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2章
【64】帰って来た日の夜
しおりを挟む「‥‥大変だったな」
ギルド長室でジークリットさんが言う。
セドの事は教会から一報が届いて居たらしい。
ヴィオラについては今、アタシ達に聞いて知ったらしいけど。
「ヴィオラの捜索お願いしたいのだけど」
「もちろんだ。教会にも働きかけておく。このままだと葬式もあげられないものな‥‥」
彼女の動向が確認出来ない内はセドリックの葬儀は出来ないらしい。
絶対って訳じゃないけど現状、死亡は言葉伝えだけで確認出来る遺品等は何もない。
もしかしたらヴィオラが故郷であげるかも知れない。
その場合2度葬儀をしてしまう事になって、それは死者が迷ってしまうって言い伝えがあるんですって。
セドリックを困らせたくないし、ジークリットさんは確認するまで信じたくないのかもしれない。
「‥‥やっぱりお前達、解散するのか?」
「‥‥そうね。宿に帰ってからゆっくり話しようかと思ってるけど‥‥ 続けて行ける状況には思えないわね」
「私は反対!」
とリネットが言うがニコラが制する。
「詳しくは後でメンバーだけで決めましょ」
「お前達が決める事なのは分かってるが、一つ提案させてくれ」
ジークリットさんが手を組む。
「解散じゃなくて休業ってテイにしないか?」
「え?」
「田舎に帰ったっていいし、ギルドの仕事をしなくても良い。別のパーティーを組んだって構わない。ただ『ツイン・ブレス』を名義だけでも存続させて置かないか?」
アタシには解散とほぼ変わらない気がするんだけど。
でも言葉の重みが軽くなる事で、敷居が低くなると言うか、気持ちが楽になる気もする。
そう言う事?
「実は、こんな事態になって、セドリックの遺言書を読んだんだ」
ギルド登録の時に進められるヤツ。
真面目な彼はちゃんと書いて居たのね‥‥
「それによると、遺産は全てパーティーメンバーに分けるってあった。あいつ‥‥故郷に家族居ないって言ってたから、パーティーが無くなってると財産全て没収されちまう」
「私達、セドの財産を目当てになんてしないわよ」
「分かってる。でもそれじゃ奴の意思を尊重出来なくて嫌じゃないか」
ジークリットさんの男気ね。
「‥‥確かにね。それも踏まえて話し合って見るわ」
「ああ。後は当人達で決めてくれ。疲れてるのに長くなって悪かったな」
そう言って彼は退室を促した。
「決まったらまた来るわ」
「ああ。急がなくて良いからな」
ギルドを出て、またルーシに馬に変えて貰ってトーラ・インに帰って来た。
「お帰りなさい。あれ、セドリックさんとヴィオラさんは別ですか?」
セルヴィがいつもと変わらない笑顔で迎えてくれる‥‥
部屋に荷物を置いてカフェに集合する。
セルヴィの姿は見えない。
さっきセドとヴィオラの事を伝えた時に、奥に引っ込んでし待ったっきりなのだろう。
「あの子、セドリックに気があったからね。そっとしておいてやってくれ」
それは初耳。全然気が付かなかった。
カウンター奥のチェイオさんからパンとスープを受け取り、3人でテーブルを囲む。
「ワタシ、旅に出ようと思ってるの」
静かな食事が一段落するとニコラが切り出した。
「研究に専念するんじゃなかったの?」
「その一環よ。冒険者してても行った事の無い所は沢山あるから廻って見たいの。だからまずは北に行ってみようと思う」
暗にヴィオラを探しに行くと言っているんだと思った。
「私達も行くわ」
「ダメよ。アナタは実家に帰らなくちゃならないんでしょ?」
「そうだけど、1人じゃ危険よ」
「大丈夫。危険な場所に行くわけじゃないし、ワタシもそれなりに強いのよ?それに休業するんだからそれぞれの事をすべきよ」
みんなも、このまま存続して行けるとも思って無いけど、彼女の淡白な口振りが冷たく感じる。
あえてそうしているのだろうけど。
「ルーシはどうする?」
「分からない。けど、王都には居なくちゃ行けないんだと思う」
メルヴィルさんもガイウスさんも王都に居るから、アタシ達は拠点を移せないでしょうね。
「それじゃぁ私も残るわ」
「リネット落ち着いて。アナタは故郷に帰るんでしょ?」
「だってルーシ1人残せないじゃない!」
「ルーシはもう自立出来る位しっかりしてるからアナタが保護者しなくても大丈夫よ。彼にはガイウスさん達も居るし」
「だけど‥‥」
仕方ない事だけど、リネットは自分でもわけわからなくなって来ている様子。
その時、チェイオさんがカップに水を注ぎに来てくれた。
「こんな時に悪いんだけどさ」
とチェイオさん。
「2人の部屋はどうするかい? 宿代さえ貰えればウチは構わないけど、このままってのもね‥‥」
「確かにずっとそのままって訳にも行かないですね」
「でもヴィオラ帰って来るかも知れないし‥‥」
「その間、誰が宿代払うの?」
「私が払うわ!」
「あなたね、自己犠牲が過ぎるわよ。度を越えると醜態でしか無いわ」
ニコラが怒りと苛立ちを含んだ様なキツイ口調で言う。
「‥‥ごめんなさい。」
お陰でリネットも少し正体を取り戻したみたい。
「正直、セドリックの部屋は特に片付けた方がいいと思ってる。手前勝手だけど、その方がセルヴィの踏ん切りにもなると思うんだ」
確かにそのままにしてたらアタシ達の気持ちの整理も着かないかも知れない。
「そうですね‥‥ でも、荷物どうしよっか。処分してしまうのはちょっと‥‥」
「それならボクの部屋に運ぼうよ」
とルーシ。
「ボク荷物少ないし、ヴィオラが帰って来たら返せるし。だからボクはここに残るね!」
「いいの?ガイウスさんの所に戻る事だって出来るのに」
「元々そのつもりは無いんだ。学園行くまで冒険者続けるつもりだったし」
「今も冒険者続けるつもりでいるの?」
「分かんない。ディオみたいにフリーになってもいいし、他の仕事ないかギルドで相談してみる」
リネットはまだ心配そうな顔をしている。
「ここはルーシに甘えましょ」
とニコラ。
「うん。心配しないで」
ルーシが力強く言う。
「それなら反対の角に部屋移そうか。そっちの方が幾らか広いから。お代は一緒で構わないからね」
「うん。ありがとう」
「明日みんなで移動しましょうか」
「うん」
「そろそろ部屋に戻ろっか‥‥」
雑魚寝をする機会の方が多いので、久しぶりの自室は狭い部屋なのに広く感じる。
普段はそんな事考えないけど、今日は寂しく感じる。
トントン
扉を叩く音。
「ルーシ起きてる?」
ルーシが扉を開けると、ワンピースな寝間着姿のリネットが立っていた。
「リネット、どうしたの?」
部屋に招き入れ、2人はベッドに座る。
「1人じゃ寝付けないかなって‥‥」
どっちがって判断出来ない言い回し。
ただ、2人ともそうだと思う。
「一緒に寝よっか‥‥」
「うん」
2人はベッドに横たわり、布団を掛けて抱き締め合う。
いつもなら許さないけど、今日は許そう。
アタシじゃ癒しきれない事もあるから‥‥
2人から会話は聞こえない。
でも寝息もまだ聞こえて来ない。
見てるのは無作法な気がして、アタシは背を向けて丸まっている。
「あ‥‥ ルーシも、もう大人なんだね‥‥」
そう言うとゴソゴソと動き始めた音が聞こえてくる。
そののちギシギシと‥‥
アタシは折り畳んだ耳で目を覆い、見えないし聞こえない様にして眠りに着いた。
教会から使いが来たのは次の日の昼前だった。
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