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むぅ!
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「いい構えね?隙がない」
「……それを言うなら、アンナ様です。ただ立っているだけに見えるのに、どこにも……見当たらない」
「えっ?本当?私、本当にただ立っているだけなのだけど?」
おかしいわ?と困ったふうに頬に利き手を当てる。もちろん、持っていた枝は反対側の手に持ち替えている。利き手でなくなったことにエマは活路を見出したのか、向かってくるらしい。
「エマ、アンナ様は両利きよ!」
……あら、バレてしまったわ。デリアったら教えちゃダメよね?まぁ、刺客のみなさんは、すでにご存じでしょうけど。
デリアが忠告したが、エマは止まる気はなかったようだ。どのみち、私に胸を借りるつもりでいたのだから、何もしないで降伏はありえない。負けてもいいから、一矢報いたいといういのが見えた。
「心意気、気に入ったわ!」
「……ありがとうございます!私、程度で、アンナ様に、勝てるとは、思っていませんけど!」
短剣とつばぜり合いをすれば、こちらは折れた小枝なので、負けて折れるか切れるだろう。弾き返すように第一撃目を回避したが、二撃目は短剣ではなく足払いを狙っていたようで、私はまんまと払われるが、まだ、片足。その勢いそのままに回し蹴りをすれば、少し後退して間合いを取られた。エマも成長しているようで、一撃、二撃では、負けてくれないようだ。
しかたがないので、私から反撃に出ることにする。未だ私とエマには身長差がある。一歩の歩幅が違うので、エマが考えているより、ずっと、私の歩幅は広いので、一瞬で間合いに飛び込んでしまう。そう、お互いのだ。
どうやら、油断はなかったようで、お互い構えたまま一撃を繰り出した。エマは横一線に短剣を薙ぐ。私は、軌道を確認したうえでするりと避け、エマの真横につける。
「おしまい」
脇腹をコツンと小突く。めいっぱいしてしまうと、業務に影響が出てしまう。それはダメなので、優しくだ。
「……強すぎます」
戦いのために整えていた息をふっと吐いて、通常の呼吸に戻している。緊迫した空気は霧散し、悔しそうに私を見上げた。
「成長はしているわ。一撃、二撃で倒せなくなって来ているし、何より……柔軟に対処できるあたりがいいわ。潔いのも気に入った。今は1対2の対戦で守るべきものがいない戦い。例えば……」
「アンジェラ様をお守りしながらと考えるなら、もう少し違う戦法を取る必要があるのですよね?」
「そう。わかっているなら、私は何も言わないわ」
「もちろん、そのあたりは、私もディルも心得てますから、エマにも教えてあります」
「さすがね?うちの侍従は優秀すぎて……」
「私はともかく、ディルはいろいろとお役目がありますから」
前公の執事がディルの父なのだが、ディルはアンバー公爵家を見張るためのスパイである。もちろん、今は私に忠誠を誓ってくれているので、むしろ、公の側のほうの情報を流してくれている二重スパイではあるのだが、デリアにも話してあるらしい。そうすると、必然的にエマにも共有されているようで私たちはディルの秘密の共有者だった。ジョージアはこのことを知らないのだが、それはそれでいいだろう。知らないことが幸せなこともある。
「さて、うちのお嬢様は、じっくり観戦したようですからね。どんなことを考えながら、私に挑んでくるかしら?」
デリアが持っていた模擬剣をアンジェラへ投げる。まだ、少し大きいそれをしっかり両手で持って、私に向ける。どうやら、真っ向勝負!ということらしい。
……アンジェラらしくていいわ。今は駆け引きなんて、覚えなくていいもの。
私も枝を構える。目つきが変わったので、言っている側から、こちらへ攻めてくるだろう。少しずつ、いろんな人から戦い方を吸収しているアンジェラはなかなかおもしろい戦い方をする。今は、まだ、体が出来上がっておらず、自分が思う通りに戦えないもどかしさのようなものをたまに感じることがあるが、それこそが成長の証だろう。
「さて、どう攻める?」
無言で駆けて模擬剣を振るうアンジェラ。枝を撓らせ、あちこちとペシペシとしていくとむぅ!と頬を膨らませていた。それでも、めげずに、攻めてくる。30分ほど、アンジェラの息が上がりきるまで続けた。私が促すのでなく、アンジェラが自主的にだ。少しずつレオと共に訓練を始めた。最初に比べれば、やはり体力もついてきたし、攻めるための頭を使っていろいろと試している。ことごとく私にぺしっ!とされても、めげずに工夫している当たり、おもしろい。
レオがいれば二人で連携するように私を攻めてくるようになるわね。今度、レオを屋敷に呼んで訓練しなきゃ。なかなか、おもしろいわ。私がウィルに背中を預けられるように、もしかしたら、アンジェラもそういう存在を手にするのかもしれないわね。私より早く見つけられたのなら、もっと信頼も厚くなるだろうし……だからか、戴冠式でレオがアンジェラの手を取っていたのは。
アンジェラにとって、レオは特別。たぶん、これからずっとそうなるのではないかしら?
ふふっ、それもおもしろい。レオにとって、私は父親の敵なのだけど、この先、どうなるのかしら?いつも、アンジェラを導いているレオは、これからもアンジェラを導いてくれるかしら?
なんだか、頬の緩んでしまう想像と未来を想い、そんな日が来ればアンジェラは幸せなのかしら?と握っていた模擬剣を奪って今日の訓練は終わることにした。
「……それを言うなら、アンナ様です。ただ立っているだけに見えるのに、どこにも……見当たらない」
「えっ?本当?私、本当にただ立っているだけなのだけど?」
おかしいわ?と困ったふうに頬に利き手を当てる。もちろん、持っていた枝は反対側の手に持ち替えている。利き手でなくなったことにエマは活路を見出したのか、向かってくるらしい。
「エマ、アンナ様は両利きよ!」
……あら、バレてしまったわ。デリアったら教えちゃダメよね?まぁ、刺客のみなさんは、すでにご存じでしょうけど。
デリアが忠告したが、エマは止まる気はなかったようだ。どのみち、私に胸を借りるつもりでいたのだから、何もしないで降伏はありえない。負けてもいいから、一矢報いたいといういのが見えた。
「心意気、気に入ったわ!」
「……ありがとうございます!私、程度で、アンナ様に、勝てるとは、思っていませんけど!」
短剣とつばぜり合いをすれば、こちらは折れた小枝なので、負けて折れるか切れるだろう。弾き返すように第一撃目を回避したが、二撃目は短剣ではなく足払いを狙っていたようで、私はまんまと払われるが、まだ、片足。その勢いそのままに回し蹴りをすれば、少し後退して間合いを取られた。エマも成長しているようで、一撃、二撃では、負けてくれないようだ。
しかたがないので、私から反撃に出ることにする。未だ私とエマには身長差がある。一歩の歩幅が違うので、エマが考えているより、ずっと、私の歩幅は広いので、一瞬で間合いに飛び込んでしまう。そう、お互いのだ。
どうやら、油断はなかったようで、お互い構えたまま一撃を繰り出した。エマは横一線に短剣を薙ぐ。私は、軌道を確認したうえでするりと避け、エマの真横につける。
「おしまい」
脇腹をコツンと小突く。めいっぱいしてしまうと、業務に影響が出てしまう。それはダメなので、優しくだ。
「……強すぎます」
戦いのために整えていた息をふっと吐いて、通常の呼吸に戻している。緊迫した空気は霧散し、悔しそうに私を見上げた。
「成長はしているわ。一撃、二撃で倒せなくなって来ているし、何より……柔軟に対処できるあたりがいいわ。潔いのも気に入った。今は1対2の対戦で守るべきものがいない戦い。例えば……」
「アンジェラ様をお守りしながらと考えるなら、もう少し違う戦法を取る必要があるのですよね?」
「そう。わかっているなら、私は何も言わないわ」
「もちろん、そのあたりは、私もディルも心得てますから、エマにも教えてあります」
「さすがね?うちの侍従は優秀すぎて……」
「私はともかく、ディルはいろいろとお役目がありますから」
前公の執事がディルの父なのだが、ディルはアンバー公爵家を見張るためのスパイである。もちろん、今は私に忠誠を誓ってくれているので、むしろ、公の側のほうの情報を流してくれている二重スパイではあるのだが、デリアにも話してあるらしい。そうすると、必然的にエマにも共有されているようで私たちはディルの秘密の共有者だった。ジョージアはこのことを知らないのだが、それはそれでいいだろう。知らないことが幸せなこともある。
「さて、うちのお嬢様は、じっくり観戦したようですからね。どんなことを考えながら、私に挑んでくるかしら?」
デリアが持っていた模擬剣をアンジェラへ投げる。まだ、少し大きいそれをしっかり両手で持って、私に向ける。どうやら、真っ向勝負!ということらしい。
……アンジェラらしくていいわ。今は駆け引きなんて、覚えなくていいもの。
私も枝を構える。目つきが変わったので、言っている側から、こちらへ攻めてくるだろう。少しずつ、いろんな人から戦い方を吸収しているアンジェラはなかなかおもしろい戦い方をする。今は、まだ、体が出来上がっておらず、自分が思う通りに戦えないもどかしさのようなものをたまに感じることがあるが、それこそが成長の証だろう。
「さて、どう攻める?」
無言で駆けて模擬剣を振るうアンジェラ。枝を撓らせ、あちこちとペシペシとしていくとむぅ!と頬を膨らませていた。それでも、めげずに、攻めてくる。30分ほど、アンジェラの息が上がりきるまで続けた。私が促すのでなく、アンジェラが自主的にだ。少しずつレオと共に訓練を始めた。最初に比べれば、やはり体力もついてきたし、攻めるための頭を使っていろいろと試している。ことごとく私にぺしっ!とされても、めげずに工夫している当たり、おもしろい。
レオがいれば二人で連携するように私を攻めてくるようになるわね。今度、レオを屋敷に呼んで訓練しなきゃ。なかなか、おもしろいわ。私がウィルに背中を預けられるように、もしかしたら、アンジェラもそういう存在を手にするのかもしれないわね。私より早く見つけられたのなら、もっと信頼も厚くなるだろうし……だからか、戴冠式でレオがアンジェラの手を取っていたのは。
アンジェラにとって、レオは特別。たぶん、これからずっとそうなるのではないかしら?
ふふっ、それもおもしろい。レオにとって、私は父親の敵なのだけど、この先、どうなるのかしら?いつも、アンジェラを導いているレオは、これからもアンジェラを導いてくれるかしら?
なんだか、頬の緩んでしまう想像と未来を想い、そんな日が来ればアンジェラは幸せなのかしら?と握っていた模擬剣を奪って今日の訓練は終わることにした。
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