56 / 120
2章
【55】ディチカに到着
しおりを挟むディチカに近付くに連れて2人の目的も少し詳しく話してくれた。
ディチカから2日程南東に行った先にある森の中にドーナと言う孤児院があって、そこが教義に反する教えを説いているから是正を促しに行くらしい。
「私共はどうしても目立って仕舞いますから、ディチカでは商人を装いますね」
2人は教会のローブを脱いで、ごく一般的な町民の姿になる。
噂になって当事者が逃げたり、口裏合わせられたりしたら困るのもあるけど、誤報だった場合の相手の風評被害に配慮してとの事。
ディチカは王都やマディナの様な大きな塀では囲われてない。
それなりに大きな街だけど、柵程度。
重要拠点じゃないからみたいだけど、って事は逆に安全な街って事よね。
ここでは教会を頼らずに宿泊する。
一応、商人ってテイなので。
でも、安い宿の大部屋2部屋でなるべく経費を押さえてる。
その分てわけでは無いけれど、夕食は繁盛店でその店の高めの商品を頼んでくれた。
ビックスさんは下戸なのか、少しお酒を嗜むと目をつぶってしまった。
お年だし、長旅で疲れて居るのかも知れないわね。
「眠って仕舞いましたね。そろそろ帰りましょうか」
「大丈夫よ。彼、寝てないから。それよりもお店に睨まれない様にもう少し何か頼みましょう」
とニーダさん。
ホントに寝てないのかしら。寝てるようにしか見えないけど。
ビックスさんを覗き見ると、耳が小刻みに動いてる。
しばらくするとビックスさんが目を開き、ニーダさんに耳打ちした。
「反対側の壁際の4人組、飴の話をしているね。別件だけどちょっと行って来ようかと思います」
アタシにしか漏れ聞こえない位小さな声。
ってかアタシにも聞こえない位遠くの話し声聞き取ってるなんてどんだけ耳良いのよ。
「ちょっと女性陣に別件のお手伝いをして頂きたいのですが、宜しいですか?もちろん別途で報酬をお支払い致します」
「それは内容を聞いてから決めてもいいのかしら」
「もちろんです。不快な思いをさせてしまうでしょうから断っても構いません」
ビックスさんがむさい男達の話を聞きに行くから一緒に行って欲しいらしい。
要はコンパニオンみたいな事しろって事ね。
「嫌よそんなの」
ヴィオラが間髪入れずに答えた。
「ヴィオラには向かないわね。逆にケンカになっちゃうんじゃない?」
とニコラ。
「私も得意じゃないな」
「リネットが行ったら相手が盛上りすぎちゃうかもね」
酔っ払った男共に肉々しいリネット放り込んだら、えらいことになりそうね。
「そうですか」
ビックスさんはダメ元で聞いたんでしょうね。
残念そうでもないし、粘りもしない。
「ワタシが行くわ」
「え、ニコラ大丈夫なの?触られたりしちゃわない?」
「ワタシはそう言うの何ともないし、それに誰か護衛で行かなきゃならないでしょ」
確かに断っても誰かしら一緒に行かなきゃならないわね。
でもそれはセドやルーシでもいいんじゃないの?
「ニコラさん、ありがとうございます」
「ワタシからも条件出してもいいですか?」
「はい。可能な限り善処しますよ」
「追加報酬要らないので一緒に私事の調査をさせて欲しいんです」
「? ええ‥‥ 構いませんよ」
絶対紋章見せて貰うんだと思う。
「店員さん、このお店で1番上等なお酒頂けますか」
ビックスさんとニコラはその上等なお酒を受け取ると席を外して、男共の所に向かった。
「ドーナ孤児院をご存知ですか?」
ニーダさんが給仕の女性を呼び止める。
「はい。森の中にあるって孤児院ですよね」
「そうですね。評判とか聞いた事ありますか?」
店員が少し怪訝な表情をした。
「あっ私、養子を取ろうと思ってまして。その孤児院に伺うんです。なのでどういう所なのか気になって」
「あ、そうなんですね。孤児院自体の事は知らないですけど、そこ出身の方は真面目だって評判ですよ」
「お知り合いにいらっしゃるのですか?」
「ええ。お客さんだったり、一緒にここで働いてた方も居ました」
「今は働いていらっしゃらない?」
「はい。つい最近、帰って手伝いをするとかで辞めてしまいました」
戻って手伝いたいって思えるなんていい所なんじゃない。
「素敵ですね。じゃぁ悪い評判も無かったのかしら」
「そうですね‥‥ 悪いって事でもないんですけど、真面目過ぎるって感じでしたね」
「それはどういう所が?」
「施設の教えとかいうのを頑なに守ってましたね。私にはそれがちょっと変に思えたんですけど‥‥ あ、すみません。もういいですか?」
「ええ。長く引き留めてごめんなさい」
店員は会釈すると別の席に向かった。
「『教え』って気になりますか?」
とセド。
「そうですねぇ。でも、どこの家庭にも独自のルールはありますから、内容が分からないと何とも言えないですね」
しばらくするとビックスさん達が帰って来た。
「どうでした?」
男共はだいぶ飲まされたのか酔い潰れている。
「どうもこの街に飴を卸してる所があるようですね」
もしかしてポーション飴の事なのかな。
「別件なので教会に連絡入れて指示を仰ぎましょうか」
「それなら早い方がいいですね」
「ええ。宿に戻ったらお願いします」
そんなこんなでビックスさん達が戻って来たばかりだけど店を出ることになった。
「ニコラ大丈夫だった?変な事されてない?」
リネットが心配する。
「大丈夫よ。男あしらうの簡単だし」
悪い女な台詞ね。
宿に戻るとビックスさんは何やら手紙を書いている。
それが書き上がった頃、ニーダさんが男部屋に来た。
「調度、書き終えた所です」
「では早速」
そう言うとニーダさんは窓を開ける。
すると1羽の鳩が入って来た。
その鳩の脚に手紙をくくりつけ外に返す。
「伝書鳩が教会以外に来ることあるんですね」
セドが言う。
たしか、教会間でしか手紙のやり取り出来ないからみんな教会に脚を運ぶんじゃなかったかしら。
「私のスキルなので普通は教会だけですよ」
なるほど。スキルってホント色々あるのね。
それから数日、ディチカに滞在している。
教会の返事次第でもっと居る事にかもって話だったけど、
「別の者を派遣するそうなので、我々は明日にでも孤児院に向かいましょう」
飴の方はよく分からないけど、滞在中に孤児院の情報は大して集まらなかった。
みんな初日の店員さんの話とだいたい同じ。
ただ、誰に聞いても孤児院出身の知り合いは帰って行ったと言う。
それが1人の事を言っているのか複数の事を言っているのかまでは分からなかったけど。
もし複数なんだったらちょっと変だなとは思う。
明日から出発するので食材調達をしていると見知った顔が居た。
「ミゥー!」
「ナナチャどうしたって?」
アタシが1番に気づいたのでみんなに声を掛ける。
「ディオ達がいるって」
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる