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1章
【26】合同訓練③
しおりを挟む翌朝は全員で太極拳もどきから始まった。
なんでも体操って扱いで王国全土に親しまれているそうで、国民ならほぼほぼ覚えているらしい。
その後の少林寺っぽいのは上級者向けな上に流派があって、ロジィさんと彼に習ったルーシとエイミ-位しかまともに出来ない。
テルティアとカシウスは学園で教わる触り程度。
「そんなのも出来るようになったの?すごいわ」
ハマールもロジィさんから習ったし、ガイウスさんなんて学園でも教わってたはずだけど‥‥ 向いてなかったのね。
「おや、セドリック様は別流派を習得されているのですね」
セドは単独で空手の型っぽいのをやっている。
「習得ってほどではないですが、俺のスキルが体術に向いてそうだと思って、昔に地直流を教わりました」
4大流派の1つなんだって。
「ロジバールさんはてっきり、火靡流なのかと思ってました」
「私のは豪風流でございますよ」
素人目で見る限り、地直流の方が動きを1つ1つ止めてるので、初心者に向いてそう。奥は深いんでしょうけど。
なので、ロジィさんに着いていけない人はセドに指南してもらう事になった。
体術の時間は、平日のそれよりだいぶ早く終わりになる。
それよりも対戦に時間を割きたいって事ね。
「対戦型式は各々相談で決めて下さい」
アタシの初戦はロジィさんと。
まずは肉弾戦で火を使わない。ロジィさんもガントレットのみ装備って事になった。
ルーシは通訳もあるからアタシのそばで、リネットとやる。
リネットは槍を使うみたいね。
他はニコラとセドリック。カシウスとテルティア。ヴィオラとエイミラット。ガイウスさんとハマールで対戦してる。
「ナナチャ殿のタイミングで向かって来てください」
とりあえず手の届かない高さに飛んでみる。
思い付くアタシの武器って前歯と爪と尾っぽ位なもので、どれも間合いが狭いから自ずと突っ込むしかないのよね。
ロジィさんも構えて待ってくれてる事だし、このまま滑空しよう。
「ミュ!」
思ったよりスピード出てビックリしちゃった。
そんな心持ちで突っ込んでも手練れのロジィさんに敵う訳もなく、簡単にいなされる。
そのままだと地面に激突なので急上昇。
で、気持ちも新たに再滑空。
「ミュ!」
まぁ、何度突っ込んでもいなされるわよね。
でも、この高さで火ィ吹いたら無敵なんじゃない?
「攻撃後に私の及ばない高さまで避けるのは良い判断かと存じますが、こと相手が人間の場合、なんでも道具にしてしまいますれば」
アタシの思惑を見透かしたのか、ロジィさんは土を丸めて投げた。
土玉は真っ直ぐアタシに向かってくる。
この爺ぃは肩までつよいのか!かわせたけど。
土玉の作る気流に抗わなければ以外と簡単にかわせる。
これを上手くすればカウンター食らわせられるかも。
アタシは再度滑空する。ないだろうけど、ビビるの狙って顔に。
ロジィさんの右平手打ちが風を切るので、その気流に合わせて頭から尾っぽを軸に1回転してかわし、そのまま突っ込んだ。
「今のは惜しかったですね。」
かわすまでは良かったけど、1回転したら軌道がずれて顔の横をすり抜けちゃった。
顔じゃ的が小さかったかな。
次は胸元を狙おう。
「!」
ロジィさんは甘くない。
これまで平手打ち一辺倒でいなして来てたのに、今回は顔真っ正面に正拳突きをしてきた。
これはかわせないかもとビビって上体起こしたのが幸いした。
さっきの土玉と同じように拳と軸が垂直になったので間一髪でかわせた。
「うまい!」
ロジィさんが唸る。
かわした時の回転の勢いで腕に尾っぽを打ち込んだのだ。
咄嗟の事だったけど、アタシって戦闘スキル高いかも。
「ナナチャがありがとうって言ってる」
ルーシはルーシでリネットと戦ってるのに通訳してくれた。
彼は槍の猛攻を受けている。
結局、刃は振るか薙るか突くかで、槍だろうが剣だろうが変わらない。
ならルーシがかわせないはずがない。
だけど、リーチの違いでいなしてから攻撃に転じるのには苦労してるみたい。
「私の槍捌きじゃ訓練にならないわね」
胸当てごと揺れる膨らみが邪魔なんじゃない?脇があまくなりがちよ。
「そんな事ないよ」
とルーシ。
槍事態今日はじめて見た彼には丁度いい槍捌きかもね。
さて、アタシの方はもうちょい今の動きを練習したいわね。
「ロジィさん、ナナチャは今の動きを練習したいって」
通訳助かるわぁ。
「畏まりました。お付き合い致します」
小一時間ロジィさんと練習して、ちょっと休んでから次はセドリックと対戦。
彼には剣を使うよう頼んだ。もちろん鞘を被せたままにしてもらうけど。
ルーシはテルティアと。
2人は毎日対戦してるから、今回はお互い槍を使ってみる事にしたみたい。
隣でガイウスさんとカシウスが対戦するので、そちらも槍にして、ガイウスさんが3人に教える形をとるみたいね。
「子供に教える程度には出来るよ」
とのこと。
後は、ニコラとエイミ-。ヴィオラとハマール。ロジィさんとリネット。リネットは弓に持ち変えてる。
セドとの対戦は拳が剣に変わった分の勝手が違うけど、突きの気流は正拳突きだし、薙ぎは平手打ち。振り下ろしも掬い上げも、上下左右が違うだけで気流が似てるのでかわすのに苦労しなかった。
「全然当たらないな」
突きも上体起こさずすり抜ける方法を習得したアタシの小賢しい動きに腹も立てずに関心してくれる。
ちょっと次は違う動きをしてみようかしら。
今までより深く滑空して地面すれすれでセドの足元に突っ込む。
このまま股抜きしても良さそうだけど、セドが剣を突き立ててきたので、急上昇して肩越しをすり抜ける。
「!」
翼が耳をかすめて少し切れる。
「ナナチャがごめんなさいだって」
「大丈夫だって伝えてくれ」
ビックリした。この翼も武器になるのね。
かすめるのは練習したいけど、血は見たくないから肌の出てる所は狙わないようにしよう。
今度も同じ様に滑空する。今度こそ股抜き。しっかりしたブーツ履いてるからそれを狙うわ。
セドの方は剣を突き立てるのではなく、振り下ろした。
いや、平で叩き付けてきた。
「ミ゛ュ!」
セドの剣は幅が広いからかわしきれず、剣と地面にサンドイッチされてしまった。
「あ、ごめん」
セドが遣りすぎたって顔してる。
何よ。結局負けず嫌いなんじゃない。
2戦終わってお昼。
「ナナチャ殿もいい動きされますね」
ロジィさん、ガイウスさん、セドとニコラがまとまって話してる。
「あれだけ俊敏なら即戦力になるんじゃないかい?」
とガイウスさん。
自分の話されると嫌でも聞き耳立てちゃうわ。誉められてるから尚更ね。
「ワタシも見てたけど、思ってた以上ね。戦略の幅が広がるわね」
「あんな動きされて炎吐かれたら俺には太刀打ち出来ないです
ね」
「ナナチャって炎吐くのかい?」
あ、ガイウスさんは知らないか。
「ええ。前にそれで助けられました」
ん?ロジィさんを助けた事あったかしら。
「それはすごい。ルーシも成長著しいから、先見据えてチームで集団戦をした方が良くないかい?」
たしかにパーティーに入るならチームワークは重要ね。
ガイウスさんも良い事言うわね。
「良い考えでございますね。早期に開始出きる様調整致します」
「集団戦始める前には彼の装備も整えといてあげたいですね」
とセド。
装備は早めに揃えて慣らしておくべきね
「いかがでしょう、彼と皆様で行かれて来ては。我々では分からない事もございますし」
「それがいいね。来週の休日に皆で行こう。費用は家で持つから必要な物は揃えてしまおう」
「ナナチャにも何か必要かしらね」
アタシは特に要らないけどなぁ。
「鎧とか兜とか?」
「ナナチャが飛べなくなるから要らないって言ってるよ」
ルーシが割り込んで伝えてくれた。
「では、洋服はいかがですか?エイミラットのリボンと同じ素材なら防具にもなりますし」
「洋服着てたら一目で野生じゃないって分かっていいわね」
「ナナチャもベスト位ならっていいよって」
「それでは今晩にでも採寸致しましょう」
午後、アタシはエイミラット、ヴィオラ、ニコラの順に。
ルーシはガイウスさん、カシウス、ハマールと。
エイミ-とは相性が悪い。
彼女のリボンは鋭い動きも出きるけど、基本フワッとしてるから覆い被さって来て身動きが取れなくなる。
彼女に護衛されてたら安心ね。
あぁ火ィ吹きたい。
ヴィオラも遣りにくいわぁ。滑空しても避けられる。
それだけだったら別にロジィさんとセドとも変わらないのだけど、何せ彼女は早いから避けられた後に後ろから遣られる。
これがめちゃくちゃ痛いの。セドの耳切っちゃったから怒ってるんじゃないの?
そうでないにしても、彼女がもしかしたら1番強いんじゃないかって気がしてきた。
飛んで突っ込むだけアホらしいから、懐でジャンプしたり、尾っぽ振り回したり、なんか格闘したって感じでちょっと充実。
逆にいい練習になったかも。
ルーシの方はガイウスさんと槍の練習の続きをして、カシウスとは剣1本で勝負してた。
カシウスがルーシにいなされる度にイラついてどんどん前のめりになってる。
どうしてあんなにルーシが嫌いなのかしら。
次はニコラと。彼女だったら火ィ吹いてもいいかしら。
「炎、使いたいの?」
口元で小さく火を吹いたのを見て察してくれた。
なのでアタシは頷く。
「いいわよ。1度全力で吐いてみて」
そう言って、でっかい氷の壁を出してくれた。
全力出して見たかったのよ。ありがとう、ニコラ。
「ニコラ、フォローしてねって言ってる」
「任せといて」
じゃぁ、行くわよ。
ゴゴゴォォォ!!!
「すごい火力ね‥‥」
すごい炎で氷を溶かしちゃった。
アタシ、思った以上に火炎放射器だったわ。
みんなも驚いて手が止まってる。やばいかな。
「火力の調整は出来るのよね?」
「ミュンミュ」
「強火、弱火位ならって言ってる」
「そう。それじゃぁもっと模索して使えるモノにしましょうか」
ニコラがまた氷の壁を出した。
結局、ニコラとは戦わず、火の調節練習になった。
彼女の指示で色々試してみて、4種類扱える様になった。
それらにニコラが即興で名前を付ける。指示しやすいようにとの事。
『火炎』はじめに遣ったやつね。これがスタンダード。
ただ吐くだけだし、1番火力調整しやすい。
最大火力で、1メートル先に2立方メートルほどの炎を吐き出す。
それをホースの口を狭めたみたいに吹くと、30メートル先まで届く細長い炎になった。
命名『蛇火』。
後、ピンポン玉大の火を吐き出す『火球』と、もっと小さくパチンコ玉位の大きさにして早さと距離を稼いだ『石火』。
これ以外に新技をあみだしたら、まずお披露目するように約束させられたわ。
仲間に危険が及ばない様にとの事だから守らなくちゃね。
今日はだいぶ疲れた。
女性陣がお風呂から上がったら男性陣の番だ。
それを楽しみに頑張ったんだから。
「女性陣待ってから入って居てはだいぶ遅くなってしまいますね」
アタシは全然待てるわよ。
「従業員用の浴室もございますので、よろしければそちらをお使いになって下さい」
え、ウソ。セドは一緒に入らないの?
やだやだ。彼の肉体美を拝みたいのに。
「そうですね。そうさせてもらいます」
クソ!来週からは前日に男性陣と入ろう。
「ナナチャ殿、今のうちに採寸致しましょう。こちらにどうぞ」
アタシはテーブルの上でメイドさんに巻き尺当てられながらシュンとしていた。
「心なしか元気がありませんね」
「疲れたんじゃないかい?」
活力剤奪われたからね。
今日は早く寝ちゃおっと。
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