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想い出の
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「ここは変わりませんね?」
「そうだね。あの頃と変わらない……、変わったのは」
「私たちですかね?家族も増え、仲間も増え……出会いも別れもたくさんありました」
「そうだね。アンナにこんなこと聞くのは間違っているのかもしれないけどさ」
「なんですか?」
「……」
言いにくそうにするジョージアに微笑んで話を促す。頷いたあと、思いがけない人の名が出てくる。
「ダドリー男爵のこと」
「えぇ、男爵のことは、残念に思っています。出会い方さえ違えば、きっと、良いお友達になれたのではないかと話したのです。もちろん、ソフィアともですよ?」
「そうなんだ。俺は男爵が少し苦手だったんだけど、そっか、男爵とそんな話をしたことがあるのか」
「やり方を間違えただけです。あと、つくべき人を。わかっていたようですね。自身の野望は胸にあったみたいですけど、切り捨てられる覚悟もしっかりしていましたから」
「アンナは、なんて言うか……強いな、やっぱり」
「強くはありません。強くあろうとしているだけです。ジョージア様を始め友人たちがいてくれるから、安心して好きなことができているだけですよ」
ジョージアに笑いかけたとき、給仕が申し訳なさそうに「前菜をお持ちしました」と声をかけてくる。私の前へ先に置いてくれるので、「美味しそう!」と給仕へ聞こえるように言うと、嬉しそうに口元を緩めている。
「ジョージア様、いただきましょう。今日はゆっくり二人だけですから、いろいろなお話もしながら。想い出話はたくさんありますからね?」
「そうだね。料理も美味しそうだ」
私もジョージアも食べ始めると、思わず笑みが出るほど美味しい。あの日は少し緊張をしていたのもあって、あまり料理を楽しんだ記憶がない。
「……今更ながら白状すると」
「何?何か悪いこと?」
「いえ、ジョージア様に連れられて、ここへ来たとき、正直あまり味を覚えていません」
「そうなの?俺の分のデザート、食べてなかった?」
「あれは……あれです」
「甘いものは別物ね?」
「そうです、そうなのです。でも、今日はしっかり味わって食べれますね。美味しい」
「それはよかった。連れてきたかいがある」
次々運ばれてくる料理。どれもこれも美味しい。味も濃すぎず、ちょうどいいので、いくらでも入って行きそうだった。
「アンナは美味しそうに食べるね?」
「もちろんです!食べることは、私にとって楽しみの1つですからね!」
「それは、嬉しい話を聞けました」
急に話しかけられて驚き、声の方を見ると、この店の料理長と店主が並んでこちらに笑いかけていた。
「両アンバー公に本日はお越しいただきありがとうございました。お料理の方は楽しんでいただけたようですね?」
「はい!とっても。お味も最高によかったですし……甘味も美味しかったです!」
「嬉しいお言葉です。前、来ていただいたときと、いかがでしたか?」
私はジョージアと視線を交わすと苦笑いしている。
「……すみません、二人とも緊張のあまり、前の料理の味をあまり覚えていなくて」
「そうだったんですか?」
「あの日はプロポーズされていましたから、お互い緊張もされていたのでしょうね?お皿を見れば、満足していただけたかどうかはわかります。味を覚えていないとおっしゃいましたが、お二方とも、お皿が綺麗でしたから、満足していただけたと思っています」
「……よかったわ。さっきもその話をしていたの」
「そうでしたか。想い出のお店となったこと、嬉しく思います」
「こちらこそ、ありがとう」
料理長と店主にお礼をいうと、とんでもない!と慌てている二人。笑っているのに、何故か少し寂しそうにしているのが気になった。
「あの、差し出がましいのですが」
「どうかされましたか?」
「お二人の表情を見ていて、ときおりすごく寂しそうに感じているのですけど、何かあるのですか?」
今度は逆に二人が驚いている。私は、隠していた二人の感情を引き出してしまったようだった。
「……いえ、お客様に話すようなことではありませんから」
「何か、私にできることがあるなら、遠慮なく言ってください。このお店は、私にとっても旦那様にとっても大切な想い出の場所。もう少し、子どもたちが大きくなったら、一緒に連れて来たいと思っているのですから」
顔を見合わせている二人には、何か隠し事があるようで、悩んでいるようだった。微笑むとますます困惑していく料理長と店主。
「アンナに言ってなんとかなるようなことなら、なんとかしてもらった方がいいですよ。お二人のためになるかはわかりませんが」
ジョージアの後押しもあって、店主が意を決したように私に向き直る。料理長は止めようとしているが、もう、止められないだろう。
「あの、お願いがあります。もし、助けていただけるのであれば……このお店をお譲りします!」
店主の切なる願いに私たちは目を丸くし、事情を聞くことにした。その話の内容によって、私は、手を差し伸べようと考えた。
「そうだね。あの頃と変わらない……、変わったのは」
「私たちですかね?家族も増え、仲間も増え……出会いも別れもたくさんありました」
「そうだね。アンナにこんなこと聞くのは間違っているのかもしれないけどさ」
「なんですか?」
「……」
言いにくそうにするジョージアに微笑んで話を促す。頷いたあと、思いがけない人の名が出てくる。
「ダドリー男爵のこと」
「えぇ、男爵のことは、残念に思っています。出会い方さえ違えば、きっと、良いお友達になれたのではないかと話したのです。もちろん、ソフィアともですよ?」
「そうなんだ。俺は男爵が少し苦手だったんだけど、そっか、男爵とそんな話をしたことがあるのか」
「やり方を間違えただけです。あと、つくべき人を。わかっていたようですね。自身の野望は胸にあったみたいですけど、切り捨てられる覚悟もしっかりしていましたから」
「アンナは、なんて言うか……強いな、やっぱり」
「強くはありません。強くあろうとしているだけです。ジョージア様を始め友人たちがいてくれるから、安心して好きなことができているだけですよ」
ジョージアに笑いかけたとき、給仕が申し訳なさそうに「前菜をお持ちしました」と声をかけてくる。私の前へ先に置いてくれるので、「美味しそう!」と給仕へ聞こえるように言うと、嬉しそうに口元を緩めている。
「ジョージア様、いただきましょう。今日はゆっくり二人だけですから、いろいろなお話もしながら。想い出話はたくさんありますからね?」
「そうだね。料理も美味しそうだ」
私もジョージアも食べ始めると、思わず笑みが出るほど美味しい。あの日は少し緊張をしていたのもあって、あまり料理を楽しんだ記憶がない。
「……今更ながら白状すると」
「何?何か悪いこと?」
「いえ、ジョージア様に連れられて、ここへ来たとき、正直あまり味を覚えていません」
「そうなの?俺の分のデザート、食べてなかった?」
「あれは……あれです」
「甘いものは別物ね?」
「そうです、そうなのです。でも、今日はしっかり味わって食べれますね。美味しい」
「それはよかった。連れてきたかいがある」
次々運ばれてくる料理。どれもこれも美味しい。味も濃すぎず、ちょうどいいので、いくらでも入って行きそうだった。
「アンナは美味しそうに食べるね?」
「もちろんです!食べることは、私にとって楽しみの1つですからね!」
「それは、嬉しい話を聞けました」
急に話しかけられて驚き、声の方を見ると、この店の料理長と店主が並んでこちらに笑いかけていた。
「両アンバー公に本日はお越しいただきありがとうございました。お料理の方は楽しんでいただけたようですね?」
「はい!とっても。お味も最高によかったですし……甘味も美味しかったです!」
「嬉しいお言葉です。前、来ていただいたときと、いかがでしたか?」
私はジョージアと視線を交わすと苦笑いしている。
「……すみません、二人とも緊張のあまり、前の料理の味をあまり覚えていなくて」
「そうだったんですか?」
「あの日はプロポーズされていましたから、お互い緊張もされていたのでしょうね?お皿を見れば、満足していただけたかどうかはわかります。味を覚えていないとおっしゃいましたが、お二方とも、お皿が綺麗でしたから、満足していただけたと思っています」
「……よかったわ。さっきもその話をしていたの」
「そうでしたか。想い出のお店となったこと、嬉しく思います」
「こちらこそ、ありがとう」
料理長と店主にお礼をいうと、とんでもない!と慌てている二人。笑っているのに、何故か少し寂しそうにしているのが気になった。
「あの、差し出がましいのですが」
「どうかされましたか?」
「お二人の表情を見ていて、ときおりすごく寂しそうに感じているのですけど、何かあるのですか?」
今度は逆に二人が驚いている。私は、隠していた二人の感情を引き出してしまったようだった。
「……いえ、お客様に話すようなことではありませんから」
「何か、私にできることがあるなら、遠慮なく言ってください。このお店は、私にとっても旦那様にとっても大切な想い出の場所。もう少し、子どもたちが大きくなったら、一緒に連れて来たいと思っているのですから」
顔を見合わせている二人には、何か隠し事があるようで、悩んでいるようだった。微笑むとますます困惑していく料理長と店主。
「アンナに言ってなんとかなるようなことなら、なんとかしてもらった方がいいですよ。お二人のためになるかはわかりませんが」
ジョージアの後押しもあって、店主が意を決したように私に向き直る。料理長は止めようとしているが、もう、止められないだろう。
「あの、お願いがあります。もし、助けていただけるのであれば……このお店をお譲りします!」
店主の切なる願いに私たちは目を丸くし、事情を聞くことにした。その話の内容によって、私は、手を差し伸べようと考えた。
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