ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
1,369 / 1,515

中日のてるてる坊主

しおりを挟む
 ナタリーたちも合流した翌日、朝早くから1台の荷馬車が屋敷の前に停まる。そこには大きな木箱が6つ。何が入っているのかわからないが、エレーナの運営する運送業者が届けてくれたらしい。私は執務室からそれを見ていた。ココナが対応してくれているようで、大きな木箱は玄関へ運ばれていった。


「……何かしら?」


 気になった私は執務室から玄関へと向かう。途中でデリアに会い、さっきの木箱のことを聞く。どうやら、ナタリーが工場長に頼んでいた布のようだということはわかった。


「ずいぶんと持ってこさせたわね?」
「そうですね。1年分と言っていたので、溜まりに溜まっていることでしょうし。あの人形を作るのですよね?」
「そうよ。あれを作るのよ?」
「売るんですよね?」
「そうね。去年は結構な高値で売れたけど、今年はどうかしら?」
「最近になって知ったのですが」
「何?」
「お守りとして子どもや恋人に渡すのが、流行ったそうです。コーコナ領での長雨の話があの人形を吊るしただけで晴れたから、何かが宿っているんだというので」
「そうなの?」


 私は意外な広まりをしているてるてる坊主に困惑する。ただ、大きさもいろいろなもの、布も端切れで作ったので、この世に同じものは1つとしてないはずだ。同じ花柄でもつぎはぎ具合では、全く別物となる。ナタリーは、コーコナ領には依頼をして、少しであったが先にてるてる坊主を作ってくれている。


「……てるてる坊主が雨を天気に変える不思議な力があると……誰かが広めたようですね」
「誰かしら?」
「それは、言わなくてわかるのではないですか?」


 クスっと笑ったところで玄関についた。すでに、ナタリーも聞きつけてやってきている。
 侍従に言って、応接室へ運んでくれるよう頼んでいた。その後ろでココナはナタリーにもう1台来るそうですと耳打ちしていた。聞こえて来た私はデリアと視線を交わす。


「まだ来るのですね?」
「綿かしら?頭の部分用に」
「なるほど!そうかもしれませんね?」
「私、思うんだけど……」
「何でしょうか?」
「端切れを使って、ぬいぐるみを作るのはだめかしら?可愛いと思うんだけど……」


 これくらいのと手のひらに乗るくらいの大きさを示すと、「いいかもしれませんね!」と頷いてくれた。


「ナタリーに提案してくるわ!」
「それでは、応接室を整えて参ります」
「お願いね!」


 玄関でデリアと別れ、ナタリーの元へ向かった。私が近づいたことに気が付いたナタリーとココナが「おはようございます」と声をかけてくる。先程、デリアと話していたことをナタリーに言うと「型紙をおこしてみます!」と早速、客間へと向かった。取り残された私とココナは応接室へ向かう。ココナにダリアを呼んでくるようにいい、私は応接室へ入る。デリアが端切れの置き場所を下男たちに指示をして、中から布を出し、机の上に置いて行く。布の形を整えたり縫合をしないといけないものもあるので、いろいろとわけている。中には、刺繍糸もあり、紐を編むこともしないといけない。もちろん、1日で出来上がる量ではないので、残りはコーコナ領やアンバー領で内職を募るのだろう。ナタリーのこういう用意周到なところは、すごいと感心させられる。


「アンナ様、全部は出さなくてもいいですよね?」
「そうね。箱のまま置いておいて。きっと、アンバ―領にも持っていくはずだから」
「わかりました。では、こちらの箱は、そのままにしておきます」


 2箱中身を出してもらったが……すごい量ではある。気の遠くなるような気持ちになっていたら、ココナとダリアが入ってくる。端切れの多さに驚いていた。


「遅くなりました」
「いいのよ。本来は休養日なのだから」
「いえ、ついてきた限りは、アンナ様のお役にたちますわ」


 椅子に座って、ダリアがデリアから説明を受けている。ただ、デリアは……裁縫が出来ないのだがと思っていたら、説明は上手なようだ。話を聞きながら、ダリアがするすると端切れを繋ぎ合わせていく。


「すごいですわ!ダリア様」
「ありがとう、デリア。私にも出来ることがあってよかったわ!」
「ふぅ!アンナリーゼ様!型紙を作ってきましたわ!」


 ナタリーも応接室に入ってきて、手に持った型紙を私に見せる。3種類あるようで、この短時間で、素早いものだ。「クーヘンも呼んでおいたのです」とナタリーの後ろから儚げな症状のようなクーヘンが現れた。


「久しぶりね?」
「はい、アンナリーゼ様もお変わりなく」
「そうだと嬉しいけど。ナタリーがまた無茶を言ったのではなくて?」
「そんなことはありません。少し違う仕事も息抜きでしたく思い……」
「……これが、息抜きって……クーヘンは、本当に手芸が好きなのね?」


「はい」と頷き席にかけるようにいうと、二人がちょこんと座る。私もナタリーの向かえに座り、山のような端切れから2枚引っ張り出してチクチクと縫い始める。この作業は、静かに始まり、静かに終わる。無言でチクチクとし始めた私たちをデリアとココナが見守っていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

最後の思い出に、魅了魔法をかけました

ツルカ
恋愛
幼い時からの婚約者が、聖女と婚約を結びなおすことが内定してしまった。 愛も恋もなく政略的な結びつきしかない婚約だったけれど、婚約解消の手続きの前、ほんの短い時間に、クレアは拙い恋心を叶えたいと願ってしまう。 氷の王子と呼ばれる彼から、一度でいいから、燃えるような眼差しで見つめられてみたいと。 「魅了魔法をかけました」 「……は?」 「十分ほどで解けます」 「短すぎるだろう」

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

「「中身が入れ替わったので人生つまらないと言った事、前言撤回致しますわ!」」

桜庵
ファンタジー
※重複投稿です 「「人生つまらない」」とつぶやく現代女子高生と異国のご令嬢。彼女たちが手にしているのは一冊の古びたおまじないの本。「人生一番つまらないときに唱えると奇跡が起きる」というおまじないの言葉を半信半疑に試みた翌日、目覚めると2人の人格が入れ替わっていた。現代日本と異国、人格の入れ替わりはあるが魔法もチートもないそれぞれの世界で二人の少女の物語が今始まる。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...