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3章
【82】後調査
しおりを挟む抵抗も反撃もしてこなくなった信徒達の頬を叩くのは容易くて幾らも時間が掛からなかった。
むしろ目が治るのを待つ方がよっぽど長かったと思う。
「あの男に出会ったのは3ヶ月前だったと思う。それにこんな集会をしたのは今回が初めてだよ。」
とハッチャン。
恒例行事だと思い込まされてた上に進行役に成りたい願望も植え込まれて、ハッチャンは仲介をしていたらしい。
「おかしいのは分かるんだけど、何だかあの男の言う通りにする方が気持ちいいって感覚だった。」
アタシは催眠に掛からなかったから共感出来ないけど、ナミル達は頷いてる。
「強く掛けられた時は、何と言うか自分の体じゃないみたいだった。だからって君達に酷い事をしたのには変わらないよな。済まなかった。」
「抗えなかったんですから、しょうがないですよねえ。みんな無事なんで気にしないで下さいい。」
「、ありがとう。」
「所で、あの男の名前分かりますかあ?」
「いや、分からない。教えられてなかったと思う。」
「そうですかあ。なら顔は思い出せますかあ?」
「・・・いや、何だかハッキリ思い出せないな。刺青はハッキリ覚えて居るのに。」
「ナミル達と一緒にゃね。」
「叩いても解けない術なんですかねえ。」
「ただ単にパッとしないだけかもしれないにゃ。」
「刺青と小皺以外に印象に残る顔ではなかったってナナチャが言ってるよ。」
「ほにゃ。ナミルが正解。」
でも、流石にそれだけではないと思うわよ。
コリティスの言っていた通り、解けてない催眠も考えられるわ。
「皆さんの名前と家の場所とか控えさせて貰いますねえ。後日またお話聞く可能性もあるので、その時はご協力お願いしますう。」
話を聞き終わった人から解放していく。
そう言えば、1階に居たマッチョは何処に行ったのかしら。あの2人は共犯者だったのかな。
上が騒がしかったのに、酒場の人も覗きに来ないのを見ると何らかしらの催眠に掛かってるのかも知れない。
これからの方が調査、忙しくなりそうな予感。
「あ、虫にゃ。」
そう言って催眠に掛かってそうな人をひっぱたくのが常套手段になった。
あの集会に参加していなくても催眠に掛かってた人は結構居た。特に西側。
ルーシ達も街でだったし、関わった人は軒並み催眠掛けられてるのかもしれないわ。
男の名前は勿論、顔を思い出せる人は1人も居なかった。
ただ、みんな一応に言うのが『宣教師だと思った』。
三神について語られた記憶しかないらしい。
確かに街で見掛けた時も神の愛がどうしたとか言っていたわね。
そもそも宣教してるのが怪しいって始まった調査だった様な気もする。
「審問官も取り込みたいって言ってたって事は、他の教会関係者にはもう取り込まれている奴がいるって事じゃないかにゃ。」
と言うナミルの発言が案外、有力なんじゃないかって事でこれから教会に向かう。
「本当に行くにゃか?」
「あなたが言い出した事じゃないですかあ。」
「思い付きで言っただけで、教会に行こうなんて言ってないのにゃ」
「でもナミルの思い付きは良く当たりますからねえ。はいはい、行きますよお。」
「にゃにゃぁ・・・」
コリティスに手を引っ張られながら向かう。
今回は一応アタシ達も同行。
「待たせるだけになると思いますけどお、」
調査内容聞くだけでも憚れるんだから、今回みたいな場合は特に嫌がられそう。
「何かあったら側に居た方が都合いいからにゃ。」
「何もないといいですけどねえ。」
何も無かったら無かったで調査が進まなくて帰れなそうだけど。
案の定、アタシ達は個室に通されてそこで待機になった。
ビックスさん程の位も信用も2人には無いから、アタシ達の入場手続きに時間が掛かっちゃったし、出歩ける所も制限されてる。
普段2人がアタシ達を連れてこなかったのも頷ける。
ただ待ってるだけもつまらないので、こっそり探索に行こうかなと思っていると、外が少し騒がしくなる。
どうしたのかしら。これは見に行かないといけないわよね。
「ルーシ、ちょっと見てくるね。」
例の如く、通気孔から部屋の外に出る。
するとサスマタを持った人達が走って行く所だった。
ローブ姿で捕物道具持ってるとか、何だか異様。賊でも出たのかしら。
後を追って見ると、ナミルとコリティスが居て、囲まれている。
2人が賊?!あの娘達何したのよ。
「大丈夫です!問題ありません。」
2人の側にいる上等なローブのおばさんが事態を収拾している。
「あら?ナナチャ、心配して来てくれたのですか?」
コリティスの側に寄る。
教会内だと口調になるんだったわね。
「でも、大丈夫ですよ。戻って2人は大人しくしていて下さい。」
「ミュー。」
そう言うなら戻るけど。。
何かあったのは間違いなさそう。ナミルか?
長く待たされそうな気がしてきた。。
びっくりする位、待たされた。
「いっぱい待たせてスミマセンん。」
「大丈夫だよ。ナナチャが時間掛かるって教えてくれてたし。」
様子見に行って予測してなかったら発狂してたんじゃないかな。
「ナナチャ、ありがとうですう。それもこれも全部ナミルの所為ですう。」
「全部って事はないにゃ!」
「でも無理矢理司祭の頬叩いてなければ騒ぎにはならなかったんじゃないですかあ?」
「だって焦れったかったんにゃもん。目を見れば催眠掛かってるの分かったし、説得も全然応じてくれなかったじゃにゃいか。」
何となく状況は分かった。
ナミルは自分のお陰で説得に掛かる時間が短縮されたと主張し、コリティスはその所為で揉めて逆に時間が掛かったと言う。
「ナナチャが、どっちにしても時間は掛かったんじゃないのって言ってるよ。」
「「確かに」」
結局、教会の半数近い人が少なからず催眠に掛かっていたらしい。
その中の何人かが名前を覚えていた。
「イプノシー・アルタンウィンて名乗ってたみたいですねえ。」
「本名なのか分からないけどにゃ。」
名前を覚えていた人でも顔はハッキリ覚えて居ないし、記憶も曖昧で聞き取りでは大して進展していない模様。
「記憶覗くスキル持ってる人居たらにゃぁ」
とナミル。
「居るじゃん。」
「誰にゃ?」
「メルヴィルさん。」
彼女のスキルなら曖昧な記憶も掘り起こせるかも知れないわ。
「司教様呼ぶにゃかぁ?はばかれるぅ。」
「何で?」
「偉い人ですから、お忙しいかも知れませんねえ。」
「それにご老体だから、長旅はしんどいにゃ。」
外で上司に会いたくないって気持ちも半分位ありそうね。
「でも、相談はしてみますねえ。」
魔信具でコリティスが連絡を取る。
「・・・予定調整して、明日にでも出発されるそうですう。」
「マジか、凄い行動力にゃ。」
もしかしたら、2人はメルヴィルさんと長い付き合いじゃないのかも知れないわね。
「2人はメルヴィルさんと仲良いの?」
ルーシが聞いてくれる。
「仲良しとか、そんな関係じゃにゃいよ。」
「上司と部下ですからあ。」
「厳しい人じゃないでしょ?ってナナチャもいってるよ?」
「話の分かる人だって聞いてるし、ナミルもそう思うけど、」
「知り合ったのは結構前ですけど、ちゃんと関わりだしたのは審問官になってからですから、まだ良く分からないんですよねえ。」
やっぱり。そんな気がしたのよね。
「ナミルは教会の偉い人ってだけで嫌なんですよねえ?」
「嫌って事はにゃいけど、真面目過ぎる人ばかりで疲れちゃうにゃん?」
「メルヴィルさんはどれくらいで来るの?」
「普通なら半月位かかるんじゃにゃいかな。」
なっが。ってか普通に馬車で来たらそれくらい掛かるわよね。
アタシ程で無いにしても、もっと早い交通手段ないのかしら。
メルヴィルさんが来るまでの間も調査は続く。
唯一イプノシーの顔を覚えているアタシが地面に書いて、それをコリティスが紙に写した似顔絵を使って街で聞き回る。
漫画になっちゃってるけど、刺青と小皺具合が特徴を取られてると思う。
ハッチャンに見せたら、何となく思い出せるって言ってたし。
「メルヴィルさんが間もなく到着するそうですよお。」
「はや!」
予想より5日早い。
「船に乗って来たみたいなんで、東の港に迎えに行きましょうう。」
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