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決まった心
第20話 青空ステージ
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サッと服を着替え、駅に荷物を置いて、いつもこっそり練習場所にしているところへ向かう。人気はまばらで、くたびれたサラリーマンが時折ため息をついて、物憂げにしているくらいで、特に何かがある場所ではない。目の前にあるウィンドウのためだけに、ここへ通っているくらいだ。
「何するんだ? 着替えてまで」
「未彩、もう少し帽子を深めにかぶれよ?」
「俺は別に顔バレはしてないからいいよ」
そういいながら、少し離れる。僕はスマホで、曲を流す準備をした。
「ガラスの方から見る方がいいかな? 湊、スマホは俺がスタート押すから貸して!」
「わかった。未彩も見るんだろ?」
「なるほど、アイドル独り占めみたいな?」
「そういうわけじゃないですよ?」
僕との会話より、若干、刺々しい言い方を陽翔と未彩がしていて驚いた。陽翔はともかく、未彩が、そんなふうな反応をしたことがなかったからだ。
「……じゃあ、いくよ?」
その掛け声で、陽翔がスタートボタンを押すと、聞き慣れた語りかけるようなイントロが流れる。
アップテンポなダンスではないものの、ステップだけは、鬼のように踏まされる振り付け。
「」
曲を聴き、振り付けに振り回されないように気をつけながら、歌いはじめる。
マイクはなくアカペラで。少し離れた場所に座っている二人に聞こえる程度にと思いつつも、曲がなれば、満員のファンで賑わうステージでも、観客が二人しかいない今でも変わりはない。
全力でやりきれば、後ろから拍手がまばらに聞こえてきた。いつのまにか、遠くでため息ばかりついてたサラリーマンや犬の散歩にきていた人、たまたま通りがかった老人たちが足を止めて見ていた。
集まってきた人たちに正体がバレないようにぺこりと深々と頭をさげれば、もう一度拍手をして散り散りになった。今まで同じように練習をしていたのに、人が集まってくることはなかく、驚いてしまう。
二人の方に向き直れば何か言い合いをしていたので、「どうした?」と問えば陽翔が「何でもない」と素早く答えた。未彩の方は何か言いたげではあったのに、口を噤むんでしまう。
「湊、俺にも教えて!」
「……いいけど、それって」
「ん? 踊れるとかっこいいじゃん!」
そう言って前に駆け寄ってくるので、一節ずつ教えることになった。
「うっわ……体、鈍ってないと思ってたけど、ダメだわ」
軽くサビまでのところを踊ってみると、なかなか陽翔の筋がいいのか、鏡代わりのガラスに映る僕たちは、3回目にしてピタリと動きがあった。
「ヒ……」
「さすが、湊! 教え方上手いわ」
被せるように陽翔は教えるほうが上手いと褒めてくれるが、ちっとも嬉しくない。僕が教えるまでもなく、一度見ただけでほとんど踊れているからだ。
「褒めすぎだよ。ヒナのセンスとか持っているものがいいんだ」
「そんなことないだろ? 全然ついていけてない」
上がった息を整えていると、未彩がミネラルうぉーたを差し出してくれる。僕はそれを「ありがとう」と言ってもらったが、陽翔の分がなかった。二口飲んでから「んっ」と渡すとそれをゴクゴク飲み干してしまう。
「あっ! 葉月、全部飲んで!」
「湊がくれたんだから、いいだろ?」
「湊も湊だ! 何で葉月に……」
「ダメだったのか? わりぃ……買ってくるよ!」
「いや、いい。それより、何でそんなに息ぴったりに踊れるんだ? 葉月は、ほぼ初見じゃないのかよ!」
未彩に睨まれ、ふいっと視線を逸らす。何が気に入らなかったのかわからなかったが、陽翔はどうやら未彩に絡まれることを嫌っているようだった。
「初見といえば初見だけど、昨日、ヒナはうちで、MVをずっと見てたからな。風呂に入ってる間」
「えっ? 湊の家に行ったのか?」
「泊まったよな?」
「そうだね。髪乾かしてもらった」
「昨日、会ったばかりのヤツと?」
怪訝な表情をこちらに向けてくる未彩に、僕も頷きたくなった。陽翔といると、昔から知っているような気がして、ついつい気が緩んでしまう。未彩は大きなため息とともに帰ると、駅の方へ歩き出した。かかる言葉も出てこず、静かに怒っている未彩の心内がわからなかった。
「僕らも帰る? 結構な時間、いると思うんだけど?」
日も暮れてきたので、陽翔に提案すると、頷くので、僕らも駅に向かって歩き始めた。
「霜月、怒ってた?」
不意に陽翔に話しかけられ、意味がわからなかったが、もう一度言ってくれたので、「あぁ」とだけ、返事をしておく。
「まずかったかな? やっぱり、昨日の」
「僕が泊まっていけば? って、言ったんだから、気にすることはないよ。何に怒ったのかはわからないけど、ヒナにではなく、僕に怒ったんだろうから」
駅につき、コインロッカーからカバンを取り出し、ホームに向かう。すでに未彩の姿はホームにはなく、僕らは電車の到着を待った。
「さっきの楽しかったな」
「あぁ、なんか、3回目は、ヒナと僕に糸がつけられてて、マリオネットにでもなったのかってくらいピッタリだったな」
「明日はもっと完璧に揃える!」
意気込む陽翔に笑いかけたが、明日のスケジュールを思い出し、ハッとなる。
「悪い、ヒナ。明日は昼から早退だ」
「早退? なんかあるの?」
聞いてから、僕の職業を思い出したらしい。なるほどと頷いて、「それじゃあ、仕方がないな」と、小さく息をはいた。
「また、今度、埋め合わせするからさ?」
「わかってるって! 仕事の邪魔をしたいわけじゃないから」
「明日は何?」と聞かれたので、歌の生番組だというと、嬉しそうにしながら、「テレビに齧り付いて見とくよ!」と陽翔は笑った。
「何するんだ? 着替えてまで」
「未彩、もう少し帽子を深めにかぶれよ?」
「俺は別に顔バレはしてないからいいよ」
そういいながら、少し離れる。僕はスマホで、曲を流す準備をした。
「ガラスの方から見る方がいいかな? 湊、スマホは俺がスタート押すから貸して!」
「わかった。未彩も見るんだろ?」
「なるほど、アイドル独り占めみたいな?」
「そういうわけじゃないですよ?」
僕との会話より、若干、刺々しい言い方を陽翔と未彩がしていて驚いた。陽翔はともかく、未彩が、そんなふうな反応をしたことがなかったからだ。
「……じゃあ、いくよ?」
その掛け声で、陽翔がスタートボタンを押すと、聞き慣れた語りかけるようなイントロが流れる。
アップテンポなダンスではないものの、ステップだけは、鬼のように踏まされる振り付け。
「」
曲を聴き、振り付けに振り回されないように気をつけながら、歌いはじめる。
マイクはなくアカペラで。少し離れた場所に座っている二人に聞こえる程度にと思いつつも、曲がなれば、満員のファンで賑わうステージでも、観客が二人しかいない今でも変わりはない。
全力でやりきれば、後ろから拍手がまばらに聞こえてきた。いつのまにか、遠くでため息ばかりついてたサラリーマンや犬の散歩にきていた人、たまたま通りがかった老人たちが足を止めて見ていた。
集まってきた人たちに正体がバレないようにぺこりと深々と頭をさげれば、もう一度拍手をして散り散りになった。今まで同じように練習をしていたのに、人が集まってくることはなかく、驚いてしまう。
二人の方に向き直れば何か言い合いをしていたので、「どうした?」と問えば陽翔が「何でもない」と素早く答えた。未彩の方は何か言いたげではあったのに、口を噤むんでしまう。
「湊、俺にも教えて!」
「……いいけど、それって」
「ん? 踊れるとかっこいいじゃん!」
そう言って前に駆け寄ってくるので、一節ずつ教えることになった。
「うっわ……体、鈍ってないと思ってたけど、ダメだわ」
軽くサビまでのところを踊ってみると、なかなか陽翔の筋がいいのか、鏡代わりのガラスに映る僕たちは、3回目にしてピタリと動きがあった。
「ヒ……」
「さすが、湊! 教え方上手いわ」
被せるように陽翔は教えるほうが上手いと褒めてくれるが、ちっとも嬉しくない。僕が教えるまでもなく、一度見ただけでほとんど踊れているからだ。
「褒めすぎだよ。ヒナのセンスとか持っているものがいいんだ」
「そんなことないだろ? 全然ついていけてない」
上がった息を整えていると、未彩がミネラルうぉーたを差し出してくれる。僕はそれを「ありがとう」と言ってもらったが、陽翔の分がなかった。二口飲んでから「んっ」と渡すとそれをゴクゴク飲み干してしまう。
「あっ! 葉月、全部飲んで!」
「湊がくれたんだから、いいだろ?」
「湊も湊だ! 何で葉月に……」
「ダメだったのか? わりぃ……買ってくるよ!」
「いや、いい。それより、何でそんなに息ぴったりに踊れるんだ? 葉月は、ほぼ初見じゃないのかよ!」
未彩に睨まれ、ふいっと視線を逸らす。何が気に入らなかったのかわからなかったが、陽翔はどうやら未彩に絡まれることを嫌っているようだった。
「初見といえば初見だけど、昨日、ヒナはうちで、MVをずっと見てたからな。風呂に入ってる間」
「えっ? 湊の家に行ったのか?」
「泊まったよな?」
「そうだね。髪乾かしてもらった」
「昨日、会ったばかりのヤツと?」
怪訝な表情をこちらに向けてくる未彩に、僕も頷きたくなった。陽翔といると、昔から知っているような気がして、ついつい気が緩んでしまう。未彩は大きなため息とともに帰ると、駅の方へ歩き出した。かかる言葉も出てこず、静かに怒っている未彩の心内がわからなかった。
「僕らも帰る? 結構な時間、いると思うんだけど?」
日も暮れてきたので、陽翔に提案すると、頷くので、僕らも駅に向かって歩き始めた。
「霜月、怒ってた?」
不意に陽翔に話しかけられ、意味がわからなかったが、もう一度言ってくれたので、「あぁ」とだけ、返事をしておく。
「まずかったかな? やっぱり、昨日の」
「僕が泊まっていけば? って、言ったんだから、気にすることはないよ。何に怒ったのかはわからないけど、ヒナにではなく、僕に怒ったんだろうから」
駅につき、コインロッカーからカバンを取り出し、ホームに向かう。すでに未彩の姿はホームにはなく、僕らは電車の到着を待った。
「さっきの楽しかったな」
「あぁ、なんか、3回目は、ヒナと僕に糸がつけられてて、マリオネットにでもなったのかってくらいピッタリだったな」
「明日はもっと完璧に揃える!」
意気込む陽翔に笑いかけたが、明日のスケジュールを思い出し、ハッとなる。
「悪い、ヒナ。明日は昼から早退だ」
「早退? なんかあるの?」
聞いてから、僕の職業を思い出したらしい。なるほどと頷いて、「それじゃあ、仕方がないな」と、小さく息をはいた。
「また、今度、埋め合わせするからさ?」
「わかってるって! 仕事の邪魔をしたいわけじゃないから」
「明日は何?」と聞かれたので、歌の生番組だというと、嬉しそうにしながら、「テレビに齧り付いて見とくよ!」と陽翔は笑った。
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