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1章
【18】思い付き?
しおりを挟むどれくらいの時間がたったのだろう。
ルーシの記憶全部見るのに10分程度だったから、同じ位かしら。
アタシの感覚だと1時間は下らないのだけれど。逆浦島みたいな感じなのかしら。
「どうでしたか?」
メルヴィルさんが手を離したので、終わったのがわかったのね。
ガイウスさんが口を開いた。
「詳細は話しませんが、とても有意義でした」
メルヴィルさんがまた背を凭れる。
「サーリエについては教会の方で継続調査します。何か情報を掴んだら報告して頂きたいですが、とりあえずギルドへの依頼は終了します」
「あの、ルーシはどうなりますか?」
リネットが恐る恐る聞く。
「その事ですが、少し思案させて下さいな。その間、雑談でもしましょうか。こんなに身内が揃うのも珍しいですからね」
誰と身内なのかしら。
「エミリーも空いてる席に座りなさい」
「はい」
エミリーと呼ばれた水色修道女がロジバールさんの隣に座る。
「お久しぶりです。おじ様」
エミリーがジークリットさんに会釈する。
「ああ。久しぶり。元気だったか?」
「はい。ガイウス様もお久しぶりです」
「お久し振りです。エミリーさん。いつからおかあさまの従者に?」
ガイウスさんの母親がメルヴィルさんで、ジークリットさんとエミリーも親戚って事?
「普段は違うのですけど、今日はおじ様達が来るからって大伯母様が呼んで下さったんです」
「ジークリットが全然顔見せないからですよ。どうなんですか?最近は」
「何も変わりないよ」
ジークリットさんのメルヴィルさんへの口調が親子っぽいんだけど?
「そろそろ身を固めてくれないかしらね。私は孫が見たいですよ」
「テルティアとカシウスが居るじゃないか」
「そうですけど、ダフ家の孫が見たいのです」
「それならエミリーがいるよ」
「ああ言えばこう言う。。私にはもう、結婚して子供が出来る以外に貴方が落ち着く方法が思い付きません。40にもなって問題ばかり起こして」
「別に仕事上の揉め事なんだからしょうがないじゃないか」
「そうかしら?貴方が大人な対応していれば収まった事もあるんじゃないかしら」
「あの、お二人はどう言ったご関係なんですか?」
リネットが聞く。
ナイス。アタシも気になってたの。
「すみません、身内でばかり盛り上がってしまって」
話を聞くと、メルヴィルさんとジークリットさんが親子で、ガイウスさんはメルヴィルさんの娘、ジークリットさんの妹の旦那。
エミリーはメルヴィルさんの妹の孫なんですって。
この場の半数強が身内って事ね。
「テルティア達はお元気?」
「はい。知りたがりと反抗期とで手を焼いてます」
「成長している証拠ですね。何よりです」
「はい。ただ、『王家の面汚し』の子ってのもあって学園では浮いてしまっている様です」
ガイウスさんは笑みと困り顔が混ざった表情をしてる。
面汚しって何したのかしら。汚す様な事する人には見えないけど。
「貴族の子は特に、親の地位や評判の影響を受けますからね」
「はい‥‥」
「高等学園に進学してしまえば、環境が変わると思うのだけど」
「はい。僕もそうでしたから」
「それに、良識のある方々は貴方の事を面汚しなどとは思って居ませんよ。面の汚れた者にはキレイな顔が汚れて見えるのですよ」
「そう言って頂けると救われます。親族に聞かせてやりたいです」
「面はキレイでも、腹は黒いですけどね」
「こいつは手厳しい」
ガイウスさんはまた困り笑みをしたけど、さっきより和やかだ。
「まったくその通りだ」
メルヴィルさんの皮肉にジークリットさんも頷く。
すると、
「それにしても、ジークリットの反抗期はいつ終わるのかしら?」
「本当に。お義母様もご苦労なさいますね」
矛先が自分に向いてしまったので、ジークリットさんは渋い顔して黙った。
ガイウスさんの表情が困り笑みから意地悪笑みに変わってる。
「まぁ、でも、地位など関係なく接してくれる友達が出来るのに、早いに越した事はないですね」
メルヴィルさんは背を凭れて肘を掛けて、話を少し戻した。
「そうですね。早いに越した事ないと言うか、早くに出来て良いと思います」
「それで、考えたのですが」
今度は前のめりになって話し出す。
「ジークリット、貴方の所でルーシを面倒見なさい」
「は?どう言う事だ?」
「それで、後見人をガイウスが勤めなさい」
「‥‥」
「申し訳ありませんが、理由をお聞かせ頂けますか?」
ガイウスさんに代わってロジバールさんが答えた。
「そうですね。個人的にはサーリエは捕らえるべき重要人物だと判断していますが、公務を動かすだけの証拠が現状ありませんので、調査以上の手の施しようがありません」
テーブルの上で組んだ指を口元に持ってくる。
「ルーシ君をまた誘拐に来ないとも限らないので保護しておくべきでしょうが、今後どうなるかわからないのであれば自立と自衛も出来るようになっておくべきです。そう考えると、冒険者として経験を積むのが近道だと思うのですよ」
「ジークリットの方は分かりましたが、僕が後見人になる必要はありますか?」
「ジークリットがちゃんと目を掛けているか監視する為です。‥‥と言うのは冗談で」
彼は親にまでイジられるのね。
「受紋を受けたとはいえ世間的にはまだ未成年ですから、後見
人は必要でしょう。それに、何も知らない人からすれば贔屓に見えてしまうでしょうし、その場合、貴族の関係者だからって方がテイがいいでしょう」
「なるほど」
「後見人になれば、少なからず会う事になるでしょうから、孫達と友人関係にになれるかも知れないですしね」
「雑談中にそこまで思案なされるとは、恐れ入りました」
そう言ってジークリットが頭を垂れる。
「慇懃無礼かしら?私の性格をご存じの方は分かると思いますが」
「思い付きですね」
ガイウスが答えた。
「そう。でも悪くないと思うのだけれど、どうかしら?」
「僕は喜んでお受け致します」
「俺も異論ないよ」
「ルーシ君、貴方はどう?」
だいぶ蚊帳の外で話進んでってたけど、悪くないと思う。
「良い話じゃない?お願いしよっか」
「はい。よろしくお願いします」
「では、決まりね。エミリー、ペンダントを2つ持ってきて頂戴」
「畏まりました」
エイミーが立ち上がり部屋を出る。
「だいぶ公私混同してしまっているから、必要以上に公言しない様にお願いしますね」
また背に凭れてメルヴィルさんは言った。
「分かってるさ。その事も考えて、ここに居るリネットのパーティーに参加させようと思ってる」
「そうですね。それがいいですね」
エイミーが部屋に帰ってきて、メルヴィルさんの側にペンダントを置くと、また始めと同様に脇に控えた。
「ルーシ君とナナチャにこれを授けます」
それは金色の教会のシンボルを型どった物だった。
真ん中に魔石が付いている。
「これは教会の庇護下にある事を示す物です。これを身に付けていれば人からの災いを避ける事が出来るでしょう」
1度アタシ達にペンダントを見せてからエミリーにそれを渡した。
「それと、教会の方でこのペンダントの位置を把握出来る様、魔巧が施されています。これは貴殿方がもし誘拐されても助けに行ける様にと、こちらが貴殿方を監視していると言う体裁の為です。いいですか、このペンダントを着けている事で貴方達は守られ、助力して下さる方々の立場も守る事が出来るので肌身離さず身に付けて居て下さい」
エイミーがアタシ達にペンダントを着けてくれている間にメルヴィルさんが話してくれた。
「魔石は大体1年で魔素を失うので、その頃また交換しましょう。その時はエイミーを訪ねて下されば大丈夫です」
「わかりました」
「では、お開きにしたいのですが、その前にもう1度ナナチャと会話させてもらってもいいかしら」
「うん‥‥」
何かしら。アタシは前足を差し出す。
「こんな具合でどうかしら」
「はい。とてもありがたい話にして下さってありがとうございます」
「1度サーリエの事は置いといて過ごすといいでしょう」
「はい。そうします。でもどうしてこんなに良くしてくださるんですか?」
「そうですね。転生者が私にとっては馴染み深いからですかね。それに、ルーシが素直な子で孫達と歳が近いのも大きな理由ですね。それ以外にジークリットやガイウスにもいい影響を与えるんじゃないかと期待しています」
「いい影響ですか?」
「ええ。でもそれは意識しちゃうと悪い影響に変わってしまうかもしれないから、黙ってて下さいね。私もガイウスに負けず劣らず腹黒なんですの」
「でも、お2人とも腹が黒いわりに、腹を割って下さいますよね」
「確かにそうかもしれませんね」
メルヴィルさんが笑ってるのがわかる。
「それでは、お2人の幸福を願っております」
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