上 下
62 / 120
2章

【61】打ち明ける

しおりを挟む

 地竜は全く動かなく、熱も冷めてきてる。
 死んだんだと思われる。

 それが確認出来ると、みんながセドリックの側に集まった。
 ヴィオラが息をしていないセドに被さり泣いている。

「ごめんなさい。私の所為で‥‥」

 とニーダさん。

「あなたは悪くない。そんな事分かってるのよ!」

 ヴィオラが叫ぶ。

「セドは護衛任務を全うしただけだから‥‥」

 そうなんだけど、こんな事になる様な任務だとは思ってなかった‥‥

「私達は外しましょう。ニーダは教会に連絡して下さい。ディオさん達と私でまだ火が燻ってないか見回りましょう」

 ニーダさん達が無言で頷き、その場を離れる。


「ルーシ、足大丈夫?」

 とリネット。
 ホントに心配してくれているけど、無言の雰囲気に耐えられないのとヴィオラに掛ける言葉が見付からないってのもあるのだと思う。

「大丈夫」

 ズボンと靴はスキルで修復されてるし、体は血の力で回復してる。
 たぶん、生きていれば‥‥

「本当に?あの熱い液体に直接使ってたのに?」
「ルーシっていつも無傷よね」

 ずっと一緒にダンジョン潜って来たんだもの、いい加減疑問にも思うよね。
 そろそろ隠しきれないかしら。

「ポーション持ってるの?」

 普通そう思うのか。

「うん、まぁ」
「だったら何でセドリックに飲ませてあげなかったのよ!」

 ヴィオラが叫ぶ。
 1番に駆け着けたルーシはセドを助けようとしていた。
 でも、端から見たらポーション持ってるのに飲ませなかったって見えたのだろう。
 ホントはポーションなんて持ってないんだけど‥‥

 彼の名誉の為にも打ち明けた方がいいかな。
 アタシは地面をカリカリする。

「リネット、ナナチャが読み上げて欲しいって言ってる」
「え?『アタシから話があるの』ってナナチャ、文字書けるの?」

 前に書けない振りしてたけど、そんな事言ってられない。
 ルーシに自分で説明させたくなくて、でもアタシがルーシ以外とコミュニケーション取るにはこれしか今方法がないから。

「『それも含めて内緒にして欲しいのだけど‥‥』」

 ルーシはサーリアの実験で血がポーションみたいになった事、知れ渡るとまた実験体にされかねないから黙っていた事など、全てを事細かには説明してないけど、筆談で伝えられるだけは誠意を込めて伝えたつもり。

「なるほどね。それなら腑に落ちる点もあるけど、にわかには信じがたいわね」

 とニコラ。

「見てて」

 ルーシがおもむろにナイフを取り出し、手首辺りを切る。

「ちょっと!」

 リネットが止めに入った時には滴るだけの血が溢れ、傷は無くなっていた。

「ホントね。治ってる‥‥」
「分かったから。疑ってないから、もうそんな事しないで!」

 そう言ってリネットがルーシを抱き締める。

「これってアナタの血を飲んだ者にも効果があるの?」
「うん‥‥」
「たまに変わった行動取ってたのはそう言う事なのね」

 たまにルーシが血を飲ませようとしてアタシが止めてた時の事を言っているのだと思う。

「じゃぁ、なんでセドリックに飲ませてくれなかったのよ‥‥」

 ヴィオラが言う。

「‥‥セドが飲んでくれなかった‥‥」
「無理矢理にでも飲ませれば良かったじゃない。そしたらこんな事にはならなかった!」

 また声を荒げだす。

「『死んだ人は治せないのよ』だって」

 アタシが書いた文字をリネットが読んでくれる。
 アタシの憶測でしかないけど、そうなんだと思う。
 蘇生は出来ない。
 たぶん、セドは即死だった。

「ヴィオラ、辛いのは分かるけど、みんなもそうだし、誰かがどうしてればどうにかなったって事もないわ」

 とニコラ。
 リネットがさらに強くルーシを抱き締める。

「‥‥分かってるわよ‥‥」

 ヴィオラはセドを見つめながら彼の手を握った。
 セドリックの焼けて変わり果てた姿をアタシは直視出来ない。


「納屋が無事でした。連絡が来るまでは動けませんし、今日はそこで休みませんか?」

 しばらくして戻って来たニーダさんが言う。

「わたしはここでいいわ‥‥ 2人にして‥‥」

 とヴィオラ。
 彼女の気持ちを汲んで、みんなその場から離れる。

「お辛いでしょうが、セドリックさんの為にも火葬された方が」

 納屋に向かう中、ビックスさんがニコラに話す。

「ええ。でも今日だけはそっとして置いてあげたいです。」



 納屋では重苦しい空気が流れてる。

 セドの事ばかりになってたけど、ディオ達もスムカが大変な事になったし、育ての親があんなだったしでお互いがお互いに気を揉める状況じゃない。

「明日、来た時の道まで行きましょう。そこにいらっしゃる方々を埋葬して差し上げたいと思うのですが」
「ありがとうございます。」

 あのゴブリン達はディオやティチの兄弟だったんだっけ。
 比べるモノじゃないけど、家族と知らずに殺してしまった彼等の方が辛いかも。

「今日は色々ありましたから、早く寝ましょう」

 辛さはあるけど、疲労感も強いのでみんな各々のタイミングで眠りに落ちて行った。



 朝、目を覚まし外に出ると‥‥

 ヴィオラとセドリックの姿がなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神々に天界に召喚され下界に追放された戦場カメラマンは神々に戦いを挑む。

黒ハット
ファンタジー
戦場カメラマンの北村大和は,異世界の神々の戦の戦力として神々の召喚魔法で特殊部隊の召喚に巻き込まれてしまい、天界に召喚されるが神力が弱い無能者の烙印を押され、役に立たないという理由で異世界の人間界に追放されて冒険者になる。剣と魔法の力をつけて人間を玩具のように扱う神々に戦いを挑むが果たして彼は神々に勝てるのだろうか

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...