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しばしの別れ

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 私とウィルは、馬に跨る。それを羨ましそうに見ているアンジェラ。それを見て、ジョージアが笑った。
 アンバー領へ向かうため、ジョージアたちは、馬車に乗り込んでいる。馬車の窓をあけて、頬を膨らませている娘を見ると、ますます、私の性格に似てきたとため息をつきたくなる。


「せっかく、ジョージア様とそっくりなほど、美人なのに……」
「中身が姫さんそっくりなのが、残念だよね?」


 馬車に近づきながら、ウィルが笑う。アンジェラの膨らんだ頬を両手で挟んで空気を抜いていた。


「ははっ、姫さん見て」


 ウィルの大きな手に挟まれたアンジェラの顔は、見事に潰れている。それでも、こちらを強い意思を持って見てくるあたり、ジョージアの頑固さを感じずにはいられなかった。私も、クスっと思わず笑ってしまう。


「ウィル、アンジーになんてことをしてくれるんだい?」
「ジョージア様、お嬢はこんなときでも、ジョージア様に似て美人ですよ」
「そんなこといって!将来、アンジーにお婿さんが来なかったら、どう責任をとってくれるんだい?」
「……うーん、そうですね?」
「ジョージア様、アンジェラにお婿さんをとるつもりだったのですか?」
「いや、そういうわけじゃなくて、その、嫁にはやらないし、婿もいらないけど!」
「責任なら、俺の息子がちゃんと取ってくれると思うんで、大丈夫でしょう」
「はぁ?息子って……」
「レオに決まっているじゃないですか!」


 ニコッと笑うウィル。こめかみをピクっとさせるジョージア。二人のやり取りが飽きたのかレオの隣にちょこんと座るアンジェラ。


「親の心子知らず、子の心親知らずってことですね」
「あっ、アンジー!そこはダメ!パパの隣に来なさい」
「やだ。レオの隣がいい」


 アンジェラに振られ、落ち込むジョージアであったが、強制的にアンジェラとレオの間にジョージを差し込んだ。ミアと話をしていたので、ジョージは突然の出来事にきょとんとしている。ネイトを間に挟まないあたり、ジョージアのちょっとした執念を感じた。


「……パパ?」
「ジョージは、アンバー領へ着くまで、着いてからもアンジーとレオの間にいなさい」
「どうして?」
「どうしてもだよ。いいかい?わかったらお返事は?」


 戸惑うジョージは私を見つめ、助け船を期待している。ジョージは、アンジェラやレオと一緒にいるより、たくさんお話ができるミアの方がいいらしく、今すぐにでも、その場を離れたそうにしている。


「ジョージア様、そんな大人げないことは、しないでください。ジョージが困っています」
「いや、ジョージが、側にいれば、アンジーもきっといいはずだよ?」


 私は少し声のトーンを下げて「ジョージア様?」と名前を呼んだ。振り向いたジョージアは、何か見てはいけないものを見たかのように、ニコニコと笑いながら額の汗を拭った。


「人の気持ちを操ろうだなんて、してはいけませんよ?ましてや、アンジェラたち子どもは、心の成長期です。成長を促すことや、支える、迷いから抜け出す手助けをするならともかく、邪魔をしてはいけません。いつかは、私たちはこの子たちより先に死ぬのです。それまでの間、私たちが出来ることは、子どもたちが正しい道を歩めるよう見守ることです。決して、邪魔をするようなことはいけません」
「……はい」
「それに、いつかは、アンジェラだけでなく、この子らも独り立ちして、結婚をし、次の世代へと繋げていくのです。ジョージア様が、今、邪魔をしたとしても、必ず、アンジェラは、想うものと結婚しますよ」
「それは……『予知夢』?」


「さぁ、どうでしょうか?」とはぐらかすと、ジョージの方を向き、「悪かったね」と元の場所へ座らせる。ホッとしたジョージの表情を見るに、他人へ対する自我のようなものが目覚めているように感じた。それも立派な成長ではあるが、少しだけ寂しくも思う。


「……ジョージは、アンジェラが苦手なのかしら?」


 聞こえない程度に呟いたつもりが、ウィルには聞こえていたらしい。馬車の中には聞こえないように配慮しながら、「仕方がないことだよ」と返してくれた。


「大人になるにつれ、処世術を身につけていくのと同じ。活発すぎるお嬢をジョージ様は苦手だと感じているんだろう。一緒に育っているんだからさ、多かれ少なかれケンカもするだろうし、お嬢は特別、みんなから可愛がられているから、そういうところでも、若干のひずみがあるのかもしれない。もっと、ジョージを気にかけてやったら?そうすると、ジョージ自身も変わるんじゃない?」
「ウィルがまともなことを言っているわ。子爵家三男のお気楽だと思っていたのに」
「俺だって、姫さんについていろんなことを経験してきているんだ。成長くらいするから」


 ウィルに言われたことは、もっともだったので、私自身、もっとジョージのことを気にかけないといけないと反省をする。


「アンナリーゼ様、そろそろ出発の時間です」


 ディルに言われたので、荷物も含め、馬車の準備が完了したことを確認した。今日は行き先が二つ。アンバー領へ向かうものたちと、インゼロ帝国の帝都へ向かう私たち。それぞれ、移動を開始した。
 帝都へ同行するナタリーやセバスについては、合流地点で会う約束だった。


「ジョージア様、しばしのお別れです」
「無理はしないように」


 そう微笑んだあと、私の手の甲へキスをする。「無事を祈っているよ」とジョージアは私の手をギュっと強く握りしめた後、「またね」と送り出してくれた。
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