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1章

【23】お家で稽古②

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「ただいま!」

 後1時間もしないうちに日が落ちるだろうって頃、テルティアが帰ってきた。

「お帰りなさいませ」
「まだ稽古してる?」
「そろそろ終わりにしようかと思っていた所に御座います」
「ちょっとだけ私も参加していい?」

 黒の長袖ボタンシャツにショートパンツ。襟袖裾に藍色のレースが付いてる。
 そんな服装でやるのかしら。

「そうですね。背丈の近い方と手合わせさせたいと思っていた所にございます。お願い出来ますか?」

 ロジィさんが剣を手渡す。
 服装については何も言わなかったから、もしかしたらあれが運動着なのかも。

「男の子とするの初めて」

 テルティアは剣を顔の前に構えてから前に出す。
 斜に構えて、左手は腰にあてる。
 なんかフェンシングみたい。

「よろしいですか?でわ、始め!」

 ロジィさんの掛け声と共にテルティアが大きく前に出て突く。
 ルーシは1歩引いて横に受け流す。
 すかさずもう1歩、もう1撃。
 それをまた引いて受け流す。

「ルーシ殿も攻めて見ましょう。」

 何度もそれを繰り返しているとロジィさんが言う。
 言われるがまま、ルーシはテルティアと同じ様な突きをした。
とたんにテルティアの剣先がルーシの喉元に居た。
 ルーシの突きは顔の横に反れてる。
 テルティアの剣がルーシのに巻き付きながら突いた様に見えたわ。

「やった。上手く出来た」
「お見事です」
「ルーシ君上手ね。学園じゃぁみんなちゃんとやってくれないから、楽しい」

 貴族のお嬢様が真面目に剣術なんかやらなそうだもんね。

「もう1戦致しましょう」

 そう言いながらロジィはルーシに近づき、耳打ちした。

「いいですか。今のはテルティア様に引っ張られて突きをされていましたが、突きである必要はありませんよ。今日覚えた事を活かして見ましょう。それに、ルーシ殿の方が力が上回っているでしょうからパワーで防いでしまうのも1つの手に御座います」

 ルーシがうなずく。

「でわ、もう1戦。始め!」

 さっきよりも2人の間合いが広かったので、テルティアは同じ様な突きを3歩で繰り出した。
 ルーシはそれを右に体の回転を使って弾き、その勢いで1回転してテルティアのうなじに剣を当てた。

「お見事!」

 ロジィさんが拍手している。

「すごーい。私そんな動き知らない!」
「学園のは貴族様の決闘武術に御座いますから。私が彼に教えている様な自由な動きは教わらないかも知れませんね」
「えー。私も教わりたいよぉ」

 テルティアは負けても楽しそうだ。

「そうですね。では、明日は別の嗜好をお見せしましょう」
「やった。あ、体術は?体術も学園のと違う?」
「気合いが違うかもしれませんが、動きそのものに差はないと思います」
「体術も手合わせしてみたいんだけど、だめ?」

 彼女のやる気がすごいわね。

「まもなく日も落ちますから、明日にしてはいかがでしょう」
「1回だけ。おねがい!ルーシ君はいいよね?」
「うん。いいよ」
「ほら。ロジバール、お願い」

 テルティアはロジィさんの真ん前に立ってお願いしてる。
 顔は見えないけど、断り辛い顔してそう。

「仕方ありませんね。1度だけで御座いますよ」
「やった。ありがとう」

 彼女は早速ルーシの方を向いて構えた。

「手加減しないでね!」

 そう言いながらルーシが構えると直ぐにパンチやキックを繰り出しまくる。
 ルーシは避けたり防いだり。
 手加減してるつもりじゃないだろうけど、攻めるのには躊躇してるみたい。

「ルーシ君も攻めて来ていいんだよ!」

 テルティアが熱くなってる。

   「ルーシ、行っちゃいなさい。攻めない方が失礼よ」

 ルーシもやっと反撃を始めた。
 ロジィさんとの時より切れがない。思いきれないのかしら。
 テルティアが少し拳を下げる。
 それに誘われてルーシは右ストレートを繰り出す。
 テルティアは左にいなしながら少し屈んで、ルーシの脇を肘で
持ち上げる様にして倒れさせた。

  ゴキ!

 やな音がした。

「え?なに?今の音」

 テルティアは困惑している。

「ルーシ殿大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫」

 立ち上がったルーシの右腕がダランとしてる。

「肩が外れておりますね」

 ロジィがすぐにそれを直してくれた。
 ただ、アタシは脱臼は治らないんだなって思っちゃった。

「ごめんなさい。痛かったよね」
「痛くないよ」
「本当に?」

 痛いは痛いはずだけど、

「うん。痛いうちに入らない」
「すごいね。強いんだね」
「ううん。もっと痛いこといっぱいあるから」

 あ、ロジィさん。哀れみの表情を隠し切れてない。

「そろそろ終了に致しましょう。旦那様も間もなく帰って来られるでしょうから、夕食前に着替えておきましょう。」



「1日でだいぶ上達してしまいました」
「ルーシ君、強くて上手だったよ」

 夕食中2人が絶賛するので、カシウスが面白く無さそうな顔をしている。

「技術もそうですが、何よりスタミナがすごいです。先に私が音を上げてしまいそうに御座います」
「へぇ。ロジバールに弱音を吐かせるなんて、すごい逸材だね」

 体力があると言うより、回復力が半端無いって方が正確なんだけど、
 同じこと?

「今日は勉強はしなかったのかい?」
「はい。一緒に旅をしていた時には読み書きも計算も出来て居たので、合間に読書で知識を増やすのはいかがでしょうか」
「それじゃぁ、後で書斎に行こうか」

 書斎は玄関隣の階段上って左側の直ぐ。ルーシの部屋の隣で、テルティアの向かいね。
 中は長室に似てて、両側の壁に本棚。ギッシリ本が並んでる。

「この辺は童話ばかりだから、この辺から読み進めるといいよ」

 ガイウスさんは扉直ぐの1番下の段から1冊取り出した。
 初読書なんだから童話位がちょうどいいわね。

「屋敷内なら、お風呂以外どこに持って行って読んでも構わないから」

 『世界の童話』って題。まぁまぁ分厚い本だけど、短編集でしょうから、区切りが付けやすい。いいチョイスね。

「ありがとう」

 とりあえず、今日は部屋に持ち帰って読むことにした。
 ルーシは本を読むのがメチャクチャ遅い。
 童話だから難しい言葉はないけれど、文字から実物をイメージするのが難しいみたい。
 たしかに、実物見て、それの名前を書くってのは馬車の中でやってたけど、逆はやってなかったわね。
 なれれば早くなって行くだろうけど、今はとても一緒に読めそうにないわ。
 彼が寝てからこっそり読もっと。
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