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3章
【84】アルハスを出る
しおりを挟む教会の中庭はテニスコート位の広さで芝生になってる。
明かり取りが主な目的な広場。
たまにそこでお祈りをする人が来るからその時は場所を譲る約束で許可がおりた。
「遠慮はしないですよ。」
「お手柔らかに、お願いします。」
ナミルとエミリー。
エミリーの実力が分からないので背丈の近いナミルがまず相手する事になった。
隣でルーシとグフリア。
逆にこっちの体格差が凄い。
「ルーシがやれるのは分かってるからね。手加減はしないよ。」
「うん。」
教会内では武器も魔法もダメなので自ずと体術一択になる。
審判役は居ないので開始の合図などなくグフリアが間合いを詰める。
そして右ストレート。
ルーシはそれを左手で内側に叩き、腕の側面を回転しながら首筋に蹴りを繰り出す。
グフリアはルーシの繰り出した足を左手で掴み、投げ飛ばす。
ルーシは転げ回るが直ぐに立て直し、臨戦態勢を取る。
「いいねぇ。鈍ってないみたいだ。」
グフリアは楽しいそうに言う。
「今度はボクから行くよ!」
ルーシも楽しそうね。
一方、ナミルとエミリーの方はと言うと、
「あにゃ?」
ひっくり返ってる。
「エミリー、もう1度お願い。」
「はい。」
ナミルがグフリアと同じ様に右パンチを繰り出すと、エミリーはルーシと同じ様に内に払う。
が、その後が違う。
払った腕を後ろ、斜め下方向に引っ張り足を掛ける。
するとナミルは自分の勢いで1回転して地面に叩き付けられる。
柔道?それとも合気道?そんな動きだ。
「ちょっとナミル、だいぶ鈍ってんじゃないのかい?」
グフリアが横目に見てなじる。
「そうかも知れないけど、それよりもエミリーが予想以上に強いわ。」
普段のナミルの雰囲気しか知らない人だと彼女って、負けを認めなくて駄々を捏ねそうに見えるけど、けしてそんな事ないのよね。
そう言う所はちゃんと大人なんだなぁと思うけど、負けず嫌いではある。
「慣れてない武術だけど、次はもっと健闘するにゃよ。」
あ、言葉使いが戻っちゃってる。
「行くにゃ!」
ナミルは右脚で回し蹴りをする。
両足共、地に着いた状態で足払われて投げ飛ばされてるのに片足になるなんて愚行に思える。
案の定防がれ、足首を掴まれ、左足を払われる。
ナミルは払われたと同時に掴まれた右足を軸に回転して左足の踵をエミリーの顔に振り下ろす。
なんて体幹してるのかしら。
エミリーも流石で、掴んだ足を手放し飛び退いて回避する。
腹這いに着地したナミル。
体のバネと腕の力で後ろに飛び、ドロップキックを喰らわす。
これを咄嗟に受けるしか出来なかったエミリーがふっ飛ぶ。
「ね、健闘したでしょ?」
スッキリしたのか言葉遣いを気にする余裕が戻ってる。
「ナミル、身体温まって来たって感じかい?」
「グフリアも手合わせして貰った方がいいですよ。モンスターや冒険者じゃ体験出来ない闘い方だから、とても勉強になる。」
「そうかい?じゃぁお願いしようかね。」
グフリアがルーシとの手合わせを辞めにしてエミリーと対峙する。
ルーシとナミルは休憩がてら見学。
「グフリアも1回投げられたらいいよ。」
「流石にあたいを投げるなんて無理でしょ」
グフリアは男と比べてもガタイがよく重量級。
片やエミリーはローブで隠されているけど華奢な方だ。
グフリアがまたもや右ストレートを繰り出す。
彼女なりな技量を推し量る手段なのかしら。
アタシならあんなパンチされたらビビって目を瞑っちゃうわね。
エミリーはかわして手首を掴み、今度は脇にも逆の腕を差し込み肩を押さえ、グフリアの腹を腰で持ち上げて投げ飛ばす。
一本背負い?
「こりゃたまげたね。」
ひっくり返りながらグフリアが言う。
目を丸くしてるけど、何だか嬉しそう。
「よっこらせっ」
グフリアが飛び起きる。
ナミルの時もそうだったけどエミリーは常に真剣な顔つきなのよね。
勝ってるのにエミリーの方がいっぱいいっぱいなのかしら?
「次はこうは行かないよっ」
また右ストレート。
それをまたエミリーが掴み、ナミルにした様に足を払うが強く踏み込んだグフリアの足はびくともしない。
掴んだ腕を上に振り上げられ伸びた脇腹に左の拳底。
それを何とかいなした所に裏拳。
それもかわすと今度は回し蹴りが来て、肩に喰らってぶっ飛ぶ。
「こんなにかわされるとは思わなかったね。」
あの図体で素早く連撃するなんて異常じゃない?
「やっぱり2人共凄いですね。直ぐに順応されて勝てなくなっちゃう。流石です。」
闘い終えてエミリーがやっと口を開く。
「いや、これが本番なら先に一本取られてるあたい達の負けだから。」
「グフリアを投げ飛ばすなんてエミリー凄いよ!」
ルーシが興奮気味に言う。
「そんな細い身体であんな巨漢投げるんだもの、エミリーは天才なんじゃないかしら?」
『巨漢』と言われて少しムッとするグフリアを見てナミルは意地悪に笑う。
「そんな事ないです。でも嬉しいです。」
エミリーが誉められて照れてる。
そう言う顔見ると、いつもしっかりしている彼女もまだ若いし、可愛らしい所あるんだなぁと思っちゃう。
「どこでそんな技習ったの?」
「ある方を師事してまして、」
「師事してるって、その人は教会の人じゃないのかい?」
「ええ。ルーシ君と同じ師匠なんですよ。」
あ、ロジバールさんか。
あのじいさんどんだけレジェンドなのよ。
「ああ、だから何となくルーシと動きが似てたんだね。」
「触りだけでもいいから私にも教えてくれないかな。」
とナミル。
「昔と違って、傷付けちゃいけない人を相手にする事があるのよ。今の私じゃどうしても傷付けてしまうから、あの投げる技とか教えて欲しい!」
この前の集会での話かな。そんな事考えてたとは。
「いいですよ。私に教えられる事があれば喜んで。」
「エミリー、ありがとう!」
「完全にエミリーを独占されちゃったな。」
その後、王都への帰還が決まるまで毎日稽古をしていた。
「ボクはグフリアと稽古出来て楽しかったからいいよ。」
ナミル、エミリーの稽古とルーシ、グフリアの手合わせって組み合わせを毎日。
最後の方にはたくさんの教会の人が見学に来てた。
主にルーシを見に来ていた様に感じたわ。
ナミル曰く、
「巨漢と互角の闘いをする子供に感化されて応援してたんじゃないかにや。」
娯楽の少ない教会で、ルーシは勇者だったのかな。 グフリアは魔王?
午前中は軽く観光し、午後にはルーシの希望通り船に乗ってアルハスを立つ。
豪華客船を期待していたのだけれど、貨物船の1室を間借りするものだった。
「今回は急な事だったので準備が行き届いてなくて。」
との事。
それでも滞りなく乗れてるのはメルヴィルさんが司教様だかららしい。
庶民なら断られるかぼったくられるって噂。
「うえぇぇぇ」
出向してからナミルは船酔いに苦しんでいる。
「船って凄いね。馬も引いて無いのに進んでく。」
手摺に手を付いて外を見渡してる。
昔なら身を乗り出して落ちてしまわないかハラハラしたものだけれど、今はそんなに心配にならない。
大人になったなぁ。。
「アルハス側にある山からの流れなので下りは水流だけでも進むのですよ。」
メルヴィルさんがルーシの隣に寄り添う。
「今は風が無いですけど、追い風なら帆をはってもっと早く進むでしょうし、上りはあの水車の推進力で進むんですよ。」
船は両サイドに水車が付いてて、蒸気船に似てる。
「あの水車はどうやって動いてるの?」
「魔石を使って回しているそうですよ。」
「メルヴィルさん詳しいね。」
「そんな事ないですよ。娘が携わっていたから少しだけ。」
メルヴィルさんの娘さんは魔巧技士だったのよね。
「メルヴィルさんの娘さんて、テルティア達のお母さんだよね?」
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「テルティアとカシウスの事、宜しくお願いしますね。」
「もちろん。大事な兄弟だもん。」
「ふふふ。心強いですね。」
メルヴィルさんがルーシの頭を撫でる。
彼女もルーシの事、孫の様に思ってくれてるのかな。
そしたら嬉しいな。
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