上 下
9 / 120
1章

【8】パルイ村

しおりを挟む

「このままだと着く頃には真っ暗ね」

 既にだいぶ急いで走らせてると思われる衝撃とスピード。

 亡くなった方々を埋葬し、倒れた馬車から大事な物と少々の食料を積み直してからその場を離れた。
 埋葬と言っても直ぐ掘り返してちゃんとした墓地に埋葬し直すからって事で、浅めに土を掘って虫が着かないように布にくるんで埋めてた。
 なんでも、埋葬には魔法もスキルも使わないのが礼儀らしくって持ち合わせのシャベル2本で掘ってたからそれなりな時間が掛かってしまった。

「もっと急いだ方がいいな。日没には着きたい。リネット頼む」
「了解」

 セドリックに言われ、荷台のリネットが床に手を着ける。

「あ、いけない。 ロジバールさん、ルーシ、これからスキル使うからスッゴく馬車が弾むわよ」
「壊れてしまいそうな物はこの箱の中にしまって下さい」
 ニコラが木箱の蓋をあける。
ポーションの入った小瓶と藁が入っている。

「私はこれだけお願い致します」

 ロジバールさんが託したのは煙草の箱を2つ重ねた位の大きさの上等な箱が2つ。

「それじゃぁ、しっかり掴まっててね」

 リネットが再度床に手を着くと馬車速度が爆上がりした。
 たしか、触れた物を軽くするスキルだったわね。
 弾むって表現は的を射ている。揺れるってもんじゃないわ。
 みんな必死にしがみついてて、よく振り落とされなかったと思うし、馬車旅に慣れてるからってよく酔わなかったと思う。

 とんでもない揺れを我慢したお陰で、日没直後のうっすら明るい間に村に到着する事が出来た。
 入り口で馬車を停めると村人が集まって来くる。

「この前の冒険者さんか。どうしたんだ?」

 口ひげを蓄えたガタイの良い、青年団長みたいな男が声を掛けてきた。
 もうスピードで馬車が駆けつければ、何かあった事くらいは察するわよね。

「一旦降りるから、ナナチャの首にこれ巻いて」

 渡されたのは短い縄。
 首輪しろってのね。わかったわ。

「15キロ程先でモンスターの群れに遭遇しました」

 馬車を降りてセドリックは声を張った。
 村人たちはどよめいてる‥‥喜んでる?

「やったぁ!」
「これで村も潤うぞ」

 モンスターが歓迎されるなんて不思議ね。セドリック達はそんな素振り見せなかったのに。

「喜ぶにはまだ早いです!」

 よりいっそう声を張った。

「皆さんはダンジョンの周囲何キロまでモンスターが徘徊するかご存知ですか?」

 誰も答えない。

「平均10キロだと言われています」
「15キロ先だったんだろ?じゃぁ大丈夫じゃないか」
「俺達はモンスターを見たのであって、ダンジョンを確認した訳ではありません。もし遭遇した所が領域の端だったとしたら、パルイ村は圏内に入ります」

 なるほど、半径10キロって事ね。
 あのコボルトが村に来たらパニックになるわね。

「ギルドには報告済みなので、3、4日で兵隊が来るでしょうが、それまでに襲われない様に夜通し警戒する事をおすすめします!」

 村人はやっとざわついた。

「無駄になる可能性は?」

 団長は組んでる腕を上下組み換えた。

「あります。圏外かもしれませんが、俺は今回のダンジョン領域は15キロあってもおかしくないと思ってます」
「何でそう思うんだ?」
「通常、ダンジョン外に現れるモンスターはゴブリンです。それは、1番弱い種類が追いやられてるからだと言われています。それが、今回はコボルトでした。という事は強力なダンジョンが出現したのだと考えられ、その場合領域が平均以上あってもおかしくありません」
「ゴブリンとコボルトのどっちが強いかなんて俺たちにゃわかんねぇし、何せ喋り方が堅苦しくて難しい。もっと簡単に説明してくれ。」
「‥‥経験と勘です」
「お前の信頼度は?」
「Eランクから始めたパーティーがAランクになるまで戦って来た事でしょうか」
「‥‥ん、わかった。」

 結局最後は心意気?
 男の会話って感じで好きよ。アタシはそういうの。

「冒険者なんだったら、お前達が守ってくれないのかよ」

 群がってるどっかからの発言。誰が喋ったのかわからない。
 どこにでもそういう男らしくない奴は居るのね。

「それは依頼かしら?」

 ヴィオラが言った。
彼女、そういう男、嫌いそう。

「わたし達は依頼の遂行中なの。今受けている依頼が最優先だし、この村を守るのを生業にしてる訳じゃない。立ち寄って知らせてる事自体只の善意よ。あなた達の村でしょ?自分達で守るって気迫見せなさいよ。その方が断然カッコいいわ」

 スタイル良くて、美人なのに幼さの残る顔をした若い娘。ヴィオラって絶対男受けいいわよね。
 そんな女にイラっとさせられた後に発破掛けられて、尚且カッコいいとか言われたら、みんな鼓舞されちゃうわ。
 男って単純。
 女性陣には響いて無いっぽいけど。

「馬を休ませたいので、今晩滞在させて下さい。その間は我々も警備に協力します」
「おう、ありがとう。また村長宅に泊まってもらう事になると思う。おれも着いてくから、もう一度村長に話してもらいたい」
「儂ならここに居るよ」

 おばあちゃんが現れた。
 足が丈夫なのね、腰がひん曲がってるのに杖は使ってない。

「話は聞いてたよ。儂の家で休むといいさ。人数が増えてるね。夕食は孫に手伝って貰うかね」

 口調はキリッとしてるのに、柔らかい雰囲気のおばあちゃんだ。

 村全体平屋で、村長の家が1番大きそう。
 入ると間取りの大半が居間だった。
集会場も兼ねてるみたい。

「知らせてくれてありがとね」

 村長が囲炉裏で沸かしたお湯でお茶を淹れてくれてる。

「先日お世話になりましたから」
「世話はしたが、対価を頂いたからねぇ。恩を着る必要はないて」

 玄関入ったら土間で奥が台所。お孫さんが料理している背中が見える。

「若い連中は浮かれとるが、お主らはどう思う?」
「今回のダンジョンは調査次第ですが、危険なダンジョンだとなると封印されると思います」
「封印にはどれくらい時間がかかるんだい?」
「規模によりますが、1ヶ月から1年位でしょうか」

 淹れてくれたお茶は烏龍茶みたいな色をしている。
 村長がお茶をすすったのでセドリックは一呼吸入れてから話を続けた。

「その間は人の往来が増えるでしょうが」
「その後は閑古鳥が鳴くねぇ」
「‥‥はい」
「もし、この村が領域ってのの中にあるのだとしたら?」
「封印されるまで避難するか、村を移すかになると思います」
「裕福な村じゃ無いからどちらも難儀だねぇ」

 村長がため息を付く。

「お主達に依頼したいのじゃが、兵隊が来るまでの間の警護を。
報酬は相談なんじゃが」
「‥‥実は今護衛の依頼を受けてまして、依頼主を危険にさらす訳にはいかないのです」
「そんはそうじゃのう。無理強いも出来んて」

 セドリックの視線で村長は誰が護衛対象なのか察したみたい。

「私の事は気にしないで下さい。緊急事態ですし。身を守る術は持ち合わせてますので」
「‥‥分かりました。みんな受けてもいいかい?」

 セドリックが見渡すとみんな頷いた。

「交渉も任せるわ」

 ニコラが言う。

「では、お引き受けするに当たって条件と報酬についてお話したいのですが」

 セドリックが村長に向き直って話を進める。

「ああ、そうじゃね。聞かせておくれ」

 村長がちょっと身構えた様に感じた。

「警護にあたるのは4人。それを二手に分けて交代で休息を取りながら行いたいです」
「ああ。それでいいよ。いざと言う時、全員寝不足じゃもともこもないしのぉ」
「はい。で、報酬の方ですが」

 村長がさっきよりも身構える。足下見られるかも知れないものね。

「滞在中の宿と食事を賄って頂きたいのと、もしモンスター現れてそれを退治した場合、魔石は回収させて下さい」

 村長の顔が拍子抜けしてる。

「‥‥そんなんで良いのかい?」
「はい。何も起こらなければ毎食ご馳走して頂くだけになりますから。妥当だと思います。」
「それはありがたい。正直、吹っ掛けられる事も覚悟してたからねぇ」
「でしたらお願いしたい事があるんですけど‥‥」

 リネットが割り込む。

「なんじゃい?聞いてから決めるで構わないかい?」
「はい。有ればで構わないんですが、この子の着る服と靴をお下がりして頂けませんか?」

 ルーシの肩に手を置く。

「それなら孫のお古があるじゃろうて。持って越させよう」
「ありがとうございます」

 ローブの下は今だにすっぽんぽんだもんね。
 リネット、ナイス。

「ついでにもう一つ良いですか?」

 今度はヴィオラ。

「それも聞いてからでいいかい?」
「リュックを下さい。このウサギが入る位のを」

 アタシ? 鳥籠の次はリュックに入れられるの?

「ああいいよ。服と一緒に持って越させよう」

 たしかにリュックに入ってれば翼隠れてじろじろ見られないわね。
頭は出してれば退屈しないだろうし、何よりかわいいかも。

「後出ししてごめんなさい」
「なんの。それでも安価じゃよ」

 村長が頭を下げる。

「それでは成立と言う事で、食事を頂いてから開始します。まずは俺とニコラ。日が登ったら交代。リネットは空から見廻る様にしてくれ。後は6時間交代を基本にリネットがなるべく日中になる様に俺と調整しよう」

 夜は空から見回らないのね。暗いもんね。
 そしたらアタシも参加しようかしら。夜目効くし。

   「ルーシ、伝えてくれる?」
「ナナチャもやるって。暗くても見えるから夜飛ぶって」
「それだと助かるな。リネットと交代で頼む」
「うん」
   「なんかあったら起こすから、ルーシは寝ててね」
   「うん。頑張ってね」
「それじゃぁ、夕食頂こうか」

 芋とスープとピクルス。質素だけど美味しい屋内ご飯。
 これからもこう言う食事をルーシにさせてあげたいわね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...