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3章

【76】王都に帰ろう。

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 調査隊には話が伝わっていた上に、盗賊を捕まえた時の兵隊さん達だったのでだいぶスムーズに引き継ぎが出来た。
 何かあると翼のある兵隊さんが真っ先に向かうのかな。
だとしたら気が休まらなそう。リネットが入隊したくないのも頷ける。
 村人の監視に半分以上割かれているので、2人の兵隊さんを連れてアタシが見つけた地下室を案内する。
 その内本体が到着して、そしたら本格的に調査と連行が行われるらしい。
「御尽力ありがとうございました。」
「何かありましたら教会に連絡して下さい。」
 その日の内に解放されるのは教会関係者だからなんだろうか。

 村をさる前にクリラに話しかける。
「こんな事になってしまったけど、何かあったら王都教会の私達を尋ねて下さいい。」
「・・・」
クリラは黙って頷く。
 こんな事になったんだもの、心閉ざしちゃったかな。
 アタシはクリラの手を嘗める。
「ナナチャが痛い思いさせてごめんなさいだって。」
「、いいのよ。大丈夫。」
そう言ってクリラは優しく撫でてくれた。


 ルングスに戻り、教会に報告入れる。
 ナミルがまた教会に泊まるの嫌がったので宿を取り、酒場へ。
「一仕事終えたのに教会で質素な食事なんて嫌じゃにゃい?」
との事。
「今さらですけど、よくあんなにポーションありましたよねえ。」
「安売りでもしてたんじゃにゃい?」
「それはないですよお。」
 教会がポーションの値段を変える事はないらしい。劣化もほとんどしないから値引きは無いとか。
 なんかポーションて、新しい傷に良く効く薬らしくって持病とか古傷にはあまり効力がない。
 なのにあんなにポーションが有ったって事は生傷が絶えないって事でしょうね。
 矢を作るのがどれだけ危険なのか分からないけど、アタシの推測だと保管場所の下が牢屋で拷問器具が有ったってのが物語ってると思う。
 思い出すだけで嫌気が差すわ。話変えてくれないかな。
「アリアバーンが三神教を追い出してるらしいぞ。」
別の客の声が聞こえる。
「アリアバーン?なんだいそれ。」
「東の隣国の更に東の国だよ。」
「ここはサンペリエの西だぜ。東の国のもっと東の国の事なんて何か関係あるのかい?」
情勢に感心のある男と興味のない男の会話。
 感心のある方が面白く無いって顔して話しを止めちゃった。
「ナナチャさん、何か気になるんですか?」
 男達の方を向いていたアタシを見てコリティスが言う。
「アリアバーンて国が教会を追い出してるって話が聞こえたみたいだよ。」
とルーシが伝えてくれる。
「ああ、遠い東の国の話にゃね。」
ナミルも興味ないのかしら。
「教会の上層部では話題に上がるでしょうけど、私達みたいな末端だと一般人に毛が生えた程度の情報しかないんですよお。」
 なるほどね。王都教会も世界的には支部の1つだものね。
「キチョウ?って最近魔女認定された女が先導してるって話にゃ。」
「問題になってるの?」
「まあ、教会本部的には大問題ですねえ。この国的には拗らせて戦争とかにならない限り大丈夫じゃないですかあ?」
「ふーん。」
 アタシ達まで実感の湧く出来事にはならなそうね。


 ルングスで1泊して王都へ。
帰りたくて仕方ないので全力だしちゃった。
 あぁ、早くガイウスさん所でお風呂に入りたいわぁ。
 まず教会に寄らなくてはならなくて、そこで時間取られるかと思ったら2人を送り、馬車を返却しただけで済んだ。
「詳しい話は私達でやっておきますから大丈夫ですよお。」
「何かあったら呼ばれるから王都には居てにゃぁ。」
 ありがたい。今度ガイウス邸でお風呂入れる様に頼んであげようかしら。

 まずは元トーラ・インに帰る。
トーラ・インは隣にカフェバーを新築した事で宿泊業をやめて従業員寮になっている。
 そこをご厚意で一室借りてる。
 挨拶と昼食がてら新設のカフェに顔を出す。
「いらっしゃ、あ、ルーシ君。お帰りなさい。ご飯食べてく?」
「うん。」
 給仕に着いてるセルヴィが声を掛けてくれる。
 彼女の元気が戻って良かった。
 カウンターに向かう中、他のウェイターさん達も会釈してくれる。
新しい従業員でまだ面識くらいしかないけど、みんないい人そう。
 キッチンも含めて女性ばかりだ。
 チェイオさんは休みかな。昼も夜もあるお店だから大変そうよね。
「当分はここにいるの?」
セルヴィがまかない料理を運んで来てくれる。
 ミソギで経費は掛からないけど収入もない状態だから、冒険者時代の蓄えがあるとは言え、まかないを格安で提供してくれるのはホント助かるわ。
「分からないんだよね。いつまた呼ばれるかだから夕方、ガイウスさんの所に行ってくるね。」
「そっか。1年位はそんな感じなんだっけ。」
「そうだね。学園通えたら毎日帰って来ると思う。」
「ここから通うの?」
「そのつもりだけど、ダメ?」
「そんな事ないわよ。てっきりガイウス様の所から通うのかと思っていたから。」
 確かに可能性はあるわよね。
でも、そう言われても何とも思ってないルーシを見る限り彼にそのつもりはないんじゃないかな。


 テルティアとカシウスが帰って来ているであろう時間を見計らってガイウス邸を訪れる。
「ルーシ!お帰り!」
 リビングまで通されるとみんな居て出迎えてくれる。
「ルー兄お帰り。」
「ナナチャもお帰り。」
テルティアがアタシを抱き上げる。
   「ここもお帰りって言ってくれて嬉しいね。」
   「うん。」
 ルーシと念話した。
「夕食食べて行くよね?」
とガイウスさん。
「むしろ今日泊まって行きなよ。」
「そうだよ、久しぶりなんだし。いいよね?」
とテルティアとカシウス。
 可愛い兄弟だ。カシウスまた背が伸びたんじゃない?
「では準備させますね。」
ロジバールさんも久しぶり。相変わらず素敵な老紳士ね。
「ナナチャ、待ってる間にお風呂入ろ!」
   やった。待ってました。
「ルーシも向こうの風呂入って来たら?」
とガイウスさん。 カシウスは会ったばかりなのにって顔してる。
 向こうのとは、使用人さん達のお風呂ね。アタシは入った事無いけど、そこらのお風呂よりは断然広いらしい。
「うん。じゃぁ、カシウスも一緒に入ろうよ。」
 カシウスの顔が少し赤らむ。
久しぶりだから照れてるのかしら。生意気だったあの子が可愛くなっちゃって。
 ガイウスさんに似てるからもっと背が伸びたらいい男になるわね。

 お風呂にはアタシとテルティア。それにエイミラット。
 ルーシとはカシウスとハマール。
 エイミーもハマールも終始護衛だから大変ね。嫌そうな顔したとこ見た事ないけど。
「ねぇ、ナナチャ」
テルティアは湯船でもアタシを抱いている。
 身長はあまり伸びてないけど、成長してるわね彼女。前に悩んでたみたいだから良かった良かった。
「お婆様が言ってたんだけど、」
   ん、メルヴィルさんが?
ちょっと唐突だったのでテルティアの顔を見る。
 別に悩みとか言い辛い事を打ち明けるって感じではないわね。
「私、お母様みたいな魔巧技士になりたいじゃない?」
「ミュー。」
彼女はアタシが言葉を理解しているのを知ってるはずなので相槌を入れる。
 魔巧技士って確か魔石に細工したり、魔石で動くモノを作ってる職業よね。
 お風呂を沸かすのとか、トイレが水洗なのはその人達の賜物だ。
「お父様も許してくれて、お母様のメモをくれたの。」
「ミュミュ?」
メモ?と言ってみたけど、やっぱり言葉は発せられない。
「お母様って完成品の設計図は残すけど、研究ノートみたいなのは付けて無かったんですって。」
 魔巧技士の仕事がどんなもんなのか分からないけど、創作する人が過程で何もメモらないってよっぽど才能があったって事なのかしら。
 あれ、メモ貰ったって言ってなかった?
「だから、創りたい物リスト。参考になるかもってお父様がくれたんだけど、名称みたいなのの箇条書きだったの。」
 名前だけじゃ何だか分からないって話なのかな。
「それで、お婆様に相談したらナナチャなら分かるかも知れないって言われたわ。」
   え、何で?
「だから後で見てみてくれない?」
「ミュー。」
 いいけど、アタシに何が分かるんだろう。


 食事を終えてリビングで団欒しているとテルティアが言っていたメモを持ってきた。
 ルーシが通訳してくれないとだから彼にも来て貰うとカシウスが不服そう。
「姉さん、ルー兄まで独占するなよ。」
「いいじゃないたまには。あなたは同級生になれるんだから、学園通い出したらいつでも一緒でしょ。」
 まぁまぁって感じにガイウスさんがカシウスの肩を叩く。
 結局みんなテーブルに集まって来たので独占て感じでもないわ。
「ナナチャ、これ分かる?」
 テルティアが差し出したメモは確かに箇条書きで、サンペリエの国字で書かれている。
 なのに分からないのはこの国にない物の名前だから?
「ドライヤア?」
ルーシが声に出す。
「聞いた事ない名前ですね。」
とロジィさん。
 まぁ、これから作ろとしてたんだから当たり前か。
 ってか『ドライヤア』ってドライヤー?
「それなら聞いた事があるよ。」
とガイウスさん。
「濡れた髪を乾かす物だったかなぁ。女性ならみんな喜ぶって言っていたよ。」
 それってやっぱりドライヤーよね。
 そう考えて見ると、『ドライヤア』に『トオスタア』に『レンジ』に『クウラア』にetc。
 前にメルヴィルさんが知り合いに転生者が居るって言ってたのって、娘さんだったのね。
間違いなくアタシと同郷だわ。

「『ドライヤア』が1番気になるかな。」
 一通り説明し終えるとテルティアが言った。
「私もです。」
とエイミー。髪が気になるのはどこの世界も共通ね。
「詳しく教えて?」
 構造までは分からないから形とか上っ面な事を細かく説明してあげる。
「ナナチャ、凄い詳しいんだね。」
 あ、懐かしくってつい喋り過ぎちゃった。
どう説明したらいいんだろう。。
「うん。ナナチャはすっごく賢いんだよ!」
 ルーシが誇らしげに言ってくれる。
 お陰であやふやのまま話が終わって助かった。


 それから1ヶ月後、また出動する事になる。

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