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ローラン・マッツバーという名の中立重鎮Ⅱ
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「ローラン、私をはかったのだな?」
「……申し訳ございません。殿下が私に今から話す言葉は予想出来ていますので、その真意を見極めたく」
「まぁ、そうだろうな。ローランだけの問題だけではなくなるからな」
ステイはローランと一緒に階下まで着ている者たちを見下ろした。みな、見覚えのあるものばかりなのだろう。表情が柔らかくなり、ふっと笑う。
ローランの隣に行き、肩をぽんぽんと軽く叩いた。
「ローランはどう思う?私の決定を」
「どちらかというと、驚きました。表舞台から前公に出されてしまったあと、このような形でお戻りになるとは、露ほどにも思っておりませんでした」
「私もだ。アンナリーゼにあわせると公に言われて、たかだか小娘、他人から力を借りてその爵位にのし上がったにすぎぬのにと」
「……ステイ様は、私のことをそんなふうに思っていらしたのですか?」
「えぇ、思っていたわ。あなたに会うまでは。実際会ってみないとわからないものよね」
「それはどういうことですか?」
ローランも同じように思ったらしく、私より先に聞くので、私も頷いた。ステイはそんな私に苦笑いをする。
「こんなに人を惹きつけてならない人が他にいるかしら?よく笑い、楽しそうに話をして、どんどん人の心深いところにまで入ってくる。でも、それはけして強引ではなくて、そっと寄り添うような感じで……きっと、そんな優しさや元気なアンナリーゼに背中を押されたものは多いのではなくて?」
「……そうだと、嬉しいですけど、私自身、ステイ様が言ってくださることには身に覚えがないのです。でも……そうだったら嬉しいです」
「その笑顔は、ダドリー男爵の心も虜にしたのでしょ?対峙したとき、どう思った?」
「男爵とは……深い溝はありましたが、別の出会いだったら……、いい茶飲み友達になれたのではないかと思います。娘のソフィアも含め……」
「あら?恋敵にまで?やっぱりおもしろいわね?」
「……約束がありますから。地獄で私を待っていてくれるらしいですよ?」
私はソフィアの最後の表情を思い出す。泣き叫んでいたソフィアが穏やかな表情だったことを。孤独だったソフィアに手を差し伸べることは、出来なかったのだろうか?と思ったこともあったが、今では無理な話。それに、そんなことは、お互い望んでいなった。結果的、同じことになっただろう。
「それは、聞き捨てならないわね?そんなことにはさせないわ。私と一緒によ?」
ステイのそれには返事をせず、ローランの方をみる。ステイの言葉を吟味するように黙ってしまったローランが気になるところだが、「なるほど」と呟いた。
「確かに、殿下の言うことも頷けますな。それなりの年齢を重ねて来ましたが、これほどの人はなかなかいませんでした。ステイ殿下」
「はいはい。わかっているよ。じゃあ、いいね?ローランの意思は固まったで」
「はい。あなたが、誰に付こうと、今のあなたの選択に私は素直に頷くことが出来ます。正しいと思われる選択を」
「わかった。アンナリーゼもいいかな?私たちを受け入れる準備は、整っている?」
真剣に見つめてくるローラン。正直なところ、中立の重鎮であるローランに首を横に振られ、次の一手を考えることに精一杯であった。
……なんとか、なるかしら?
公をチラリと見れば頷いている。きちんと後処理もしてくれるような雰囲気にコクっと頷く。
「ステイ殿下……」
私はその場に膝まづく。ゆっくり上を見上げたら、微笑んでいるステイ。肩をぽんぽんと叩かれ立つようにと合図される。階段のギリギリまで出たステイの少し後ろに控えれば、ローランも同じようにした。
「みなのもの、聞いてくれ」
公と同じくよく通る声は、騒がしい階下を静まり返らせた。みながステイに視線を集めていることがわかる。
「私はアンナリーゼの後ろ盾となります。今後、私の属していた中立派の一部はアンバー公爵の派閥の一員となり、アンナリーゼ及びジョージアを盛り立てていくように。特に二人の子である『ハニーローズ』の今後を見守っていく」
ステイの言葉に呼応するように、中立派の中でも、ステイの派閥は、次々その場で膝をついていく。
それを階段のうえで見られることを幸せに思った。
「アンナリーゼの派閥に属することより、私は第二公子の教育を担当していく。ただ、取り入ろうとするだけのものは、徹底的に排除することだけは言っておこう。公世子にするためだけに第二公子を教育するわけではない。より良い国造りのために、公族の一人として、力を貸していくことにする。よいな?」
階下のステイの派閥の者たちは、一斉に返事をし、会場を沸かせた。私は、社交界に出ていなかったステイがこれほどの求心力を持っていることに驚いた。きっと、私だけでなく、公も同じだろう。貴族たちの返事でかき消えてしまった公の言葉。
もし、ステイが離宮での生活を余儀なくされていなかったら……公は果たしてどちらだったのだろうか?と少しだけ疑問がわいた。
「……申し訳ございません。殿下が私に今から話す言葉は予想出来ていますので、その真意を見極めたく」
「まぁ、そうだろうな。ローランだけの問題だけではなくなるからな」
ステイはローランと一緒に階下まで着ている者たちを見下ろした。みな、見覚えのあるものばかりなのだろう。表情が柔らかくなり、ふっと笑う。
ローランの隣に行き、肩をぽんぽんと軽く叩いた。
「ローランはどう思う?私の決定を」
「どちらかというと、驚きました。表舞台から前公に出されてしまったあと、このような形でお戻りになるとは、露ほどにも思っておりませんでした」
「私もだ。アンナリーゼにあわせると公に言われて、たかだか小娘、他人から力を借りてその爵位にのし上がったにすぎぬのにと」
「……ステイ様は、私のことをそんなふうに思っていらしたのですか?」
「えぇ、思っていたわ。あなたに会うまでは。実際会ってみないとわからないものよね」
「それはどういうことですか?」
ローランも同じように思ったらしく、私より先に聞くので、私も頷いた。ステイはそんな私に苦笑いをする。
「こんなに人を惹きつけてならない人が他にいるかしら?よく笑い、楽しそうに話をして、どんどん人の心深いところにまで入ってくる。でも、それはけして強引ではなくて、そっと寄り添うような感じで……きっと、そんな優しさや元気なアンナリーゼに背中を押されたものは多いのではなくて?」
「……そうだと、嬉しいですけど、私自身、ステイ様が言ってくださることには身に覚えがないのです。でも……そうだったら嬉しいです」
「その笑顔は、ダドリー男爵の心も虜にしたのでしょ?対峙したとき、どう思った?」
「男爵とは……深い溝はありましたが、別の出会いだったら……、いい茶飲み友達になれたのではないかと思います。娘のソフィアも含め……」
「あら?恋敵にまで?やっぱりおもしろいわね?」
「……約束がありますから。地獄で私を待っていてくれるらしいですよ?」
私はソフィアの最後の表情を思い出す。泣き叫んでいたソフィアが穏やかな表情だったことを。孤独だったソフィアに手を差し伸べることは、出来なかったのだろうか?と思ったこともあったが、今では無理な話。それに、そんなことは、お互い望んでいなった。結果的、同じことになっただろう。
「それは、聞き捨てならないわね?そんなことにはさせないわ。私と一緒によ?」
ステイのそれには返事をせず、ローランの方をみる。ステイの言葉を吟味するように黙ってしまったローランが気になるところだが、「なるほど」と呟いた。
「確かに、殿下の言うことも頷けますな。それなりの年齢を重ねて来ましたが、これほどの人はなかなかいませんでした。ステイ殿下」
「はいはい。わかっているよ。じゃあ、いいね?ローランの意思は固まったで」
「はい。あなたが、誰に付こうと、今のあなたの選択に私は素直に頷くことが出来ます。正しいと思われる選択を」
「わかった。アンナリーゼもいいかな?私たちを受け入れる準備は、整っている?」
真剣に見つめてくるローラン。正直なところ、中立の重鎮であるローランに首を横に振られ、次の一手を考えることに精一杯であった。
……なんとか、なるかしら?
公をチラリと見れば頷いている。きちんと後処理もしてくれるような雰囲気にコクっと頷く。
「ステイ殿下……」
私はその場に膝まづく。ゆっくり上を見上げたら、微笑んでいるステイ。肩をぽんぽんと叩かれ立つようにと合図される。階段のギリギリまで出たステイの少し後ろに控えれば、ローランも同じようにした。
「みなのもの、聞いてくれ」
公と同じくよく通る声は、騒がしい階下を静まり返らせた。みながステイに視線を集めていることがわかる。
「私はアンナリーゼの後ろ盾となります。今後、私の属していた中立派の一部はアンバー公爵の派閥の一員となり、アンナリーゼ及びジョージアを盛り立てていくように。特に二人の子である『ハニーローズ』の今後を見守っていく」
ステイの言葉に呼応するように、中立派の中でも、ステイの派閥は、次々その場で膝をついていく。
それを階段のうえで見られることを幸せに思った。
「アンナリーゼの派閥に属することより、私は第二公子の教育を担当していく。ただ、取り入ろうとするだけのものは、徹底的に排除することだけは言っておこう。公世子にするためだけに第二公子を教育するわけではない。より良い国造りのために、公族の一人として、力を貸していくことにする。よいな?」
階下のステイの派閥の者たちは、一斉に返事をし、会場を沸かせた。私は、社交界に出ていなかったステイがこれほどの求心力を持っていることに驚いた。きっと、私だけでなく、公も同じだろう。貴族たちの返事でかき消えてしまった公の言葉。
もし、ステイが離宮での生活を余儀なくされていなかったら……公は果たしてどちらだったのだろうか?と少しだけ疑問がわいた。
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