神に呪われた男が英雄にされる話

ツワ木とろ

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1・転生する話

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 その男は善人ではない。
偽善的でもなければ悪人でもない。
 老人に席を譲る時もあれば、勇気が出ず、寝た振りをする時もある。
 お釣りを貰う前に財布を締まってしまったので募金する。
 普段は冷静なのにたまにはしゃいで失敗する様な、気分と状況に左右される至極ありふれた男だ。

 なので、何故自分がこの様な事になっているのか疑問に思っている。

「どなたでしょうか?」

 目の前に佇む、髭と名の付く毛を全てたえている老人に声を掛ける。

「意識がハッキリした様じゃな」

 老人は見た目よりも若々しい声をしている。

「我はリシギアの主神、ウゼスである」

 その為か威厳を見せる口調が少し滑稽に思える。

「ここは何処ですか?」

 雲の上まで突き抜けた山の山頂の様な風景。

「お主の世界で言う所の三途の川じゃ」
「僕の世界‥‥」
「お主にはリシギアで新たな生を受けて貰う」
「異世界転生‥‥」
「やはり、アースの民は理解が早い」
「何故ですか?」
「ん?」
「何故僕なんですか?」

 1番の疑問をぶつける。

「それはお主の死亡理由が善行で不運だったからだろうのう」

 言われて思い出す。


 その日は確か休日で、昼過ぎに起きて寝ぼけながらアパートのベランダで煙草を吸っていると、なにやら外が騒がしかった。
 下を覗くと騒いでいる人々は皆、男の上を見ている。

「上、上!」

 言われて見上げると1つ上の階のベランダに子供がぶら下がっていた。

「助けてあげて!」

 そんな声に絆されて体を乗り出すと子供が力尽きて落下。

「ぐふ!」

 子供の足がもろに顎に当たり、ひっくり返って共に落ちていく。
 子供を抱きしめていた様に思うが、そこから男の記憶はない。

「なるほど。でもそれくらいで選ばれるんだ‥‥」
「我は条件を決めて召喚しただけで、お主になったのは偶々だと思われるぞ。幸運じゃったのう」

 ウゼスは顎髭を触りながら笑っている。

「でも誰かが決めているんですよね? 僕の世界の神様とか?」
「ん? アースに神はおらんぞ?」

 敬虔では無いが、居ないと言われると苛立つ。
 愛国心が無いのに自国をバカにされるとムカつくのと同じ原理か。

「少し語弊があるな。お主等の偶像する神はおらんが、信仰する神はおわす。その方は我にとっても神でいらっしゃる。その方の采配かもしれんの」
「よく分かりませんが」
「理解させるつもりは無い」

 たまに上から目線が強くなる。
 神と人間なのだから仕方ないのだか敬虔でない彼には、物腰が柔らかい分余計に鼻に付く。

「で、何かさせたいわけですか?」

 感情が声色に出てきている。

「うむ。お主にはリシギアで生まれ変わって、邪神共を討伐して貰いたい」
「‥‥嫌です」
「は?」
「嫌です。だって、異世界転生って言ったらチート能力貰ってスローライフでしょうが!!」

 この時、はしゃいでしまった事を後々後悔する。

「貴様、何を言っているのだ?」
「そもそも自分で遣りなさいよ。神様同士なんでしょ?」
「それが出来ないからこうしてワザワザ召喚したのではないか!」

 ウゼスも声を荒げる。
 元々少なかった神々しさが薄れる。

「だったらまた召喚したらいいんじゃないですか?」
「そんな易々と出来る行為だと思うのか!」
「じゃぁ出来る様になるまで待ったらいいじゃないですか。神様って不老不死なんでしょ?」
「なんたる不敬。なんたる不遜!」

 ウゼスが憤慨して悶える。

「今すぐに消滅させてくれるわ!」
「いいんですか?あなたにとっても神な存在が僕を選んだんでしょ? 殺したらそれこそ不敬じゃないですか?」
「‥‥忌々しい奴め」

 ウゼスは振り上げた拳を下ろす。
 その拳にはバチバチと稲妻が走っていて、男は喰らわずに済んで良かったと安堵する。

「わかった。リシギアに転生させる。だか、お主は呪われる事となるだろう」
「え?」

 突然足元に穴が空く。

「違う、そうじゃないぃぃぃぃ!!」

 男は叫びながら落下していった。
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