上 下
8 / 120
1章

【7】老紳士との出会い

しおりを挟む

 文字の勉強が一段落して、次は算数になった。
 数数えるとか数字書くとかは直ぐに覚えたけど、計算は苦手見たい。
 指の数異常の計算になると躓いてる。
 目の前に無い物を足し引きしろって、考えてみたら想像力が必要よね。
 馴染みないんだから難しいわ。
 まぁ、必要に迫られた時にアタシがフォローしてあげればいいでしょ。

「なんか、前、変じゃない?」

 手綱引くセドリックの隣にいつも座るヴィオラが何かに気づいた。

「ちょっと望遠鏡かして」 

 リネットが前を覗き込み、目視じゃ確認出来ないと分かると、ヴィオラから望遠鏡を受け取って屋根の上に飛び乗った。

「馬車が1台、倒れてるわ。回りで大人数争ってる‥‥ 強盗? 魔獣かも!」
「急ごう」

 リネットが戻ると馬車は速度を上げた。
 アタシも前に出てみる。1キロ先かな、砂ぼこりが見える。
 揺れる馬車内で、各々武器を手にする。

 200メートル辺りでまで近づくと状況が把握出来た。
 横倒しになってる馬車の上や回りに二足歩行の狼が10体。
 身なりのキレイな白髪のおじさまを囲んでる。

「コボルトよ!」
「助けるぞ!」
「ニコラ、馬車お願い」

 馬車を止め、セドリックが飛び出し、後をヴィオラが続く。

「ルーシは中で待っててね」

 リネットは上空から二人を追い、大きな弓に矢を構えた。
 馬と数人の男が倒れてる。遣られたてしまったんでしょう。
 ニコラは操縦席で立っている。
 その隣にいるアタシにルーシは寄って来て後ろから抱きついてる。

 セドリック達に気が付いたコボルトなるモノが標的を彼らに変えた。
 おじさまの方に3体残っているので、7体が向かってくる。
 先頭の一体が牙剥き出しでセドリックに飛びかかる。
 それを剣を抜きがてら横切り。
 太くて重そうな剣がコボルトの体を両断した。
 その瞬間切られたヤツは黒い煙になって消えた。

「こいつらモンスターだぞ!」

 続き様に3体が同時に襲いかかる。
 抜ききった剣を戻す様に防御。
 左の1体の喉元に刺さり、そいつも煙になった。
 真ん中の1体は剣に、右は籠手に噛みついている。
 噛みついた瞬間にはヴィオラが2体の後ろに回り込んでいて、首を落とした。
 ヴィオラはオーソドックスな剣ね。

 そんな戦いをしてる脇を抜けて残りの3体がこっちに向かってくる。
 その中の1体が、空から放たれた矢に刺さり体勢を崩す。
 そこをいつの間にか追い付いたヴィオラが剣を振り下ろして一撃を与える。

 残りの2体は二足歩行をやめて四足で猛進してくる。
 倍くらい速度が上がってる。
 こちらはナイフを持ったニコラと丸腰のルーシのみ。
 飛び掛かって来たらファイヤー喰らわしてやるわ。

「プアトシャハリアライェティドルタクヒルイブラクラジャフラウ『氷柱』!」

 馬車まで10メートルに迫った時、地面から氷の円錐が2つ突き上がり、コボルトに突き刺さった。
 1体は黒煙になり、もう1体は腹にささり、空中でもがいてる。
 そこにリネットの矢が刺さり、そいつも黒煙になった。


 気が付けばセドリックとヴィオラがおじさまの側に到着してる。
 まだ居た3体もいつの間にか倒してたみたい。
 氷柱がシュッと消え、ニコラが馬車を進める。
 そこにリネットが降りてきた。

「怖かったかよねぇ」

 そう言いながらルーシの頭を撫でる。


「ポーションを頼む!」

 おじさまは緊張が解けたのか細めの剣を杖にして膝を着いている。
 リネットは一旦荷台に戻り、小瓶を取って飛び出していった。
 3人の側で着地すると小瓶の中身をおじさまに飲ませた。

「助太刀して頂いたばかりかポーションまで頂いて恐悦至極に御座います」

 おじさまは立ち上がり深々頭を下げた。
 執事の様な身なりで背広の背中がざっくり切れちゃってる。
 コボルトに遣られたのね。
 傷はポーションの効力で治ってるけど、あまりにも大きく広い切れ目だから相当深い傷だったんじゃないかしら。
 よくそれで1人で戦ってたわね。
 ルーシが目的はあるけど自信が無い風におじさまに近づいて行く。

「どうなさいましたか?お嬢さん」
「ルーシは男の子よ」
「これは失礼しました。ルーシ殿」

 髪は伸びっぱなしで長いし、ローブ着てて、可愛い顔してるからそりゃ間違えるわよね。
 ルーシは特に気にするでもなく背広を触った。
 すると破れたに黒い渦が現れ、消えると元通りに直ってる。

「おお、これは貴方のスキルですか?大事な服だったので、感謝致します」

 おじさまはまたお辞儀した。

「私、王都に帰る途中なのですが、何処かご一緒出来る町でお礼させてください」
「俺達も王都に向ってる所です」
「なんと偶然。それでしたら王都でお礼させてください頂いたい。申し遅れましたが、私ロジバールと申します」

 各々名乗ると、リネットが薄紫色の結晶を広い集めて来た。 
 コボルトが消えた時に残された結晶だ。

「18個あるわ」

 結晶が1体に付き1個なのだとしたら、ロジバールさん達は8体倒したのね。
 倒れてる男達も奮闘したんでしょう。噛み千切られた後がいくつもある。

「彼らは貴方の従者ですか?」

 人数は5人。みんな鎧を着てる。

「いいえ、私はそんな高位な者ではございません。とあるお方に仕えてる執事で御座います。主人の言い付けでアルハスに訪れる際に道に明るい彼らを雇ったので御座います」
「ギルドで?」
「左様で御座います」
「なら。今からギルマスに報告するからギルドプレート集めてくれない」
「直ぐに連絡出来るのですか?」

 ニコラがビー玉を見せる。

「魔信具をお持ちとは。。重要な任務の最中なのでは御座いませんか?」
「終わって帰る所だから大丈夫ですよ」

 なくなった5人の冒険者を1ヶ所に集めてプレートを外しニコラに渡す。

「ハイランクな冒険者だっただろうに‥‥」
「Bランクだと聞きました。初めてお会いする方々でしたが、とても気さくで素敵な方々で、とても楽しい旅を送って居たのに、この様な事になり、悔しくてなりません」

 ロジバールさんはうなだれている。

「モンスターが出たって事は、近くにダンジョンがあるって事よね。この辺りには元々なかったから、最近出現したって事よね。だったら警戒出来なくても仕方ないわ」

 ヴィオラが言う。

「それがコボルトの群れなんてレアケース、わたし達だったとしても苦戦したでしょうね」

 彼女なりの慰め方なんでしょう。

「報告済んだわ。亡くなった彼らに替わってロジバールさんを護衛してって。OKしたけど良いわよね?セドリック」
「ああ。もちろんだよ」
「それはありがたい。宜しくお願い致します」
「直ぐに調査隊が来るでしょう。馬車は目印になるからそのままにしといて欲しいって。ついでにメッセージも残しとけば今後通る人も注意するでしょう。ここに長いするのは得策じゃないから、彼らを埋葬して近くの村に向かいましょ」
「行きに立ち寄った村なら半日位で着くはずだよ」
「って事は圏内かも知れないわね‥‥」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...