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3章

【93】

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 ヴィオラは見慣れた素早い剣舞で切り付け続け、ルーシはそれを防ぎ続ける。
 手や腕に無数の切り傷を負わされては瞬時に治っていく。

「貴方のその能力で、あの時助けてくれてれば‥‥」

 他の信者は無言で襲ってくる中で、ヴィオラだけは言葉を発してる。

「ヴィオラやめて!」

 喋るのもそうだし、攻撃しようとしないルーシを攻めきれないのは、催眠が掛かりきってないって事かもしれないわ。

「あの時力を使ってくれてれば、セドは記憶を失わずに済んだのに!」

 それは違う。あの時ルーシはセドリックを助けようとしたわ。
 ただ間に合わなかった。
 あの時セドリックが即死だったのはヴィオラも知っているはず。

「あの時助けてくれなかったのに、今度は力を使うのね!」

 ヴィオラがりきむ。
 彼女の気持ちも分かるけど、ルーシに非がない事と弁護したい。
 でもアタシの言葉を代弁出来るのはルーシだけで、伝えて貰ったら自分で言い繕ってる様にしか見えないと思う。
 言葉を発せられないのが今更歯痒く思える。

「ごめんね‥‥ ボクの力じゃ助けてあげられなかったんだ‥‥」

 消沈ぶりがディアボロスの扱いに現れ、顔や脚も傷を負い始めてる。
 まるでヴィオラの嘆きを受け止めようとしてるみたい。
 でも、そんなの八つ当たりじゃない。
 ルーシは受け入れてもアタシは到底納得出来ない。

  ゴォォォ!

 ルーシとヴィオラの間に火を吹いて2人を引き離す。

「ナナチャ、やめて!」
   「そうは言うけどルーシ‥‥」
「ヴィオラは悪くないから‥‥」
   「ルーシだって悪くないじゃない! あの時いっぱい傷付いたし‥‥ アナタで憂さ晴らしなんてさせないわ。」

 もう1度2人の間に火を吹くと、ヴィオラは尋常じゃないくらい後退した。
 恐怖を感じてる顔。彼女のあんな表情初めて見た。

「わたしまで焼き殺すの‥‥?」

 何を言い出してるんだろう。

「セドみたいに焼き殺すの!?」

 先ほどとは比べ物にならないスピードでまたルーシに襲い掛かる。
 ルーシが焼死させたんじゃないって知ってるはずなのに。
 浅い催眠に掛かってて錯乱しちゃってるのかな。

   「ルーシ、ヴィオラをやっつけて」
   「そんな事出来ないよ‥‥」
   「やらないと救えないわ。このままじゃ彼女も可哀想。」

 そう言ってもルーシは思いきれないでいる。

   「アナタの今の仲間はナミル達でしょ?あの娘達はアナタを頼りにしているの。みんなの為にも、ヴィオラの為にもアナタは勝たないと‥‥」

 ふと、セドリックが1人で扉に向かったのが目に入った。

「ヴィオラ、後は任せたぞ!」

 そう言い残してセドリックはその場を逃げ出す。
 マジ? いくら記憶を無くしてるからってそんな行動とる様になるのかしら。
 それはルーシも思ったみたいで、

「ヴィオラ、あの人はホントにセドリックなの?」

 と言った。
 彼の目に力がこもり、ディアボロスの扱いにもキレが増す。
 覚悟が決まったみたいだった。

「セドは生き返ったの!」
「ホントに?前と全然違う」
「記憶をなくしてるのだから仕方ないじゃない!」

 ヴィオラの攻撃が荒くなる。

「記憶がないからってセドはあんな事言わない。ヴィオラを残して逃げたりしない!」

 ルーシの一振りがヴィオラの頭をかすめ、仮面が外れる。
続けざまに頬を石突きで叩く。
 やった。これでヴィオラに掛かった催眠が解ける。

「‥‥やったわね」

 ルーシを睨み付ける。
 解けてない?

「ヴィオラ、目を覚ますにゃ!イプノシーにセドリックを生き返らせる力なんてあるはず無いにゃ!」

 既にほとんどの信者を倒し終えているナミルが叫ぶ。
 ナミルとディオの回りには動けなくなった信者達。
早くしないと手遅れになる人も出て来てしまうかもしれない。

「そんなの分かってるわよ。」

 イプノシーは小さくうめき声を上げている。
喉のダメージも回復しだしているのかもしれない。

「イプノシーは只の傀儡。わたしは駒‥‥」

 ヴィオラは瞬間移動かと思うくらいの速さでルーシを抜き去り、イプノシーの前まで行くと、奴に斬りかかる。
 それをティチが盾でなんとか防ぐ。

「ティチーノにも防がれて仕舞うのね‥‥」

 自分の腕が鈍ったと言いたいのか。

「『蔦縄』!」

 蔓がヴィオラを囲うように伸びる。
 ヴィオラは切り刻んで道を作ると後退し、距離を取った。

「ううぅぅ」

 イプノシーが涙を流し出し、鼻水を垂らして小刻みに震え出す。
 もう動けているのはヴィオラしかいない。
 アタシ達全員で同時にヴィオラに向かえば、お互い軽傷で捕らえられるでしょう。
 早く捕らえて正気に戻して上げたい。

「分かってるわよね?」

 ヴィオラはイプノシーに喋ってるみたい。
 イプノシーは震えながら上を向いて目を閉じた。

「!」

 口から血が溢れ、イプノシーは倒れる。

「毒!?」

 即死っぽい。そんな猛毒どこに仕込んでたのかしら。

 アタシ達がイプノシーに気を取られている隙にヴィオラは扉の前にまで移動している。

「ヴィオラ、行っちゃダメ!」
「もうわたしの前に現れないでね‥‥」

 今のセリフはアタシにしか聞こえなかったと思う。

「ヴィオラ待って!」
   「ルーシ、行っちゃダメ」

 追いかけようとするルーシの首根っこを加えて引っ張る。

   「ヴィオラの脚に追い付けるわけないわ。それに、アナタにはやる事がある。アナタが言い出した事よ」
「‥‥そうだね」

 ちょっと冷たい言い方になっちゃったかしら。
 ヴィオラを追いたい気持ちは分かるけど、信者達の傷を治さないと。
 どっち付かずになったら後悔してしまう。


 イプノシーが死んだ事で信者達の催眠が解け、みんな仮面を外してる。
 ルーシはスキルって体裁を保つ為にこっそり掌を切って、血が見えないように患部に手を当てて傷を治していく。
 飲むより効果は落ちていふと思うけど、重傷って人もいないから支障はない。
 ただ、血を流す量が無駄に多くなってしまってるかな。
 全員回復させた頃にはルーシの顔色が悪くなっている。

「大丈夫ですかあ?」

 言及したことないけど、ナミルとコリティスはルーシの力がスキルじゃないって知ってるんだと思う。
 彼の疲労を気遣ってくれてる。

「イプノシーが死ぬとはにゃぁ」
「それに他も詳しい話が聞けそうな人ばかりですねえ」

 結局死亡したのはイプノシーと後3人。
 護衛の2人と村長の息子だ。

「自殺‥‥だよな?」

 3人は気付かない内にイプノシーと同じ様に血を吐いていた。

「ヴィオラに言われてって感じだったにゃ」

 イプノシーは確かにそう見えた。

「でもヴィオラさんも指示されてた様に思えたわ」
「確かに。セドリックの差し金って感じだったにゃ」

 セドリックは他とは違う行動で、催眠に掛かって無いように見えた。
ヴィオラにもその節があったけど‥‥

「あれはセドリックじゃないよ‥‥」

 ルーシは少し俯いて言う。
みんなには見えないけど、少し眉間にシワがよっている。

「そうだにゃ。あれはセドリックじゃないにゃ。偽セドにゃ」

 ナミルはセドリックが死ぬとこ見てないし、たぶん整形って概念もないから本物だって気持ちもあるんだろうけど、ルーシを気遣ってそう言ってくれる。

「とにかくう、今出来る事後処理しましょうかあ。教会には連絡いれときましたんでえ」

 これから調査隊来るまで待ってとか、時間掛かるんだろうなぁ。
 早くルーシを外に出して上げたい。
 こんな所に長くいたら気が臥せってしまうわ。

「ここに入る前から何度か連絡入れてるので、既に軍も動いてくれてるらしいですよお」

 お、コリティス良い仕事するじゃない。
 それじゃぁ思ってるよりは早く来るのかな。

 その後もルーシの表情は曇りがちだった。
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