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3章

【70】ルングスまでの道すがら②

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 コリティスは風の精霊に好かれているらしい。
 風は目に映らないので魔法に大事なイメージがし難く、その所為かバリエーションが少ない。
 けど、風の精霊は懐っこいと言われていて、他精霊の魔法を使った時にも手助けしてくれているらしい。
「『水珠』」
コリティスが水のボールを十数球放ち牽制する。
 水のボールを作るには水の精霊。放つのに風の精霊がお願いしなくても協力しているんですって。
 だから風の精霊に好かれてるコリティスは大半の魔法の威力が強くなっているんだとか。

 水珠はわざと盗賊達の足を狙いちょっとした痛みと靴を濡らす。
「『氷風』」
白いだ風が濡れた靴を凍らせる。
 そこにナミルが駆け込み、動きの鈍った盗賊達を攻撃していく。
「うわ!」
 ナミルは敵の瞼を爪で切っていく。
「『蔦縄』」
目が開けられない奴等に蔓が巻き付いて締め上げる。
 それで5人捕縛。
 やるわね。アタシ達も負けられないわ。

 ルーシに3人、アタシに1人が相手になっている。
 アタシの最初の一撃で警戒されているのかアタシの相手は攻撃をかわす事に専念している。
 ルーシの方は、3人相手にうまく立ち回っているけど、ディアボロスの切れ味無くしてるから決定打も与えられず、スパッと切る事も出来ないので何だかやり辛そう。
   「ルーシ、ディアボロス使うの辞めちゃえば?体術とナイフの方が人相手には良いのかも。」
   「やって見るね。」
 ルーシはディアボロスを指輪に戻して腰の後ろに付けているナイフを抜いた。
 誕生日プレゼントで貰ったセド達とお揃いのナイフ。
 それを左手に持ちかえる。
「どうした。急に貧相な武器にして、降参するのか?」
と盗賊の1人が言う。
「ボクの従魔が『降参するならナイフ抜かないでしょ。バカなの?』って言ってるけど、バカなの?」
 ルーシ、貴方は純粋に質問してるだけなのかも知れないけど、それは挑発よ。
「ガキが!」
バカと言われた盗賊が斬りかかる。
 ルーシがそれをナイフでいなし、前のめりになった盗賊の顔にガントレットを嵌めた掌底を食らわせ、ノックアウト。
 簡単に挑発に乗ってホントにバカだったのかも。
 もう1人の盗賊も触発されてルーシに突っ込む。
「バカ、1人で行くな!」
とチビスケが言うが既に遅く、ルーシに懐に入り込まれ、顎にアッパーを喰らって倒れ込む。
あれは頭を打ったわね。
 ルーシの相手は残りチビスケ1人。
「だから1人で行くなって言ったのに。」
ぶっきらぼうに言いながら頭をかき、ゆっくり近付くチビスケ。
「!」
 自分の間合いに入ったとたん低い背をより低くしてルーシの懐に突っ込み、短剣を振り上げた。
 自分より低い所から攻撃されるのに不馴れなルーシは何とかかわしたけど、耳が少し切れてる。
 次の一手は突きで、それをナイフでそらしてミゾオチ辺りにパンチを狙ったが、チビスケの左膝が脇に飛んできたのでルーシは攻撃を諦め、膝を払って距離を取る。
「お前、子供なのにいい動きするな。女にしとくのは勿体ねぇ。まぁ女じゃなかったら生かしちゃおかねぇんだけどな。」
 こういうゲスいセリフと見た目でチビスケの事なめてたアタシが言っても説得力ないけど、あいつ手強いかもしれない。
「勘違いしてるみたいだけど、ボク、男だよ?」
「は?マジか?」
「うん。」
「ならしゃぁねぇ。手加減はなしだ。」
 折角手を抜いてくれるってのにバラしちゃうルーシ。
どうせ遣られはしないだろうけど、素直過ぎるわ。

 チビスケの動きは俊敏で何だかヴィオラを思い出す。
彼女ほどのスピードは出て無いから対応出来ているのだけれど、踏み込みだけは異常に速い。
 走るのが速いってスキルなのかもしれないわ。


 ルーシとチビスケの攻防が続く中、ナミルとコリティスは残りの5人も捕縛している。
 因みにアタシの相手は、よそ見しているアタシに勝機が見えたみたいで襲い掛かって来たから返り討ちにしてやったわ。
「もう、あんただけしか残ってないにゃ。」
「観念するですう。」
「ちっ、」
 気付けば遠くの空を飛んでいる人が数人。
そのもっと遠くに砂埃が見える。
「きっと軍の討伐隊にゃ。着いたら引き渡しちゃおう。」
 チビスケが観念したのか短剣をしまう。
「素直に従ってくれたトコ申し訳ないんですけどお、拘束はさせてもらいますねえ。」
コリティスが呪文を唱えだす。
「抵抗やめたってのはちゃんと伝えてあげるにゃ。」
「『蔦縄』」
「!」
 コリティスの魔法が発動した瞬間、チビスケがジャンプ。
 魔法は空振り、チビスケはルーシの頭で馬跳びして森の方へと駆け出した。
「あ、逃げた!」
 即座にアタシが後を追い、『石火』を放つ。
 チビスケは短距離瞬間移動をジグザグに何度も使ってるみたいな走り方で石火をかわし、どんどん距離が離れていく。
 森に入り込まれたらお仕舞いね。
 アタシはもっと速度を上げて、もっと速い石火を放つ。

   「くそ!」
   「ナナチャ、もういいって。戻ってきて」
 結局森に逃げ込まれてしまいアタシはルーシの元に戻った。
「1人じゃ何も出来ないだろうし、軍が探して捕まえるだろうから、1人位逃しても問題ないにゃ。」
 戻って来たアタシとルーシに向かってナミルが言う。
 逃してしまって落ち込んでるんじゃないかって、フォローしてくれてるのね。
「ルーシくん、ナナチャさんを馬にしておいて下さいい。軍に説明するの面倒くさいのでえ。」
 スキルですって言えば済みそうだけど、嫌だって我儘言う程の事でもないので、アタシはまた馬になり荷馬車に繋がれた。


 しばらくすると5人の兵隊さんが空から降りて来る。
 リネットと同じ様な翼が生えてる。
「状況の説明をお願い出来ますか?」
言葉尻は丁寧だか、明らかに警戒している。
 アタシには2人も槍を突きつけてる位だし。
「分かりました。」
コリティス、ナミルがペンダントを見せて警戒を解く。
「その荷馬車と彼はワタクシ達の連れなので槍を下ろして頂けますか?」
ナミルも丁寧な口調だが微かに不快感を匂わせる。
「失礼しました。」
 そのお陰で即座に槍は下ろされ、敬礼までされちゃった。

 コリティスが状況説明を終えた位で、兵隊さんの地上部隊も合流。
「現地確認しますのでしばらくお待ち下さい。」
 兵隊達が盗賊の大きな馬車を調べ始める。
中から食糧と劇の衣装と小道具などが次々下ろされる。
「だから言ってるでしょ、旅一座だって。こいつらが訳も分からず襲って来たんですよ!」
盗賊の親方がしらばっくれる。
 でも、確かこのままじゃ証拠がないわ。
アタシ達が教会関係者だって言う信用だけ。
 何か馬車が高床な気がするのよね。あそこから何か出てこないかしら。
「床が高いのは何故ですか?」
兵隊さんも気になったみたい。
「馬車を舞台に使うのでそれでです。」
「なるほど。」
納得しちゃった。絶対怪しいのに。
「床を上げてるならそこに荷物入れたくなりませんか?」
 コリティスの一言で一瞬盗賊達の顔が引きつった。
 兵隊さんも気が付いたみたいで床を入念に調べだす。
 盗賊達の顔がもっと引きつる。
 その顔付きに隊長風な人が確信を持ったみたいで、
「床板を外せ。」
と命令した。
 アタシからは見えないけど、メキメキバキバキと木をひっぺがす音がする。
「!」
「人です!中に人が居ます!」
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