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戻れば戻るとⅡ

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「なんだか、少し寂しいですね」


 ダリアをトライド男爵家に送ったあと、馬車に残っていたレオがポツリと呟いた。今回の視察では、ダリアと共に過ごす時間が多かったようで、話し相手になっていたそうだ。デビュタント前の男の子と話が合うのかと思ったが、意外と話が弾んだらしい。そう言えば、ダリアは成り上がりの元貴族。エルドア国では、軍事を任されていた軍師の一人でもあったのだから、レオと話が合わないということはないだろう。


「レオはダリアとどんな話をしていたの?」
「チェスをしていました。父から、アンナ様に負けないほど強いと聞いていたので」
「チェスね。軍の動かし方の勉強ってところかしら?」
「……お見通しなのですか?」
「まぁ、ダリアをアンバー領へ向かえるにあたって、それなりに不安要素もあるからね。絶対に敵わないという状況を作ってはいるわ」


 レオに苦笑いをすると、頷く。私の言葉の意味をきちんと理解しているようだ。エルドアから国外追放にはなっているが、諜報活動をするためにアンバー領へ嫁いだ可能性も考えてはいた。今の様子を見る限り、セバスへの愛情も含め、懸念していることは起こらないと感じている。


「アンナ様とのチェスの対戦も勉強になりますが、ダリア様はとてもおもしろい戦術で翻弄してきます」
「そうなの?私との勝負は真っ向勝負だったのだけど」
「それは、アンナ様と互角に戦えるからでしょう。手のひらの上でコロコロと転がされていました」
「そう。それもいい経験だと思うけど……、レオ、ダリアからもたくさん学びなさい。軍部にいたのは事実。経験に勝るものはないの。実際戦場に出ることはなくとも、エルドア国もインゼロ帝国とは、小競り合いを何度も繰り返しているから、そのときの軍部の戦略会議には、ダリアも出ていたはずよ」
「ダリア様って、すごいのですか?」


 レオの質問にコクと頷く。実際、頭はいいだろう。もう少し知識が整えば、セバスと夜通し語り合うくらいになれるはずだ。
 宮女からの成り上がりで貴族になれるなんて、ほとんど、例がないのだから。


「ダリアだけでなく、どんなことからも学ぶことができるの。でも、今、レオにとって勉強をしていく中で、私やウィル、セバスが先生になっているわよね?」
「はい、三人を師としています」
「他の人にも学ぶの。今、言ったダリアは軍部にいたわけだし、デリアだってアンバー公爵家の侍女やメイドを纏める立場でいるわ。一見、デリアのことは関係なさそうに感じるかもしれないけど、人心掌握の心得なんか学べるわよ!」
「アンナ様、おふざけは良くないですよ?」


 デリアが話に割って入ってくるが、私は首を横に振る。アンバー公爵は公都の屋敷だけでなく、アンバー領に2つの屋敷、コーコナ領に1つの屋敷がある。それらの情報を全て把握しているうえに、慕っているものも多い。ウィルとは違うが、同じように慕われているところを指摘すると少し照れた様子のデリア。レオは今までのデリアを思い浮かべているようで、大きく頷いた。

 馬車がゆっくりな走行に変わる。少し走ったところで、ガタンと停まった。
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