代償【リレー小説】

1/3 食欲

Ｒ-６

　男は、腰が抜けたらしい。

　ずるずると床に崩れ落ちた。

「来ないなら殺す。
他の奴には足だったけど、眉間に当てるよ」

　そうさらに告げる。

　男はひいひい言いながら、土間で犬かきを始めた。

　上半身だけで必死に歩こうとする。

　下半身からは、湯気が立ち上っていた。

　まぁ、いい。

　逆に食欲を刺激されなくて済む。

　女子供だったら、我慢できなくなったかもしれない。

　男の襟首を掴むと、強引に立たせた。

　そのまま、その男を盾に浜納屋に向けて歩き出す。

　もう、後を追ってくる者はなかった。

　浜納屋の正確な位置は判らなくても、近くまで行けばあの老人の臭いがするだろう。