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2章

【39】ダンジョンを出ると夜でした

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「ホントにナナチャだけで倒しちゃったわね」

 2層目から登る階段。ここまで来ればもう安全なのでアタシはルーシの頭の上でうずくまる。
 ホブゴブリンが10体位現れただけだったし、奴ら炎効くから難しくはなかったけど、焼き付くすのに結構火ィ吐かなくちゃなんなかったから疲れちゃった。

「どうするの?食事してから出るかい?」
「そうねぇ。ギルドで時間掛かるだろうし、買って帰るでいいんじゃない?」

 女性陣が頷く。この街の夜は女性陣には居心地悪いでんしょうね。
 アタシは何だかワクワクしちゃうけどね。


「話が違うじゃないですか!」

 路地から出てきた3人組の男の腕を後から追って来た女性が掴む。

「あ?ちゃんと割増で払ったじゃないか」

 腕を掴まれた1番ごついスキンヘッドが言った。
 関わってもいい事なさそうだけど、男3人に対してルーシと同じ位の身長で、年齢も明らか若い女性が1人で挑んでるのはちょっと見逃せないわね。
 みんなもおんなじ考えっぽくて、様子見の為にあえて歩みを遅くした。

「これじゃ2人分にもならないじゃないですか。3人分に上乗せしてくれるって言うから頑張ったのに」

 あんな小柄で華奢な娘が男3人同時に相手したって事?
すごい頑張ったわねあの娘。

「何言ってんだ?何人だろうが1回は1回だろが!」

 そう言って男は女性を突き飛ばした。

   うぅわ、ダッサ。

 アタシがあまりの言動と行動にドン引きしてる間に、ルーシが女に駆け寄り抱き上げる。

「なんだ?お前。そいつの仲間か?」
「アニキ、こいつ可愛いですぜ」

 男の1人がしゃがんでルーシをイヤらしい目で見る。

「ボクは男だ。男は女の子を守らなきゃいけないんだよ!」

 童話の勇者とカシウスの記憶の影響ね。

   良いわよルーシ。もっと言ったれ。

「それが出来ないなら人間じゃないよ!」
「ガキが生意気言いやがって!」

 しゃがんだ男が腕を振り上げる。

「!」

 その腕をセドが掴んだ。

「ウチのメンバーに手を上げたら、俺らも容赦したいぞ?」
「何だお前ら」

 ダンジョン街は特性上武器の携帯が許されてる。
男達もお楽しみだっただけのクセにそこはしっかり剣をさげてて、今にも抜きそうだ。

「ハーレムパーティーが調子こいてんじゃねぇぞ」
「アニキ、こいつらいい女ですぜ。それにちょうど3人だし」

 もう1人の男がスキンヘッドの耳元で言う。
 2人は取り巻きなのかしら。それにしても絵に描いた様な雑魚キャラね。

「そうだな。おねぇちゃん達、大人しくしてたらそいつボコった後可愛がってやんよ」

 身の程知らずとはこの事ね。

「アナタ達、3人がかりで1人を相手して満足させられて無いんでしょ?どんだけ粗末なモノぶら下げてるのだか」

 ニコラが舌半分使って小声で魔法詠唱しながら揶揄する。
 見た目よりもムカついてるんでしょうね。

「このアマ、なめてんじゃねぇぞ!」
「衛兵さん、こっちよ!」

 男がニコラの胸ぐらを掴もうとした時、路地から女性の声がした。

「アニキ、衛兵はまずいっす。行きましょう」
「ちっ、お前ら覚えとけよ」

 後ろ暗い事でもあるのか、3人組はそそくさとその場を離れ出す。

「いてっ! いたいイタイ痛い痛い!」

 途中で突然前屈みに成りながら別の路地に消えていった。

「スムカ、大丈夫?!」

 衛兵を呼んでた女性が駆け寄る。
 胸元がばっくり開いたワンピースに毛皮のコートを羽織った髪の長い女性だ。

「姐さん!」

 同業の世話役なのかしら。
スムカと呼ばれた、小さな女性が抱きつく。

「詳しくは分からないけど、あんた達、この娘を守ってくれてありがとね」
「いや、あのままだと余計ややこしく成ってたから、俺達も助かりました」
「でもムカつく奴らだったから1発位殴られちゃえば良かったのに」

 とリネット。

「それならお股を凍らせたから今頃のたうち回ってるんじゃないかしら」

 ニコラ怖! でもナイス。

「衛兵が来ると時間掛かるし、俺達も退散させて貰おうか」
「さっきのあれ?嘘よ。衛兵なんて呼んでないわ」



 世話役の女性はアルマと言った。
 衛兵を呼ばなかったのは、

「探して来るだけで時間掛かるし、あいつら見返り求めるから」

 との事。見返りはサービスを要求されそう。
 スタイルいいし美人だから、周りの男共の目がイヤらしく上下になめ回してるわ。

「恩人に何もしないなんて女が廃るから、食事だけでも奢らせて欲しいわ。」

 と言うので、お言葉に甘えてギルド側の酒場にやって来た。
 セドはギルドに寄ってから合流する。

「この辺の男連中なら食事中に声かけてくるような野暮はいないから」

 アルマはダンジョン側の一画を取り仕切ってる世話役で、その辺りは自由な分ヤカラも多いし、そんなのを相手にしなければならないんだとか。

「流石に今日見たいな奴らは珍しいけどね。情報集めといて今度また問題起こしたら街から閉締め出させるわ」

 おっとこ前だわ。

「そんな事出来るんですね。すごいわ」
「ここは男が意気がってる様に見えるけど、その実、女が回してる街なのよ」

 したたかな女性が揃ってるのね。さすが色街。

「でも用心してスムカは1度、街を出た方がいいかもね」
「え、そしたら私、稼ぎなくなっちゃいます」

 貯えあまり無いのかしら。
まぁ別の街じゃ寝食にお金掛かっちゃうから、収入ゼロだと不安にもなるか。

「王都だったらギルドで仕事斡旋してくれるわよ。日雇いもあるんじゃないかしら」

 とニコラ。

「そうね。これを機に全うな仕事探して見たらいいんじゃない?」

 とアルマ。

「え、でも」
「あんた別にこの仕事に向いてる訳でも好きな訳でも無いんだし、あたし見たいに世話役に成れる可能性も低いんだから、別の仕事に就けるならその方が絶対いいわよ。あたしや他の娘に遠慮する事ないんだからね」
「私、取り柄ないから‥‥」

 スムカは厳つい男3人相手に泣き寝入りしない度胸があった割に気が小さいわね。

「アナタのスキルは何かの仕事に活かせそうにないの?」
「私の育った所の教えで、スキルを使ってはダメなんです‥‥」
「え?何それ?」

 アルマは初耳だったのね。
 やっぱりこの反応が普通な様ね。

「それ、どっかで聞いた事あるわね」
「あれよ、ほら。ディオとティチが育ったって施設よ」
「え、ディオ達の事ご存知何ですか?」

 ディオ達とのいきさつを軽く話す。
 スムカはあの子達から話を聞いていたらしく、2人亡くなってる事も知っていた。

「ニコラさん達だったんですね。弟達が大変お世話になりました」
「ワタシ達はちょっと関わっただけよ。あの子達今、どうしてるの?」
「別々ですけど、冒険者続けてます」

 それは良い事なのか分からないけど、元気なら良かったわ。

「スキル使わないなら冒険者は危険じゃない?」

 とヴィオラ。
 あの子達のスキル知らないけど、向かないスキルだったり、使わないなら危険度は増すわよね。
あの時見たいな無謀な事はしないだろうけど。

「危険な目にもあったし、パーティー組むのには必要らしくって、今では施設に内緒で使ってるみたいです」

 そりゃぁ、命預けるかも知れないのに、理解出来ない制約あったら組むの断るわよね、普通。

「それなら貴方も内緒で使えばいいんじゃない?」

 とリネット。

「育った場所を悪くは言いたくないし、アナタやあの子達見てる限り良い施設なんだろうけど、それでもやっぱりその教えは間違ってるわ」
「‥‥」

 そこにセドが合流したので、また同じ話を聞かせた。

「これも何かの縁だし、俺達これから王都に帰るから一緒に行くかい?」

 セドは女性陣の様に説得はしなかった。

「そうね。そうしなさいよ」

 アルマが促す。

「その間にスキルの事考えればいいよ。話してくれなくても相談に乗る事は出来るし、話してくれるにしても人の居ない場所の方がいいでしょ」
「はい。ありがとうございます」


 酒場で食事を済ませ、スムカの支度を待ってから街を出る。
 アルマが見送ってくれた。

「荷物それだけ?」

 スムカの荷物はリュックが1つ。

「はい‥‥ 実は、もう決めたんでスキル使いました」

 あら。気持ちが固まれば強い娘なのかな?

 施設の教えって、無闇に加護を使うのは悪だけど自分のスキルを把握しないのも冒涜だって事で、受紋後に院長と一緒に研究するんですって。

「私のスキルを付与した袋にモノ入れると20分の1の大きさに成って沢山入る様になるんです」

 そう言ってリュックの中からそれだけでパンパンになりそうな毛布を取り出した。

「後、毛布もう一枚と枕と上着と着替えが数着入ってます」

 リュックは半分も入ってない位つぶれてる。

「すごいわね」
「こんな事しか出来ないんですけど、役に立ちますか?」
「どこ行っても役立ちそうだけど、詳しく教えてくれる?」

 ニコラはちゃっかり紋章も見せて貰ってた。


 スムカのスキルには重さは変わらないとか、生き物は入れても変わらないとか制約があるけれど、付与さえしてしまえば誰でも使えるらしい。

「制限時間とか有効範囲とかあるの?」
「正確には分からないですけど、5年前のを院長様が使ってらっしゃるので、それ位はもつと思います」

 それだけもてば半永久的って言っても良さそうね。
 ってか院長はそれ使ってるのかいっ。

「それって何個も作れるって事よね?」
「はい。それも制限分からないですけど、前に100個作って見た事あって、今は10個だけ残しているから、最低でも90個は作れますよ」
「それってもう商売出来るんじゃないの?」

 とヴィオラ。

「商売ですか?」

 スムカはちょっと困惑してる。

「確かにね。大量生産出来るに越した事ないけど、限定品でも其なりに儲かりそうね」
「売ってたら私も欲しいわ!」

 リネットの加護と合わせたら馬車だって持ち運べちゃうわね。

「でも、商売するなら元締めさんの許可要るんじゃないですか?」

 さすが、街娼やってただけあって、その辺に気が回るのね。

「確かにそうなのかもね。ワタシ達商売したこと無いから。分からないわね」
「ガイウスさんに相談して見るか?」

 セドが操縦席から言う。

「ああ、あの人商人だったわね」

 そう言えばそうだった。
ふざけたパパさんのイメージしかなかったわ。

「明日、ワタシが早めに行って話通しとくから。セド達はスムカと一緒にいつもの時間に来てくれない?」
「ああ。分かった。もうすぐ王都着くよ」
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