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1章
【13】ギルド本部
しおりを挟む西町公園の出店でケバブっぽいのを買い、食べながらギルドに向かう。
「公爵様と食事する事になるとわね」
「ロジバールさん、偉い人の執事だろうとは思ってたけど、まさかの王弟! 王位継承第二位よ! あの人、何にも言ってくれないんだもん!」
王族の中でもかなり上の人だった様ね。
「外で口に出せる人物じゃないでしょ」
「どうする?まともな服なんて持ってないわよ」
「汚れてなければいいんじゃない?ダメなら着る服くらい用意してくれるんじゃない?」
「そうかも知れないわね。ロジバールさんが計らってくれるかもしれないわ。だとしても体拭く位しときたいわね」
向かってる最中、そんな話ばっかりだった。
ギルドは建物の右側は空き地になっててそこに馬車が止められる。
そこには2階に直接上がれる階段があって、1階の入り口は正面の左端にある。
依頼者と冒険者が顔を合わせない様、配慮してるらしい。クレーム対応も2階でしてるらしいから、色々あるんしょうね。
アタシ達は1階に入る。
奥の長手方向に壁から壁まで一繋ぎのカウンターがあって、4分割に仕切られてる。
1分割に2名の職員が座ってて、その後はカーテンでバックヤードを隠してる。
左の分割から、受付、日雇い、定職、依頼の看板が立ってる。
ギルドは職業案内所の面もあるらしく、一般人風な人も訪れる。
ってかそっちの方が見たところ多いわ。
アタシ達は1番右。
「あ、ツインブレスのみなさん、いらっしゃい。完了報告ですか?」
アリアって名札の明るい娘が言った。
「そうだよ」
セドリックがロジバールさんから貰った証書をだし、
「これ持ってギルド長に帰って来たって伝えてくれる?」
ニコラがビー玉をカウンターに置いた。
「はい。私が伝えて来ますね」
レイニーって名札のちょっと落ち着いた感じの娘が証書とビー玉を持って席を立った。
あのビー玉、なんだったっけ?
「ニコラさん、あれって魔信具ってヤツですよね」
「そうよ」
ああ、そうそう。なんかあれで通信してたわ。
「わたし、よく分からないんですけど、どういう代物なんですか?」
アリアは訝しい物だと思ってますって顔してる。
「そうねぇ、魔信具って2つで1セットなんだけど、それを持ってる者同士で念話出来るって代物よ」
「念話?」
「声を発しないで耳の奥に直接話掛けられるって感じね」
「へー。誰でも使えるんですか?」
「あの硝子玉同士が魔力の糸で繋がってるってイメージさえ出来れば誰でも話せるわ」
「わたしも使ってみたいなぁ」
「距離が遠くなればなるほど必要な魔力量が増えるから、今回みたいな行くのに半月掛かる距離だと、ウチのメンバーでもワタシしか無理ね」
「へぇ、そうなんですねぇ。 じゃぁ、片方持ってるギルド長もスッゴい魔力の持ち主なんですね」
「繋いだ側がほぼ負担するから受ける側は魔力がゼロでない限り大丈夫よ。彼の方から連絡来た事ないし」
「なぁんだ。見直して損しちゃった」
「街の数だけ存在するギルドの長なんだから、彼は彼ですごいのよ?」
「わかってますけどぉ、そんな風に見えないんですよねぇ」
アリアは両手で頬杖ついてる。
ユルい職場ね。
「お待たせしました。ギルド長が上で話したいとの事なので、3階の長室にお上がりください」
カウンターの端は出入り用に折り畳み式になってて、そこから奥に通された。
カーテンくぐるとずらっと棚があり、書類が並んでる。
真ん中の棚がない所に扉があって、開けると正面に階段。両脇は扉になってる。3階は最上階だったわね。
階段を上りきると1階で言う所の玄関方向に真っ直ぐ廊下が続いてて、両脇に6ヶ所と突き当たりに1ヶ所扉がある。
セドリック達は行きなれてるのか、スタスタと真っ直ぐ進んでく。
突き当たりって右の扉に長室って書いてある。
トントントントン トントントントン
「はい」
「ツインブレスです」
「どうぞ、入って」
扉を開けると右は壁。左に縦長な部屋だった。
両脇にはこれまたずらっと棚が並んでる。こっちは書類の他に金庫っぽいのも置かれてるわ。
奥にこちら向きの机と椅子。そこに男が座ってる。
「お疲れ。今回は色々あったな。助かったは」
黒髪を後頭部で結わいた無精髭。ハードボイルドな出で立ち。この人がギルド長なのだろう。
しっかし、この世界はイケメンしか居ないのかって位、アタシの出会う男はアタリばかり。
もし、アタシにも受紋があったら絶対、男の紋でイケメンと出会うスキルだわ。
「とりあえず、掛けてくれ。茶を入れるは」
部屋の真ん中、部屋と平行に長方形のテーブル。奥に3人掛けソファーがあり、手前に1人掛けが2つ。 オーソドックスな配置ね。
「ルーシはここに座って」
席順は決まってるのかな。迷わず奥側の1人掛けにリネット、手前にヴィオラ。
3人掛けの奥にセドリック。手前に座ったニコラが真ん中にルーシを招く。
「話す題目が多いから簡約出来る話からするぞ」
冷たい烏龍茶っぽい飲み物を配り終え、自分の椅子を運んで来てギルド長は言った。
ちなみにアタシ用に口の広いコップに水を入れてくれた。
リュックから出て、翼あらわにして飲んでるけど、何も言わない。
こっち見てたけど、とりあえず留め置いて話を進め様としてるみたい。
「まず、ダンジョンについては軍に報告済みだ」
「ワタシ達も調査隊に直接話したわ」
「そうか。今後は軍とウチの仕事だから忘れていい。後、プレートを預かろう」
「これよ」
ニコラが埋葬した時に持ち帰ったギルドプレートを差し出す。
「ああ。有難う‥‥ こいつらAランクに成りたいって頑張っててな。評判も良かったから俺が推薦したんだ‥‥ それがこんな事になるとは」
ギルド長は受け取ったプレートを握りしめる。
「遺体の回収は軍に依頼してある。本当はこちらで早急に引き取りに行って遣りたいんだが、調査中でそうもいかん。これだけでも持って帰って来てくれて有難う」
深々頭を下げる。
言葉使いは粗いけど、熱い男ね。なんでアリアの評価は低くいのかしら。
一呼吸入れてからギルド長は次の話題に入る。
「ロジバールさんの護衛依頼の報酬だが、元々の契約の他に、受諾前の救助に対する謝礼が上乗せされている。ギルドの方からも緊急依頼に感謝込めて報奨金が支払われる」
テーブルにお札大の紙を数枚置いた。
「高額なので小切手で、扱い易い額で分けている。検めてくれ」
セドリックが受け取り確認する。10枚かな。
「大銀貨10枚分が9。5枚分が1枚‥‥」
「95枚? そんなに!?」
4人で割ると、、大銀貨23枚と小銀貨7枚と鉄銭5枚。かな
計算得意じゃないけど、1ヶ月難なく暮らせる額ね。
「知ってると思うが、要人に近い者の依頼だったから元々高額だったんだ」
「それにギルドがボーナス出すなんて珍しい。ってか初めてじゃない?」
「まぁ、滅多にある事じゃないな」
ギルド長は背凭れに背をもたれ、肘掛けにひじを置いてお茶を飲む。
「ないと思うが、依頼やボーナスについて口外しないでくれよ。口止め料じゃないが、話したら今後は無いからな」
「大丈夫よ。わざわざ自慢する人はワタシ達の中には居ないわ」
「ああ。助かるよ」
コップを置くと再び手を組んで少し前屈みになる。
「で、次の件だが、彼が例の保護した少年か?」
「ええ。ルーシとナナチャよ」
「初めましてルーシ、ナナチャ。俺はジークリット・ダフ。ギルド長をやっている」
ギルド長、ジークリットさんの声色が優しさを帯びた。
粗いのはは変わらないけど。
「はじめまして。ルーシです」
ちょっと聞いた?ウチの子自己紹介出来るようになったわ!
「ナナチャは確かに普通の動物じゃないな」
「ニコラがキメラじゃないかって」
「かもな。魔獣かもな」
「可能性はあるわね」
「ルーシの従魔なのか?」
「はい」
「会った時から?」
「いいえ。途中でルーシが受紋を迎え、テイムのスキルを授かったので俺が提案しました」
「なるほど。理由は?」
「ずっと2人で暮らして居たみたいなので連れ出して離れ離れにさせるのが忍びなかったからです」
「たしかに、キメラにしろ魔獣にしろ、どこぞの学者が食い付きそうだはな。いいんじゃないか?社会的には浅はかだろうが、そんな事、百も承知なんだろ?」
「はい」
ジークリットさん、話の分かるいい男じゃない。
「新種の魔獣って事にした方がテイが良さそうだな」
「そうね。その方が目立たないわね。ルーシ、もし誰かに聞かれたらそう答えなさい」
「‥‥うん」
とりあえずそれで一安心なかな?
「ルーシ、後日、君を教会に連れて行かなければならない。ので、ここで質問しても無意味だから控えるは」
第2関門か、そっちに腰据えろって事ね。
「後日っていつ?」
「期日は明後日の正午。俺とルーシ、ナナチャ。それにお前達の中から1名の出頭を求められている」
「明後日?じゃぁ、それまでルーシはどうするの?」
「ああ、元々期日まで保護して貰えないか打診するつもりだったんだ。なのにガイウスの野郎、わざわざ使い寄越しやがって」
声色に雑さが加わった。
質は変わらないのに色はコロコロ変わる低音。意外と感情豊かなのかも。
「ガイウス様とは知り合いなの?」
「ああ。高等部の同級生だ」
「ジークリットさんて学園出てるんだ」
「ギルド長ですもの。学園くらいでてるわよ」
この国の住民はだいたい学園を卒業しているって聞いてたんだけど、茶化してるのかな?
「ああ。生まれが割りと良くてね。上手く育ちはしなかったけど」
それにジークリットさんも乗っかる。
「その様ね」
「・・・・」
女性陣は執拗に彼をイジるわね。
親しみ易いのか、なめてるのか。
「で、誰が行く?行きたい奴は?」
誰も反応しない。 出頭って響きが悪いわ。
「おいおい。Aランク冒険者にもなって教会嫌いか?」
「嫌いとかじゃないでしょ。苦手なのよ。そう言うの得意な人ってギルドに居るの?」
「まぁ、居ないわな。得意だったら別の仕事してるは」
ジークリットさんと神父様って剃り会わなそう。
「私が行くわ」
リネットが名乗りを上げる。
「助かるよ。誰と謁見するのか聞かされてないんだが、無意識にこちらを下に見る奴も居るから堪えてくれな」
「大丈夫。ジークリットさんよりは堪え性あるから」
「はっはっは。間違いないな」
ジークリットさんが笑う。
「そう言えば、ガイウスがしゃしゃり出て来たって事は、何か無理難題押し付けられたんじゃないか?」
「そんな事はないですけど、今晩食事に招待されました」
セドリックは丁寧に話すのね。まぁ、同性だから砕けて話せないとかあるものね。
「ガイウスさんてどんな人?偉い人だから気疲れしちゃいそう」
「公の場ならともかく、私的な招待だろ? だったら普通にしてればいい。彼奴も畏まられるの嫌がるだろうし」
「2人、仲良しそうだよね」
「仲良しなんかじゃねぇよ。まぁ同類ではあるがな」
「あぁ、問題児なのね」
「はっ、違いない」
ジークリットさんが笑う。
イジられるの嫌いじゃないのね、きっと。
ちょっとMなのかしら。だったら逆にそそるわね。
「それはそうと、帰って支度したいわな。こちらからの用件は済んだから、そちらから何もなければお開きにしようか」
「そうね。じゃぁ、おいとまさせて貰って宿に戻りましょうか」
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