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決まった心
第22話 片想い成就!
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電話を切ったあと、ソファの上に立ち上がり、「よしっ、よしっ、よーしっ!」とよくわからないが、喜びを爆発させ、両拳を突き上げ喜んだ。
子どものようにぴょんぴょんとソファで飛び回り、ストンと座る。あまりにも嬉しくて、まるで、片想いが成就したかのようだ。
実際、片想いだったわけなので、恋愛的なアレではなかったとしても、喜びは大きい。
早速、小園にメッセージだけ送り、明日に備えてベットに潜り込む。興奮しすぎて眠れず、どうしようもないほど、ベッドでもバタバタと足をばたつかせてしまった。
たくさん転げ回っているうちに、いつの間にか眠りについたようだ。
◆
朝の目覚めは少し遅かった。昨日あれだけ暴れ回っていれば、いつ寝たのかもわからない。大きな欠伸をしていると、小園からのメッセージがきているのに気がついた。
『やったじゃないか? 詳しい話はまた、あとで。葉月くんの話とは別で、仕事のオファーが来ている。その話もしたいから、迎えに行ったとき、そっちも話すよ』
読み終わったあと、昨日の陽翔が言ったことが夢だったのではないかともう一度考える。自身の妄想だったのではないかと、疑心暗鬼になりつつ、頬が緩み、だらしなく締まりのない表情になってしまう。そんな状態だったので、いつもの時間をとおに過ぎていることを見逃した。
駅まで走り、電車の時間ギリギリに飛び乗って息を整える。そんな僕を訝しみ、周りの人はチラリと見たが、みな、すぐに俯いてしまう。
……視線が、あれだな。
カバンから眼鏡を取り出し、スッとかける。髪の毛はいつもと違うふうになっているから、僕のことなんて気にしないだろう。
ガラスに映る僕の顔は、口角が上がってだらしなく、自身の顔でため息をつくことになるとは……とガラスの僕を見つめ返した。
学校へ向かい、授業は滞りなく終わり、午後から休むむねの申請だけ出して、教室を出る。今朝は、顔を合わせなかった陽翔。残念に思いながら、正門まで迎えに来てくれているはずの小園の運転する車へと急いだ。
「湊!」
一般生徒の教室がある校舎から呼ばれ、大きく手を振っている。きっと、陽翔だろうことは、なんとなくわかる。
ピロンとなるスマホを見ると、2つメッセージがあった。ひとつは小園から到着との連絡。もうひとつは陽翔から、『いってらっしゃい!』のスタンプが送られてくる。僕もそれに返すと、すぐにもうひとつ。『頑張れよ!』と続く。いつものことではあるので、当たり前ではあるが、こうやって、誰かに応援してもらったことは久しくなかったから嬉しかった。
「ありがとう! ヒナ」
校舎に向かって叫ぶ。すると『目立つから、やめろ! 怒』とメッセージが来て笑った。そのまま、車へと急ぐ。
「なんか、いいことでもあったのか?」
「ん? いや……」
「さっきのか? ありがとう、ヒナって叫んでただろ?」
「あぁ、そうだな。なんか、嬉しくって……昨日から、ちょっと、ネジがおかしい」
何をしても何もしなくてもクスクスと笑ってしまう。衝動的な笑いに小園は呆れていた。
「なんでもいいけど、ずっと笑ってたら、さすがに気持ち悪いぞ?」
「……アイドル様の顔に向かって、気持ち悪いはないわ。これで、お金もらってるのに」
「それでも、気持ち悪いものは仕方ない。それより、そのゆるゆるな顔の原因はあれか?」
「あれ?」
「片想いの成就!」
小園が茶化しているのはわかっているが、なんだか、朝も考えていたことを言われて、ムッとする。僕だけがわかっていればいいんだと小園を睨んだ。
「片想いって、言わないでくれる? 陽翔の心は決まったって。でも、一度、現場をみておきたいってことで、昨日のメッセージな?」
「それは、了解した。ひとつ、ちょうどいい案件があるんだ」
「何? その仕事って。それ、陽翔に見せられるやつ?」
「あぁ、湊がずっと断ってきてたCM撮影。やっぱり、シラユキのCMを湊でやってほしいって、化粧品メーカーさんからの要望があって、その撮影」
「……あれね。確かに、イメージが違うって、監督が言ってたってヤツだよな? モデルの子、いい子だったって言ってたけど」
小園が黙ったので、そちらを覗き見ると複雑そうな表情で、渋滞を睨んでいる。今、着替えるために、事務所へ向かっている途中なのだが、少々時間がかかりそうな雰囲気だ。
「……湊には言いにくいんだけどな?」
「何?」
「この前、SNSに写真が拡散されただろ?」
「あぁ……数日前な。遠い昔のような感じするけど、まだ、1週間も経ってないんだった。それが?」
「そのCMのモデルだったんだ。うちとしては、そのままでも良かったんだけどね? 事務所同士のいざこざになるのは勘弁とばかりに、降板のうえ事務所との契約を取り消したらしい」
「……あんなことで?」
「あんなことでって言っても、それなりに湊のイメージがあるだろう? それを壊した賠償はそれなりに大きいんだ」
「売れないアイドル相手に可哀想なことだ」と呟く。芸能界は人気商売だ。確かに、あの写真が原因で、僕のあまり上がらない人気すら下がる場合もある。それを考慮して、先に相手側の事務所が動いた。大手に所属する僕を相手事務所も取ったということ。見捨てられたモデルの方はたまったものではないだろう。
「逆恨みされなきゃ、いいけどなぁ……」
「それは大丈夫だろう。学校も辞めさせたらしい」
「……それ、余計ダメなヤツじゃないの?」
「元々の素行も良くなかったらしいから、実際は切りたかったって噂もあるくらいだからなぁ……こちらとしても、気を引き締めるしかないということだ」
「わかった」と答えたあと、カーナビをテレビにする。すると、ちょうど、そのCM
CMが流れていく。僕の声と化粧品のイメージはぴったりなのに、確かにこのモデルは、合っていないきがする。
「『白雪姫』をイメージしているから、勝気すぎる気がするな」
「確かに。肌も湊より黒いしな」
「僕は、美白に努めているからね?」
「そのわりに、公園で踊っていたって言ってなかったか?」
この前の動画のことを言っているのだろうが、そこはきちんとケアをしている。僕はCMの話を続けてくれるように言うと、小園が「後ろに資料があるから、見てくれ」と親指で指した。ゴソゴソと手探りで資料を見つけ、読んでいく。
「コンセプトは変わらないか。僕がメインで、女装……? これ」
「……やっぱりいやだよな?」
「これ、女装じゃなくて、普通に『僕』じゃダメなのかな? 口紅バージョンまで追加されてるじゃん……」
「シリーズでやってほしいんだと。ファンデーションからチーク、アイシャドウに口紅と、まぁ、イロイロと考えられている」
「この撮影を見せるのか……大丈夫?」
僕は小園の方を見て質問を投げかけたが、「大丈夫だろ」と軽い返事が来た。僕が受けると連絡するならば、明後日にでも始められるらしい。そうでなければ、代わりのモデルを探さないといけないと嘆いていたそうだ。
「それなら、受けるよ。元々、僕に来ていた仕事だったわけだし。ヒナが僕の仕事を見たいっていう理由の中にさ、これから、自分がするかもしれない仕事を想像したいんだと思う。気分の乗る乗らないはあるかもしれないけど、今後は、歌と雑誌以外でもイロイロな仕事は受けるよ。今まで悪かった」
「湊からそんな言葉が聞けるとはな。俺では頑なに動かせなかったけど、葉月くんは凄いな。一瞬で、湊の心を攫っていった。あぁ、負けてらんねぇーな?」
小園がクスクス笑い始めたところで、事務所に着く。手早く着替えて、すぐに車へ乗り込み、今日のスタジオへと急いだ。
リハーサルの時間が迫っていることもあるが、本番までの間にも雑誌の取材も入っている。売れっ子でなくても、CD売り上げのための仕事は、たくさんあるのだ。
「葉月くんについては、未成年だからお父さんに許可をもらわないといけないから、まだ、情報公開はしないでくれ。くれぐれも、そのにやけた顔は引っ込めておいてくれよ?」
頬をギュっとつねられるので、「いひゃい……」と抗議をする。緩めてくれたと同時にキチンとプロの顔へ……『アイドル如月湊』の王子様へと変身するのであった。
子どものようにぴょんぴょんとソファで飛び回り、ストンと座る。あまりにも嬉しくて、まるで、片想いが成就したかのようだ。
実際、片想いだったわけなので、恋愛的なアレではなかったとしても、喜びは大きい。
早速、小園にメッセージだけ送り、明日に備えてベットに潜り込む。興奮しすぎて眠れず、どうしようもないほど、ベッドでもバタバタと足をばたつかせてしまった。
たくさん転げ回っているうちに、いつの間にか眠りについたようだ。
◆
朝の目覚めは少し遅かった。昨日あれだけ暴れ回っていれば、いつ寝たのかもわからない。大きな欠伸をしていると、小園からのメッセージがきているのに気がついた。
『やったじゃないか? 詳しい話はまた、あとで。葉月くんの話とは別で、仕事のオファーが来ている。その話もしたいから、迎えに行ったとき、そっちも話すよ』
読み終わったあと、昨日の陽翔が言ったことが夢だったのではないかともう一度考える。自身の妄想だったのではないかと、疑心暗鬼になりつつ、頬が緩み、だらしなく締まりのない表情になってしまう。そんな状態だったので、いつもの時間をとおに過ぎていることを見逃した。
駅まで走り、電車の時間ギリギリに飛び乗って息を整える。そんな僕を訝しみ、周りの人はチラリと見たが、みな、すぐに俯いてしまう。
……視線が、あれだな。
カバンから眼鏡を取り出し、スッとかける。髪の毛はいつもと違うふうになっているから、僕のことなんて気にしないだろう。
ガラスに映る僕の顔は、口角が上がってだらしなく、自身の顔でため息をつくことになるとは……とガラスの僕を見つめ返した。
学校へ向かい、授業は滞りなく終わり、午後から休むむねの申請だけ出して、教室を出る。今朝は、顔を合わせなかった陽翔。残念に思いながら、正門まで迎えに来てくれているはずの小園の運転する車へと急いだ。
「湊!」
一般生徒の教室がある校舎から呼ばれ、大きく手を振っている。きっと、陽翔だろうことは、なんとなくわかる。
ピロンとなるスマホを見ると、2つメッセージがあった。ひとつは小園から到着との連絡。もうひとつは陽翔から、『いってらっしゃい!』のスタンプが送られてくる。僕もそれに返すと、すぐにもうひとつ。『頑張れよ!』と続く。いつものことではあるので、当たり前ではあるが、こうやって、誰かに応援してもらったことは久しくなかったから嬉しかった。
「ありがとう! ヒナ」
校舎に向かって叫ぶ。すると『目立つから、やめろ! 怒』とメッセージが来て笑った。そのまま、車へと急ぐ。
「なんか、いいことでもあったのか?」
「ん? いや……」
「さっきのか? ありがとう、ヒナって叫んでただろ?」
「あぁ、そうだな。なんか、嬉しくって……昨日から、ちょっと、ネジがおかしい」
何をしても何もしなくてもクスクスと笑ってしまう。衝動的な笑いに小園は呆れていた。
「なんでもいいけど、ずっと笑ってたら、さすがに気持ち悪いぞ?」
「……アイドル様の顔に向かって、気持ち悪いはないわ。これで、お金もらってるのに」
「それでも、気持ち悪いものは仕方ない。それより、そのゆるゆるな顔の原因はあれか?」
「あれ?」
「片想いの成就!」
小園が茶化しているのはわかっているが、なんだか、朝も考えていたことを言われて、ムッとする。僕だけがわかっていればいいんだと小園を睨んだ。
「片想いって、言わないでくれる? 陽翔の心は決まったって。でも、一度、現場をみておきたいってことで、昨日のメッセージな?」
「それは、了解した。ひとつ、ちょうどいい案件があるんだ」
「何? その仕事って。それ、陽翔に見せられるやつ?」
「あぁ、湊がずっと断ってきてたCM撮影。やっぱり、シラユキのCMを湊でやってほしいって、化粧品メーカーさんからの要望があって、その撮影」
「……あれね。確かに、イメージが違うって、監督が言ってたってヤツだよな? モデルの子、いい子だったって言ってたけど」
小園が黙ったので、そちらを覗き見ると複雑そうな表情で、渋滞を睨んでいる。今、着替えるために、事務所へ向かっている途中なのだが、少々時間がかかりそうな雰囲気だ。
「……湊には言いにくいんだけどな?」
「何?」
「この前、SNSに写真が拡散されただろ?」
「あぁ……数日前な。遠い昔のような感じするけど、まだ、1週間も経ってないんだった。それが?」
「そのCMのモデルだったんだ。うちとしては、そのままでも良かったんだけどね? 事務所同士のいざこざになるのは勘弁とばかりに、降板のうえ事務所との契約を取り消したらしい」
「……あんなことで?」
「あんなことでって言っても、それなりに湊のイメージがあるだろう? それを壊した賠償はそれなりに大きいんだ」
「売れないアイドル相手に可哀想なことだ」と呟く。芸能界は人気商売だ。確かに、あの写真が原因で、僕のあまり上がらない人気すら下がる場合もある。それを考慮して、先に相手側の事務所が動いた。大手に所属する僕を相手事務所も取ったということ。見捨てられたモデルの方はたまったものではないだろう。
「逆恨みされなきゃ、いいけどなぁ……」
「それは大丈夫だろう。学校も辞めさせたらしい」
「……それ、余計ダメなヤツじゃないの?」
「元々の素行も良くなかったらしいから、実際は切りたかったって噂もあるくらいだからなぁ……こちらとしても、気を引き締めるしかないということだ」
「わかった」と答えたあと、カーナビをテレビにする。すると、ちょうど、そのCM
CMが流れていく。僕の声と化粧品のイメージはぴったりなのに、確かにこのモデルは、合っていないきがする。
「『白雪姫』をイメージしているから、勝気すぎる気がするな」
「確かに。肌も湊より黒いしな」
「僕は、美白に努めているからね?」
「そのわりに、公園で踊っていたって言ってなかったか?」
この前の動画のことを言っているのだろうが、そこはきちんとケアをしている。僕はCMの話を続けてくれるように言うと、小園が「後ろに資料があるから、見てくれ」と親指で指した。ゴソゴソと手探りで資料を見つけ、読んでいく。
「コンセプトは変わらないか。僕がメインで、女装……? これ」
「……やっぱりいやだよな?」
「これ、女装じゃなくて、普通に『僕』じゃダメなのかな? 口紅バージョンまで追加されてるじゃん……」
「シリーズでやってほしいんだと。ファンデーションからチーク、アイシャドウに口紅と、まぁ、イロイロと考えられている」
「この撮影を見せるのか……大丈夫?」
僕は小園の方を見て質問を投げかけたが、「大丈夫だろ」と軽い返事が来た。僕が受けると連絡するならば、明後日にでも始められるらしい。そうでなければ、代わりのモデルを探さないといけないと嘆いていたそうだ。
「それなら、受けるよ。元々、僕に来ていた仕事だったわけだし。ヒナが僕の仕事を見たいっていう理由の中にさ、これから、自分がするかもしれない仕事を想像したいんだと思う。気分の乗る乗らないはあるかもしれないけど、今後は、歌と雑誌以外でもイロイロな仕事は受けるよ。今まで悪かった」
「湊からそんな言葉が聞けるとはな。俺では頑なに動かせなかったけど、葉月くんは凄いな。一瞬で、湊の心を攫っていった。あぁ、負けてらんねぇーな?」
小園がクスクス笑い始めたところで、事務所に着く。手早く着替えて、すぐに車へ乗り込み、今日のスタジオへと急いだ。
リハーサルの時間が迫っていることもあるが、本番までの間にも雑誌の取材も入っている。売れっ子でなくても、CD売り上げのための仕事は、たくさんあるのだ。
「葉月くんについては、未成年だからお父さんに許可をもらわないといけないから、まだ、情報公開はしないでくれ。くれぐれも、そのにやけた顔は引っ込めておいてくれよ?」
頬をギュっとつねられるので、「いひゃい……」と抗議をする。緩めてくれたと同時にキチンとプロの顔へ……『アイドル如月湊』の王子様へと変身するのであった。
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