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水飲み場Ⅲ
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「今回の訪問って、皇帝は知っているんだっけ?」
「知らないという雰囲気ではないでしょう?曲がりなりにも、近衛に守られて皇都へ行くのだから」
「それもそうだよなぁ。乗り込んできた!とかになったら、戦争だ!ってなりそうだし」
「なるでしょうね?確実に。それをもくろんでいるのかもしれないけど、皇帝には呼ばれていないけど、宰相には呼ばれているから、殺されはしないと思うわ。だいたい、こんなところで、死んでたまるものですか!って話でもあるし?」
「それでも、気が抜けない旅になりそうだね?」
「わかっていることよ。言葉一つ、態度一つで、戦争が始まる……そう考えておいて」
私は三人を見渡して確認をしておく。頷く三人に少し緊張が走るが、私は笑いかけた。まだ、インゼロ帝国内にも入っていないのだ。今から緊張していては、身が持たないだろう。肩を二回上下に揺らすと、気が付いたようだ。自分たちが、緊張という名の強張りに。
「今からじゃ持たないわよ?ただ、お客さんは来る可能性は、あると思うから……いつでもお相手できるように準備はしておいて」
「わかった。それは、俺に任せておいて。セバスは大丈夫か?」
「……なんで、僕?ナタリーじゃないの?」
私とウィルは、セバスとナタリーを交互に見たあと、セバスに視線を戻す。ウィルと視線が同じように動いていたのだろう。諦めたようなセバスが、小さくため息をついて、「わかったよ」と呟いた。
ナタリーも戦場へ出るような令嬢では、決してない。ただ、いざとなったとき、腹をくくって、落ち着いた対応ができるのは、セバスよりナタリーだろうとウィルも考えたようだ。セバスも薄々は気が付いているらしく、ため息をついたようだ。
「私は、近衛との合流後は、馬車での移動となりますから、そのあたりの采配はお任せします。セバスでは、そういったことは、あまり……」
「僕だって兵法は学んでいるんだから、争いが起きれば、前に出るさ」
「いや、出ないでくれ。その方が、守りやすい。何か起こったら、姫さんか俺の指示に従ってくれると助かる」
「そうね。私たちは、武器も握れないもの。本当は役に立ちたいですけど、私では足手まといになりますし、セバスだって」
「ナタリー、わかっていることに、あまり厳しいことを言わないでほしんだ」
その後、セバスとナタリーが言葉で軽く言い争いをすることになり、間に割って入るが、じゃれあい程度の話であったので、お互い気にしていないよだった。
「そういえばさ、皇帝には会ったことがあるんだっけ?」
「私?」
「そう。聞いておきたくて」
「聞いたところでって感じだけど、ないわ!求婚の申し込みはあったらしいけど、断っているし」
「……求婚の逆恨みとかは、ないよね?嫁になった女性を気に入らないからって次々殺していっているって噂もあるし」
「うーん、逆恨みはないんじゃない?私に対して、恨まなくたって、他にたくさんの側室がいるんだし」
「中には物言えぬものになっているものも多いですけどね?」
「そうね」
「こういえば、后妃は?」
ウィルが当たり前のように、后妃の話をしてくるので、思わず見てしまった。生涯、后妃だけは、替えるつもりがないと公言しているらしいインゼロ帝国の皇帝。后妃に会ったことはないが、皇帝のそばで、何年も生きていられるというだけでも、尊敬に値するのだが、彼女だけは、皇帝にとって、特別であることはあきらかであった。
「もしかすると、姫さんがその后妃の椅子に座っていたかもしれないんだろ?」
「当時、今の后妃になる妃はすでにいたわ。もし、私が嫁いだとしたら、2番目だったのよ。位を上げてやってもいいとは言ってくれていたようだけど」
「それって……あの事件のことがあるから?」
「ワイズの件ね。今、インゼロにいるから、そちらも気を付けないといけないわね。エリザベスの情報もワイズには入っているでしょうし」
「……執着していたって聞いたもんな。そんな男に嫁がずに、サシャ様に嫁げて本当によかったよな」
「実の兄を褒めるつもりはあんまりないんだけど、エリザベスを娶ったことだけは、お兄様の最大の手柄だと思うわ」
「エレーナのこともありますし、こちらには有利な展開でしたね」
「……ナタリーが、アンナリーゼ様みたいなこと言って……。染まりすぎじゃない?」
セバスがナタリーに忠告をすると、「なんのことですの?」とほほ笑んだあと、「ダリアもいずれ、私のようになりますわ」とだけ付け加えた。ここ数か月、セバスから離れ、ダリアもコーコナ領で過ごしていた。その間に、ナタリーの教育は済ませてあるようで、やたら笑顔のナタリーがとても怖く感じた。
「何はともあれ、気を引き締めることと少し隙を見せられるくらいにうまくバランスをとる」ように伝えると、容量のいいウィルとナタリーは頷き、セバスは少し考えているようだ。
「僕が言えることは……僕を守ってください」
か弱いお姫様のようなセバスに、私たち三人は頷きあい「任せておいて」と笑った。
「知らないという雰囲気ではないでしょう?曲がりなりにも、近衛に守られて皇都へ行くのだから」
「それもそうだよなぁ。乗り込んできた!とかになったら、戦争だ!ってなりそうだし」
「なるでしょうね?確実に。それをもくろんでいるのかもしれないけど、皇帝には呼ばれていないけど、宰相には呼ばれているから、殺されはしないと思うわ。だいたい、こんなところで、死んでたまるものですか!って話でもあるし?」
「それでも、気が抜けない旅になりそうだね?」
「わかっていることよ。言葉一つ、態度一つで、戦争が始まる……そう考えておいて」
私は三人を見渡して確認をしておく。頷く三人に少し緊張が走るが、私は笑いかけた。まだ、インゼロ帝国内にも入っていないのだ。今から緊張していては、身が持たないだろう。肩を二回上下に揺らすと、気が付いたようだ。自分たちが、緊張という名の強張りに。
「今からじゃ持たないわよ?ただ、お客さんは来る可能性は、あると思うから……いつでもお相手できるように準備はしておいて」
「わかった。それは、俺に任せておいて。セバスは大丈夫か?」
「……なんで、僕?ナタリーじゃないの?」
私とウィルは、セバスとナタリーを交互に見たあと、セバスに視線を戻す。ウィルと視線が同じように動いていたのだろう。諦めたようなセバスが、小さくため息をついて、「わかったよ」と呟いた。
ナタリーも戦場へ出るような令嬢では、決してない。ただ、いざとなったとき、腹をくくって、落ち着いた対応ができるのは、セバスよりナタリーだろうとウィルも考えたようだ。セバスも薄々は気が付いているらしく、ため息をついたようだ。
「私は、近衛との合流後は、馬車での移動となりますから、そのあたりの采配はお任せします。セバスでは、そういったことは、あまり……」
「僕だって兵法は学んでいるんだから、争いが起きれば、前に出るさ」
「いや、出ないでくれ。その方が、守りやすい。何か起こったら、姫さんか俺の指示に従ってくれると助かる」
「そうね。私たちは、武器も握れないもの。本当は役に立ちたいですけど、私では足手まといになりますし、セバスだって」
「ナタリー、わかっていることに、あまり厳しいことを言わないでほしんだ」
その後、セバスとナタリーが言葉で軽く言い争いをすることになり、間に割って入るが、じゃれあい程度の話であったので、お互い気にしていないよだった。
「そういえばさ、皇帝には会ったことがあるんだっけ?」
「私?」
「そう。聞いておきたくて」
「聞いたところでって感じだけど、ないわ!求婚の申し込みはあったらしいけど、断っているし」
「……求婚の逆恨みとかは、ないよね?嫁になった女性を気に入らないからって次々殺していっているって噂もあるし」
「うーん、逆恨みはないんじゃない?私に対して、恨まなくたって、他にたくさんの側室がいるんだし」
「中には物言えぬものになっているものも多いですけどね?」
「そうね」
「こういえば、后妃は?」
ウィルが当たり前のように、后妃の話をしてくるので、思わず見てしまった。生涯、后妃だけは、替えるつもりがないと公言しているらしいインゼロ帝国の皇帝。后妃に会ったことはないが、皇帝のそばで、何年も生きていられるというだけでも、尊敬に値するのだが、彼女だけは、皇帝にとって、特別であることはあきらかであった。
「もしかすると、姫さんがその后妃の椅子に座っていたかもしれないんだろ?」
「当時、今の后妃になる妃はすでにいたわ。もし、私が嫁いだとしたら、2番目だったのよ。位を上げてやってもいいとは言ってくれていたようだけど」
「それって……あの事件のことがあるから?」
「ワイズの件ね。今、インゼロにいるから、そちらも気を付けないといけないわね。エリザベスの情報もワイズには入っているでしょうし」
「……執着していたって聞いたもんな。そんな男に嫁がずに、サシャ様に嫁げて本当によかったよな」
「実の兄を褒めるつもりはあんまりないんだけど、エリザベスを娶ったことだけは、お兄様の最大の手柄だと思うわ」
「エレーナのこともありますし、こちらには有利な展開でしたね」
「……ナタリーが、アンナリーゼ様みたいなこと言って……。染まりすぎじゃない?」
セバスがナタリーに忠告をすると、「なんのことですの?」とほほ笑んだあと、「ダリアもいずれ、私のようになりますわ」とだけ付け加えた。ここ数か月、セバスから離れ、ダリアもコーコナ領で過ごしていた。その間に、ナタリーの教育は済ませてあるようで、やたら笑顔のナタリーがとても怖く感じた。
「何はともあれ、気を引き締めることと少し隙を見せられるくらいにうまくバランスをとる」ように伝えると、容量のいいウィルとナタリーは頷き、セバスは少し考えているようだ。
「僕が言えることは……僕を守ってください」
か弱いお姫様のようなセバスに、私たち三人は頷きあい「任せておいて」と笑った。
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