幼なじみこんふりくと

日南乃子

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はじまり

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梅雨が終わり、日差しが強くなってきた日曜の夕方。飛鳥は所属する水泳部の他校との練習試合を終え、相手校のロッカールームから出た。スマホには不在着信が3件。名前を確認すると、すべて同じ名前で茅野颯馬かやのそうまと表示されていた。飛鳥はその番号に電話をかけなおす。

「もしもし?そまくん?うん、今終わった……え?うん。いや、いいよ。そまくんだって、剣道部の試合の応援だったんでしょ?時間までには帰るから、すばくんとゆっくりしてて」

電話を切りため息をつく。電話の相手は幼馴染である颯馬で、今日は練習試合の後、颯馬の家でもう一人の幼馴染である昴と三人で夜の8時から夕飯を食べる約束をしている。
今は夕方5時前で約束まで時間がある。それにも関わらず試合が終わったのなら迎えに行くと颯馬は言い出すので丁重に断った。

飛鳥がスマホをジャージのポケットに仕舞うと、後ろからタイミングを見計らって聞きなれた声が飛鳥を呼び止めた。
「お、電話終わった?相変わらずだな、颯馬の過保護は」
声を掛けてきたのは同じ水泳部所属のクラスメイトであり親友でもある七峰雷斗ななみねらいとだった。
雷斗は細身で飛鳥より5㎝ほど背が高い短髪の豪快でおおらかな性格の気持ちがいい人物だ。雷斗はいつもの飛鳥と幼馴染たちとのやりとりを思い出し笑った。

「ね、僕らもう高校生なのにね」
「ところで飛鳥はこの後どうする?俺は腹減ったからちょっとなんか食って帰ろうと思うんだけど……」
「あー。僕はそまくんとすばくんと夕飯一緒に食べる約束してるからあんまり食べて帰れないんだよね」
飛鳥と雷斗は帰りにどこかに寄るか相談をしながら校門へと向かった。



「……飛鳥?」
校門のすぐ横に位置する駐輪場から声がし、飛鳥はそちらを振り返った。すると、身長180㎝以上はあろう長身の男子学生が様子を窺うように飛鳥を見つめていた。
「ねえ、君は咲洲飛鳥さきしまあすか?」
柔らかく温かみのあるストロベリーブロンドの髪に碧眼の色気のある目元の不思議な雰囲気に魅せられ、飛鳥は一瞬問いかけに答えることができなかった。

「あ……えっと。そうだけど」
飛鳥がそう答える、男は飛鳥に駆け寄り、すっぽりと腕の中に飛鳥を収めてしまった。
(この人……すごく大きいな)
飛鳥は168㎝という自分の身長と比較して体格の良さに感心してしまったが、ふと我に返り自分の頭の上にある男子学生の顔に向かって問いかけた。
「いや……だれ?」
すると男は飛鳥から少し体を離し、申し訳なさそうな顔をした。
「ごめん、驚かせちゃったよね。……俺は、天賀谷京一あまがやきょういち。昔はきょうちゃんって呼ばれてたんだけど……覚えてないかな?」
「きょーちゃん?」
飛鳥は思い出そうと口元に右手を当て考えるが思い至る人物がいない。
うんうんと唸る飛鳥を見た京一はハッとしたように背負っていたリュックを漁り始めた。
「あ、これなんだけど……」
京一が学生手帳の間から一枚の写真を取り出し飛鳥に手渡す。
飛鳥はそれを見て「あっ」と声を上げる。
そこには幼稚園小学校に入りたてくらいの自分と、金髪でショートボブのかわいらしい女の子が一緒に写っていた。
(この子には見覚えがある……)
「きょーちゃん!?」
「うん!」
京一はとても嬉しそうに返事をするが、飛鳥は頭が痛かった。その写真に写っている子は自分にとっての初恋の相手だった。
自分よりも背の高いイケメンに成長した初恋の相手に再会してしまうとは……。
嬉しそうな京一とは対照的に、飛鳥の笑顔は引き攣っていた。



 突然の幼馴染との再会を果たしてしまった飛鳥は、雷斗に断わりを入れ、雷斗とは校門で別れた。
この辺りの地理には疎く駅までの道程度しかわからない飛鳥は、8時までには帰宅しなければならない事を京一に伝え、相談して駅前のコーヒーショップでお茶でもしながら話をしようということになった。京一に先導してもらい、京一はブラックコーヒーを注文し、飛鳥はアイスココアを京一に奢ってもらった。このコーヒーショップは2階建てになっていたので、2人は2階の奥の窓際のカウンターに並んで座った。

「きょーちゃん、すごいよね。よく僕のことわかったね?」
飛鳥はそう切り出した。自分は京一を女の子だと思っていたこともあり、声をかけられても全く誰なのかすらわからなかったのが少し悔しくてそんなことを言ってしまう。
「飛鳥は昔と変わらないから」
京一は飛鳥を優しい目で見つめながらそう言った。
「え……僕そんな成長してない?」
飛鳥は自分の身長が幼馴染や親友の中で1番小さいことを気にしているため思わず自分の頭を撫でてしまう。
「あ、そういう意味じゃなくて……なんていうか、元気で溌剌としてて笑顔が可愛いところとか」
京一は頬を赤らめながら飛鳥のことをそう表現した。
「はは、何それ。可愛いなんて女の子にいう言葉じゃない?でも、褒めようとしてくれたんだよね?ありがとう」
うっかり自分のネガティブな捉え方のせいで京一に気を遣わせてしまったと思い、飛鳥はとりあえず礼を言うことにした。

その後2人は近況について話をした。飛鳥は3駅向こうの高校に通っていること。部活は水泳部で2年生の現在はレギュラーに抜擢されたこと。今日は練習試合に京一の学校に来ていたこと。さっき一緒だったのは高校で出会ったが何でも話せるいい奴で親友だと思っていること。
京一の方は科学部に所属しており、今日は実験のレポートをまとめに自主的に学校へ来ていたこと。両親は仕事で海外を飛び回っているため一人暮らしをしていること。住んでいるところが意外と飛鳥の家からも遠くはなく、昴を含めた幼馴染3人組の中では颯馬の家に近いことがわかった。
そんなことを話しているといつの間にか時間は7時を回っていた。

「そろそろ帰らないと……」
「じゃあ途中まで飛鳥と一緒に帰ってもいい?」
京一は学校に自転車を置いて駅前まで来ていたので飛鳥はそれを取りに行かなくて良いのかと尋ねると、京一は取りに行くのは面倒だから今日は電車で帰ると言うので特に断る理由もなく2人は電車で、飛鳥の学校とは逆方面の電車に2駅分揺られながら最寄り駅までたどり着いた。
そこから10分ほど歩くと颯馬の家が見えてきた。
「飛鳥、遅かったな。心配したぞ」
戸建てである颯馬の家の玄関の外壁にもたれ掛かるように颯馬が立っていた。
「あ……ごめん。ちょっと昔の知り合いに会って話してた……って、うわ……そまくんまた僕のスマホに10回も電話してる」
ジャージのポケットに入れっぱなしで確認していなかったスマホの通知を見て文句を言う飛鳥を颯馬は自分の方に軽くて引っ張った。
「あんた誰?」
颯馬は京一を頭から足の先まで値踏みするように見つめた。

「俺は天賀谷京一です。飛鳥とは幼馴染で、家がここから近いので送りにきました」
京一はにっこり微笑みながら颯馬に左手を差し出した。
「ああ……そうか。手間をお掛けして申し訳ない。俺は茅野颯馬だ。俺の大切な幼馴染を送ってくれてありがとう」
そう言うと颯馬も左手を差し出し握手をする……が、どう見てもギリッと音がしそうなほど握り締めあっている。

「そうだ、きょーちゃん。連絡先、交換してなかったね。今日はバタバタしちゃったけど、また一緒に遊びたいから連絡先教えてもらってもいい?」
2人の間に割って入るようにそう言うと京一は快く連絡先を教えてくれた。
「それじゃあ、またね」
飛鳥は京一と別れの挨拶をし、颯馬と共に家の中へと入っていった。
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