタジー
バレンド王国の第2王女に転生していた相川絵美は5歳の時に毒を盛られ、死にかけたことで前世を思い出した。 だが、、今度は良い男をついでに魔法の世界だから魔法もと考えたのだが、、、解放の日に鑑定した結果は使い勝手が良くない威力だった。

処理中です...