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3章
【78】アルハスで調査
しおりを挟むアルハスは鉱山都市って言うくらいだから山を切り開いて作られた街なのかと思っていたのに、至って普通な平地にあった。
この地域の領主がいる都市で、周辺の鉱山の仕切り、交易、運搬を担ってるんだとか。
1度全ての鉱物がここに集まるので人も自ずと集まり、今まで見た中で1番賑わった街かもしれない。
「おっきな河が流れてるからお魚も食べられるにゃ。」
魚かぁ。久しく食べてないなぁ。
「猫の化身としては見逃せないのにゃ。」
ナミルにそんな設定あったのね。
「ホントは虎ですけどねえ。」
コリティスが意地悪な顔をする。
「うるさいにゃぁ。」
「何で嘘つくの?」
「ルーシまで!いいじゃにゃいか。だって猫の方が可愛いんにゃもん!」
「虎でもナミルは可愛いよ?」
「にゃ、、」
ナミルが思わず顔を赤らめる。
ルーシのたらしっぷりが成長している。。
今回も教会に泊まらずに街の中心近くに宿をとる。
教会への顔出しを終えて戻って来たナミルが早速お風呂に入りたがる。
「いい湯にゃねぇ。」
この前は背もたれが無かったので、コリティスが創った湯船にルーシが錬成した座椅子を入れようとナミルが提案。
一段と快適になったみたい。
「これ結構魔力使うんですからねえ、もっと労って欲しいですう。」
「ありがとうにゃ」
「軽いい」
「コリティス、ありがとう。」
「ルーシ君こそ、座椅子ありがとうですう。」
「そこ、イチャイチャしにゃい!」
「そんな事してないですう!」
はしゃぐのも良いけど、お風呂入りながらアルハスの教会での話をしてくれるんじゃないのかしら。
「今回はこの宿を拠点にするにゃ。」
おふざけが一段落してやっと仕事の話が始まる。
「じゃぁ、アルハスに異端者がいるって事?」
「たぶんにゃ。」
ハッキリしない答えね。
また曖昧な情しか貰えなかったのかしら。
「この街に変な宣教師が現れるらしいんですう。」
「宣教師って教会の人じゃないの?」
「教えを広める奴はみんなそう呼ぶにゃ。」
「その人が異端者なの?」
「それがよくわかんないんですってえ。」
なんじゃそりゃ。
「この辺は土地柄、精霊信仰も盛ん何ですけど、その分宣教なんてしないなしいんですよお。」
「新しい信仰かと思って、勧誘された人に聞いても三神の話をされたらしいにゃ。」
「辺鄙な村ならともかく、こんなおっきな街で教会人が宣教して回る事なんてないですし、行ったとしても誰も把握してないなんてあり得ないですよねえ。」
「その人を探せばいいの?」
「そう言う事になるんですかねえ。」
「そんなの、いよいよナミル達の仕事じゃないにゃ。自分達で調べればいいのに、ナミル達を便利屋か何かと勘違いしてるんじゃないかにゃ」
ナミルはご立腹だ。
「教会の人間が現れると直ぐに行方を眩ますらしいですよお。」
「その人は誰が教会の人なのか分かるんだね。」
確かに。それって調査した教会人の面が割れてるのか、そもそもそいつが教会人かって事よね。
「大方、ローブ来たまま調査してたとかじゃにゃいの?生真面目な奴ばっかだから。」
「それはどうか分からないですけど、色んな可能性を加味して私達を呼んだみたいですねえ。だからよっぽどじゃない限り教会に出向かずに調べますう。」
結局調査からなのね。異端審問官も大変。
「まぁ、教会に顔出さないで済むのはいいにゃ。ローブも着ないでいいし、観光がてら調査しようにゃ。」
「調査がてらに観光ですよお。」
「どっちも一緒にゃん。」
「魚、さっかにゃ」
ナミルは完全に観光気分だ。
とは言っても名所がある訳でもなく、軽食取って腹ごなしに探索して、また軽食食べてみたいなのが数日続いてる。
「太っちゃうにゃぁ。」
「だったら食べなきゃいいじゃないですかあ。」
「だって美味しいんにゃもん。それにいっぱい歩くからお腹空くにゃ。」
アルハスはただ歩き回るだけでも1日じゃ無理な広さがある。
扱ってる物に鉱物が多いのだろうけど、やっぱり商業都市って言った方がしっくりくるかな。
「今日から西側回りましょうかあ。」
拠点にしてる宿は中央よりやや北東にあるのでそっちを優先的に探索してきた。
西側は今日が初めて。
「ちょっと寂れてるのかにゃ?」
南は鉱山に近いし、東は河がある。
西の北側には何も無いのか確かに賑わって無い。
「もしかしたら夜型な地域なのかもしれないですねえ。」
とりあえず見回って見るけど、もしかしたら夜にまた来る事になるのかな。
「だから知らねえって!」
どこからか荒げた男の声がする。
「隣の通りですかねえ。」
建物の間の小路を抜けて直ぐの所だと思う。
「ちょっと覗きに行こうにゃ。」
調査の為なんだろうけど、ナミルが言うと野次馬にしか聞こえないわ。
「こんな早くからいい加減にしてくれよ!」
声の主は隣の通りの向かい側からだった。
背が低めの小太りなおっさんが扉を開けて中から対応している。
こっちを向いた状態だからよく響いたのね。
その前にローブを纏った人が2人。こちらに背を向けているので顔は見えないけど、2人とも男の人だと思われる。
「教会の調査かにゃ。」
小路に隠れる様にして様子を伺う。
「教会の調査ってボク達以外にもいるんだ。」
「私達は内密なんですよお。」
そうなんだ。だとしたらアルハス教会の偉い人も身内を疑っているのかも知れないわね。
「ですが、このローブに似た物を羽織った者が出入りするの所を見たと言う人が居るのです。」
「そんなの只の客だって。あんた達だってどこぞの店に通ってるんだろ?」
「あなたを疑っている訳ではないのですよ。ただ知ってる事があれば教えて欲しいのです。それに、我々はローブ姿で通ったりは致しません。」
通ってる事は否定しないのね。
「何度も言うが、何も知らないんだよ。そういうプレイが好きな奴だっていっぱいいるからさ。」
「そういうプレイ?」
「あんた達もどうだい?夜にローブ着て来たらサービスさせるぜ。だから帰った帰った。」
男はあくびをしながら扉を閉める。
ローブ姿の2人は顔を見合わせてから去っていった。
「あの2人、夜遊びに来ると思うかにゃ?」
ローブ姿が見えなくなったのを確認して通りに出る。
「知らないですよ、そんなのお。」
コリティスはそっち系はお嫌いなようね。
普通の女子ってそんなもんか。
「でもお、夜にまた調べに来た方が良さそうですねぇ。」
「それじゃぁ、夜に備えて一旦戻ろうにゃ。」
「ねぇ、2人共、」
元の道を戻ろうとするナミル達をルーシが引き留める。
「どうしたんですかあ?」
「ノブに変な絵があるよ。」
ルーシが指差すのは、さっきのおっさんが閉めた扉。
そこに左右を向いて、尾びれを重ねた2尾の魚がうっすら彫られていた。
「また魚…」
彫りは傷付けただけくらい浅くて、色付けもされて無いからパッと見じゃ全然分からない。
「ルーシ、よく気付いたにゃね。」
「この前の絵に似てるね。」
ルングスの方の村にあったのは3尾の魚だったね。
「関係あるのかにゃ?」
「分からないですけど、気になりますねえ。」
紋章とか家紋なんて同じモチーフだと似てて当然だと思うけど、この仕事を手伝う様になってから続けてだと、気になるわね。
「他にもあるのかなぁ。」
「そうですねえ、調べてみましょうかあ。」
その建物は奥に長い2階建て。側面や後ろは隣接して建物が建ってて、人が通れる隙間は充分あるけどそんな所を調べてたら流石に怪しすぎるので正面だけ見る。
「さっきのだけみたいにゃ。」
「こっちにもあるよ。」
それは向かいの家のドアノブ。
「ホントだあ。何の印なんですかねえ。」
他のドアノブも見て回る。
知らなきゃ気付かないその絵も、気付いて仕舞えば意外と目立つ。
ちょこちょこあるのよね。
奥まった所なんてほぼほぼ全部の建物に絵が刻まれてるって通りまであった。
「結局何軒ありましたあ?」
「いっぱいにゃ。ただの流行だったら骨折り損にゃよ。」
結局宿に戻ろうかって時には日が暮れだしちゃった。
どんどん人の往来が増えて来てるのを見ると、夜型の街ってコリティスの言葉は的を射てたっぽい。
「このまま調査続けましょうかあ。」
コリティスの提案にナミルはげんなりした顔をしたけど、反論はしない。
「しゃぁにゃい。もう一踏ん張りして、美味しい物食べて帰るにゃ。でもちょっと小腹満たしてからにしにゃい?」
カフェで完全に日が暮れるまで休憩。
その頃には昼間の静けさが嘘の様に賑わいだし、酒場やら出店やらの灯りで夜なのに明るい。
「印のあった所、もう一度みてまわりましょうかあ。」
絵が刻まれてたドアノブは色んな通りに点在してあったけど、まずはほぼほぼ刻まれてた通りから見て回る事にした。
その通りだけ周りよりも暗い。
「にゃるほどにゃぁ。」
一度通り過ぎてからナミルが多くは語らずにそれだけ言う。
男性が忍んで行く様な通りだった。
「一旦他の所も見て見ようにゃ。」
とまたナミル。
コリティスが居心地悪そうなので気を使った感じかな。
他の建物は、周りに酒場とかがあって賑やかな通りにポツポツとある。
こっちは酒の勢いとかでも堂々と遊べる奴用なのかな。
「全部、色屋にゃん!」
最初に見付けた所まで戻って来たので、側の酒場のテラス席で食事を取る。
全部見直して回ったら時間掛かっちゃってて、いつの間にか賑やかさも収まってるわ。
「そうでしたねえ。その目印だったのかなあ。」
的外れだったのかしら。
ルングスの方の村で似たようなのがあったから気になっただけだしね。
そもそも異端と関係無かったんじゃなかったっけ?
「商売の印なら何であんなに目立たなくしてるのかにゃぁ。違法な商売でも無いだろうに。」
「印のない色屋もあるなら悪い事に携わってる印かも知れませんねえ。ナミル気になりますう?」
「う~ん。。」
「私達の仕事とは関係無いかもしれませんよお?」
「そうにゃんだよにゃぁ。でもにゃんか気ににゃるんだよにゃ。。」
普段よりも『にゃ』が多い。
何がそんなに気になるのかしら。
「こうなった時のナミルの嗅覚は鋭いですからねえ。」
「へぇ、そうなんだぁ。」
「だいたい面倒事なんですけどねえ。」
スキルとは違う、勘の様なモノみたい。
「凄いね。ナミルは調べるのに向いてるんだね。」
ルーシが笑顔で言う。
「絶対嗅ぎ付ける訳でも、外さない訳でもないのにゃ。」
ナミルは誉められて少し照れ臭そうにしてる。
誉められ慣れしてないのか、何だか仕草が可愛いくなってる。
「君達、」
そこに突然おっさんが現れた。
「何処かのお店に所属してるのかい?」
昼間にローブ姿の人と話してたおっさんだ。
客待ちしてる様に見えたのかしら。そんなはずはないのだけれど。
「私達、そういうんじゃないんでえ。」
コリティスの声が少し低くなる。
「やっぱりそうか。ならウチで働いてみないかい?君達ならいっぱい稼げると思うよ。」
まさかのスカウト。
むしろスカウト待ちに見えたって事かな?
「私達、自分を下げたりしないんでえ。」
「みんな最初はそう言う印象持つんだよね。確かに他の所じゃ見下されたりするみたいだけど、この辺りじゃ全くの逆なんだよ。」
おっさんはコリティスが突っぱねたのに食い下がってよく喋る。
「逆ってどういう事にゃ?」
それにナミルが食い付いた事で気を良くしたのか更に口が軽くなる。
「敬われてる職業って事だよ。中には崇められる位の人だっているくらいさ。」
花魁みたいな感じなのかな。
「へぇ、素晴らしいにゃ。」
「だろ?君なら直ぐに慕われるまでは行くと思うんだよね。」
おっさんはナミル1本に狙いを定めて話してる。
このおっさんはスカウトマンてよりはそこの店の主人なんだと思う。忘八って言うんだっけか。
名前分からないし、見た目も加味して『ハッチャン』と名付けよう。
「稼げるのかにゃぁ。」
「人それぞれだけど、貧しい暮らしをしている人は居ないね。」
ホントなのかしら。ハッチャンのお店は繁盛してそうだったけど、奥の暗らい通りとか怪しいもんだわよ。
「詳しく聞きたいにゃん。」
調査の為なんだろうけど、ノリノリ過ぎて心配になって来ちゃう。
「ここじゃ話せないから店に来てくれないかい?」
「わかったにゃ。」
これにはコリティスも目を丸くする。
「ええっ!」
「2人、ちょっと先に帰っててにゃ。」
ナミルが席を立つ。
「ちょっとナミルっ」
「(気になるから探って来るにゃ。大丈夫、ナミルはこう言うの得意にゃ。)」
コリティスの耳元のでそう囁いてからナミルはハッチャンとお店に入って行った。
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