僕のアイドル人生詰んだかもしんない ~ 転校生は僕の運命の歌い手?! 色気あるバリトンからハイトーンまで……アイドル底辺からの下剋上の歌 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
12 / 45
うまく言えないけど!

第12話 今日、泊まっていけば?

しおりを挟む
「じゃあ、車を駐車場に置いてくるから、先に入ってて」

 学校から僕の住むマンションに着くまで、一言も話さず降ろされた。上げていた前髪も外した眼鏡も元通りにして、エレベーターへと向かう。

「こっちだ」

 僕の誘導で後をついてくる陽翔は、黙り込んだままエレベーターに乗り込む。最上階のボタンを押せば、しばしの揺れとポーンという到着の音のあと、エレベータから降りた。
 部屋の前に行きドアを無造作に開けると、急に声がかけられた。

「はっ? 鍵閉めてねーの?」
「鍵? あぁ、そういうのない。生体認識っていうの? 登録した人物が扉の前で立って、ドアノブを握れば開くようになってる」
「……へ、へぇ……すごいんだなぁ?」
「まぁ、そうだな。セキュリティーを考えて、このマンション選んだからな。葉月くんのところはどうなの?」
「……うちは普通にカードキー」
「そうなんだ。まぁ、どっちがいいかっていうのはわからないけど、荷物が1つでも減るのはいいよな」

「どうぞ」と部屋に通すと、東京の日暮れが見えた。都心部といえど、ビルが立ち並ぶ場所から少し離れた場所に立っているこのマンション。夕焼けも見え、自慢の夜景も見える。大きな窓からの景色は、下界を眺める神のような気持ちにさせるが、何年も住めば、今は、なんとも思わない。

「すごいな……この景色。如月の一人占め?」
「まぁな……両親は、海外にいるし、弟もそっちだから」
「弟がいるんだ?」
「あぁ、半分血が繋がったな」

 悪いことを聞いたというような複雑な顔をするので、取り繕ったようには見えない程度に笑いながら、その表情を躱しておく。

「あっ、別に、両親や弟と仲が悪いとかじゃないんだぞ? 僕がアイドルを目指したいって言ったから、その……」
「別に何も言っていないだろ?」

「……あぁ」と返事をする。窓にへばりついている陽翔。まだ小さい弟のようで、可愛らしく、クスクス笑ってしまう。

「そうしてると、遥人みたいだな」
「遥人?」
「弟の名前。7つ年が離れてるからさ、ここにくると、いつもそんな感じ」
「……小学生と一緒かよ、俺」

 リビングにあるガラス机に麦茶を置くと、窓際からこちらへとやってきた。広い部屋だと、あちこち見ながら、ソファに座る。

「葉月くん、ちょっと待っていて。制服、持ってくるから」
「急がなくていいよ」
「そうもいかないだろ? 日も暮れてきたし……お父さんに今回のことも話に行かないといけなだろうし」
「いいよ。どうせ、帰ってこないから。異動したばかりで、仕事に追われてるんだ。うちの父親、要領が悪からさ。仕事覚えるのに時間がかかるんだって」

「いただきます」とガラス机に置いてある麦茶に手を伸ばし、コクコクと飲んでいた。その様子を見ていれば、少し寂しそうな目をしている。高校生にもなってというつもりはないが、父親との距離が僕より近い気がして、少しだけ羨ましく思った。

「何?」
「……いや、なんか、ちょっと羨ましくて」
「どこが? 家に帰っても一人の生活だよ?」
「それなら、僕も一緒だけど?」

「それもそうか」と思い至ったところで、おもしろうに笑いだす。先ほどとは違い明るい笑顔に胸にあったモヤモヤしたものが吹き飛んでいく。

「今日、泊まっていけば? 制服もここにあるんだし、下着も新しいのがある。出会ってすぐにって思われるかもだけど、もう少し、葉月くんと話をしてみたくなったよ」
「おぉ? それは、アイドル勧誘のための布石?」
「違う。ただ、興味をもっただけ。嫌じゃなければだけど……」
「うーん、別にいいけど……さ? 今日、あんな写真出回ったばかりだろ?」
「……あぁ、忘れてた」
「忘れんなよ!」

 気の抜けた僕に陽翔は呆れていると同時に、「肝が据わっているな」と笑い始める。友人と呼べる人が少なく、家に招いたことすらなかったからか、とても楽しい。
 二人でケラケラと笑いあっていると、「仲いいなぁ……」と言いながら小園が部屋に入ってくる。これから、また学校に戻って話し合いをするのだろうが、僕らを見て小園も嬉しそうだった。

「葉月くん、家に送るから、制服出してきて」
「小園さん、葉月くんを今晩、泊めたらダメかな?」
「それは、また、なんで? 今日、初めてあったんだよね?」

 訝しむ小園に僕も「わからない」と答えた。陽翔の方が困っていますという表情をしているので、小園に「葉月くんにも都合があるから」と叱られる。叱られた子犬のようにシュンとすると、頭の上からため息と少し離れた場所から「ふふ……ハハハ……」と少し我慢したような笑い声が聞こえてきたので、そちらを睨んだ。

「会ったのは今日だけど、なんだか、何十年来の友人の気持ちです。マネージャーさんが許してくれるなら、今晩泊めてもらってもいいですか?」

 僕があまりにも落ち込んだからか、陽翔が言い出した。さらに大きなため息が上から降ってきて、「お父さんに連絡だけは入れておいてくれ」という言葉で締めくくられる。あっちでもこっちでも、悪戯が成功でもしたかのように笑う二人に、小園が「くれぐれも、明日の朝、学校に遅刻しないようにだけ頼んだよ?」と言って部屋から出ていったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ

雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。 浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。 攻め:浅宮(16) 高校二年生。ビジュアル最強男。 どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。 受け:三倉(16) 高校二年生。平凡。 自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

多分前世から続いているふたりの追いかけっこ

雨宮里玖
BL
執着ヤバめの美形攻め×絆されノンケ受け 《あらすじ》 高校に入って初日から桐野がやたらと蒼井に迫ってくる。うわ、こいつヤバい奴だ。関わってはいけないと蒼井は逃げる——。 桐野柊(17)高校三年生。風紀委員。芸能人。 蒼井(15)高校一年生。あだ名『アオ』。

処理中です...