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3章

【88】何だかルングス方面の村を思い出す

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 夜更けにベネルを出て仕舞ったので途中で野宿して、日の出と共にまた移動する。
「新情報入りましたあ」
魔信具で通信をしていたコリティス。今回はビックスさんかニーダさんが話し相手なのかな。
「どんな情報にゃ?」
「何でも、その村では死者と話す事が出来るらしいんですけどお」
「そんな事出来るんかにゃ?」
「催眠掛けて話したと思わせてるんじゃないですかあ?」
 なるほど、イプノシーだしね。
「で、最近死者を蘇らせる実験を始めたんだとかあ」
「それは怪しすぎるにゃね。そもそも死者の冒涜で教義に反するにゃ」
「ですねえ。村全体で関わってたら私達だけじゃ手が足りないかも知れないですねえ」
「その場合はどうしたら良いんだろう」
とディオ。
1度事を構えたら次は無いだろうから対応を決めといて欲しいんでしょうね。
「うーんとお、調査中に分かれば私が増員要請しますけどお、その前に露呈しちゃった時の事ですよねえ」
歯切れが悪くなる。
「緊急時にまで生け捕りって決まりは無いにゃ」
 口ごもるコリティスに代わってナミルが言う。
「自ら魔女に加担している者は全て異端者にゃ。みんなには申し訳ないけど、人を殺す覚悟はしておいて欲しいにゃ」
 コリティスが言葉を選びたかった気持ちも分かるけど、この場合はナミルがハッキリ言ってくれて良かったと思う。
その方が決心が付きやすい。
「分かった」
ディオが鋭い目付で返事する。
「……」
 ティチーノが決心するにはまだ時間が掛かるかな。

 バズァ村には夕方到着した。
 平地作られた村なのに密集して家が建てられてる。
レンガ造りの家ばかりだ。開けているのは入口直ぐの広場だけ。
 大きな集落じゃないのに……こんな感じ前にもあったわね。
「旅の方ですかい?」
気の良さそうな中年男が声を掛けてくる。
「ええ。ここで魔石の売買をしているって聞いてやって来たのにゃ」
「魔石の売買?」
男が訝しむ。
 普通、村に長らく滞在する旅人なんてそうそう居ないだろうから、下手に取り繕い過ぎて疑われるより、噂を聞き付けてやって来た思慮の足りない冒険者を演じた方がボロが出にくいし、核心に近付き易いんじゃないかなって、コリティスの提案ね。
「俺には分からんので村長の所に案内するで良いですかい?」 
「ええ。お願いするにゃ」

 広場に馬車を置き、案内してくれる男が見てない内に元の姿に戻りルーシの頭の上に乗る。
「あれ、馬は?」
即バレする。まぁそうよね。
「魔法で隠してるんですよお。あの馬、目立つじゃないですかあ」
コリティスがフォローしてくれる。
「へぇ、確かに立派な馬だもんな。そのまんまにしてたら見物人が来ちゃうわな」
「そうなんですよお。売ってくれってしょっちゅうで」
「農家は特に欲しがりそうだな」
「ええ。こちらは農村て雰囲気じゃないですねえ」
「側に大きな森があってな、そこでキノコの栽培と狩りをして生計たててるんだ」
 そんな話しをしてる間に村長宅に着く。
「ちょっと待っててくれるかい」
男はズカズカと中に上がっていく。

「またせたね。上がってくれるかい」
男が戻って来て中に案内してくれる。
中には老人が1人。村長でしょうね。
「こんな辺鄙な村に良くお越しくださったね。」
 村長と案内してくれた男は顔がよく似ている。
親子ね、きっと。
「何でも、魔石をお売りに来なすったとか」
「ええ。ギルドよりも高く買い取ってくれるって聞いたにゃ」
ナミルがバックから魔石を少し取り出して見せる。
「申し訳ないけど、この村でそんな事はしていないんだわ」
「そうなんですかあ?やっぱり噂は噂かあ。じゃああっちもそうなのかあ」
「あっちとは?」
「実は、この村で死者と会話が出来るという噂も聞いてまして」
 ナミルとコリティスが普段の喋り方のままだから、そこにディオが男の声で真面目に話すと急に締まるわね。
「魔石を費用代わりに頼め無いかなと思って来たんです」
「そんな噂があるのかい。残念けどそれも根も葉もない噂だわ」
「そうですか‥‥残念です」
「せっかく来てくれたのに申し訳ないね。今日は遅いから泊まって行くといいよ。」
「ありがとうございます。」
「せっかく来たんだからしばらく滞在して観光したいにゃ」
「構わないよ。何も無い村だけど、近くに空き家があるから滞在中は好きに使ってくれて構わないから」
「ありがとうございますう。助かりますう」

 提供された空き家は村長宅から6軒隣の平屋。
この辺りは平屋ばかりが密集してる。
「何日居ても構わんけど、出てく前日には村長か俺に報告してくれな」
村長の息子さんはそう言って帰って行った。
「あの感じだと知ってて隠してるにゃね」
息子が去るとそうそうにナミルが口を開く。
「どうしてそう思うの?」
とティチが聞くが、否定的に質問しているんじゃない様に感じる。
「勘にゃ」
 勘と言うよりは経験上じゃない?アタシもそう思ったし。
「ナナチャもそう思うって」
「そうですよねえ。前に似たような事あったし、同じじゃないけど怪しいですよねぇ」
 ティチとディオも頷く。
「これからどうする?」
「まずは探索しますかあ。食事か食糧の確保しないとですしい。」
「それもそうにゃんだけど、あの2人が今何話してるか探れないかにゃぁ」
 確かに今が1番有力情報話してるかも知れないわ。
 これはアタシの出番ね。
「ナナチャに行ってもらうから、ボク達は探索に行こう」
「ナナチャお願いにゃね」
   「任せといて。ただ、この家の通気孔小さいのよ。村長宅も同じだと入れないから体小さくしてくれるかしら」
「わかった」
 念話で伝えるとルーシは通気孔を確認してからアタシの体を10分の1サイズまで小さくしてくれた。
   「ありがとう。行ってくるわね」
「ナナチャ、行ってらっしゃい」

 村長宅までの距離が長く感じる。
ちょっと小さくしてもらい過ぎたかしら。
「あいつら誰の紹介とも言ってなかったな」
 お、話してる話してる。
 通気孔から入って直ぐの所で会話してるから、こんだけちっちゃくしといて貰って正解だった。
「紹介無しで来たのは2度目だな」
「でも前のあの子は偶々だっただろ?今回は噂を聞き付けて来たってなると」
「情報が漏れているんだろうな。斎主様が魔女認定されてしまったから」
 こいつら黒決定。
 斎主って呼ばれてて魔女認定されたなんて、イプノシーで間違いないでしょう。
「あいつらが居る間は大人しくしといた方が良いかも知れないな。」
 おっと、自重されるのは厄介ね。
初手を誤ったかしらアタシ達。
「親父は村のみんなに伝えてくれ。俺は斎主様の所に言って話してくるわ」
 おっと、これはチャンス。
 後を追いたいからルーシに念話で伝えておこうかしら。
   「ナナチャ、戻って来て!」
 アタシが念話する前にルーシから念話が届く。
 迫力あるけど、どうしたのかしら。
   「ルーシ、どうしたの?アタシ尾行したいんだけど」
   「ヴィオラが居た!」
 え?ヴィオラが?
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