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3章

【75】

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 コリティスの魔法で一面真っ白になる程の光が一瞬覆う。
「うわっ」
村人全員が目をやられてる。
大丈夫だったのは瞑る様に言われたアタシ達だけ。
「移動しますう。」
 コリティスを先頭に走り、村の入口の門の前に陣取る。
 外に逃げれるのにそうはしない。
「くそ、目が治った奴から行け!」
「駄目だ!あいつ等、3人で俺達全員倒した位の手練れだから少人数で行っては駄目だ」
 目を瞑ってても分かるくらい凄い光だったから、そう簡単には治らなそう。
「その間に逃げられたらどうする!」
「逃げませんよー。」
とコリティス。
 まさかこの村が盗賊の拠点だったなんて。
今回はコリティスは暴走したりしないかしら。
 入口に陣取ったのは直ぐに逃げれる様にじゃなくて逃がさない様になのかもしれない。
 そこに魔信具の振動音。
「あ、連絡来ましたあ。まだ大丈夫でしょうけど、何かあったら庇って下さいねえ。」
と言ってコリティスが魔信具を握る。

 村人が次第に回復していく。
こちらが逃げようとも攻撃しようともしないので徐々に周りを固められて来ている。
 先制するチャンスだったのにとは思うけど、異端じゃないからこちらから手を出すのはリスキーなんでしょうね。
「認可貰いましたあ。」
通信を終えたコリティス。
「緊急なので私達で捕縛しますう。」
「良く直ぐに認可おりたにゃぁ。」
「エミリーが見てますからねえ。」
「ああ、そうだったにゃ。」
 そう言えばエミリーのスキルで監視されているんだった。
 それが今回は功を奏したって事ね。複雑な気持ちだけど。
「なので、女性達は逃げたり変な行動しない限り危害は加えませんん。」
魔法で拡声してるのか村全体にコリティスの声が響き渡る。
「男共は素直に拘束されるなら良し。そうでなければ死なない程度にやっちゃいますう。」
 これは暴走一歩手前な予感。
「嘗めやがって!」
「1人で行くな!5人がかりでも遣られた奴らだ。」
 チビダスの存在が厄介だな。
「全員でかかれ。殺して構わん!」
前後5人づつの10人体制で3人別々に襲いかかって来る。
「行くね。」
ルーシが先行で前に出て、ディアボロスを出現させたと同時に5人の足を払い切る。
「何だあの鎌は!?」
「あ、ルーシ遣りすぎにゃ。」
「え、死なない程度だよ?それに、この人達あの酷い事してた盗賊の仲間なんだよね?」
 ルーシが先に暴走してしまった?
「そうだけど、治せない怪我は不味いんじゃにゃいかなぁ。」
「そうなんだ。難しいなぁ。。」
 ルーシの攻撃が思った以上だったので戦況は止まっている。
「くそ、クリラ、ポーション取ってこい!」
「は、はい」
村長に言われてクリラが走り出す。
「ポーションあるんですねえ。何個あるのかナナチャ追って確認してくれますかあ?」
   はいよ!
 クリラを追って飛んで行く。
 冷蔵庫の鍵を開けようとしているが動転して上手くいかないみたい。
 その手元に滑空して鍵を奪い取る。
「ナナチャちゃん?」
クリラが手を押さえてる。
ちょっと傷付けちゃったかな。
「ナナチャちゃん、、その鍵返して・・」
   クリラごめんね。
 アタシは鍵を咥えたまま冷蔵庫に入ってポーションを探す。
 それは直ぐに見つかった。
20本入りの木箱が3つ。棚に並んでいた。
 いっぱいあるな。
   「ルーシ、ポーション60本ある。」
   「分かった。ナナチャはそこでポーション渡らない様にしてて。」
 冷蔵庫の中は寒いし、突然扉から入られたら対処し辛いので、外に出て扉の直ぐ上の屋根に乗った。
「全員分以上あるにゃね。殺さなければ何とでもなるにゃ!」
 ポーションの存在がナミルとコリティスの歯止めを外してしまったみたい。
 まぁ、死なない程度なら痛い目合うべき奴らだとアタシも思う。
「クリラ!何やってんだ。そんなウサギごときに!」
「いや、あのウサギ、火を吐くぞ。気を付けろ!」
チビダスにはばれてたんだっけか。
 ならここは1つ見せ付けといてやろうと、上空に向かって渾身の『火炎』を吐く。
  ゴォォォォォ!!
「なっ!あんなに吐くのか!?」
チビダスもそこまでとは思っていなかった。
 クリラも腰を抜かして仕舞っている。
 やり過ぎた?でもこれくらいやっておかないと他の女の人をまた寄こしてくるかもしれないものね。

 ナミルはまるでバレエでも踊っているかの様に軽やかに舞い、虎の様な爪で無数の切り傷を与えていき、いつもサポートに徹しているコリティスも今回はカマイタチみたいな魔法で相手の指を落とす。
 その上で倒れた村人全てに蔓を絡ませて四肢の関節を全てあらぬ方向に曲げて拘束する。
 3人共、盗賊の行為に思うところがあるんでしょうね。
 コリティスのタガがまた外れそうで心配。
ナミルもそんな表情でコリティスを見ている。
 村の女性達は恐怖してるけど、パニックにならずに1ヶ所に固まっている。
コリティスが危害を加えないって言ってたのもあるだろうけど、村長の奥さんがしっかりまとめているみたい。
 クリラの言う通りな人なのかもしれないけど、彼女が盗賊の行為を知らなかったはずはない。
むしろ女性達みんな、クリラもそうなんだろうと思うと複雑な気持ちになる。

 残るはまたしてもチビダスのみ。
「くそ、バケモノ共が!」
「失礼な奴にゃね」
 チビダスがナミルとコリティスの間に走り込み、ナミルの手刀や蹴りを俊足でかわし、入口に迫る。
 そこにコリティスが魔法で竜巻を起こす。
 チビダスは後退した。
奴の一瞬瞬間移動ばりに早くなるスキルで逃げに徹されるのは厄介ね。
 さっきは逃がさなかったけど、隙を突かれたら追い付けない。
「あんた、真っ当に冒険者やってたらAランクになれてたんじゃないのかにゃ?勿体ないにゃぁ」
「けっ、恵まれた奴はいいよな。」
 ナミルの爪に引っ掛かり裂けた袖から覗く前腕。
おっきな赤い刺青。
「あなたアポブリタなんですねえ。」
 アポブリタ?何だそりゃ。
「ああ。元な。わかんだろ。俺みたいなのは真っ当な職に着けないって」
「ん?アポブリタって平民の中で1番で、貴族の次に位が高いにゃ。」
「本当にそう思ってるのか?」
「アポブリタってなぁに?」
「下水処理を生業にしてる人達の事にゃ。」
 あぁ、『うんこ街』の住民か。
 前にルーシとカシウスが襲われた所の側ね。
 確か、国王に平民の中で1番偉いって公言されたんだっけか。
「『うんこ街』?」
 ルーシ、それはたぶん差別用語よ。
「そうにゃ。」
「その言い方、腹立つぜ。」
「ごめんにゃ。この子、分かってないだけだから。」
「そんなの関係ないは!」
「でも何でやめたのにゃ?真っ当な職だろうに。」
「毎日肥溜め汲んでもろくな金になんねぇし、下位なお前らに蔑まれて。そこに生まれたってだけでこんな刺青入れられて一生うんこまみれで暮らせってのか?何の罪だよ。どこが真っ当なんだよ。」
「だったら他の仕事すればよかったにゃ。別に禁止されてる訳じゃないにゃ?」
「この刺青見ただけでお前等は鼻を摘まむだろうが!」
 根強い差別と確執から来る深い恨みがあるようね。
 アタシには分からないから同情位しか出来ない。
「そんなのどうでもいいですう」
とコリティス。
「貴方の身の上何かに興味ないですう。」
「何だと?」
「どんな事情があれ、女の人を弄ぶ理由になんてなりません。万死に値しますう。」
 コリティスも何やら恨みでも持ち合わせているのかしら。この手の話になると人が変わる。
「下民が生意気いってんじゃねぇよ!」
 見下されてると思ってる人を見下してる。
チビダスの頭ん中はだいぶ拗れてそう。

 逃げるのをやめたチビダスはコリティス1本に狙いを定めて走り出す。
 近接得意じゃないはずなのにコリティスも距離を取ろうとしない。
 狙いがあるのか意固地になってるのか。
「『蔦縄』!」
 チビダスを間近まで引き付けて魔法を放つ。
 地面から伸びる無数の蔓がチビダスを捕らえようとするが奴の俊足スキルで全てかわされた。
 コリティスにチビダスの剣が迫る。
「!」
 そこに割って入ったルーシ。
 ディアボロスを回し石突きで剣を上へ弾き、大刃で手首を切り上げる。
そしてまだ勢いの残っているチビダスの体を蹴り飛ばす。
「コリティス無茶し過ぎだよ。」
「あらあ、ルーシ君。守ってくれたんですねえ。惚れちゃいそうですう。」
「よかった、いつものコリコリにゃ。」
「コリコリいうなあ!」


 捕らえた男共を縛り直し、ポーションで傷を癒してやる。
 あの時コリティスが、チビダスに殺傷力のある魔法を使わなかったのは冷静だったからなのかもしれない。
 何なら挑発して、あまつさえルーシの行動も把握してたとしたら、喰えないチビっ娘だわ。
「貴方達を縛りたくはないんでえ、抵抗しないで頂けますかあ?」
女村人達を前にコリティスは言う。
「ええ。あんなの見せられたら反抗出来ないわよ。」
と奥さん。
「貴方達を擁護する材料も気持ちもないのでえ、自分で弁明してくださいねえ。」
「咎めは受けるわよ。」
「ただ、無抵抗だった事はちゃんと伝えますう。」
「・・・ありがとう。。」
 そこにやっとこさ調査隊がやって来たのだった。

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