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運命の・で・あ・い!?
第11話 どうか、どうか……お願いします
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「何、泣いてるんだ?」
零れた涙を制服の袖で拭う。あまりにゴシゴシと拭っていたので、陽翔に止められてしまう。
「仮にもアイドルなんだったら、その顔も大事なものだろ? そんなに擦るなよ?」
泣き始めた僕に戸惑いながらも、涙を親指のはらで拭ってくれる。優しさに触れ、止まりかけた涙は、また流れていった。陽翔の困ったような表情に「ごめん」と謝りながら、笑いかける。
「如月は笑ってる方がいいな。まぁ、アイドルに興味の欠片もないから、あれだけど」
「……葉月くん!」
「ん?」
大人たちが見守る中、僕は精一杯のお願いをする。今度こそ涙を拭き、立ち上がって、頭を下げた。
その様子にギョッとしたのは、他でもない小園だ。
「……もう一度言う。僕のために、歌ってくれ。どうか、どうか……お願いします」
「歌ってって、今、歌っただろ?」
「違う。僕と一緒に、ステージに立ってほしい」
「俺にアイドルになれってこと?」
冷静で静かに問い返してくる声に、引き下がった方がいいんじゃないかという気持ちになったが、もう一度「お願いします」と言葉にした。
そんな僕に、大きなため息が聞こえてくる。自然と握る拳。震えないように必死に自身を抑えた。
「……俺、アイドルに全く興味もないし、如月は歌ってって言っても、うまくもないぞ?」
「そんなことはない! 僕がずっと、探していた声なんだ。そのハイトーンな声も甘めなバリトンも……ずっと」
「確かに、言われてみれば……君、とてもいい声してるね?」
小園が僕たちの間に入ってくる。一緒に1フレーズ聞いたばかりで、少し動揺をしているような表情ではあったが、同じように感じたようだった。
僕ができることは、一つしかなく、とにもかくにも、一緒に歌ってくれ、ステージに立ってくれとお願いするしかない。が、僕に話せることは、それ以外に何もなく……小園が代わりに話を進めてくれるよだった。
自身で交渉しないといけないとは思っても、間に入って来た小園に甘えてしまう。情けなさを感じながらも、祈るように小園の話術に託すしかなかった。
「芸能界には、興味ない感じ?」
「……まぁ、ないですね。父子家庭で、家のこともしないといけないし、転校初日に親呼び出しとかになるのもかなりまずいですし……」
「あぁ、確かに。今日、転校してきたんだ?」
「そうです。制服が間に合わなくて、前の高校のなんですけど……」
僕と違う制服を見て、「なるほど」と小園は納得しているようだった。それと同時に、まずいことも思い浮かんだようだ。
「制服と言えば、今日、SNSに顔は出てないけど、制服は出ちゃったから……変えたほうがいいね。拡散されてるし」
「いえ、俺、男だから……」
「男だから大丈夫は、油断しすぎ。どんなことがあるかわからないからさ……」
小園が思い浮かんだことは、身バレのことだろう。インターネットの世界、見えないからこそ、狙われることもあるし、ましてや、一般人ともなれば、そのやり玉になる可能性は十分あった。
僕の軽率な行動が、陽翔を巻き込む形で、最悪な方向へと進んでいることを小園の厳しい表情から読み取った。
「そうだ、湊!」
「な、何?」
「制服の予備あるよな? 今年、新調したから」
「あるけど……それが?」
悪い顔をしている小園。何を言い出すのか、なんとなくわかったので先に陽翔に言うことにした。
明日からのことを考えれば、木は森に隠す方がいい。違う制服だと目立つが、同じ制服なら目立ちにくい。
「僕のおさがりでよければ、すぐにでも貸せるけど……どうする?」
「おさがりって……何? 何かあるの?」
「……去年、身長が急に伸びて、新しくしたんだ。それで、その……」
「あぁ、なるほど。俺の方がチビだもんな。しばらく、制服ができあがらないらしいけど、借りてもいいなら借りる。……でも、アイドルはしない」
「あぁ、制服は、おぅけぃ! 好きなだけ使ってくれていいから。えっと、いや、あの……その、ダメ……かな? やっぱり」
「そんなに必死なのなんで? 今まで一人でやってきたんだろ?」
力強い陽翔に見つめ返され、視線を外して「そうだけどさ」と呟いたあと、言葉にならなかった。一人でやってきて、行き詰まってると言葉に出来なかった。
「とりあえず、下校の時間は過ぎてますので、生徒は自宅に」
「わかりました。では、私が葉月くんもご自宅に送り届けます。制服の件もあるから、湊のマンションに寄るよ」
「えっ、それは……」
「拒否権ありません。じゃあ、行こうか」
小園に言われ校長室を出ようとしたところで、陽翔と小園を呼び止めた。思わず呼び止めただけで、次の言葉あるわけでもなかった。
陽翔を引き留めたいという気持ちだけが先走った……結果だ。
「どうかしたか? 如月」
不思議そうに振り返り、問題でも? と、小園もこちらに視線を向けてくる。何も考えてなかったのだが、陽翔の紺色の学ランをみて、こじつけるように提案する。
我ながら苦しいと思っても、仕方がなかった。
「……その、制服がそれだと、目立つかなって」
「そっか。すっかり忘れてた。でも、俺、これしかないから、仕方なくない?」
「なら、これ、着ろよ! 昨日、洗濯しただけだから……」
カバンの中から取り出したカーディガンを陽翔に手渡すと「悪いな」と言って、早速羽織っている。
「いや、その方がいいかなって。あと、髪型……」
「変えないとダメか?」
「そ、そうだね。前髪、あげたらどうかな?」
次はカチューシャを渡すと、さすがに引いていた。今、顔が見えないから、見せたらわかんないからという理由をこじつけてみた。渋々ではあったが陽翔は髪を上げる。
「ついでに、眼鏡もとっておけよ。誰だか、わからない方がいいだろ?」
「……眼鏡もかよ」
少々唸りながら、眼鏡をとる陽翔。その顔を見れば、その場にいた小園も副社長も目を瞬かせた。
「これでいいか?」
「あぁ、それでいい」
「……じゃ、じゃあ行くぞ?」と小園に声をかけられ、校長室から出て、教室に陽翔のカバンを取りに返り、足早に車へ向かう。
下校時間は過ぎていても、疎らにいる生徒に挨拶をしながら車に飛び乗った。
零れた涙を制服の袖で拭う。あまりにゴシゴシと拭っていたので、陽翔に止められてしまう。
「仮にもアイドルなんだったら、その顔も大事なものだろ? そんなに擦るなよ?」
泣き始めた僕に戸惑いながらも、涙を親指のはらで拭ってくれる。優しさに触れ、止まりかけた涙は、また流れていった。陽翔の困ったような表情に「ごめん」と謝りながら、笑いかける。
「如月は笑ってる方がいいな。まぁ、アイドルに興味の欠片もないから、あれだけど」
「……葉月くん!」
「ん?」
大人たちが見守る中、僕は精一杯のお願いをする。今度こそ涙を拭き、立ち上がって、頭を下げた。
その様子にギョッとしたのは、他でもない小園だ。
「……もう一度言う。僕のために、歌ってくれ。どうか、どうか……お願いします」
「歌ってって、今、歌っただろ?」
「違う。僕と一緒に、ステージに立ってほしい」
「俺にアイドルになれってこと?」
冷静で静かに問い返してくる声に、引き下がった方がいいんじゃないかという気持ちになったが、もう一度「お願いします」と言葉にした。
そんな僕に、大きなため息が聞こえてくる。自然と握る拳。震えないように必死に自身を抑えた。
「……俺、アイドルに全く興味もないし、如月は歌ってって言っても、うまくもないぞ?」
「そんなことはない! 僕がずっと、探していた声なんだ。そのハイトーンな声も甘めなバリトンも……ずっと」
「確かに、言われてみれば……君、とてもいい声してるね?」
小園が僕たちの間に入ってくる。一緒に1フレーズ聞いたばかりで、少し動揺をしているような表情ではあったが、同じように感じたようだった。
僕ができることは、一つしかなく、とにもかくにも、一緒に歌ってくれ、ステージに立ってくれとお願いするしかない。が、僕に話せることは、それ以外に何もなく……小園が代わりに話を進めてくれるよだった。
自身で交渉しないといけないとは思っても、間に入って来た小園に甘えてしまう。情けなさを感じながらも、祈るように小園の話術に託すしかなかった。
「芸能界には、興味ない感じ?」
「……まぁ、ないですね。父子家庭で、家のこともしないといけないし、転校初日に親呼び出しとかになるのもかなりまずいですし……」
「あぁ、確かに。今日、転校してきたんだ?」
「そうです。制服が間に合わなくて、前の高校のなんですけど……」
僕と違う制服を見て、「なるほど」と小園は納得しているようだった。それと同時に、まずいことも思い浮かんだようだ。
「制服と言えば、今日、SNSに顔は出てないけど、制服は出ちゃったから……変えたほうがいいね。拡散されてるし」
「いえ、俺、男だから……」
「男だから大丈夫は、油断しすぎ。どんなことがあるかわからないからさ……」
小園が思い浮かんだことは、身バレのことだろう。インターネットの世界、見えないからこそ、狙われることもあるし、ましてや、一般人ともなれば、そのやり玉になる可能性は十分あった。
僕の軽率な行動が、陽翔を巻き込む形で、最悪な方向へと進んでいることを小園の厳しい表情から読み取った。
「そうだ、湊!」
「な、何?」
「制服の予備あるよな? 今年、新調したから」
「あるけど……それが?」
悪い顔をしている小園。何を言い出すのか、なんとなくわかったので先に陽翔に言うことにした。
明日からのことを考えれば、木は森に隠す方がいい。違う制服だと目立つが、同じ制服なら目立ちにくい。
「僕のおさがりでよければ、すぐにでも貸せるけど……どうする?」
「おさがりって……何? 何かあるの?」
「……去年、身長が急に伸びて、新しくしたんだ。それで、その……」
「あぁ、なるほど。俺の方がチビだもんな。しばらく、制服ができあがらないらしいけど、借りてもいいなら借りる。……でも、アイドルはしない」
「あぁ、制服は、おぅけぃ! 好きなだけ使ってくれていいから。えっと、いや、あの……その、ダメ……かな? やっぱり」
「そんなに必死なのなんで? 今まで一人でやってきたんだろ?」
力強い陽翔に見つめ返され、視線を外して「そうだけどさ」と呟いたあと、言葉にならなかった。一人でやってきて、行き詰まってると言葉に出来なかった。
「とりあえず、下校の時間は過ぎてますので、生徒は自宅に」
「わかりました。では、私が葉月くんもご自宅に送り届けます。制服の件もあるから、湊のマンションに寄るよ」
「えっ、それは……」
「拒否権ありません。じゃあ、行こうか」
小園に言われ校長室を出ようとしたところで、陽翔と小園を呼び止めた。思わず呼び止めただけで、次の言葉あるわけでもなかった。
陽翔を引き留めたいという気持ちだけが先走った……結果だ。
「どうかしたか? 如月」
不思議そうに振り返り、問題でも? と、小園もこちらに視線を向けてくる。何も考えてなかったのだが、陽翔の紺色の学ランをみて、こじつけるように提案する。
我ながら苦しいと思っても、仕方がなかった。
「……その、制服がそれだと、目立つかなって」
「そっか。すっかり忘れてた。でも、俺、これしかないから、仕方なくない?」
「なら、これ、着ろよ! 昨日、洗濯しただけだから……」
カバンの中から取り出したカーディガンを陽翔に手渡すと「悪いな」と言って、早速羽織っている。
「いや、その方がいいかなって。あと、髪型……」
「変えないとダメか?」
「そ、そうだね。前髪、あげたらどうかな?」
次はカチューシャを渡すと、さすがに引いていた。今、顔が見えないから、見せたらわかんないからという理由をこじつけてみた。渋々ではあったが陽翔は髪を上げる。
「ついでに、眼鏡もとっておけよ。誰だか、わからない方がいいだろ?」
「……眼鏡もかよ」
少々唸りながら、眼鏡をとる陽翔。その顔を見れば、その場にいた小園も副社長も目を瞬かせた。
「これでいいか?」
「あぁ、それでいい」
「……じゃ、じゃあ行くぞ?」と小園に声をかけられ、校長室から出て、教室に陽翔のカバンを取りに返り、足早に車へ向かう。
下校時間は過ぎていても、疎らにいる生徒に挨拶をしながら車に飛び乗った。
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