ハニーローズ ～ 『予知夢』から始まった未来変革 ～

学びの場は騒がしい

　チャコに案内してもらいあっという間に授業をしている場所までついた。外にいても聞こえてくる大人たちの声。大勢で授業を聞いているというよりか、個別に授業をしているかのようなやり取りが、部屋の外にまで聞こえてくる。

　……チャコが言っていることって、こういうこと？

　チャコに視線を向けると、苦笑いだけが返ってくる。教壇に立っているのは、ナタリーが教育した女性が多い。いろいろなことを想定して、そこそこ人当たりもよく強気に出れる人物を選んでいたつもりだが、見事な惨状であった。この女性か悪いわけではなく、乱入している者が場を乱しているのだが、数で来られれば対応も難しいだろう。このような状況になっていたとは知らず、負担をかけていたことに申し訳なく思った。


「先生役で来てくれた人は、とても優秀だったんだけど、この人数の大人を捌くのは難しいようで……手伝ってはいるんだけど、なかなか思うようにいかなくて」
「状況はわかったわ。さぁ、どうしましょうね？アデル」
「……名前を呼ばないでください。やろうとしていることって、紙一重ですよ？」
「何をするか、わかったの？」
「……わかったも何も、この惨状の部屋に飛び込むのでしょ？」


　アデルが大きなため息をついて、私を見つめた。なかなか私をよくわかってくれているらしい。部屋に入ろうとした瞬間、呼び止められた。振り向くと、そこにはデリアが立っており、険しい表情でこちらを見ていた。今日は留守番のはずのデリアが何故いるのかと考えていたら、デリアの視線が扉へと向いた。一睨みしたあと、目にも止まらぬ早さで、扉を開く。騒がしかった部屋が一気に静まり返った。
　私はデリアが何をするのか、慌てて後を追うと、教壇に向かってツカツカと歩いていく。正面を向いたデリアの表情が少し見えた。キレている。
　女性を押し退け、教壇を勢いよく叩いた。部屋中に響き渡り、子どもたちは更に縮こまっている。


「ごきげんよう、みなさん」


　ニッコリ笑うデリアが……デリアが怖い。
　おそるおそる数人がデリアに返事をしたが、デリアは満足していない。もう一度、笑顔で「ごきげんよう」と挨拶したので、ぼそぼそと数人が返事をした。


「「ごきげんようと私は言ったのに、何故、さっきまで大声で話していたのに返事ができないのですか？」


　デリアの語気に慌てて子どもたちが挨拶するが、大人たちは睨むだけであった。そんなものに屈するデリアではない。
　もう一度、ニッコリ笑って「ごきげんよう」と挨拶をした。すると、リーダー格の男が不敵に笑ってデリアを挑発する。


「どこの誰だか知らないけど、痛い目見る前に出て行った方が身のためじゃねぇのか？」
「あぁ、紹介が遅れました。アンバー公爵家筆頭侍女をしていますデリアと申します。普段は領主であるアンナリーゼ様にお仕えしている……」
「侍女風情が出しゃばんじゃねぇ！」
「私へ大声で威嚇したとしても脅しにはなりませんよ？アンナリーゼ様の側でそこそこ鍛えられていますから」


「ごちゃごちゃと煩い！」とその男性はデリアに飛び掛かってきた。デリアはその男性をいなしただけでなく、床に倒して自分の体重で押さえつけてしまった。それを見て、続こうとした者たちは、ピタリと動きを止めてしまった。