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コットンへの紹介Ⅱ
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「こちら、公の異母弟のステイ様です」
「公の?」
とても驚いているコットン。それもそうだろう。コーコナ領は公都から離れているので、田舎である。そんな場所に公の異母弟が来たとなれば、驚いて当然だろう。
「……えっと」
「驚いているよね?ステイ様は、今まで国のことに少し距離をおいていたの。去年の病のことや各地でいろいろと問題が起こっているでしょ?」
「……そうですね。綿花以外のことに興味がなくても、耳には入ってきます」
「領地にいれば、然程気になることも少ないでしょうが、いろいろなことが国内で起こっているのよ。公一人では対応出来なくなることが今後考えられるから、勉強を兼ねて各領地をお忍びで周られる予定よ」
「それで、こんな辺鄙な領地へ?」
「辺鄙ね……確かに、この光景を見たら……そういう感じよね」
私はステイたちそっちのけで、深呼吸をしたあと、ぐぅーっと体を伸ばす。公都の都会的な雰囲気ももちろん好きだが、私にはこちらの方が肌にあっている。アンバー領も大領地ではあるが、そこまで栄えているわけではなく、コーコナ領とそう変わらない。少しずつ町を街へと変えるような政策が取られ始めているが、あのままの雰囲気を残してほしい……そんな気持ちもある。
「コットンと言ったかしら?」
「はい、コットンです。えっと……ステイ殿下」
「あなたは、綿花農家だと聞いているけど、どんな仕事をしているの?」
ステイから質問をされ、どう答えたらいいのかとこちらへ目配せしてくるが、私は微笑むだけにしておいた。
コットンが聞かれているのだから……答えるのはコットンだ。私がしゃしゃり出ていくのは違うだろう。これは、コットンの貴族対応の練習でもあり、ステイのお忍び時の訓練でもあった。歩み寄ったステイに答えるようコットンに促すと、私から視線を外し、ステイを見てゴクリと唾を飲み込んだ。
「見ての通り、ここが私の職場になります。種をまき、苗を育て、収穫時期まで大事に世話をする……それが、私の仕事です。大きな農園をしているので、従業員も雇いながら、ここから見える範囲全ての綿花畑は私の管轄となります」
「ここから見える範囲全て……大きいどころではないわ。見えなくなるところまでとなると……一面ね?」
「そうです。コーコナ領で作られる綿花の98パーセントが私の綿花畑となります」
「ほとんどではないの!」
少し自信が出てきたらしく、堂々と受け答えができるようになったコットン。ステイのほうは、元々聞き上手ということもあるのか、話しやすいような会話にしていっているのがわかった。これなら、十分、お互いの訓練になるだろう。
「アンナ様」
「どうかした?アデル」
「今日はこちらで昼食だと聞いているのですが、あの……食べるところがありません。他の護衛たちも少々戸惑っていて……」
「あぁ、そのこと?」
「何かあるのですか?」
「ここで食べるのよ。もう少ししたら、デリアたちが、料理を運んできてくれるわ。天気もいいから、外で食べようと思っているの」
「……確かに、天気もいいですよね。そうです」
「アデルは何を気にしているの?」
「いえ……」と口ごもるアデルを肘で小突くと、「護衛の方々が……ちょっと」と言葉を濁した。なんだかんだと、距離があるアデルと護衛を見れば、関係性はあまり良くないのだろうか?と勘ぐってしまう。
「何を心配しているのかわからないけど……ちゃんと、あなたたちの分もあるから、気にしなくていいわよ?交替で食べてくれたらいいから」
「……わかりました」
「不安なことがあるなら、あとでこっそり聞くから執務室へいらっしゃい」
小声ですれ違いざまにアデルへ言うと、心得たというふうにこちらを見てきた。護衛的に、今回の視察も本当は来たくなかったのかもしれない。何年も離宮でしか生活ができなかったステイがいきなり外の世界へ飛び出して行けば、苦労するのは護衛だ。訓練を受けているとはいえ、もしかしたら、これが初めての外での警護なのかもしれない。
「ステイ様、コットンとは話が弾みましたか?」
「えぇ、とっても。私、糸の原材料なんて考えたこともなかったので、コットンに話を聞いて驚きましたわ!こんな綿から出来上がるだなんて」
「私も子どものころ、母から教えられて驚いた気がします」
「幼いころには、もう知っていたのね。アンナリーゼの周りは博識な人が多いんだね?」
「父と兄は本の虫と言っても過言ではないくらい、本が好きですから。私はどちらかというと、こうやって外で見て触って体験した方が好きです」
「なるほど、アンナリーゼの行動力はこういう場面でも行かされているのね?」
「行動力?」
ステイの方を見て首を傾げる。あまり言われたことがない。
「アンナリーゼは、自分の好きなことに貪欲ね」
「それはよく言われますわ。今日の献立も知っていますよ?」
クスクス笑っていると馬車が1台到着する。もう、そんな時間なのかと空を見上げているステイに「ももうすぐ昼食だ」声をかけた。
「公の?」
とても驚いているコットン。それもそうだろう。コーコナ領は公都から離れているので、田舎である。そんな場所に公の異母弟が来たとなれば、驚いて当然だろう。
「……えっと」
「驚いているよね?ステイ様は、今まで国のことに少し距離をおいていたの。去年の病のことや各地でいろいろと問題が起こっているでしょ?」
「……そうですね。綿花以外のことに興味がなくても、耳には入ってきます」
「領地にいれば、然程気になることも少ないでしょうが、いろいろなことが国内で起こっているのよ。公一人では対応出来なくなることが今後考えられるから、勉強を兼ねて各領地をお忍びで周られる予定よ」
「それで、こんな辺鄙な領地へ?」
「辺鄙ね……確かに、この光景を見たら……そういう感じよね」
私はステイたちそっちのけで、深呼吸をしたあと、ぐぅーっと体を伸ばす。公都の都会的な雰囲気ももちろん好きだが、私にはこちらの方が肌にあっている。アンバー領も大領地ではあるが、そこまで栄えているわけではなく、コーコナ領とそう変わらない。少しずつ町を街へと変えるような政策が取られ始めているが、あのままの雰囲気を残してほしい……そんな気持ちもある。
「コットンと言ったかしら?」
「はい、コットンです。えっと……ステイ殿下」
「あなたは、綿花農家だと聞いているけど、どんな仕事をしているの?」
ステイから質問をされ、どう答えたらいいのかとこちらへ目配せしてくるが、私は微笑むだけにしておいた。
コットンが聞かれているのだから……答えるのはコットンだ。私がしゃしゃり出ていくのは違うだろう。これは、コットンの貴族対応の練習でもあり、ステイのお忍び時の訓練でもあった。歩み寄ったステイに答えるようコットンに促すと、私から視線を外し、ステイを見てゴクリと唾を飲み込んだ。
「見ての通り、ここが私の職場になります。種をまき、苗を育て、収穫時期まで大事に世話をする……それが、私の仕事です。大きな農園をしているので、従業員も雇いながら、ここから見える範囲全ての綿花畑は私の管轄となります」
「ここから見える範囲全て……大きいどころではないわ。見えなくなるところまでとなると……一面ね?」
「そうです。コーコナ領で作られる綿花の98パーセントが私の綿花畑となります」
「ほとんどではないの!」
少し自信が出てきたらしく、堂々と受け答えができるようになったコットン。ステイのほうは、元々聞き上手ということもあるのか、話しやすいような会話にしていっているのがわかった。これなら、十分、お互いの訓練になるだろう。
「アンナ様」
「どうかした?アデル」
「今日はこちらで昼食だと聞いているのですが、あの……食べるところがありません。他の護衛たちも少々戸惑っていて……」
「あぁ、そのこと?」
「何かあるのですか?」
「ここで食べるのよ。もう少ししたら、デリアたちが、料理を運んできてくれるわ。天気もいいから、外で食べようと思っているの」
「……確かに、天気もいいですよね。そうです」
「アデルは何を気にしているの?」
「いえ……」と口ごもるアデルを肘で小突くと、「護衛の方々が……ちょっと」と言葉を濁した。なんだかんだと、距離があるアデルと護衛を見れば、関係性はあまり良くないのだろうか?と勘ぐってしまう。
「何を心配しているのかわからないけど……ちゃんと、あなたたちの分もあるから、気にしなくていいわよ?交替で食べてくれたらいいから」
「……わかりました」
「不安なことがあるなら、あとでこっそり聞くから執務室へいらっしゃい」
小声ですれ違いざまにアデルへ言うと、心得たというふうにこちらを見てきた。護衛的に、今回の視察も本当は来たくなかったのかもしれない。何年も離宮でしか生活ができなかったステイがいきなり外の世界へ飛び出して行けば、苦労するのは護衛だ。訓練を受けているとはいえ、もしかしたら、これが初めての外での警護なのかもしれない。
「ステイ様、コットンとは話が弾みましたか?」
「えぇ、とっても。私、糸の原材料なんて考えたこともなかったので、コットンに話を聞いて驚きましたわ!こんな綿から出来上がるだなんて」
「私も子どものころ、母から教えられて驚いた気がします」
「幼いころには、もう知っていたのね。アンナリーゼの周りは博識な人が多いんだね?」
「父と兄は本の虫と言っても過言ではないくらい、本が好きですから。私はどちらかというと、こうやって外で見て触って体験した方が好きです」
「なるほど、アンナリーゼの行動力はこういう場面でも行かされているのね?」
「行動力?」
ステイの方を見て首を傾げる。あまり言われたことがない。
「アンナリーゼは、自分の好きなことに貪欲ね」
「それはよく言われますわ。今日の献立も知っていますよ?」
クスクス笑っていると馬車が1台到着する。もう、そんな時間なのかと空を見上げているステイに「ももうすぐ昼食だ」声をかけた。
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