1 / 7
1・転生する話
しおりを挟むその男は善人ではない。
偽善的でもなければ悪人でもない。
老人に席を譲る時もあれば、勇気が出ず、寝た振りをする時もある。
お釣りを貰う前に財布を締まってしまったので募金する。
普段は冷静なのにたまにはしゃいで失敗する様な、気分と状況に左右される至極ありふれた男だ。
なので、何故自分がこの様な事になっているのか疑問に思っている。
「どなたでしょうか?」
目の前に佇む、髭と名の付く毛を全てたえている老人に声を掛ける。
「意識がハッキリした様じゃな」
老人は見た目よりも若々しい声をしている。
「我はリシギアの主神、ウゼスである」
その為か威厳を見せる口調が少し滑稽に思える。
「ここは何処ですか?」
雲の上まで突き抜けた山の山頂の様な風景。
「お主の世界で言う所の三途の川じゃ」
「僕の世界‥‥」
「お主にはリシギアで新たな生を受けて貰う」
「異世界転生‥‥」
「やはり、アースの民は理解が早い」
「何故ですか?」
「ん?」
「何故僕なんですか?」
1番の疑問をぶつける。
「それはお主の死亡理由が善行で不運だったからだろうのう」
言われて思い出す。
その日は確か休日で、昼過ぎに起きて寝ぼけながらアパートのベランダで煙草を吸っていると、なにやら外が騒がしかった。
下を覗くと騒いでいる人々は皆、男の上を見ている。
「上、上!」
言われて見上げると1つ上の階のベランダに子供がぶら下がっていた。
「助けてあげて!」
そんな声に絆されて体を乗り出すと子供が力尽きて落下。
「ぐふ!」
子供の足がもろに顎に当たり、ひっくり返って共に落ちていく。
子供を抱きしめていた様に思うが、そこから男の記憶はない。
「なるほど。でもそれくらいで選ばれるんだ‥‥」
「我は条件を決めて召喚しただけで、お主になったのは偶々だと思われるぞ。幸運じゃったのう」
ウゼスは顎髭を触りながら笑っている。
「でも誰かが決めているんですよね? 僕の世界の神様とか?」
「ん? アースに神はおらんぞ?」
敬虔では無いが、居ないと言われると苛立つ。
愛国心が無いのに自国をバカにされるとムカつくのと同じ原理か。
「少し語弊があるな。お主等の偶像する神はおらんが、信仰する神はおわす。その方は我にとっても神でいらっしゃる。その方の采配かもしれんの」
「よく分かりませんが」
「理解させるつもりは無い」
たまに上から目線が強くなる。
神と人間なのだから仕方ないのだか敬虔でない彼には、物腰が柔らかい分余計に鼻に付く。
「で、何かさせたいわけですか?」
感情が声色に出てきている。
「うむ。お主にはリシギアで生まれ変わって、邪神共を討伐して貰いたい」
「‥‥嫌です」
「は?」
「嫌です。だって、異世界転生って言ったらチート能力貰ってスローライフでしょうが!!」
この時、はしゃいでしまった事を後々後悔する。
「貴様、何を言っているのだ?」
「そもそも自分で遣りなさいよ。神様同士なんでしょ?」
「それが出来ないからこうしてワザワザ召喚したのではないか!」
ウゼスも声を荒げる。
元々少なかった神々しさが薄れる。
「だったらまた召喚したらいいんじゃないですか?」
「そんな易々と出来る行為だと思うのか!」
「じゃぁ出来る様になるまで待ったらいいじゃないですか。神様って不老不死なんでしょ?」
「なんたる不敬。なんたる不遜!」
ウゼスが憤慨して悶える。
「今すぐに消滅させてくれるわ!」
「いいんですか?あなたにとっても神な存在が僕を選んだんでしょ? 殺したらそれこそ不敬じゃないですか?」
「‥‥忌々しい奴め」
ウゼスは振り上げた拳を下ろす。
その拳にはバチバチと稲妻が走っていて、男は喰らわずに済んで良かったと安堵する。
「わかった。リシギアに転生させる。だか、お主は呪われる事となるだろう」
「え?」
突然足元に穴が空く。
「違う、そうじゃないぃぃぃぃ!!」
男は叫びながら落下していった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……


今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる