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合流
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「ん」
差し出された手を私は握り返し、「ありがとう」とウィルに微笑みかけた。立ち上がるのに、誰かに頼ることは必要なかったのだが、ウィルの優しさに成長を感じる。セバスも慌ててナタリーに手を貸しているのを横目で見ると、何か言いたそうにしているナタリーも一応の及第点だという風に頷いた。
もし、セバスが立ち上がろうとするナタリーに手を貸さなければ、こっぴどく小言を言われたに違いない。「ダリアには、ちゃんとエスコートしてくださいね?」なんて嫌味な感じで。そう思うと、少しほっとしているセバスの様子は頷けた。ウィルも気が付いたようで、微妙な表情を浮かべている。
「あと少しで合流地点だから、セバス、大丈夫か?」
「だいぶ良くなった。ヨハン教授の薬って……魔法のようだね。いつも、関心するけど、どうやって作っているんだろう?」
「そんなに効能が違うの?」
「違うっていうより、別物な感じがします」
「他の薬って、効果が出るまでにすごく時間がかかるんだ」
セバスとナタリーは常用している薬があるらしいのだが、たまにヨハンからもらう同じ効果の薬を飲んだときとの違いを話し出した。私は、ヨハンが主治医のため、その効果の違いが判らない。ウィルも何気に頷いているので、ヨハンの薬にお世話になることもあるのかもしれない。
「俺らはさ、姫さんと一緒にいるから、ヨハンの薬も処方してもらえるけど、よその領地のヤツらは、そうはいかないからなぁ……自領の薬師の薬をみなそれぞれが持っているんだ」
「そうなんだ?ハニーアンバー店でも少し取り扱ってはいるけど、確かに、入荷してすぐになくなるわね?」
「同じ薬だったとしても、即効性だからね。傷薬もかなり人気なはず」
「確かに……報告書で見たことがあるわ。アンバー領のお店なら、ヨハンの薬はどこでも買えるんだけどね?」
「アンバー領まで行きたいっていう物珍しい者たちは、なかなかいないよ」
「そうじゃないよ。アンバー領以外で、ヨハン教授の薬は売らないようにって、イチアが規制をかけているから、手に入りにくいんだ」
私の知らないことであったので、驚いてセバスの方をみる。「知らなかった?」と聞かれるので、頷く。
「効能について、イチアとヨハン教授が話し合ったんだ。領地はまだまだお金が必要だからね。解禁するべきではないって。もちろん、アンバー領内やハニーアンバー店へ卸すことは、利益につながるから販売をしているけど、薬って副作用もあるから、むやみやたらと売るものでもないしね」
「確かにそうよね。安全性が重要よ」
「そういうこと。ちゃんと、ヨハン教授の薬を売るときは、それなりの知識があるものでないと売れないようにしているんだよ」
「お店の人にそんな人材がいるの?」
「ナタリーは店によく来ているのに知らないのかい?」
先ほどまで、押され気味であったセバスも、ナタリーの知らない情報があることで、得意げに話し始めた。それを見て、私は苦笑いをする。ナタリーの知らないことを知っていることで嬉しいのかもしれないが、セバスが返り討ちにあう未来も見えるので、そっとしておくことにした。
「姫さんさ?」
「何?」
「今日はレナンテじゃないんだな?」
「そうね。私はレナンテがよかったんだけど……結構目立つから、違う馬の方がいいって言われたのよ」
「確かに、あの馬は、いい馬過ぎて目立つな」
馬に乗り、四人はまた馬の背に揺られて、合流場所まで向かう。私とウィルが横並びに、セバスとナタリーが前を横並びなっているので、二人の会話がよく聞こえてきた。だんだん、セバスの方が押し負けているように見えるのは気のせいじゃないだろう。口でナタリーに勝つのは、私でもできない芸当であるのだから、当然であろう。
「それにしても……二人ともよく話題が尽きないな?」
「ウィルも混ざりますか?ちょっと、エスコートができるようになったからって、まだまだでしてよ?」
「……いや、混ざりたくないです。どうぞ、続けてください」
ウィルに助けを求めるように見ていたセバスも、撤退していくウィルに縋るような視線を送っている。ウィルは、悪いと言わんばかりに苦笑いだけして、視線をそっと外した。
「聞いているのですか?」
そこにナタリーの声。セバスは慌ててナタリーの方へ視線を向けているのを見て、くすっと笑ってしまう。今、こうしてナタリーに言いくるめられているセバスは、これから数日間、馬車の中でも同じような時間を過ごすことになるのだろう。さすがにかわいそうになり、セバスの土台にナタリーを乗せてあげることにした。
「ナタリー?」
「何でしょうか?アンナリーゼ様」
「インゼロ帝国について、多少の勉強をしてきたと言っていましたが、セバスにもう少し習ったらどうかしら?セバスは、わが国だけでなく、インゼロ帝国についても、しっかり書物での情報収集に加え、諜報機関からも情報を得ていますから」
「それは素敵な提案です!セバス、私にインゼロ帝国のことを教えてください。国が違うとしてはいけないことも多く、礼儀作法も変わるのです!」
セバスが私の方を見てくる。その視線はありがとうという風なものであった。意気揚々と話し始めるセバス。私は二人を見守ることにした。
そうこうしているうちに、合流場所までついたようだ。顔見知った近衛たちが、私たちに手を振り、出迎えてくれたのであった。
差し出された手を私は握り返し、「ありがとう」とウィルに微笑みかけた。立ち上がるのに、誰かに頼ることは必要なかったのだが、ウィルの優しさに成長を感じる。セバスも慌ててナタリーに手を貸しているのを横目で見ると、何か言いたそうにしているナタリーも一応の及第点だという風に頷いた。
もし、セバスが立ち上がろうとするナタリーに手を貸さなければ、こっぴどく小言を言われたに違いない。「ダリアには、ちゃんとエスコートしてくださいね?」なんて嫌味な感じで。そう思うと、少しほっとしているセバスの様子は頷けた。ウィルも気が付いたようで、微妙な表情を浮かべている。
「あと少しで合流地点だから、セバス、大丈夫か?」
「だいぶ良くなった。ヨハン教授の薬って……魔法のようだね。いつも、関心するけど、どうやって作っているんだろう?」
「そんなに効能が違うの?」
「違うっていうより、別物な感じがします」
「他の薬って、効果が出るまでにすごく時間がかかるんだ」
セバスとナタリーは常用している薬があるらしいのだが、たまにヨハンからもらう同じ効果の薬を飲んだときとの違いを話し出した。私は、ヨハンが主治医のため、その効果の違いが判らない。ウィルも何気に頷いているので、ヨハンの薬にお世話になることもあるのかもしれない。
「俺らはさ、姫さんと一緒にいるから、ヨハンの薬も処方してもらえるけど、よその領地のヤツらは、そうはいかないからなぁ……自領の薬師の薬をみなそれぞれが持っているんだ」
「そうなんだ?ハニーアンバー店でも少し取り扱ってはいるけど、確かに、入荷してすぐになくなるわね?」
「同じ薬だったとしても、即効性だからね。傷薬もかなり人気なはず」
「確かに……報告書で見たことがあるわ。アンバー領のお店なら、ヨハンの薬はどこでも買えるんだけどね?」
「アンバー領まで行きたいっていう物珍しい者たちは、なかなかいないよ」
「そうじゃないよ。アンバー領以外で、ヨハン教授の薬は売らないようにって、イチアが規制をかけているから、手に入りにくいんだ」
私の知らないことであったので、驚いてセバスの方をみる。「知らなかった?」と聞かれるので、頷く。
「効能について、イチアとヨハン教授が話し合ったんだ。領地はまだまだお金が必要だからね。解禁するべきではないって。もちろん、アンバー領内やハニーアンバー店へ卸すことは、利益につながるから販売をしているけど、薬って副作用もあるから、むやみやたらと売るものでもないしね」
「確かにそうよね。安全性が重要よ」
「そういうこと。ちゃんと、ヨハン教授の薬を売るときは、それなりの知識があるものでないと売れないようにしているんだよ」
「お店の人にそんな人材がいるの?」
「ナタリーは店によく来ているのに知らないのかい?」
先ほどまで、押され気味であったセバスも、ナタリーの知らない情報があることで、得意げに話し始めた。それを見て、私は苦笑いをする。ナタリーの知らないことを知っていることで嬉しいのかもしれないが、セバスが返り討ちにあう未来も見えるので、そっとしておくことにした。
「姫さんさ?」
「何?」
「今日はレナンテじゃないんだな?」
「そうね。私はレナンテがよかったんだけど……結構目立つから、違う馬の方がいいって言われたのよ」
「確かに、あの馬は、いい馬過ぎて目立つな」
馬に乗り、四人はまた馬の背に揺られて、合流場所まで向かう。私とウィルが横並びに、セバスとナタリーが前を横並びなっているので、二人の会話がよく聞こえてきた。だんだん、セバスの方が押し負けているように見えるのは気のせいじゃないだろう。口でナタリーに勝つのは、私でもできない芸当であるのだから、当然であろう。
「それにしても……二人ともよく話題が尽きないな?」
「ウィルも混ざりますか?ちょっと、エスコートができるようになったからって、まだまだでしてよ?」
「……いや、混ざりたくないです。どうぞ、続けてください」
ウィルに助けを求めるように見ていたセバスも、撤退していくウィルに縋るような視線を送っている。ウィルは、悪いと言わんばかりに苦笑いだけして、視線をそっと外した。
「聞いているのですか?」
そこにナタリーの声。セバスは慌ててナタリーの方へ視線を向けているのを見て、くすっと笑ってしまう。今、こうしてナタリーに言いくるめられているセバスは、これから数日間、馬車の中でも同じような時間を過ごすことになるのだろう。さすがにかわいそうになり、セバスの土台にナタリーを乗せてあげることにした。
「ナタリー?」
「何でしょうか?アンナリーゼ様」
「インゼロ帝国について、多少の勉強をしてきたと言っていましたが、セバスにもう少し習ったらどうかしら?セバスは、わが国だけでなく、インゼロ帝国についても、しっかり書物での情報収集に加え、諜報機関からも情報を得ていますから」
「それは素敵な提案です!セバス、私にインゼロ帝国のことを教えてください。国が違うとしてはいけないことも多く、礼儀作法も変わるのです!」
セバスが私の方を見てくる。その視線はありがとうという風なものであった。意気揚々と話し始めるセバス。私は二人を見守ることにした。
そうこうしているうちに、合流場所までついたようだ。顔見知った近衛たちが、私たちに手を振り、出迎えてくれたのであった。
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