1,336 / 1,509
さぁ、ついた
しおりを挟む
馬車に乗り、公都を1周回ってきた。ちょうど、公宮の前にきたとき、「少し寄っていくかい?」とジョージアは聞いてくれたが、首を横に振った。
「今日はジョージア様とお出かけですから、また、後日、お菓子を持ってきますよ!」
「あぁ、いつもの?」
「そうです。喜んでもらえるのですよ!」
お菓子の話をすると、甘いものが苦手なジョージアは微笑みながら頷くだけだ。新しいお菓子の開発をキティと相談しているというと、「甘くないのも頼むよ?」と珍しくいうので、「今度味見をしてほしいお菓子があるのです!」と笑いかけた。
「アンナは甘いものとなると、本当に目がないね?」
「もちろんですよ!甘いものは私の原動力ですから。食事は大切なのですよ?」
「お菓子は……食事ではないだろう?」
「確かに。でも、おいしいからいいのです。体も動かせば、その分消費していきますし」
「今朝もアンジーと体を動かしていたみたいだしね?」
「そうですね。デリアとエマも参戦してましたよ」
「デリアも?涼しい顔をしていたから、まさか……。俺も本格的に体を動かしたほうがいいのかなぁ?」
「気になることでも?」
「アンナたちと一緒にご飯を食べると美味しいからね。つい食べすぎる」
「……それは、わかる気がします」
私たちがお腹いっぱい食べられるのは、領地のみなが潤っているからに他ならない。料理が美味しいのは、料理人の努力もある。最近、アンバー領ではお菓子を中心に領地以外や国内外関わらず、各地の料理を作っている。元々、私が婚姻のためにローズディアへ移ってきたことが発端ではあるらしい。故郷の味をと料理長の気遣いがあった。どれもおいしいのだが、一味足りないと感じてたとき、料理長から遠慮なく味について言ってほしいと言われたあたりから、アンバー公爵家の食改善が進んでいる。脂っこいものばかりだったのが、サッパリした料理や魚料理もあったり、量も食べられるだけにしてもらうようになったので、無駄も少ない。やりがいを覚えた料理長を始め料理人たちが、各地の食事を取り入れることにしている。おかげで、食卓は毎日賑わっている。
「うちの食卓は本当にいろいろな料理が出るから、公都の食事処にも負けないほどだね?」
「むしろ、うちの料理人たちの並々ならぬ努力のおかげで、巷で美味しいと評判の食事処にも引けを取らないと思います。実際、お菓子については、キティのところへ弟子入りしたいという申し出もあるくらいなので」
「それは、どうしているの?」
「最初は断っていたそうです。ただ、定番メニューであるシフォンケーキだけは、レシピを広く公開しているらしいですね」
「アンナが許可を出してるの?」
「えぇ、一応、相談はされたので、許可は出しています」
知らなかったとジョージアは驚いていた。キティのお菓子への飽くなき探求心のおかげで、アンバー公爵家のお菓子事情は、他と雲泥の差がある。もちろん、ハニーアンバー店の喫茶で出しているので、職人の感性があれば味見をして同じようなものが作れるだろう。ただし、キティが作るお菓子ほど、他の職人が作るものは中毒性が少ない。
秘密の材料がひとつだけ入っている。それは、無味無臭なため、わからないのだが、それを入れると、どうしてか、また食べたくなるらしい。砂糖を使うというだけでも、中毒性があるとか……聞いたことがある。安価に砂糖を手に入れやすくなった貴族たちもお菓子を作る職人を雇うようになったとか、聞いたことがあった。
「キティの存在は、公都にとっての財産だな」
「職人があちらこちらで育っていると聞いています」
「これもそれもアンナが見出した才能のおかげということか。キティは領地で料理人見習いをしていたと聞いているけど」
「そうですよ。お菓子を作るのが大好きだけど、砂糖や蜂蜜が高くて買えなくて……というのが、悩みだったらしいです」
「アンナの周りは、何かに夢中な人が多いな。それが、仕事に繋がっている人も……辛くても頑張っている人の支援もみなの成長に繋がっているんだろうな」
そうこうしていると、馬車が停まる。今日は、どこへ向かうのか聞いていなかったので、「着いたよ」と馬車を降りるよう言われた。
馬車から降りたとき、目に入ったのは、懐かしい場所であった。ジョージアがプロポーズをしてくれた食事処である。
「入ろうか?」
「……えぇ、いきましょう」
ジョージアにエスコートされながら、私は店に入る。今日は昼間だったので、あの日と雰囲気がまた違ったが、同じ席を用意してくれていたらしく、懐かしさが込み上げてくる。
「ジョージア様、ここは……」
「アンナも覚えてくれていた?」
「もちろんです!どうして、ここへ?」
「2つ理由があるんだ」
「2つ?」
「あぁ、1つは……アンナと結婚記念日を祝いたいと思って。忙しすぎて、そういうのって、してこなかっただろう?」
「はい、私のせいですね?」
「そうじゃないよ。子どもたちも少し大きくなったから、こういう時間も作りたい……俺の我儘だ」
机の上に置かれた手をギュっと握られ、微笑むジョージア。私がジョージアへ我慢をさせていることがたくさんあることも知っている。こうして、行動にうつしてくれると、正直とても嬉しい。
机の上にも青薔薇が飾られており、幼かった私と緊張したジョージアのことを思い出した。
「今日はジョージア様とお出かけですから、また、後日、お菓子を持ってきますよ!」
「あぁ、いつもの?」
「そうです。喜んでもらえるのですよ!」
お菓子の話をすると、甘いものが苦手なジョージアは微笑みながら頷くだけだ。新しいお菓子の開発をキティと相談しているというと、「甘くないのも頼むよ?」と珍しくいうので、「今度味見をしてほしいお菓子があるのです!」と笑いかけた。
「アンナは甘いものとなると、本当に目がないね?」
「もちろんですよ!甘いものは私の原動力ですから。食事は大切なのですよ?」
「お菓子は……食事ではないだろう?」
「確かに。でも、おいしいからいいのです。体も動かせば、その分消費していきますし」
「今朝もアンジーと体を動かしていたみたいだしね?」
「そうですね。デリアとエマも参戦してましたよ」
「デリアも?涼しい顔をしていたから、まさか……。俺も本格的に体を動かしたほうがいいのかなぁ?」
「気になることでも?」
「アンナたちと一緒にご飯を食べると美味しいからね。つい食べすぎる」
「……それは、わかる気がします」
私たちがお腹いっぱい食べられるのは、領地のみなが潤っているからに他ならない。料理が美味しいのは、料理人の努力もある。最近、アンバー領ではお菓子を中心に領地以外や国内外関わらず、各地の料理を作っている。元々、私が婚姻のためにローズディアへ移ってきたことが発端ではあるらしい。故郷の味をと料理長の気遣いがあった。どれもおいしいのだが、一味足りないと感じてたとき、料理長から遠慮なく味について言ってほしいと言われたあたりから、アンバー公爵家の食改善が進んでいる。脂っこいものばかりだったのが、サッパリした料理や魚料理もあったり、量も食べられるだけにしてもらうようになったので、無駄も少ない。やりがいを覚えた料理長を始め料理人たちが、各地の食事を取り入れることにしている。おかげで、食卓は毎日賑わっている。
「うちの食卓は本当にいろいろな料理が出るから、公都の食事処にも負けないほどだね?」
「むしろ、うちの料理人たちの並々ならぬ努力のおかげで、巷で美味しいと評判の食事処にも引けを取らないと思います。実際、お菓子については、キティのところへ弟子入りしたいという申し出もあるくらいなので」
「それは、どうしているの?」
「最初は断っていたそうです。ただ、定番メニューであるシフォンケーキだけは、レシピを広く公開しているらしいですね」
「アンナが許可を出してるの?」
「えぇ、一応、相談はされたので、許可は出しています」
知らなかったとジョージアは驚いていた。キティのお菓子への飽くなき探求心のおかげで、アンバー公爵家のお菓子事情は、他と雲泥の差がある。もちろん、ハニーアンバー店の喫茶で出しているので、職人の感性があれば味見をして同じようなものが作れるだろう。ただし、キティが作るお菓子ほど、他の職人が作るものは中毒性が少ない。
秘密の材料がひとつだけ入っている。それは、無味無臭なため、わからないのだが、それを入れると、どうしてか、また食べたくなるらしい。砂糖を使うというだけでも、中毒性があるとか……聞いたことがある。安価に砂糖を手に入れやすくなった貴族たちもお菓子を作る職人を雇うようになったとか、聞いたことがあった。
「キティの存在は、公都にとっての財産だな」
「職人があちらこちらで育っていると聞いています」
「これもそれもアンナが見出した才能のおかげということか。キティは領地で料理人見習いをしていたと聞いているけど」
「そうですよ。お菓子を作るのが大好きだけど、砂糖や蜂蜜が高くて買えなくて……というのが、悩みだったらしいです」
「アンナの周りは、何かに夢中な人が多いな。それが、仕事に繋がっている人も……辛くても頑張っている人の支援もみなの成長に繋がっているんだろうな」
そうこうしていると、馬車が停まる。今日は、どこへ向かうのか聞いていなかったので、「着いたよ」と馬車を降りるよう言われた。
馬車から降りたとき、目に入ったのは、懐かしい場所であった。ジョージアがプロポーズをしてくれた食事処である。
「入ろうか?」
「……えぇ、いきましょう」
ジョージアにエスコートされながら、私は店に入る。今日は昼間だったので、あの日と雰囲気がまた違ったが、同じ席を用意してくれていたらしく、懐かしさが込み上げてくる。
「ジョージア様、ここは……」
「アンナも覚えてくれていた?」
「もちろんです!どうして、ここへ?」
「2つ理由があるんだ」
「2つ?」
「あぁ、1つは……アンナと結婚記念日を祝いたいと思って。忙しすぎて、そういうのって、してこなかっただろう?」
「はい、私のせいですね?」
「そうじゃないよ。子どもたちも少し大きくなったから、こういう時間も作りたい……俺の我儘だ」
机の上に置かれた手をギュっと握られ、微笑むジョージア。私がジョージアへ我慢をさせていることがたくさんあることも知っている。こうして、行動にうつしてくれると、正直とても嬉しい。
机の上にも青薔薇が飾られており、幼かった私と緊張したジョージアのことを思い出した。
0
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。
新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる