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どこまでも自由

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 近衛の訓練場へ入ると、ウィルの大隊のうち、新兵の練兵をシルビアと確認しているところだった。邪魔はしないようにといつもの席に座り、その様子を見ている。ここへ来るのも1年ぶりなので、顔ぶれもだいぶ違う。その中でも、見知ったものが私を見つけたようだ。


「アンナ様!」


 人懐っこく笑う青年、私も「久しぶりね?」と笑いかけた。昨年、南の領地を一緒に旅をした仲なのだが、キースに会うのは久しぶりだった。駆け寄ってくるので、一緒に練兵を見る。


「ウィル様のところの練兵は厳しいという話を聞いているのですが、本当ですね」
「キースたちのところはもう少し緩いの?」


 苦笑いするだけで答えてはくれなかったが、それが答えなのだろう。私の隣に立ったままのキースはじっとウィルを見ていた。


「また、強くなられましたか?」
「そう思う?」
「えぇ、体つきは元々細身のように見えていましたが、しなやかさと伸びているように見えます。あと……」
「何?戦い方が少し変わったのですか?」
「あぁ、なるほど。ウィルの子猫たちとも訓練していると聞いているから、勘が一層磨かれたんじゃない?」
「勘、ですか?」


 私は頷いた。今は、ウィル対数人で模擬戦をしている。もちろん、新兵で叶う相手ではないだろう。ウィルは10年に1度の才能持ち主なのだから。


「今止まっているから、よく見ていて。ウィルの立ち位置にいるとして、私がすぐ後ろにいると思い浮かべて。キースならどこから攻める?」
「……1対多勢ってことですね?それなら、左側から切ります」
「それでいい?」
「はい、それしかありません。訓練場でもそう習っています」
「それじゃあ、その教科書は間違っているわね」
「どういうことですか?」
「私もウィルも動かないを選択した。この場合、カウンターで動くしかないのよね。まぁ、相手の力量にもよるだろうけど、先に動けばスキができるからね」
「なるほど……あのヒーナという子と戦ったときのことを思い出します」
「ヒーナは、インゼロ帝国の戦争屋の中でも戦闘能力も高かったし、兵を動かすことも長けていたから、今のキースでもまだ勝てないはずよ?」


 困ったように笑うキース。自分もあれから訓練もして強くなったと思っていたのにというふうだ。それでも、ヒーナは実践的なものだ。訓練だけでは経験出来ないし死線をもくぐってきているのだから、強いだろう。生きることだけを考えたとき、私たちの中で1番泥臭くともボロボロになろうとも、最後まで生き残るのはヒーナな気がする。


「さて、そろそろ終わりそうだから、私たちも混ざる?」
「そのドレスですか?」
「えぇ、そうよ!行きましょうか?」


 ダンスを誘うように軽いお誘いに驚いているキース。実は模擬剣を運んでいるところだったようで、10本ほど持っていた。私は、その中から1本借り、キースも諦めたように私立った後のベンチに残りの模擬剣を置く。もちろん、キースも握りしめているので、さぁ!と声をかけると走っていく。


 さすがね?そこは、キースに負けてしまうところよね。


 一瞬の瞬発力なら負けるつもりはないが、この距離をハイヒールで走るとなると、とてもじゃないが、キースには敵わない。新兵たちがへとへとになってへたり込み始め、セシリアの怒号が響く。それでも、立ち上がれるものは少ない。今戦っている子らと、へたり込んではいるけど、立ち上がろうとしているあの子は強くなりそうだ。
 目星だけつけて、私は新兵を避けて、ウィルに向かって駆けて行く。キースが先に到着しているので、突然の参戦に驚いていた。


「うゎっ、キースじゃん!なんでいるわけ?」
「なんででしょう?切り込みたくなったんです!」
「それは、困るなぁ。俺、新兵の教育をし……うわっ!何」
「ごきげんよう、ウィル!」


 ドレスの裾を翻し、私も参戦した。私とキースに大きなため息をつき、一度距離を取るようだ。三人の新兵も私の乱入に驚きを隠せず、されど、突然の出来事にも果敢に攻めるッ性を示した。


「ウィル、いい人材を見つけたわね?」
「俺が見つけたわけじゃないけどな?姫さんと一緒で、セシリアに任せっきりだから。それより、うわっ、ちょ、ちょっとまって!」
「またないわよ!」
「姫さんはどこまでも自由だな」
「誉め言葉としてとっておくわ!さぁ、踊りましょう!ウィルの足が棒になるまで!」



 私とキースは責める役だけをした。ウィルへのとどめは新兵に託す。


「あぁ、もうちょこまかと!」
「しかたないでしょ?剣を持っている限りは、私も成長したいの」
「……姫さん、貪欲、好奇心の塊!」


 うまくさばいているように見えて、追い詰められていくウィルに笑いが止まらないようだ。
 新兵たちを遠ざけたあと、ウィルが私とキースを睨み、こちらに勝てるよう一瞬で道すぎをたてたようだ。そうはいっても、私はまだ、ウィルには倒せないだろう。ギュっと模擬剣を握り直し、ウィルが仕掛けてくるのをジッと見守って剣を構えたのであった。
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