1,479 / 1,480
突然の訪問者
しおりを挟む
インゼロ帝国への道すがら。見たこともない景色が次々と広がっていく。噂で聞く限りでは、皇都から離れた場所は、インゼロ帝国ではないと揶揄されるほど、廃れているというのだ。確かに、この光景を見れば、昔のアンバー領を思い起こされる。いや、明らかに、それより悪い。
城壁の上から、インゼロ帝国の方を見降ろした。今日は、ここに滞在することになるので、現場の確認である。元々駐屯兵は在籍しているので、今までの野宿に比べれば、だいぶましだろう。ナタリーは文句の一つも出ないが、セバスがそろそろ限界を迎えている。軍行についていったこともないセバスには、辛い旅路のようだった。逆にナタリーは順応しており、食事の手伝いまでする貴族令嬢に頬を染めてお礼をいうものたちも少なくはない。
ローズディア公国は、インゼロ帝国との国境、約100キロには、国民を住まわせないようにしている。いつ、戦火が国民を襲うかわからないからだ。だた、自然の美しい土地が広がっており、国境の境には堅強な境界を示す城壁が建っている。その城壁も、ずいぶんな時間を過ごしているため、修繕はしていても、時折、綻びがあった。
「ウィル」
「あぁ、あれな?」
「結構な集落になっているけど?」
「……それはさ?俗にいう、国外逃亡を成し遂げた者たちだな。国境警備も、広すぎて十分な見張りができているわけではないんだ。特に、こういう場所はさ」
私たちが今、歩を進めていた道は、かつて、インゼロ帝国との街道である。特別、開いているわけではないので、荒れた道ではあった。その先に煙が見えたので、見に行った結果、小さな集落ができていた。
世捨て人、なんて言葉を使うことが正しいのかわからないが、インゼロ帝国からの国外逃亡者なのだろう。ローズディア公国の国民が、この場所へ近づくには、公の承認が必要であるのだから。
私とウィルは、二人で馬を駆り、周辺の確認にきていたところに、ローズディア側で煙や集落を発見したのだ。
「……まぁ、よくある光景だよな。小さな集落は。そんで、食べるものとか、その他もろもろさ、いい加減な感じになるから……」
「昔のアンバー領のようになるのよね。たぶん、病気が流行っている感じかしら?」
「かもしれないな。今回は、あくまで、インゼロ帝国宰相の招待だから、姫さん」
「わかっているわ。余計なことに首を突っ込むなよね?」
「ならいい。まぁ、このままほっておいて、公国内に病気が広がるのは困るけど……」
「暇な人間ならいるから、呼び寄せておくわ!喜んで飛んでくるでしょう」
「……ヨハン教授って、忙しいんじゃないの?」
私はにっこり笑いかけ、その場を後にする。ウィルと二人で、城壁まで帰る途中、ウィルが知っている話をしてくれることになった。いわゆるインゼロ帝国からの国外逃亡したものの末路についてだ。今、見たものもひとつだと教えてくれる。
「例えば、今みたいな集落の中に、リーダ的存在は必ずいるんだ。そのリーダーが、国外逃亡をするときの人選が、今後長く生き延びるための分岐点ってところだな」
「それは、具体的には?」
「何個かあるけど、まず、彼らが1番望むことは、国から脱出することだから、それさえ叶えば、あとのことは考えていない、お気楽な花畑頭のリーダーだな。一人で脱出するならともかく、あれだけの規模を脱出してそのあとのことを何も考えてなければ、遅かれ早かれ、さっきみたいなことが起こる」
「そうだね。1次的な行動は成功したが、2次的な行動がないため、死に至る場合だね」
「そう。駐在兵に見つかって、強制送還ってこともあるし、万が一逃れていても、いろんな要素で、インゼロ帝国にいたときより、過酷な環境下での生活が待っている場合もある。幸運なことに、近くの領地へ迎えられる場合もある。国民として、領主が受け入れてくれればだが、それは、非常にまれだよね?」
「……領主が咎められる場合があるからね。人身売買の温床になる可能性もあるから」
「そう。だから、領主は、彼らを見つけたら、近衛に突き出すことが多い。中にはうまくやってる領主もいるみたいだけどね。アンバー領みたいにさ、戸籍がないから、人が増えたとしても、わからない。いつの間にか、領地に溶け込んでしまえば……」
私はウィルの話に頷く。実際、昔のアンバー領では、同じような出来事があった。もちろん、流出する側ではあったが、働き手を失うアンバー領としては、減収増税になる。それをなくすためにも、税をきちんと収めるためにも、戸籍や住民票を作ったのだ。ローズディアでは、まだ、それらを取り入れていない領地しかないので、それなりの規模の国外逃亡者を受け入れたとしても、税を払ってくれるわけではないので、領主はわからない。隣人の顔が変わった領民ならわかるかもしれないが、領民の顔を一人一人覚えることなど、領主には難しいだろう。
「なんとかしてあげられればいいけど、それを考えるのは私ではなく公だから、今は見守るだけね」
「実際、公がこの話を知っているかどうかっていうのは、怪しいものだ。俺らからしたら、日常的な出来事だから、報告書はかかないはずだからなぁ……」
「……わかったわ。公にも報告しましょう。どうするかは、国として決めればいいのだから、情報の提供だけだからね」
私はため息をついた。人の命は尊い。杜撰に扱うつもりはないのだが、私にも公爵としての立場や守るべき領民がいるため、全てに手を差し出すことはできない。歯がゆく思う反面、本来なすべき人へ問題を丸投げするのが正解だろうと結論付けた。
城壁の上から、インゼロ帝国の方を見降ろした。今日は、ここに滞在することになるので、現場の確認である。元々駐屯兵は在籍しているので、今までの野宿に比べれば、だいぶましだろう。ナタリーは文句の一つも出ないが、セバスがそろそろ限界を迎えている。軍行についていったこともないセバスには、辛い旅路のようだった。逆にナタリーは順応しており、食事の手伝いまでする貴族令嬢に頬を染めてお礼をいうものたちも少なくはない。
ローズディア公国は、インゼロ帝国との国境、約100キロには、国民を住まわせないようにしている。いつ、戦火が国民を襲うかわからないからだ。だた、自然の美しい土地が広がっており、国境の境には堅強な境界を示す城壁が建っている。その城壁も、ずいぶんな時間を過ごしているため、修繕はしていても、時折、綻びがあった。
「ウィル」
「あぁ、あれな?」
「結構な集落になっているけど?」
「……それはさ?俗にいう、国外逃亡を成し遂げた者たちだな。国境警備も、広すぎて十分な見張りができているわけではないんだ。特に、こういう場所はさ」
私たちが今、歩を進めていた道は、かつて、インゼロ帝国との街道である。特別、開いているわけではないので、荒れた道ではあった。その先に煙が見えたので、見に行った結果、小さな集落ができていた。
世捨て人、なんて言葉を使うことが正しいのかわからないが、インゼロ帝国からの国外逃亡者なのだろう。ローズディア公国の国民が、この場所へ近づくには、公の承認が必要であるのだから。
私とウィルは、二人で馬を駆り、周辺の確認にきていたところに、ローズディア側で煙や集落を発見したのだ。
「……まぁ、よくある光景だよな。小さな集落は。そんで、食べるものとか、その他もろもろさ、いい加減な感じになるから……」
「昔のアンバー領のようになるのよね。たぶん、病気が流行っている感じかしら?」
「かもしれないな。今回は、あくまで、インゼロ帝国宰相の招待だから、姫さん」
「わかっているわ。余計なことに首を突っ込むなよね?」
「ならいい。まぁ、このままほっておいて、公国内に病気が広がるのは困るけど……」
「暇な人間ならいるから、呼び寄せておくわ!喜んで飛んでくるでしょう」
「……ヨハン教授って、忙しいんじゃないの?」
私はにっこり笑いかけ、その場を後にする。ウィルと二人で、城壁まで帰る途中、ウィルが知っている話をしてくれることになった。いわゆるインゼロ帝国からの国外逃亡したものの末路についてだ。今、見たものもひとつだと教えてくれる。
「例えば、今みたいな集落の中に、リーダ的存在は必ずいるんだ。そのリーダーが、国外逃亡をするときの人選が、今後長く生き延びるための分岐点ってところだな」
「それは、具体的には?」
「何個かあるけど、まず、彼らが1番望むことは、国から脱出することだから、それさえ叶えば、あとのことは考えていない、お気楽な花畑頭のリーダーだな。一人で脱出するならともかく、あれだけの規模を脱出してそのあとのことを何も考えてなければ、遅かれ早かれ、さっきみたいなことが起こる」
「そうだね。1次的な行動は成功したが、2次的な行動がないため、死に至る場合だね」
「そう。駐在兵に見つかって、強制送還ってこともあるし、万が一逃れていても、いろんな要素で、インゼロ帝国にいたときより、過酷な環境下での生活が待っている場合もある。幸運なことに、近くの領地へ迎えられる場合もある。国民として、領主が受け入れてくれればだが、それは、非常にまれだよね?」
「……領主が咎められる場合があるからね。人身売買の温床になる可能性もあるから」
「そう。だから、領主は、彼らを見つけたら、近衛に突き出すことが多い。中にはうまくやってる領主もいるみたいだけどね。アンバー領みたいにさ、戸籍がないから、人が増えたとしても、わからない。いつの間にか、領地に溶け込んでしまえば……」
私はウィルの話に頷く。実際、昔のアンバー領では、同じような出来事があった。もちろん、流出する側ではあったが、働き手を失うアンバー領としては、減収増税になる。それをなくすためにも、税をきちんと収めるためにも、戸籍や住民票を作ったのだ。ローズディアでは、まだ、それらを取り入れていない領地しかないので、それなりの規模の国外逃亡者を受け入れたとしても、税を払ってくれるわけではないので、領主はわからない。隣人の顔が変わった領民ならわかるかもしれないが、領民の顔を一人一人覚えることなど、領主には難しいだろう。
「なんとかしてあげられればいいけど、それを考えるのは私ではなく公だから、今は見守るだけね」
「実際、公がこの話を知っているかどうかっていうのは、怪しいものだ。俺らからしたら、日常的な出来事だから、報告書はかかないはずだからなぁ……」
「……わかったわ。公にも報告しましょう。どうするかは、国として決めればいいのだから、情報の提供だけだからね」
私はため息をついた。人の命は尊い。杜撰に扱うつもりはないのだが、私にも公爵としての立場や守るべき領民がいるため、全てに手を差し出すことはできない。歯がゆく思う反面、本来なすべき人へ問題を丸投げするのが正解だろうと結論付けた。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約破棄の場に相手がいなかった件について
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。
断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。
カクヨムにも公開しています。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる