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中日のてるてる坊主

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 ナタリーたちも合流した翌日、朝早くから1台の荷馬車が屋敷の前に停まる。そこには大きな木箱が6つ。何が入っているのかわからないが、エレーナの運営する運送業者が届けてくれたらしい。私は執務室からそれを見ていた。ココナが対応してくれているようで、大きな木箱は玄関へ運ばれていった。


「……何かしら?」


 気になった私は執務室から玄関へと向かう。途中でデリアに会い、さっきの木箱のことを聞く。どうやら、ナタリーが工場長に頼んでいた布のようだということはわかった。


「ずいぶんと持ってこさせたわね?」
「そうですね。1年分と言っていたので、溜まりに溜まっていることでしょうし。あの人形を作るのですよね?」
「そうよ。あれを作るのよ?」
「売るんですよね?」
「そうね。去年は結構な高値で売れたけど、今年はどうかしら?」
「最近になって知ったのですが」
「何?」
「お守りとして子どもや恋人に渡すのが、流行ったそうです。コーコナ領での長雨の話があの人形を吊るしただけで晴れたから、何かが宿っているんだというので」
「そうなの?」


 私は意外な広まりをしているてるてる坊主に困惑する。ただ、大きさもいろいろなもの、布も端切れで作ったので、この世に同じものは1つとしてないはずだ。同じ花柄でもつぎはぎ具合では、全く別物となる。ナタリーは、コーコナ領には依頼をして、少しであったが先にてるてる坊主を作ってくれている。


「……てるてる坊主が雨を天気に変える不思議な力があると……誰かが広めたようですね」
「誰かしら?」
「それは、言わなくてわかるのではないですか?」


 クスっと笑ったところで玄関についた。すでに、ナタリーも聞きつけてやってきている。
 侍従に言って、応接室へ運んでくれるよう頼んでいた。その後ろでココナはナタリーにもう1台来るそうですと耳打ちしていた。聞こえて来た私はデリアと視線を交わす。


「まだ来るのですね?」
「綿かしら?頭の部分用に」
「なるほど!そうかもしれませんね?」
「私、思うんだけど……」
「何でしょうか?」
「端切れを使って、ぬいぐるみを作るのはだめかしら?可愛いと思うんだけど……」


 これくらいのと手のひらに乗るくらいの大きさを示すと、「いいかもしれませんね!」と頷いてくれた。


「ナタリーに提案してくるわ!」
「それでは、応接室を整えて参ります」
「お願いね!」


 玄関でデリアと別れ、ナタリーの元へ向かった。私が近づいたことに気が付いたナタリーとココナが「おはようございます」と声をかけてくる。先程、デリアと話していたことをナタリーに言うと「型紙をおこしてみます!」と早速、客間へと向かった。取り残された私とココナは応接室へ向かう。ココナにダリアを呼んでくるようにいい、私は応接室へ入る。デリアが端切れの置き場所を下男たちに指示をして、中から布を出し、机の上に置いて行く。布の形を整えたり縫合をしないといけないものもあるので、いろいろとわけている。中には、刺繍糸もあり、紐を編むこともしないといけない。もちろん、1日で出来上がる量ではないので、残りはコーコナ領やアンバー領で内職を募るのだろう。ナタリーのこういう用意周到なところは、すごいと感心させられる。


「アンナ様、全部は出さなくてもいいですよね?」
「そうね。箱のまま置いておいて。きっと、アンバ―領にも持っていくはずだから」
「わかりました。では、こちらの箱は、そのままにしておきます」


 2箱中身を出してもらったが……すごい量ではある。気の遠くなるような気持ちになっていたら、ココナとダリアが入ってくる。端切れの多さに驚いていた。


「遅くなりました」
「いいのよ。本来は休養日なのだから」
「いえ、ついてきた限りは、アンナ様のお役にたちますわ」


 椅子に座って、ダリアがデリアから説明を受けている。ただ、デリアは……裁縫が出来ないのだがと思っていたら、説明は上手なようだ。話を聞きながら、ダリアがするすると端切れを繋ぎ合わせていく。


「すごいですわ!ダリア様」
「ありがとう、デリア。私にも出来ることがあってよかったわ!」
「ふぅ!アンナリーゼ様!型紙を作ってきましたわ!」


 ナタリーも応接室に入ってきて、手に持った型紙を私に見せる。3種類あるようで、この短時間で、素早いものだ。「クーヘンも呼んでおいたのです」とナタリーの後ろから儚げな症状のようなクーヘンが現れた。


「久しぶりね?」
「はい、アンナリーゼ様もお変わりなく」
「そうだと嬉しいけど。ナタリーがまた無茶を言ったのではなくて?」
「そんなことはありません。少し違う仕事も息抜きでしたく思い……」
「……これが、息抜きって……クーヘンは、本当に手芸が好きなのね?」


「はい」と頷き席にかけるようにいうと、二人がちょこんと座る。私もナタリーの向かえに座り、山のような端切れから2枚引っ張り出してチクチクと縫い始める。この作業は、静かに始まり、静かに終わる。無言でチクチクとし始めた私たちをデリアとココナが見守っていた。
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