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お約束の社会見学Ⅳ

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 馬車に揺られて布工場へついた。ナタリーは私とステイに挨拶をしたあと、ライズの方へ駆けて行き、何かしら会話をしている。あの様子だと、荷物の確認と新しい技術について話し合う人物の人選の話をしているのだろう。微かに聞こえてくる話を拾っていった。仕事の出来なかったライズが、本来持っていたであろう才能がどんどん開花していっているのだろう。ナタリーの出した指示は、なかなかの高級品をライズは指示通りに動いていく。


「私たちも工場見学へ向かいましょうか?」
「えぇ、そうしましょう」


 私はステイを伴って工場の中へ入って行くと、工場長が来る。


「アンナリーゼ様、用酵素おいでくださいました」
「元気にしていたかしら?」
「もちろんです。今年の新作ドレスはいかがでしたか?」
「肌触りも良くて、よかったわ!また、何か始めたの?」
「えぇ、ナタリー様にご連絡をいただいて……本来、アンナリーゼ様にお渡しさせていただくドレスと差し替えになってしまい」
「赤字?」
「そこまでは」
「いいわ。私の屋敷へ送っておいてくれる?」


「かしこまりました」と工場長は言い、領収書を持ってきたらしい。まだ、お金は払っていないのに、払われる前提なのが、少し怖い。
 私たちは工場見学をしたいと申し出れば、「もちろんです」と話がついた。工場長自らが案内を申し出てくれたのお願いする。
 私たちは、工場長の案内通りに進めていった。


「年に一度でも、こうして訪問をしてくださって、従業員も感激しています」
「そう?私財を投入しているのだもの、より素敵な製品を作って欲しい気持ちも、みんなが働きやすい環境なのかも気になるわ」
「それはもちろんです」
「工場長の悪い噂も聞かないから、とても嬉しく思っているの。あなたが、この工場を纏めてくれて助かっているわ。この工場は、お店にとっても大切な場所ですから」
「それはもちろん、私だけでなく従業員や領地のものたちも感じています。コーコナ領となったとき、アンナリーゼ様を少しでも疑った私が恥ずかしい」
「それくらいでいいのよ。経営者なのだから、ときには人を疑うことも必要。ただ、工場長は、私を信じてくれたおかげで、お店が潤っているし、みなに還元出来ているんじゃないかしら?」


 前を歩く工場長に問いかけると、何度も頷いている。ハニーアンバー店にとって、布というのは、とても大切な商品の一部だ。私が着るドレスを始め、貴婦人たちのお洒落には必須。この国で1,2を争うくらいの品質なうえに、手に取ったものが必ず満足する一品へ変わっていくものでもある。
 ここで働いているみなにも、顧客からの満足を伝えているおかげなのか、働きたいと願う人が多いという。
 出稼ぎの人もいるのだとか。ただし、条件があるので、領地以外からの受け入れはしていない。
 条件とは、コーコナ領に住んで1年以上というものだ。お金のためだけに働くことは決して悪いことではないが、私は、それ以外にも仕事をとおして何かを感じてほしかった


「アンナリーゼ様がこの領地を守ってくださるおかげで、私たちは安心して仕事に打ち込めています。診療所に詰めてくれていたこと、領民のみなが知っています」
「……たまたまよ?私はみんなは思うほど出来た人間ではないから」
「アンナリーゼができた人間じゃなかったら、誰がなれるのか。公はまず無理よ?」


 クスクス笑い始めるステイの方を見ると、すでに何か見つけたのか、廊下で立ち止まっていた。


「ステイ様、何を見ていらっしゃるのですか?」


 私はステイの元まで戻ってなにをしているのか確認をすると、私のヘタな刺繍が額縁に入っている。ナタリーに教えてもらって作ったのが、何故ここにあるのか。


「それは、アンナリーゼ様がされた刺繍ですね?」
「……それが、何故、こんなことに?」


「恥ずかしくて穴があったら入りたい」と熱くなった両頬を押さえる。原因はナタリーなのはわかるが、どんな意味があるのだろう。


「ナタリー様から譲り受けました」
「……ナタリーからなのね?」
「えぇ、最初は絶対に渡さないと言われたのですが、どうしてもと懇願したのです」
「それは何故?アンナリーゼの刺繍なの?」
「おまもり……みたいなものです。領主であるアンナリーゼ様、そのまた次の領主様と私たちの仕事を導いて欲しいと願って。あとは、私たちがこうして暮らせていることを忘れないように。救われたことを思い出せるようにです」
「私はそんな高尚なものではないわ!」
「それを決めるのは、アンナリーゼ様ではありません。私たちが決めていいのです。主として、導いてくださる人への信頼をアンナリーゼ様は立場的に不利なこのコーコナ領で成し遂げたことを少しでもわかってもらえると嬉しいですね」


 工場長はその不格好な刺繍をを眺め、優しく笑った。ステイは頷き、少し離れた場所で聞いていたアデルは目尻を拭っているように見えた。工場見学に毎年来ていて、良かったなんて、浅はかにも嬉しくなった。
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