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 店から出たあと、しばらく歩いていく。お店から店員が出てきて頭を下げている。店員が店の中へ入ったところで、持っていた贈り物をアデルに渡す。
 覗き込むようにアデルを見上げると「何ですか?」と少し照れたような怒ったような表情で私を睨んでくる。
 渡そうとしていたネックレスを受取ろうとしたアデルの手から引っこ抜いてやる。


「アンナ?」
「ん?反抗的だから、ついね?」
「……そんなつもりは。あの……」
「わかっているわよ。ほら、ちゃんと、渡すのよ?タンスの肥やしにしたら、許さないんだから!」
「はい、それはもちろんわかっています!リアンは喜んでくれるでしょうか?」


 アデルに渡した化粧箱を切なそうに見つめている。そんな恋するアデルが微笑ましい。ダリアと視線を合わせ、アデルの両側から背中をぽんぽんと叩く。ダリアは優しくだったが、私はぽんどころではなく、バシン!と音がした。


「いてて……アンナ!」
「気弱なこと言うから、ついね?大丈夫よ。リアンの好きなものだって、一目見て思ったのでしょ?」
「はい」
「なら、自信を持ちなさい。この世の中で、リアンのことを1番理解しているのはアデルだと思うから」


「そうでしょうか?」と自信がなさげに呟くので、「もう1発いっとく?」と私は手のひらをヒラヒラとさせると、「お願いします」と返事が返ってきた。恋するアデルは、なかなか乙女になるらしい。
 言われたとおり、気合を入れて、アデルの背中をさっきよりしっかり叩いてやる。すごくいい音がなり、街ゆく人が振り返った。


「すこしやりすぎたかしら?」
「いいえ、おかげで、自信がつきました」
「アデルはふだん飄々として冷静に判断できると思っていたけど、リアンのこととなると、途端に気弱になるわね?」
「……嫌われたくありませんからね」
「確かにそうね」


 私とダリアもそれぞれの相手を思い浮かべ、アデルに同意する。アデルは受取ったネックレスをカバンに入れる。


「アンナ」
「ん?」
「ありがとうございました」
「どういたしまして!私も、リアンがそのネックレスをしてくれるのを楽しみにしておくわ!」
「そうですね。してくれますかね?」
「また、弱気?」
「そうじゃないんですけど、まぁ……」
「大丈夫。根拠はないけど、そう思えるわ。アデルの努力を無視するようなリアンでないことは、アデルが1番よく知っていることでしょ?」


 笑いかけると、頷くアデル。今回の視察はダリアの気分転換や、町の様子を見てもらうために出歩いているのだが、アデルのほうが、うまみを享受している。


「ダリアはどこか行きたい場所はある?」
「私は、とくには……」
「そう?じゃあ、このまま少し町を散策しましょう。今のところ、誰も領主だって気が付いていませんから」


 私たちは、そのまま散策を続けることにした。
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