幼なじみこんふりくと

日南乃子

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夏祭り4

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末社の階段に座り、ぼんやりと少し遠くの人混みを眺める。
颯馬はなかなか帰ってこない。
「そまくん……大丈夫かな」
少し視線を上げると雲が厚くなっている気がするが、颯馬が帰ってくるまでここを離れられない。
幸い、末社には屋根があるので、もし降りそうなら少し雨宿りさせてもらおうと考えていると、急に名前を呼ばれ驚く。
「飛鳥……茅野は一緒じゃないの?」
そこに居たのは浴衣姿の京一だった。
すらっとした長い手足がチラチラと見え、とても色気がありついつい見惚れてしまう。
「きょーちゃんも夏祭りに来てたんだ?」
「……うん。昴くんと2人でね。ちょっと今は、はぐれてしまったんだけど」
「そっか、すばくんも元気にしてる?」
「うん」
そんな会話を交わすとお互いに何を話せばいいのか思いつかず沈黙が二人を包む。
ふと、京一の視線が下がる。
「……飛鳥、どうして裸足なの?」
「え?あー……さっきそこで足が痛いって泣いてる子がいたから、あげちゃった。だから僕はここでそまくんを待ってるの」
「飛鳥らしいね……」
京一は優しい目をして笑い、階段に座る飛鳥の横に並ぶように腰掛ける。
「ねぇ、飛鳥……君は今、茅野と付き合ってるって本当なの?」
「えー、それ誰から聞いたの?……うん。そうだよ」
できるだけの笑顔でそう答えると、京一の表情が悲しそうに歪む。
「なんできょーちゃんがそんな顔するの?」
京一のこういう表情を見ると胸の奥が詰まる。小さい子をあやすように、京一の頭を肩に乗せ、両腕で包み撫でてあげる。
空からは雨粒がぽつりぽつりと零れ始めた。
「どうしたの?すばくんと何かあったの?」
そう問いかけると京一の頭は少し横に揺れた。
「じゃあ何?そまくんに、すばくんのことで何か嫌なことでも言われた?」
それにも頭は横に揺れる。
「飛鳥は茅野のことが好きなの?あんな……」
そう言ったきり京一の口から続く言葉はいつまで経っても聞こえてこない。
京一の髪を撫でていると、京一の問いに対する素直な気持ちを伝えてみてもいいのではないかと思えた。
「僕、本当はね……今でもきょーちゃんのことが好きだよ」
その言葉に頭がぴくりと動いた。
「でも、そまくんの想いを知って、恋人として過ごしてて思ったんだ……多分こうしてそまくんと1年、2年、って時間を積み重ねて行けたら僕の1番はそまくんになるんだろうなって」
Tシャツの袖を静かに掴まれ、その手が小さく震えている。
それを見て撫で方を変えながら続ける。
「僕、そまくんのことも好きだよ。だから、きょーちゃんがそまくんこと好きじゃなくても、きょーちゃんには僕たちのこと、おめでとうって言ってもらいたい」
肩にジワリと温かいものが触れ、熱を奪っていく。
いつの間にか雨脚も強まり、賑わっていた通りに人の姿は見えなくなっていた。
「きょーちゃんも……すばくんと一緒に幸せでいてね」
そう伝えると京一は顔を上げ、涙でいっぱいの瞳を隠すこともなくまっすぐ見つめてくる。
「飛鳥……俺も飛鳥のことが誰よりも好きだよ」
どうしてそんなことを言うのだろうと思った。
誰よりも好きなのに一緒にいられないならそんな言葉になんの意味があるのだろう。
京一なりの優しさなのだろうかと笑ってしまう。
「……きょーちゃんの嘘つき」

通りに人の賑わいが再び戻り始める。
通り雨は止んだようだ。
颯馬が来るまで待っていようと思っていたが、これだけの雨では颯馬も濡れてしまっているかもしれない。少しでも早く家に帰って風邪をひかないようにしてあげたくなって、「駅で待ってる」とメッセージを打ち、飛鳥は裸足のまま濡れた石畳の上に立って歩き出す。
「待って、飛鳥……」
京一は慌てて自分の雪駄を脱ごうとするが、飛鳥はそれを制するように、振り返り笑顔で手を振る。
「ばいばい、きょーちゃん」

その笑顔に京一は動けないまま飛鳥の背中を見送った。
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