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うまく言えないけど!
第12話 今日、泊まっていけば?
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「じゃあ、車を駐車場に置いてくるから、先に入ってて」
学校から僕の住むマンションに着くまで、一言も話さず降ろされた。上げていた前髪も外した眼鏡も元通りにして、エレベーターへと向かう。
「こっちだ」
僕の誘導で後をついてくる陽翔は、黙り込んだままエレベーターに乗り込む。最上階のボタンを押せば、しばしの揺れとポーンという到着の音のあと、エレベータから降りた。
部屋の前に行きドアを無造作に開けると、急に声がかけられた。
「はっ? 鍵閉めてねーの?」
「鍵? あぁ、そういうのない。生体認識っていうの? 登録した人物が扉の前で立って、ドアノブを握れば開くようになってる」
「……へ、へぇ……すごいんだなぁ?」
「まぁ、そうだな。セキュリティーを考えて、このマンション選んだからな。葉月くんのところはどうなの?」
「……うちは普通にカードキー」
「そうなんだ。まぁ、どっちがいいかっていうのはわからないけど、荷物が1つでも減るのはいいよな」
「どうぞ」と部屋に通すと、東京の日暮れが見えた。都心部といえど、ビルが立ち並ぶ場所から少し離れた場所に立っているこのマンション。夕焼けも見え、自慢の夜景も見える。大きな窓からの景色は、下界を眺める神のような気持ちにさせるが、何年も住めば、今は、なんとも思わない。
「すごいな……この景色。如月の一人占め?」
「まぁな……両親は、海外にいるし、弟もそっちだから」
「弟がいるんだ?」
「あぁ、半分血が繋がったな」
悪いことを聞いたというような複雑な顔をするので、取り繕ったようには見えない程度に笑いながら、その表情を躱しておく。
「あっ、別に、両親や弟と仲が悪いとかじゃないんだぞ? 僕がアイドルを目指したいって言ったから、その……」
「別に何も言っていないだろ?」
「……あぁ」と返事をする。窓にへばりついている陽翔。まだ小さい弟のようで、可愛らしく、クスクス笑ってしまう。
「そうしてると、遥人みたいだな」
「遥人?」
「弟の名前。7つ年が離れてるからさ、ここにくると、いつもそんな感じ」
「……小学生と一緒かよ、俺」
リビングにあるガラス机に麦茶を置くと、窓際からこちらへとやってきた。広い部屋だと、あちこち見ながら、ソファに座る。
「葉月くん、ちょっと待っていて。制服、持ってくるから」
「急がなくていいよ」
「そうもいかないだろ? 日も暮れてきたし……お父さんに今回のことも話に行かないといけなだろうし」
「いいよ。どうせ、帰ってこないから。異動したばかりで、仕事に追われてるんだ。うちの父親、要領が悪からさ。仕事覚えるのに時間がかかるんだって」
「いただきます」とガラス机に置いてある麦茶に手を伸ばし、コクコクと飲んでいた。その様子を見ていれば、少し寂しそうな目をしている。高校生にもなってというつもりはないが、父親との距離が僕より近い気がして、少しだけ羨ましく思った。
「何?」
「……いや、なんか、ちょっと羨ましくて」
「どこが? 家に帰っても一人の生活だよ?」
「それなら、僕も一緒だけど?」
「それもそうか」と思い至ったところで、おもしろうに笑いだす。先ほどとは違い明るい笑顔に胸にあったモヤモヤしたものが吹き飛んでいく。
「今日、泊まっていけば? 制服もここにあるんだし、下着も新しいのがある。出会ってすぐにって思われるかもだけど、もう少し、葉月くんと話をしてみたくなったよ」
「おぉ? それは、アイドル勧誘のための布石?」
「違う。ただ、興味をもっただけ。嫌じゃなければだけど……」
「うーん、別にいいけど……さ? 今日、あんな写真出回ったばかりだろ?」
「……あぁ、忘れてた」
「忘れんなよ!」
気の抜けた僕に陽翔は呆れていると同時に、「肝が据わっているな」と笑い始める。友人と呼べる人が少なく、家に招いたことすらなかったからか、とても楽しい。
二人でケラケラと笑いあっていると、「仲いいなぁ……」と言いながら小園が部屋に入ってくる。これから、また学校に戻って話し合いをするのだろうが、僕らを見て小園も嬉しそうだった。
「葉月くん、家に送るから、制服出してきて」
「小園さん、葉月くんを今晩、泊めたらダメかな?」
「それは、また、なんで? 今日、初めてあったんだよね?」
訝しむ小園に僕も「わからない」と答えた。陽翔の方が困っていますという表情をしているので、小園に「葉月くんにも都合があるから」と叱られる。叱られた子犬のようにシュンとすると、頭の上からため息と少し離れた場所から「ふふ……ハハハ……」と少し我慢したような笑い声が聞こえてきたので、そちらを睨んだ。
「会ったのは今日だけど、なんだか、何十年来の友人の気持ちです。マネージャーさんが許してくれるなら、今晩泊めてもらってもいいですか?」
僕があまりにも落ち込んだからか、陽翔が言い出した。さらに大きなため息が上から降ってきて、「お父さんに連絡だけは入れておいてくれ」という言葉で締めくくられる。あっちでもこっちでも、悪戯が成功でもしたかのように笑う二人に、小園が「くれぐれも、明日の朝、学校に遅刻しないようにだけ頼んだよ?」と言って部屋から出ていったのである。
学校から僕の住むマンションに着くまで、一言も話さず降ろされた。上げていた前髪も外した眼鏡も元通りにして、エレベーターへと向かう。
「こっちだ」
僕の誘導で後をついてくる陽翔は、黙り込んだままエレベーターに乗り込む。最上階のボタンを押せば、しばしの揺れとポーンという到着の音のあと、エレベータから降りた。
部屋の前に行きドアを無造作に開けると、急に声がかけられた。
「はっ? 鍵閉めてねーの?」
「鍵? あぁ、そういうのない。生体認識っていうの? 登録した人物が扉の前で立って、ドアノブを握れば開くようになってる」
「……へ、へぇ……すごいんだなぁ?」
「まぁ、そうだな。セキュリティーを考えて、このマンション選んだからな。葉月くんのところはどうなの?」
「……うちは普通にカードキー」
「そうなんだ。まぁ、どっちがいいかっていうのはわからないけど、荷物が1つでも減るのはいいよな」
「どうぞ」と部屋に通すと、東京の日暮れが見えた。都心部といえど、ビルが立ち並ぶ場所から少し離れた場所に立っているこのマンション。夕焼けも見え、自慢の夜景も見える。大きな窓からの景色は、下界を眺める神のような気持ちにさせるが、何年も住めば、今は、なんとも思わない。
「すごいな……この景色。如月の一人占め?」
「まぁな……両親は、海外にいるし、弟もそっちだから」
「弟がいるんだ?」
「あぁ、半分血が繋がったな」
悪いことを聞いたというような複雑な顔をするので、取り繕ったようには見えない程度に笑いながら、その表情を躱しておく。
「あっ、別に、両親や弟と仲が悪いとかじゃないんだぞ? 僕がアイドルを目指したいって言ったから、その……」
「別に何も言っていないだろ?」
「……あぁ」と返事をする。窓にへばりついている陽翔。まだ小さい弟のようで、可愛らしく、クスクス笑ってしまう。
「そうしてると、遥人みたいだな」
「遥人?」
「弟の名前。7つ年が離れてるからさ、ここにくると、いつもそんな感じ」
「……小学生と一緒かよ、俺」
リビングにあるガラス机に麦茶を置くと、窓際からこちらへとやってきた。広い部屋だと、あちこち見ながら、ソファに座る。
「葉月くん、ちょっと待っていて。制服、持ってくるから」
「急がなくていいよ」
「そうもいかないだろ? 日も暮れてきたし……お父さんに今回のことも話に行かないといけなだろうし」
「いいよ。どうせ、帰ってこないから。異動したばかりで、仕事に追われてるんだ。うちの父親、要領が悪からさ。仕事覚えるのに時間がかかるんだって」
「いただきます」とガラス机に置いてある麦茶に手を伸ばし、コクコクと飲んでいた。その様子を見ていれば、少し寂しそうな目をしている。高校生にもなってというつもりはないが、父親との距離が僕より近い気がして、少しだけ羨ましく思った。
「何?」
「……いや、なんか、ちょっと羨ましくて」
「どこが? 家に帰っても一人の生活だよ?」
「それなら、僕も一緒だけど?」
「それもそうか」と思い至ったところで、おもしろうに笑いだす。先ほどとは違い明るい笑顔に胸にあったモヤモヤしたものが吹き飛んでいく。
「今日、泊まっていけば? 制服もここにあるんだし、下着も新しいのがある。出会ってすぐにって思われるかもだけど、もう少し、葉月くんと話をしてみたくなったよ」
「おぉ? それは、アイドル勧誘のための布石?」
「違う。ただ、興味をもっただけ。嫌じゃなければだけど……」
「うーん、別にいいけど……さ? 今日、あんな写真出回ったばかりだろ?」
「……あぁ、忘れてた」
「忘れんなよ!」
気の抜けた僕に陽翔は呆れていると同時に、「肝が据わっているな」と笑い始める。友人と呼べる人が少なく、家に招いたことすらなかったからか、とても楽しい。
二人でケラケラと笑いあっていると、「仲いいなぁ……」と言いながら小園が部屋に入ってくる。これから、また学校に戻って話し合いをするのだろうが、僕らを見て小園も嬉しそうだった。
「葉月くん、家に送るから、制服出してきて」
「小園さん、葉月くんを今晩、泊めたらダメかな?」
「それは、また、なんで? 今日、初めてあったんだよね?」
訝しむ小園に僕も「わからない」と答えた。陽翔の方が困っていますという表情をしているので、小園に「葉月くんにも都合があるから」と叱られる。叱られた子犬のようにシュンとすると、頭の上からため息と少し離れた場所から「ふふ……ハハハ……」と少し我慢したような笑い声が聞こえてきたので、そちらを睨んだ。
「会ったのは今日だけど、なんだか、何十年来の友人の気持ちです。マネージャーさんが許してくれるなら、今晩泊めてもらってもいいですか?」
僕があまりにも落ち込んだからか、陽翔が言い出した。さらに大きなため息が上から降ってきて、「お父さんに連絡だけは入れておいてくれ」という言葉で締めくくられる。あっちでもこっちでも、悪戯が成功でもしたかのように笑う二人に、小園が「くれぐれも、明日の朝、学校に遅刻しないようにだけ頼んだよ?」と言って部屋から出ていったのである。
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