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満月の夜Ⅱ
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戦争の発端は、自国の王子を殺されたという言いがかりから始まった。実際、王子は、隣国の町娘と真実の愛を見つけたと出奔した……という実に滑稽な理由だ。その王子はのうのうと生きているのかと思うと腹が立つわけで……、その王子の自由な振る舞いが、どれほどの人間を不幸にしたのか。一国の王子としてあるまじき行為にため息をつきたくなる。これが、本当の出来事ではなく、物語の中での愚行であることに心底ホッとする。
その王子に従った侍従も、末代まで呪ってやりたいほどではあるが、そもそも、そんなバカな王子のために戦争を始めた王やその風潮が悪いと言ってしまいたい。
偽物の王子の死体を用意し、王女の国へと濡れ衣を着せたのだ。元々、国どおしの関係性はよくなかったが、悪くもなく、それなりに均衡が取れていた。そんな中でバカなことしでかしたのは、本当に腹立たしい。
裏で糸弾くものが板のだろうが、そのことは、私が見た観劇には出てこなかった。
「……どこにでもいるのね。インゼロ皇帝のような輩って。人の生活を何だと思っているのかしら!」
物語と現実を混同していることはわかっていても、『予知夢』で見た世界を考えると、どうしても文句言いたくなる。物語にケチをつけたところで、過去に見たものだから、変えられるわけではない。
「そのあと、戦争が始まって……か。なんだか、貴族女性として、わかるところもあるけど、そんな人生は確かに嫌かな。政略結婚でうまくいく人もいるけど、自由に恋愛ができるようになってきた今はいい時代になったのかなぁ?アンジェラが大人になったとき、もっと自由になっているといいけどね。アンジェラにとって、あの子を支えてくれる人がいれば私は文句ないわ。まぁ、現時点でも、私は大満足な相手ではあるけどね」
レオを思い浮かべながらクスっと笑う。大人になったレオが、成長したアンジェラの側にいてくれる、そんな未来を見てから、私は二人の成長が楽しみになった。だからって、もちろん、わざとくっつけようとはしない。いろんな人と関わって最後に選ぶ相手がそうなら素敵なことだと思うから。
「それにしても、思い出すと……このバカ王子がつくづく許せなくなるわ。戦争が始まって、優秀だった青年騎士は首級になってしまう。おまけに王女様の想い人だってバレて、敵味方から狙われるようになって、ますます危ない立場になるのよね。彼女から贈られた彼女の瞳と同じ色のエメラルドのネックレスが落ちるとき……なんとも言えない気持ちになったわね。ハリーなんて、隣で少し鼻を啜っていたのよね。何気にロマンチストだからなぁ……」
観劇を見ようと言ってきたのはハリーからだった。私の遊びにばかり付き合ってくれていたから、たまにはハリーの行きたい場所へ連れて行ってもらうことになり、観劇を見たのだ。
「アンナの配役は、あの青年騎士だね?」
「じゃあ、ハリーは囚われの王女様?」
「助けに来てくれるの?」
「……もう少しうまく攫ってあげるわ!満月の夜ではなく、新月の夜に」
ニッコリ笑うハリーの表情が思い浮かんだ。あの頃には、ハリーはすでに私のことを想っていたのかもしれないとぼんやり考えてしまった。
その王子に従った侍従も、末代まで呪ってやりたいほどではあるが、そもそも、そんなバカな王子のために戦争を始めた王やその風潮が悪いと言ってしまいたい。
偽物の王子の死体を用意し、王女の国へと濡れ衣を着せたのだ。元々、国どおしの関係性はよくなかったが、悪くもなく、それなりに均衡が取れていた。そんな中でバカなことしでかしたのは、本当に腹立たしい。
裏で糸弾くものが板のだろうが、そのことは、私が見た観劇には出てこなかった。
「……どこにでもいるのね。インゼロ皇帝のような輩って。人の生活を何だと思っているのかしら!」
物語と現実を混同していることはわかっていても、『予知夢』で見た世界を考えると、どうしても文句言いたくなる。物語にケチをつけたところで、過去に見たものだから、変えられるわけではない。
「そのあと、戦争が始まって……か。なんだか、貴族女性として、わかるところもあるけど、そんな人生は確かに嫌かな。政略結婚でうまくいく人もいるけど、自由に恋愛ができるようになってきた今はいい時代になったのかなぁ?アンジェラが大人になったとき、もっと自由になっているといいけどね。アンジェラにとって、あの子を支えてくれる人がいれば私は文句ないわ。まぁ、現時点でも、私は大満足な相手ではあるけどね」
レオを思い浮かべながらクスっと笑う。大人になったレオが、成長したアンジェラの側にいてくれる、そんな未来を見てから、私は二人の成長が楽しみになった。だからって、もちろん、わざとくっつけようとはしない。いろんな人と関わって最後に選ぶ相手がそうなら素敵なことだと思うから。
「それにしても、思い出すと……このバカ王子がつくづく許せなくなるわ。戦争が始まって、優秀だった青年騎士は首級になってしまう。おまけに王女様の想い人だってバレて、敵味方から狙われるようになって、ますます危ない立場になるのよね。彼女から贈られた彼女の瞳と同じ色のエメラルドのネックレスが落ちるとき……なんとも言えない気持ちになったわね。ハリーなんて、隣で少し鼻を啜っていたのよね。何気にロマンチストだからなぁ……」
観劇を見ようと言ってきたのはハリーからだった。私の遊びにばかり付き合ってくれていたから、たまにはハリーの行きたい場所へ連れて行ってもらうことになり、観劇を見たのだ。
「アンナの配役は、あの青年騎士だね?」
「じゃあ、ハリーは囚われの王女様?」
「助けに来てくれるの?」
「……もう少しうまく攫ってあげるわ!満月の夜ではなく、新月の夜に」
ニッコリ笑うハリーの表情が思い浮かんだ。あの頃には、ハリーはすでに私のことを想っていたのかもしれないとぼんやり考えてしまった。
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