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ココナへの失望
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「心当たりがあるの?」
ココナに問えば頷くので、その人物について聞いてみる。年は若いようで、親方から独り立ちしたばかりの青年のようだった。
「なるほど、その人には会えるかしら?」
「もちろんです!あの……」
「何か?」
言いにくそうにしているので、「何でも言ってちょうだい」と促すと、どうやら、ココナと同じくあの町の住人らしい。コーコナ領で最下層と言われてきたスラム街の出身だということを懸念したらしい。
私はココナに対してわざとらしくため息をついた。その様子にココナが委縮する。そうなって欲しいわけではないのにと思いながら、「ココナ」と名を呼ぶ。
「……えっと、はい!」
「私がため息をついたのは、その青年に対してではないわ」
「では、あの……」
「あなたに……ココナに対してため息をついたの」
ココナはしゅんとしてしまい、視線を落としてしまった。私が言いたいことは、そこなのだ。ココナの態度や意識が変わっていないことを残念に思えた。去年は、あれほどやる気に満ち溢れ、実際、あの町を他の町と変わらない……それ以上の活気ある場所へと変えたことは聞きおよんでいた。
「アンナリーゼ、どうしてココナにため息をついたの?」
私に失望されたと思ったのか、黙り込んでしまったココナの代わりに、ステイが助け船を出してくれた。できれば、ココナ自身に気が付いて欲しかったし、それが出来ないなら、ココナが私に質問をしてほしかった。
そうはいっても、ステイも私とココナのやり取りが気になったようで、質問をしてきている。答える義務はあるので、説明をすることにした。
「ステイ様は、領地に必ずある町のことをご存じですか?」
「町?」
「そうです。コーコナ領に来るまでにも、見かけたと思います」
少し考えたとき、護衛が注意していたことを思い出したようだ。考えがまとまったようだった。
「スラム街かしら?ここへ来るまでにいくつか見かけたわ。閉塞的な空間で、領地のみなが、その場所がないかのように扱っている。確かに人が住み、生活もしているはずなのに……誰もが関りを持とうしない寂しい場所」
「そうですね。実際、中は酷いものでしたよ?コーコナ領のスラム街は人身売買の温床になっていましたし、麻薬も取引されていました。アンバー領にはなかったので、正直驚きました」
「そう。話を戻しても?」
「ココナの話ですよね?」
「えぇ、どうしてため息なんかを?」
私は苦笑いをして、ココナを見る。私の心の内まではわからなかったようでデリアがそっと寄り添っていた。デリアは何を意味しているのかわかったようで、頷いている。
「端的に言えば、ココナに失望したからです」
「失望?優秀な侍女だと思うけど」
「そうです。ココナはとても優秀な侍女なのです。だからこそ、私は失望しました。ココナに長年染みついている心に」
「それは?」
「ココナは、コーコナ領のスラム街の出身なんです。だからこそ、私は去年、ココナにスラム街の再開発を任せたのです。ココナなら出来るはずと。私の期待に見事応えてくれ、今、生まれ変わった町は発展していっている。そこに住んでいた人々も自ら動き仕事を見つけ、変わっていったと報告を受けています。実際、見に行くのは数日後の予定ですが、その報告に偽りはありません」
「なら……」
「ココナの心と言っていいのか。スラム街出身だからというのが、常に枕詞としてついた話し方をするのです。さっきの青年の話もそうなのです。その青年は、鍛冶師になりたくて自身でしっかり技術を学び、立派な鍛冶師として師匠に認められて一人前となった」
「確かに。そこには、スラム街出身だからということは必要ない?」
「そういうことです。彼自身が身を立てるため、もしかしたら家族がいるかもしれませんが、自身の努力で勝ち取ってきたものに対して、その枕詞は必要ありません。私がココナを認めているように、ココナもその青年も何も恥じることをしているわけではないのに、そう思ったので、私はココナへ失望したと言ったのです。私は気にしません。真っ当に頑張っている人を蔑むことなんてしなくていいのだから。どこの町出身でもいいのです。頑張っている人に今回は新しい挑戦をしないかと誘うだけの話ですから」
俯いていたココナがこちらを見た。自身の中に未だ根深く残っていた感情を指摘されたのだとやっと気が付いてくれたようだ。「申し訳ありません」と謝るココナに、「謝ることではないの」と諭す。
「謝ることなんて、ひとつもないわ。胸を張って、その青年を紹介してくれたら、それだけでいいのよ。ココナが紹介したい青年なんだから、きっと働き者で向上心のあるおもしろい人材なのでしょ?」
常日頃からどんな人を周りに置くのかを知っているココナは、私の問いに頷いた。どうやら、農機具の問題は、スキナと鍛冶師をアンバー領から呼び寄せ、その青年の成長を見守るだけで手が打てそうだ。コットンに「これで大丈夫かしら?」と聞くと頷いた。
「アンナリーゼ様、その青年に会われるのですか?」
「そうね。会って話をしてみたいわ!私、そういう頑張っている人は応援したいですもの!コットンも含め、そうでしょ?」
クスクス笑うと、コットンは何度も頷いた。コーコナ領で私はありとあらゆるものに、私財を投げうっている。こちらも資金回収を少しずつ出来ているので、そろそろ新しい事業への展開を考えていたところだったので、いい機会であった。
ココナに問えば頷くので、その人物について聞いてみる。年は若いようで、親方から独り立ちしたばかりの青年のようだった。
「なるほど、その人には会えるかしら?」
「もちろんです!あの……」
「何か?」
言いにくそうにしているので、「何でも言ってちょうだい」と促すと、どうやら、ココナと同じくあの町の住人らしい。コーコナ領で最下層と言われてきたスラム街の出身だということを懸念したらしい。
私はココナに対してわざとらしくため息をついた。その様子にココナが委縮する。そうなって欲しいわけではないのにと思いながら、「ココナ」と名を呼ぶ。
「……えっと、はい!」
「私がため息をついたのは、その青年に対してではないわ」
「では、あの……」
「あなたに……ココナに対してため息をついたの」
ココナはしゅんとしてしまい、視線を落としてしまった。私が言いたいことは、そこなのだ。ココナの態度や意識が変わっていないことを残念に思えた。去年は、あれほどやる気に満ち溢れ、実際、あの町を他の町と変わらない……それ以上の活気ある場所へと変えたことは聞きおよんでいた。
「アンナリーゼ、どうしてココナにため息をついたの?」
私に失望されたと思ったのか、黙り込んでしまったココナの代わりに、ステイが助け船を出してくれた。できれば、ココナ自身に気が付いて欲しかったし、それが出来ないなら、ココナが私に質問をしてほしかった。
そうはいっても、ステイも私とココナのやり取りが気になったようで、質問をしてきている。答える義務はあるので、説明をすることにした。
「ステイ様は、領地に必ずある町のことをご存じですか?」
「町?」
「そうです。コーコナ領に来るまでにも、見かけたと思います」
少し考えたとき、護衛が注意していたことを思い出したようだ。考えがまとまったようだった。
「スラム街かしら?ここへ来るまでにいくつか見かけたわ。閉塞的な空間で、領地のみなが、その場所がないかのように扱っている。確かに人が住み、生活もしているはずなのに……誰もが関りを持とうしない寂しい場所」
「そうですね。実際、中は酷いものでしたよ?コーコナ領のスラム街は人身売買の温床になっていましたし、麻薬も取引されていました。アンバー領にはなかったので、正直驚きました」
「そう。話を戻しても?」
「ココナの話ですよね?」
「えぇ、どうしてため息なんかを?」
私は苦笑いをして、ココナを見る。私の心の内まではわからなかったようでデリアがそっと寄り添っていた。デリアは何を意味しているのかわかったようで、頷いている。
「端的に言えば、ココナに失望したからです」
「失望?優秀な侍女だと思うけど」
「そうです。ココナはとても優秀な侍女なのです。だからこそ、私は失望しました。ココナに長年染みついている心に」
「それは?」
「ココナは、コーコナ領のスラム街の出身なんです。だからこそ、私は去年、ココナにスラム街の再開発を任せたのです。ココナなら出来るはずと。私の期待に見事応えてくれ、今、生まれ変わった町は発展していっている。そこに住んでいた人々も自ら動き仕事を見つけ、変わっていったと報告を受けています。実際、見に行くのは数日後の予定ですが、その報告に偽りはありません」
「なら……」
「ココナの心と言っていいのか。スラム街出身だからというのが、常に枕詞としてついた話し方をするのです。さっきの青年の話もそうなのです。その青年は、鍛冶師になりたくて自身でしっかり技術を学び、立派な鍛冶師として師匠に認められて一人前となった」
「確かに。そこには、スラム街出身だからということは必要ない?」
「そういうことです。彼自身が身を立てるため、もしかしたら家族がいるかもしれませんが、自身の努力で勝ち取ってきたものに対して、その枕詞は必要ありません。私がココナを認めているように、ココナもその青年も何も恥じることをしているわけではないのに、そう思ったので、私はココナへ失望したと言ったのです。私は気にしません。真っ当に頑張っている人を蔑むことなんてしなくていいのだから。どこの町出身でもいいのです。頑張っている人に今回は新しい挑戦をしないかと誘うだけの話ですから」
俯いていたココナがこちらを見た。自身の中に未だ根深く残っていた感情を指摘されたのだとやっと気が付いてくれたようだ。「申し訳ありません」と謝るココナに、「謝ることではないの」と諭す。
「謝ることなんて、ひとつもないわ。胸を張って、その青年を紹介してくれたら、それだけでいいのよ。ココナが紹介したい青年なんだから、きっと働き者で向上心のあるおもしろい人材なのでしょ?」
常日頃からどんな人を周りに置くのかを知っているココナは、私の問いに頷いた。どうやら、農機具の問題は、スキナと鍛冶師をアンバー領から呼び寄せ、その青年の成長を見守るだけで手が打てそうだ。コットンに「これで大丈夫かしら?」と聞くと頷いた。
「アンナリーゼ様、その青年に会われるのですか?」
「そうね。会って話をしてみたいわ!私、そういう頑張っている人は応援したいですもの!コットンも含め、そうでしょ?」
クスクス笑うと、コットンは何度も頷いた。コーコナ領で私はありとあらゆるものに、私財を投げうっている。こちらも資金回収を少しずつ出来ているので、そろそろ新しい事業への展開を考えていたところだったので、いい機会であった。
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