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3章
【92】
しおりを挟むイプノシーの両脇に立つ男達がディオとティチが行く手を阻む。
斎主様の護衛だけあっていい仕事する。
でも、こっちにはまだルーシが居るわ。
合図とほぼ同時でテント内に乗り込んだルーシがそのままディオ達の間をすり抜け、イプノシーの喉元をディアボロスで突き飛ばす。
「ヴィオラにも催眠かけたの!?」
ルーシは胸ぐらを掴んで凄むが、イプノシーは喉を潰されて喋れない。
ルーシにとってはヴィオラも家族同然。
よく今まで怒りを我慢出来てたと思うわ。
「『蔦縄』!」
コリティスの魔法がイプノシーと護衛2人を縛り上げる。
「みんなナイスにゃ。」
最善のスムーズさじゃない?
ただ、予想外だったのはテントの可燃性。
薄さも要因なのか一瞬で燃え広がり、骨組みだけになった。
火柱が上がり、テントが燃え尽きるまで数秒だったと思う。
あまりにも唐突で、その場にいる信者達は呆気に取られて動けないでいる。
手練れなヴィオラなら即座に動けただろうに、そう出来なかったのは催眠に掛かっているからに違いないわ。
彼女が他の人達よりも悲痛な表情を浮かべているのが気に掛かるけど。
「我々は異端審問官だ!」
ナミルは広間全体に響く様に声を張った。
「イプノシーをここに捕縛した。この者は『悲嘆の魔女』である。貴方達にも魔女の集会に参加した事で異端の容疑が掛かっている。免罪を求める者はその場に留まりなさい。抵抗や逃亡を図った者は異端者として弁解の余地無くこの場で極刑に処す!」
イプノシーが白目を剥きかけてて、これ以上催眠を掛けられないと踏んで大袈裟に言ったんだと思う。
最悪は極刑。つまり死刑だけど、ナミルも望んではいない。
それにしても、イプノシーの小物感が凄い。
この前はもっと大器な感じだったと思ったけど。
捕まえてしまえば只のおっさんだから?
「装着!」
今の声はセドリックだ。
その掛け声で信者達がバックからお揃いの鉄仮面を取り出して被り出す。
その間にセドリックはヴィオラに手を回わし何かを耳打ちすると、彼女の目付きが変わり、彼女も仮面を着けた。
「何ですかねえ」
「分からないけど、油断しにゃい様に」
「ティチとコリティスはそいつらの側に居てくれ」
ティチがイプノシーの前、コリティスが後ろに回り襲撃に備える。
「斎主様を奪還せよ!」
仮面を被って居ないのはセドリックだけ。
彼の掛け声で信者達がアタシ達に向かって走り出す。
直ぐさま先頭に出たのはヴィオラ。
どこかに隠し持って居たのでしょう、両手にはナイフを持っている。
片方はパーティーメンバーでお揃いのナイフだ。
「ルーシ君、ヴィオラさんは任せる!」
ディオは既に剣を抜いて構えている。
ルーシが前に出て立ち塞がるとヴィオラは足を止めた。
信者達は2人を無視して脇を走り抜けていく。
「顔叩くと正気に戻るんだよな」
「催眠に掛かってればだけどにゃ」
「でも、あんな仮面されてて叩けるのかな」
ナミルがハッとイプノシーを見る。
「こう言う時の為に事前に催眠掛けてたのかにゃ!?」
だとしたら厄介ね。折角イプノシーを使い物にならなくしたのに。
「コリティス、魔法で拘束出来るかにゃ?」
「頑張りますけどお、全員は無理ですう」
「ナミルさん、俺は覚悟決めてるよ」
催眠を掛けられただけの人を処刑するのは気が重い。
その重責からなるだけ遠ざけるつもりでディオはティチをイプノシーの側に着かせたのかも知れないわ。
もしかしたらルーシの事も気に掛けてくれたのかも。
「ポーションがあれば殺さないで脚止めだけで済ましてあげられるんだけどにゃ」
前にもそんな事あったわね。
でも、ここには大量のポーションなんてない。
「苦しむのは可哀想だからなるべく一発で殺してやってにゃ」
「僕のスキルで治せるよ!」
「ルーシ、いいのかにゃ?」
「うん」
「ナナチャ、いいよね?」
「‥‥ええ。仕方ないものね」
ルーシの血で回復させるの気が進まないけど、仲間の精神衛生を保つ為だものね。
教会にもスキルの力って嘘付いているから大事にはならないでしょうし。
「‥‥そんな誰とも分からない奴らの事は助けるのね」
ヴィオラはそう呟くとルーシに斬りかかる。
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