ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
1,329 / 1,513

ローラン・マッツバーという名の中立重鎮Ⅱ

しおりを挟む
「ローラン、私をはかったのだな?」
「……申し訳ございません。殿下が私に今から話す言葉は予想出来ていますので、その真意を見極めたく」
「まぁ、そうだろうな。ローランだけの問題だけではなくなるからな」


 ステイはローランと一緒に階下まで着ている者たちを見下ろした。みな、見覚えのあるものばかりなのだろう。表情が柔らかくなり、ふっと笑う。
 ローランの隣に行き、肩をぽんぽんと軽く叩いた。


「ローランはどう思う?私の決定を」
「どちらかというと、驚きました。表舞台から前公に出されてしまったあと、このような形でお戻りになるとは、露ほどにも思っておりませんでした」
「私もだ。アンナリーゼにあわせると公に言われて、たかだか小娘、他人から力を借りてその爵位にのし上がったにすぎぬのにと」
「……ステイ様は、私のことをそんなふうに思っていらしたのですか?」
「えぇ、思っていたわ。あなたに会うまでは。実際会ってみないとわからないものよね」
「それはどういうことですか?」


 ローランも同じように思ったらしく、私より先に聞くので、私も頷いた。ステイはそんな私に苦笑いをする。


「こんなに人を惹きつけてならない人が他にいるかしら?よく笑い、楽しそうに話をして、どんどん人の心深いところにまで入ってくる。でも、それはけして強引ではなくて、そっと寄り添うような感じで……きっと、そんな優しさや元気なアンナリーゼに背中を押されたものは多いのではなくて?」
「……そうだと、嬉しいですけど、私自身、ステイ様が言ってくださることには身に覚えがないのです。でも……そうだったら嬉しいです」
「その笑顔は、ダドリー男爵の心も虜にしたのでしょ?対峙したとき、どう思った?」
「男爵とは……深い溝はありましたが、別の出会いだったら……、いい茶飲み友達になれたのではないかと思います。娘のソフィアも含め……」
「あら?恋敵にまで?やっぱりおもしろいわね?」
「……約束がありますから。地獄で私を待っていてくれるらしいですよ?」


 私はソフィアの最後の表情を思い出す。泣き叫んでいたソフィアが穏やかな表情だったことを。孤独だったソフィアに手を差し伸べることは、出来なかったのだろうか?と思ったこともあったが、今では無理な話。それに、そんなことは、お互い望んでいなった。結果的、同じことになっただろう。


「それは、聞き捨てならないわね?そんなことにはさせないわ。私と一緒によ?」


 ステイのそれには返事をせず、ローランの方をみる。ステイの言葉を吟味するように黙ってしまったローランが気になるところだが、「なるほど」と呟いた。


「確かに、殿下の言うことも頷けますな。それなりの年齢を重ねて来ましたが、これほどの人はなかなかいませんでした。ステイ殿下」
「はいはい。わかっているよ。じゃあ、いいね?ローランの意思は固まったで」
「はい。あなたが、誰に付こうと、今のあなたの選択に私は素直に頷くことが出来ます。正しいと思われる選択を」
「わかった。アンナリーゼもいいかな?私たちを受け入れる準備は、整っている?」


 真剣に見つめてくるローラン。正直なところ、中立の重鎮であるローランに首を横に振られ、次の一手を考えることに精一杯であった。

 ……なんとか、なるかしら?

 公をチラリと見れば頷いている。きちんと後処理もしてくれるような雰囲気にコクっと頷く。


「ステイ殿下……」


 私はその場に膝まづく。ゆっくり上を見上げたら、微笑んでいるステイ。肩をぽんぽんと叩かれ立つようにと合図される。階段のギリギリまで出たステイの少し後ろに控えれば、ローランも同じようにした。


「みなのもの、聞いてくれ」


 公と同じくよく通る声は、騒がしい階下を静まり返らせた。みながステイに視線を集めていることがわかる。


「私はアンナリーゼの後ろ盾となります。今後、私の属していた中立派の一部はアンバー公爵の派閥の一員となり、アンナリーゼ及びジョージアを盛り立てていくように。特に二人の子である『ハニーローズ』の今後を見守っていく」


 ステイの言葉に呼応するように、中立派の中でも、ステイの派閥は、次々その場で膝をついていく。
 それを階段のうえで見られることを幸せに思った。


「アンナリーゼの派閥に属することより、私は第二公子の教育を担当していく。ただ、取り入ろうとするだけのものは、徹底的に排除することだけは言っておこう。公世子にするためだけに第二公子を教育するわけではない。より良い国造りのために、公族の一人として、力を貸していくことにする。よいな?」


 階下のステイの派閥の者たちは、一斉に返事をし、会場を沸かせた。私は、社交界に出ていなかったステイがこれほどの求心力を持っていることに驚いた。きっと、私だけでなく、公も同じだろう。貴族たちの返事でかき消えてしまった公の言葉。
 もし、ステイが離宮での生活を余儀なくされていなかったら……公は果たしてどちらだったのだろうか?と少しだけ疑問がわいた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

処理中です...