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帰りましょうか

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「これからどうしますか?」
「監視がついちゃったから、もう、帰りましょうか」
「いいのですか?」
「しかたないわよ。元々、町をブラブラと歩き回る予定だっただけなんだから、大事になったら困るでしょ?」
「……確かに。この領地は、ゴールド公爵家傘下の中領地ですからね」
「本当、公は困ったものよね?」


 どうしてだとアデルは聞きたそうにしているので、手招きしてこっちに近づいてくるようにした。微かに足音が聞こえてくる。店員のものではなく、様子を見に来たものだろう。


「アデル、剣を一応握っておいて」
「どうかされたのですか?」
「誰かくるわ。足音をさせないように訓練されているものの足の運びよ?」
「……どこで、そんなものを習ってくるのですか!」
「祖父の軍営。何でも教えてくれるわよ?一度、行ってくる?」
「……ちょっと、興味は」
「学生のころのウィルも耐えられたのだから、アデルも大丈夫でしょう」


 その言葉で、えっと驚いたアデルは頭をあげそうになったので、私が思わず頭を抱えるようにした。それこそ、胸のあたりで「!!!!!」と何か言いたげだった。


「失礼いたします。お皿を下げに……」
「あら、野暮ね?」


 クスっと笑うと、店員に扮していた監視役は目をめいっぱい見開いて、驚いている。その後慌ててお皿を持って足早に去る。


「し、失礼しました。ごゆっくりどうぞ……」
「ありがとう!」


 その店員の背中に声をかけると、スッとんでいく。まだ、年端のいかない少女であった。私は未だにアデルの頭を胸に抱いているので、モゴモゴと抗議始める。



「アンナ!」
「にゃーん」


 アデルを無視して、猫の鳴き声をしてみる。初めて使う、鳴き声に反応したのは、ちょっと感動ものだ。私の足元へ、ディルの子猫が現れた。


「初めて呼んでみたのだけど……優秀ね?」
「お褒めにあずかり、ありがとうございます」


 しっかりと受け答えをするその青年。アデルは知らないだろうが、アンバー公爵家の情報収集を得意とする諜報部の一員だった。


「さっきの女の子のこと、調べて欲しいのだけど」
「かしこまりました。他にはありますか?」
「ないわ。こちらのことは、公に投げておくから、調べなくていい」
「差し出がましいことを」


「いいのよ、行って」というと、あっという間にいなくなった。猫のようにしなやかに、足音も無音で。

 ……さっきの子とは大違いね?優秀だわ!

 感心していると説明を求める!と言いたげなアデルに、「教えないわ」とだけ伝えた。もう、この町にはいられないので、帰る準備をしたのであった。
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