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2章

【62】事情と人情

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「ミューミュー!」
「ナナチャ、どうしたの?」

 アタシが騒ぐ声でみんなが目を覚ます。

「‥‥ヴィオラとセドが居ないって」
「え!?」

 ツインブレスのメンバーが外に駆け出す。

「ホントだ‥‥」

 セドが横たわってい無いのを確認して、辺りを見渡す。

「ちょっと、馬も居ないわよ!」

 リネットが気付く。
 確かに、馬車を引いていた馬が2頭共姿が見えないわ。
 馬車を見に行くと操縦席に置き手紙があった。

「『セドリックの故郷に行きます。心配しないで。ごめん、馬借りていく』」

 ヴィオラからの手紙の様ね。

「私、辺り探して来る!」

 そう言ってリネットが飛び立った。

 追い付いたビックスさん達に状況を説明していると1羽の鳩がニーダさんの元に降り立った。
 足に紙が結びつけられている。
 教会からの返事みたいね。
 それを読むとニーダさんはビックスさんにその紙を渡す。

 そうこうしているとリネットが帰って来た。

「ダメ。見付からないわ」
「まだ森の中に居るんじゃないの?」
「低く飛んで見たけど、見当たらないわ。セドの故郷って北の方よね、そっちもっと先まで見て来る」
「よしなさい。範囲が広すぎるし、見付かっても1人で連れ帰れないわよきっと」
「でも、みんなで行くわけにも行かないし」

 任務中なのを気にしてるのでしょう。
 護衛そっちのけに出来ないし、対象を連れ回す訳にもいかないし。

「なら、俺達が護衛代わりましょうか?」

 ディオが言う。
 2人なら安心して任せられるわ。

「申し訳ありませんが、我々を含め全員に出頭命令が出てます。調査隊が向かってますので、引き渡したら急ぎ王都に帰らなければなりません」

 とビックスさん。

「それじゃぁ、調査隊が来るまで探しに行って貰っては駄目ですか?その間、俺達が残りますので」
「心苦しいのですが、お2人には共犯の容疑が掛かってます」
「そんな‥‥」
「本来、拘束しなければならないのですが、私は無実だと思っているのでそこまでは致しません。ですが、行動の制限はしなければなりませんし、護衛になって貰う事も出来ないのです」

 ビックスさんは申し訳なさそうに続ける。

「我々は調査隊が来るまで離れられませんし、拘束しなくてはならない手前ディオさん達にヴィオラさんを探しに行って貰う事も出来ません。ツインブレスの皆さんが行くとなると、さすがにディオさん達を拘束しなくてはなりませんし、皆さんも規約違反になってしまいます」
「俺達が拘束されるのは構わないので、教会の方にさせるのはあれですけど、嘘を付けばいいんじゃないですか?」

 ティチも頷く。
 アタシもそう出来ないのかと思う。

「司教達は厳格な方が多くて、もしバレたら皆さんの心証も悪くなってしまいます」

 とニーダさん。
 ディオ達は疑われてるから、心証に響くのは悪いわね。
 メルヴィルさんならそんな事ないと思うけど、『司教達』って言ってたから他にも司教がいるのね。

「それじゃぁ」

 ルーシが口を開く。

「2手に分かれるの?ニコラとナナチャが残って護衛して、リネットとボクが探しに行くのはダメ? ボクとナナチャで連絡取り合えるし」

 最善な打開策だと思う。ヴィオラが見つかったら足止めしてもらってる間にアタシ達が向かえば抵抗されても連れ帰れるでしょう。
 流石に闘いにはならないだろうし、後はビックスさんが了承するかどうかか。

「‥‥そうですね。それなら弁解の余地もありますね」
「それじゃぁ、行っていい?」
「はい」
「ワガママ言ってすみません」
「いえ、こちらこそ譲歩出来なくて申し訳ありません」
「それじゃ、リネット急ご!」
「2人共、宜しくね」

 リネットがルーシを抱えて飛び立った。



 ルーシ達が飛び立ってから、念話がどこ迄届くのか分からないので小まめに連絡を取り合っている。
 なんか念話って電波に近いのか、障害物が無い分ダンジョン内より遠くまで行けているみたい。

「昨日お話した通り、葬儀を行いたいと思うのですが、お墓は側にございますか?」

 とビックスさん。

「はい。昨日通った道に小さな別れ道があって、その先にあります」
「でも、調査隊が来る前に葬儀しちゃってもいいんでしょうか?」
「逆に調査隊が来てしまったら引き取ると言いかねないので先に行いましょう。黙ってれば調査隊にはバレませんよ」
「でも、教会に行った時にバレでもしたら‥‥」
「私の一存で行いますので、咎を受けるとしても私だけですよ。それに私の上司は人情味のある方で、引き渡したりしたら逆に叱られて仕舞います」
「それなら‥‥ ありがとうございます。宜しお願いします。」

 ビックスさんの言葉がホントかウソかは分からないけど、ちゃんとお葬式出来たらディオ達の気持ちも少しは晴れるのかな。


 納屋にあった藁と薪と布袋を持ってゴブリン化してしまったディオ達の家族のもとへ。
 お墓まで20人も運べないので、亡くなった道で1ヶ所に集めて火葬する事になった。
 藁を敷き、薪をくべ、その上に亡くなった方々を寝かせていく。
 火はビックスさんが持っている火打石で点火した。

「天におります我らが父よ。母よ。新たな旅路に向かう兄弟に祝福を」

 ビックスさんがそう言って祈るとみんな一緒に祈り始めた。
 それに応えるかの様に火は炎となり、遺体を焼き付くす。
 たぶん簡易的な葬儀なんだと思う。

 炎は大きさの割に熱がこちらまで伝わってこなかった。

 拾えない位粉々な骨以外全部拾って、布袋に入れてお墓へ。
 そこは30メートル四方程の草むらで道の逆端に小さな桃の木がある。
 桃の木のまわりは草があまり生えていない。
 その生え際をディオとティチで掘っていく。
もしかしたら草が生えて無い所はもう別の家族が眠ってる場所なのかもしれない。

 深くは無いけれど20人の遺骨を埋められるだけの広さまで掘り、遺骨を納め、土を掛けていく。
 それをディオとティチだけで行う。
 関わりの深い人が行える行為だそうで、アタシ達は見ているしか出来ない。

「魂は父に。肉体は母に。加護は叔母に。」

 土を掛け始めた頃にビックスさんがそう唱え、皆でまた祈り始めた。

「ありがとうございました。」

 ディオ達は肉体的、精神的両方の疲労が顔に出ているのに努めて笑顔を作る。

「戻りましょうか」

 戻り道にある火葬した場所はいつの間にかキレイさっぱり元通りの道並みに戻っていた。
 調査隊が来るまで何日掛かるのか分からないけど、それまでここに居なくてはならないのはディオ達には酷でしょう。
 なるべく早く離れさせてあげたいな。

 納屋まで戻るとルーシ達が空から戻って来た。
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