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突然の訪問者Ⅱ

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 あと少しで、今日の宿へ戻れるところだった。ウィルも何かに気が付いたのか、私の方へ視線を送ってくるので、私はわざと天気の話をする。

「ウィル、明日は晴れるかしら?」
「……そうだなぁ、雲行きは怪しいかもしれないぞ?」

 空を見て、私たちはのんびり会話をする。今、私たちの会話は、本当にただの天気の話にきこえるだろう。ウィルが雲行きは怪しいという言葉に、誰も疑問は持つものはいなかったのだろう。
 そう、明日も天気は良好であることは、空を見て空気を感じることができれば、この会話がおかしいことに気が付くだろう。

「……そっか。アンバー領から報告が来ていたんだけど、豚はどっちから西から北に移動させるのかしら?」
「あぁ、それな。西から北周りの順番に移動させるって言ってなかったか?」

 私が見れる範囲が西側から北側だったので、ウィルには東側と南側の様子を確認してもらった。視線を感じるので、確認をするまでもないが、情報の共有は必要だ。

「姫さんはさ、ベーコンとウィンナーだったら、どっちが好き?」
「どっちも好きね!作業を手伝ったことがあるけど、私、豚もさばけるわよ!」

 ニコニコとウィルに笑いかけると、若干、表情が引きずっているが、気にしない。普通、公爵は、狩りに出かけたときに大物であれば、捌くこともあるが、女性で、豚を捌くという人はなかなかいないだろう。

「……姫さんって本当に規格外だよなぁ……、今から豚が来たとしたら?」
「任せて!私、得意だし、痛くしないから!」

 ふざけた話をしていると、少しばかり視線も戸惑っていることがわかる。

 ……こんな感じで引いてくれたらいいけど、そうはいかないわよね?ウィルと二人なら、たいしたことはないけど、捕まえるのが大変なのよね。どこの所属とか言わないだろうし。

 ため息をつきそうなのをぐっとこらえる。

 来るなら来なさいよと言いたいけど、穏便にってウィルに言われているからね……穏便に。
 今晩寝ているときに襲われなければいいけど、ここでしめるべきかしら?

 考えていると、どうやら、今日は帰ってくれるようだ。気配が消えていくので、ウィルと視線を合わせる。ウィルもわかったようで、頷いている。

「……隠れるのは下手なやつが多いけど、リーダーは優秀みたいだな。実力差を感じてくれたか、帰っていった」
「そうね。夜に来られると、寝不足になるから、警備の強化をお願いして、今日はゆっくり休みましょう。明日、罠でも張って、おびき寄せましょうか……」

 大きなため息をついて、帰ってセバスやナタリーにも共有しようという話になった。
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みんなの感想(7件)

2023.03.24 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

悠月 星花
2023.03.24 悠月 星花

海烏 さま

お気に入り登録ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

解除
hiyo
2021.11.12 hiyo

とても楽しく読ませて頂いています。
物語が進むにつれて登場人物が多くなり「この人誰だったかな?」と
度々思うようになりました。

出来れば登場人物一覧みたいなものを書いて頂けると助かります。
どうぞ宜しくお願い致します。

物語はどんどん進んでいます、続きが気になって気になって~
読ませて頂いて有難うございます。

悠月 星花
2021.11.12 悠月 星花

hiyo さま

ハニロズを読んでいただき、ありがとうございます!
感じていただいていることは、私も感じていることで、遡って検索することもシバシバ……
人物一覧は折をみて作ろうと考えています。追いついてなくてすみません。

道半ばではありますが、引き続き楽しんでいただければ幸いです!

解除
crazy’s7@体調不良不定期更新中

【良い点(箇条書き)】
・貴族とは傍から見ていると華やかに見えるが、その裏での苦労も描かれている。
・母の代から描く必要があった理由がきちんと明かされている。
・予知夢を家族に話すところからが本題ではあるが、そこまでの経緯について丁寧に描いていた理由もここで明確になり、なるほどと思わせる部分が凄いと感じた。
・主人公(母)と家族の繋がり、絆の大切さなど全てが予知夢に関わってくる。必然性で繋がった物語である。
・一人ではなく、家族の協力があってこそ成し遂げられるという未来に、壮大さも感じるし重要性も感じる。
・タイトルであるハニーローズの意味が分かった時、読者との一体感が生まれると感じた。(これはあくまでも、私見です)
・ヒューマンドラマ寄りではあるが、国造りの物語でもあるように感じる。そこに面白さがある。
・予知夢が見られることが活かされており、冒頭の部分の繋がりに途中で気づく。それがどれだけ重要だったのかを。

【備考(補足)】第12話 一芝居 まで拝読
【見どころ】
冒頭の戴冠式の重要性を知った時、真の意味で物語の面白さの分かる作品だと感じた。初めは、母の子供時代から始まっていく。どんな子供であり、いつから予知夢を見るようになったのかなどが明かされていくが、この時点では家族の日常であり、社交界デビューなど貴族がどんな生活をしているのかが分かるという印象だ。しかし、この部分の重要性が分かるのは、予知夢を家族に話す段階になってから。なるほど、だから必要な場面だったのか、と気づかされるのである。予知夢から主人公がどんな未来を選ぶのか。その理由などを家族に打ち明けることとなるが、これは単に家族だからというわけではない。彼らの協力が必要不可欠だったからである。ここからは彼女の人生を辿ると言うよりは、未来を確実なものにするための大作戦という印象。そこまでの雰囲気とは変わって見えるのである。果たして、主人公の思い描いた未来は叶うのだろうか? その目で是非確かめてみてくださいね。お奨めです。

悠月 星花
2021.10.30 悠月 星花

優人 さま

こちらにも素敵なレビューいただき、ありがとうございます!

解除

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