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ローラン・マッツバーという名の中立重鎮
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「アンナリーゼ、ここでステイに抱きつくとは……みなに見せびらかせているみたいではないか!」
「あまりにも嬉しくて……つい!」
「いいさ」
令嬢の装いのステイは抱きついた私から離れ、見惚れるくらいかっこよく微笑んだ。貴公子そのもので、私は言葉を失う。
そのあと、前を向き中立の重鎮を呼び寄せる。私と公は静かにそれを見守っていた。
「ローラン、こちらへ」
「お久しぶりでございます。ステイ殿下。殿下のお呼びとあらば、このローラン」
「相変わらず、芝居がかった挨拶だなぁ……それが芝居じゃないと気が付くのに随分かかった」
「まだ、殿下は幼かったですからな」
「そうだが、……今まで、日陰者の私に良く仕えてくれた」
「滅相もない。なき御母上からの遺言でもありますし、私は殿下のことが昔から好きでしたから。そちらにいらっしゃる方より、ずっとずっと……。殿下が離宮へ幽閉されたときは、本当に心がどうにかなってしまいそうでしたぞ?」
笑いながら昔話をしている。ゆうに10年は会っていないはずの二人は、つい最近あった気安さで話をしているので、驚いていた。
私は二人の様子から状況を見守るしかなかった。
「……そなたら、会っていたのか?」
「何をおっしゃいます。前公に私は殿下への謁見を禁じられておりましたのに。まぁ、おかげで、公と距離を取ることも可能でしたし、それに……」
私をほうをローランは見下ろしてくる。距離を置かれていたことはわかっている。私が動いてもこの中立の重鎮であるローランは動かないと言われていた。それには、理由がある。
……派手に動きすぎているのよね。
保守派と言われる派閥にも在籍しているローランから見れば、型破りなことばかりする私はさけられて当然だ。隣国から嫁いできただけの私が噓くさい『ロサオリエンティス』の意向を借りて、自国の筆頭公爵、公の後ろ盾となり国内外でも動き回っている。
私からしては、いいことをしていると思っていても、保守派からすれば、目障りな存在だろう。私が動き回るせいで、国内貴族は3派に分かれ、牽制しあっている。そんなことになっている現在、私への感情はどうなっているのか必然であろう。
「ローラン、それほどアンナリーゼが嫌いか?」
ステイに問われ、私を見下ろしていたローランはステイの方へと体ごと向ける。そして、その質問への答えを考えていた。
しばらく沈黙ののち、口を開くノーラン。その重い口を静かに見守っているものは多かったのではないだろうか。
今、中立の立場であっても、私の派閥よりの者も多い。カレンやサーラー子爵、トライド男爵を始め、私の今までの行動を踏まえ、仲間になりたいという貴族たちもいる。中には、領民からの支持があり、貴族が派閥を越えたものもいた。そういった情報もノーランの耳には入っているだろう。
「嫌いではありません。昔、戦乙女と呼ばれる令嬢を彷彿させるそのストロベリーピンクの髪と紫の瞳……、予想だにしない突飛な行動に加え、人を次々と魅了していくその姿は、私が憧れたその人そのものでした。何より、病が蔓延する南の領地へ公爵という地位に蟻ながら、現地へ馳せ参じ、支持を飛ばしている姿には感銘を受けております」
「……そうか。確かにアンナリーゼは、あのとき、自らを危険な地域へ入り込み、次々と南の領地の危機を救った。公ではなく、アンナリーゼが賞賛されるべきことだろう」
「そうです」と答えたローランには、他にも言いたいことがあるのだろう。一瞬厳しい視線をこちらに向けてくるので、身構える。
「一方で、ダドリー男爵家への断罪は、胸を痛める結果となりました。『ハニーローズ』殺害未遂は、確かに法に乗っ取った方法での処断だったと私も考えてはいます。ただ……」
「幼い子も同時に処断の対象となったという話だな」
「……はい、そのとおり。慈悲深い聖女や女神と言われる一方で、何十人もの処断を決定出来ることへの畏怖。私の中で、『アンナリーゼ・トロン・アンバー』という人物をはかりかねております」
「なるほど。たしかに、私も同じことを思ったものだ。ダドリー男爵の血縁全てにその類がおよんだからな。でも、一方で、考えたことはあるか?」
「……何をでしょうか?」
「アンバー領の悲劇。元々、アンバー領は先々代の領主によって廃れていった。それは周知の事実。先代はそれを補うように努めていたが、領民の税を搾取されており、領地へ還元できなかった。その原因のひとつは、ダドリー男爵の欲から被害がでている。アンナリーゼが調査をしなければ、今頃、アンバー領はなかったかもしれない。それも考慮したか?」
「……それは、確かに考えないこともなかったですが、それでも」
「禍根は残る。アンナリーゼがダドリー男爵へ毒を渡したことでアンナリーゼの裁可として印象深いものになったのだな。この裁可は、公とアンバー公爵との連盟だった。公にも国を治めるものとしての責任はある。そこを間違えてはいけない。連盟とはいえ、アンバー公爵は調査をしたにすぎず、公が貴族を取り潰す最終裁可をする。申し開きの場も与えてあった、全てを覚悟の上、ダドリー男爵は幕を閉じたんだ。責めるならば、アンナリーゼではなく、弱く、何も知らず、ぬくぬくと育った公を責めよ」
私を庇うステイを見つめると、ノーランはふっと笑う。さっきまで厳しい表情でステイと話をしていたのに、我が子をみるような優しい表情になった。
「昔と変わらず、成長なさいましたな」
ノーランが満足そうにすれば、「当たり前だ」とにんまり笑うステイ。どうやら、合わない間にステイがどのように成長したのか、見極めたかった……そんな一面であったようだった。
「あまりにも嬉しくて……つい!」
「いいさ」
令嬢の装いのステイは抱きついた私から離れ、見惚れるくらいかっこよく微笑んだ。貴公子そのもので、私は言葉を失う。
そのあと、前を向き中立の重鎮を呼び寄せる。私と公は静かにそれを見守っていた。
「ローラン、こちらへ」
「お久しぶりでございます。ステイ殿下。殿下のお呼びとあらば、このローラン」
「相変わらず、芝居がかった挨拶だなぁ……それが芝居じゃないと気が付くのに随分かかった」
「まだ、殿下は幼かったですからな」
「そうだが、……今まで、日陰者の私に良く仕えてくれた」
「滅相もない。なき御母上からの遺言でもありますし、私は殿下のことが昔から好きでしたから。そちらにいらっしゃる方より、ずっとずっと……。殿下が離宮へ幽閉されたときは、本当に心がどうにかなってしまいそうでしたぞ?」
笑いながら昔話をしている。ゆうに10年は会っていないはずの二人は、つい最近あった気安さで話をしているので、驚いていた。
私は二人の様子から状況を見守るしかなかった。
「……そなたら、会っていたのか?」
「何をおっしゃいます。前公に私は殿下への謁見を禁じられておりましたのに。まぁ、おかげで、公と距離を取ることも可能でしたし、それに……」
私をほうをローランは見下ろしてくる。距離を置かれていたことはわかっている。私が動いてもこの中立の重鎮であるローランは動かないと言われていた。それには、理由がある。
……派手に動きすぎているのよね。
保守派と言われる派閥にも在籍しているローランから見れば、型破りなことばかりする私はさけられて当然だ。隣国から嫁いできただけの私が噓くさい『ロサオリエンティス』の意向を借りて、自国の筆頭公爵、公の後ろ盾となり国内外でも動き回っている。
私からしては、いいことをしていると思っていても、保守派からすれば、目障りな存在だろう。私が動き回るせいで、国内貴族は3派に分かれ、牽制しあっている。そんなことになっている現在、私への感情はどうなっているのか必然であろう。
「ローラン、それほどアンナリーゼが嫌いか?」
ステイに問われ、私を見下ろしていたローランはステイの方へと体ごと向ける。そして、その質問への答えを考えていた。
しばらく沈黙ののち、口を開くノーラン。その重い口を静かに見守っているものは多かったのではないだろうか。
今、中立の立場であっても、私の派閥よりの者も多い。カレンやサーラー子爵、トライド男爵を始め、私の今までの行動を踏まえ、仲間になりたいという貴族たちもいる。中には、領民からの支持があり、貴族が派閥を越えたものもいた。そういった情報もノーランの耳には入っているだろう。
「嫌いではありません。昔、戦乙女と呼ばれる令嬢を彷彿させるそのストロベリーピンクの髪と紫の瞳……、予想だにしない突飛な行動に加え、人を次々と魅了していくその姿は、私が憧れたその人そのものでした。何より、病が蔓延する南の領地へ公爵という地位に蟻ながら、現地へ馳せ参じ、支持を飛ばしている姿には感銘を受けております」
「……そうか。確かにアンナリーゼは、あのとき、自らを危険な地域へ入り込み、次々と南の領地の危機を救った。公ではなく、アンナリーゼが賞賛されるべきことだろう」
「そうです」と答えたローランには、他にも言いたいことがあるのだろう。一瞬厳しい視線をこちらに向けてくるので、身構える。
「一方で、ダドリー男爵家への断罪は、胸を痛める結果となりました。『ハニーローズ』殺害未遂は、確かに法に乗っ取った方法での処断だったと私も考えてはいます。ただ……」
「幼い子も同時に処断の対象となったという話だな」
「……はい、そのとおり。慈悲深い聖女や女神と言われる一方で、何十人もの処断を決定出来ることへの畏怖。私の中で、『アンナリーゼ・トロン・アンバー』という人物をはかりかねております」
「なるほど。たしかに、私も同じことを思ったものだ。ダドリー男爵の血縁全てにその類がおよんだからな。でも、一方で、考えたことはあるか?」
「……何をでしょうか?」
「アンバー領の悲劇。元々、アンバー領は先々代の領主によって廃れていった。それは周知の事実。先代はそれを補うように努めていたが、領民の税を搾取されており、領地へ還元できなかった。その原因のひとつは、ダドリー男爵の欲から被害がでている。アンナリーゼが調査をしなければ、今頃、アンバー領はなかったかもしれない。それも考慮したか?」
「……それは、確かに考えないこともなかったですが、それでも」
「禍根は残る。アンナリーゼがダドリー男爵へ毒を渡したことでアンナリーゼの裁可として印象深いものになったのだな。この裁可は、公とアンバー公爵との連盟だった。公にも国を治めるものとしての責任はある。そこを間違えてはいけない。連盟とはいえ、アンバー公爵は調査をしたにすぎず、公が貴族を取り潰す最終裁可をする。申し開きの場も与えてあった、全てを覚悟の上、ダドリー男爵は幕を閉じたんだ。責めるならば、アンナリーゼではなく、弱く、何も知らず、ぬくぬくと育った公を責めよ」
私を庇うステイを見つめると、ノーランはふっと笑う。さっきまで厳しい表情でステイと話をしていたのに、我が子をみるような優しい表情になった。
「昔と変わらず、成長なさいましたな」
ノーランが満足そうにすれば、「当たり前だ」とにんまり笑うステイ。どうやら、合わない間にステイがどのように成長したのか、見極めたかった……そんな一面であったようだった。
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